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自由競争って良いこと?悪いこと? 〈後編〉政府の干渉が必要になるとき 【なかよし銀行調査室・第2回】

前編に引き続き「自由競争」について語り合う2人の高校生、貸方ケイリ(K 16歳 ♀)さん(イラスト参照)と、借方シワケ(S 15歳 ♂)くん。トークテーマは、政府が干渉する必要がある「市場の失敗」についてです。

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※イラスト:倉澤もこ

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3. 市場の失敗

K おさらいよ。自由競争って、どういう状況のことを言うの?

S ええっと……。政府の干渉がなくて、なおかつ、たくさんの生産者と消費者がいるから誰も価格決定者(プライスメイカー)になれない状況だよね。

K もしもそこに独占企業が現れたらどうなるかしら? たとえば日本中のサンマを一手に扱う「サンマ独占企業」ができたとしたら。

S その企業は莫大な利益を得られるんじゃないかな。

K なぜ?

S だって、サンマを買うときは、絶対に「サンマ独占企業」から買わないといけないんだろ。日本人は秋になるとサンマを食べないと生きていけないから、「サンマ独占企業」がどんなに価格を吊り上げても、その値段でサンマを買うしかない。

K サンマがないと生きていけないかはともかく……。まあ、おおむね正解ね。独占企業は、その商品の価格を自由に上げ下げできるようになるわ。つまり、独占企業は価格決定者(プライスメイカー)になってしまうのよ。

S あれ? 自由競争の条件って、価格決定者(プライスメイカー)がいないことじゃなかったっけ?

K その通り。たとえ政府の干渉がなくても、独占企業が登場した時点で、自由競争が成り立たなくなるわ。
もしも「サンマ独占企業」が現れたら、サンマの価格はまず間違いなく引き上げられるでしょうね。そして、あんたみたいな貧乏人はサンマを食べられなくなる。

S そんな! サンマを食べないと頭が悪くなっちゃうよ!

K そのセリフ自体がすごく頭悪そうね……。

S 独占企業が暴利をむさぼる分だけ、消費者が損をするんだよね。許せないな!

K それだけじゃないわ。

S ……それだけじゃないの?

さんま独占企業が「社会全体のトク」を減らす

K 独占企業が現れた場合を、グラフにしてみるわ――

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K 独占企業が価格を吊り上げると、消費者はその商品をあまり欲しがらなくなる。その分だけ消費される数量は減るはずよね。

S 思ったとおりだ。生産者余剰が増えて、消費者余剰が減っているよ。

K それだけじゃない。生産者余剰と消費者余剰を足した「社会全体の余剰」も、自由競争のときよりも少なくなっているわ。

K 何者かによって価格が引き上げられると、社会全体の得られる「トク」が減ってしまうの。グラフでいえば、赤の三角形で示した部分ね。これを「厚生の損失」と呼ぶ。

S 厚生?

K 社会全体の「トク」のことよ。

S なるほど。独占企業が現れると、社会全体の「トク」が失われてしまう。もしも「サンマ独占企業」が現れたとして、サンマが値上がりするだけじゃ済まないんだね。

K そういうこと。取引数量が減って、本来サンマを必要としている人にサンマが行き渡らなくなる。だから厚生の損失が出ることを、「資源の分配がうまくいかなくなる」と言うこともできるわね。

だから独占禁止法があるんだね

S サンマが食べられず、いつまでたっても俺の頭はよくならないのか……。

K ……バカね。サンマなんか食べなくても、あんたの頭は平気よ。

S へ? どうして?

K だって、それは……その……。あたしが勉強を教えてあげるから。

S え゛~っ!?

K って、どうしてそういう反応になるのよ! 学年トップのあたしが勉強を見てあげるのよ? 少しは喜びなさいよ!

S ケイリさんのことだから、どうせ無料サービスじゃないだろ。個別授業なんてされたらお金がいくらあっても足りないよ!

K あたしも鬼じゃないわ。授業するたびに支払いを求めたりしないわよ。

S あれ? ケイリさんにしては気前がいいね……。

K ツケにしておいて、卒業後にまとめて請求するわ。

S やっぱりどケチじゃねーか!

K とにかく、独占企業が現れると自由競争は成立しなくなる。厚生の損失が発生して、資源がうまく分配されなくなる。ここまではいいかしら?

S 自由競争がうまくいかないと、社会全体が損しちゃうんだね。

K だから多くの国に独占禁止法があるし、企業の「談合」は禁じられているの。たくさんの生産者が健全に競争している状況のほうが、社会全体にとって「トク」なのよ。

S 競争を維持するためには、ときには政府が積極的に干渉したほうがいいってことか。

K そういうこと。

公害対策をしないと、どうなる?

K 政府の干渉が必要な場合は、ほかにもあるわ。たとえば「外部不経済」が発生する場合ね。

S がいぶふけいざい?

K 平たく言えば「公害」のことよ。企業には、環境を汚染しない社会的な責任があるでしょう。その責任を果たすためには、工業廃水から有害物質を除去したり、値段が高価でも環境に優しい原料を使わなければならない。事故を起こして汚染物質をまき散らすなんてことがあってはならないから、安全対策にもお金がかかるわ。
……もしも企業がこういうお金を負担しなかったら、どうなるかしら?

S 環境対策にお金を使わなくていいんだから……、モノを生産するのに必要な費用も安くなるはずだよね。

K ここで思い出して欲しいのは、「モノを生産するたびに増える費用をグラフ化すると、供給曲線そっくりになる」という話よ。

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K つまり「生産コストが安くなる」ことを、グラフでは供給曲線が下向きに移動することで表現できるの。

S 環境対策とかにカネをかけず生産しているぶん、価格も安くできるなら、取引数量も増えそうだよね。

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K あんたにしては鋭いわ。

一見、おトクに見えるけど……

K じゃあ、シワケ。このときの社会全体の余剰はどうなるかしら?

S 社会全体の余剰は、消費者余剰と生産者余剰を足したものだから……。あれ? 公害防止にカネをかけた場合よりも、社会全体の余剰は大きくなってるんじゃないか?

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S ほら見てよ、ケイリさん! 公害対策にお金をかけないほうが、消費者余剰も生産者余剰も大きくなっているじゃないか!
……と言うことは、公害対策なんてしないほうがいいのかな?

負担するのは「社会全体」

K 問題は、企業が支払わなかった公害対策の費用を「誰が負担するのか」よ。もしも工業廃水から有害物質を除去しなければ、工場の周辺はどうなるかしら?

S 土や水が汚れて、農業や漁業ができなくなる。人が病気になるかもしれないな。

K そして環境浄化のために、行政がお金を出すことになるでしょうね。農家や漁師の収入減少や、近隣住民の医療費、そして行政の環境浄化コスト……。
企業が負担しなかった費用は、こういう別の形のコストになって、社会全体に降りかかる――

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K 公害によって社会全体に降りかかるコストは、本来企業が負担すべきだった費用と実際に支払っている費用との差額として表わせるわ。
したがって、このグラフでは、紫色の平行四辺形の面積が、社会の負担の総額になるわね。

「厚生の損失」が生まれ、社会の負担が上回る

S 公害によって社会全体に費用負担が出ることは分かったよ。だけど、これだけで企業は公害対策をすべきだと言えるのかな。
もちろん、四大公害みたいなひどいやつなら話は別だけど……、安くてたくさんのモノを生産できるなら、公害対策をしないほうが社会全体の「トク」になる場合もあるんじゃない?

K いいえ、ないわ。公害対策をしなかった場合、たしかに消費者余剰と生産者余剰は増える。だけど、それは公害による社会負担と相殺されてしまう。しかも、社会の負担のほうが大きくなってしまう――

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K ……グラフで表現すれば、赤の三角形の部分の面積が公害発生時の「厚生の損失」を示しているわ。現実にも、公害は事前に防止したほうがコストは安くつく。環境問題が顕在化してから解決しようとすると、莫大なコストがかかるわよね。

S だけど一般的に言って、企業はできるだけ生産コストを下げようとするよ。公害対策の費用を削減しがちになってしまうんじゃないかな。

K もしも公害問題が明らかになったら、訴訟とか不買運動とか、大変なことになるわ。現在の日本では、まともな企業なら公害対策に知恵を絞っている。
……でも、たしかにあんたの言うとおり、環境保全の費用が削られがちになる傾向はあるでしょうね。

課税で外部不経済を防ぐ

S いったいどうすれば公害――外部不経済を防げるんだろう?

K 方法の1つは、課税することよ。

S 外部不経済を出しそうな企業から、税金を取るの?

K そう。そもそも外部不経済の原因は、企業が本来負担すべき費用を支払わなかった――供給曲線が下向きに移動した――ために、モノが安すぎ・作りすぎになってしまったことよ。
だったら、費用を上乗せしてやればいい。生産量に応じた税金をかければ、供給曲線は本来あるべき位置に戻るはずでしょう。

S ああそうか。税金をかけるのは、典型的な政府の干渉だよね。ケイリさんがさっき言っていた「外部不経済が発生する場合には政府の干渉が必要」っていうのは、そういう意味だったのか。

K 繰り返しになるけど、自由競争が行われているときに、社会全体の「トク」は最大になるわ。だけど、いつでも自由放任にすべきかというと、そうでもない。外部不経済が発生したり、独占企業によって自由競争が成立しなくなったりする。

S そういう場合には、政府の干渉が必要になるんだね。

K 自由放任にできず、政府の干渉が必要になる状況のことを、経済学では「市場(しじょう)の失敗」と言うわ。
20世紀末から21世紀初頭にかけて、政府の干渉はできるだけ減らすべき、経済はできるだけ自由放任にすべきという意見が多かったの。だけど2008年以降は、そうでもなくなったわね。

S どうして?

K リーマンショックという、特大級の「市場の失敗」を経験したからよ。サブプライムローンを野放しにした結果、深刻なバブル崩壊に見舞われて、世界経済が底に沈んだ。日本のサラリーマンの平均所得は、2013年の時点でもリーマンショック以前の水準には回復していないわ。

まとめ:自由競争って良いこと? 悪いこと?

S えっと、今日はまず「価格はどうやって決まるのか」って話から始まったんだよね。

K 価格決定者(プライスメイカー)は生産者側なのか、それとも消費者側なのか。昔の経済学者はそんな議論をしていたわ。

S 正解は、どちらでもない。需要曲線と供給曲線の均衡するところで、モノの価格は決まる。自由競争が行われている市場には、価格決定者(プライスメイカー)がいないんだ。

K そして自由競争が行われているときが、いちばん効率的に資源を分配できるの。

S 経済学用語でいう「余剰」ってやつだね。消費者余剰と生産者余剰を足したものが、社会全体の余剰になる。これは社会全体がどれだけ「トク」をしたかを意味していて、グラフ上の三角形の面積で表わせる。この面積が最大になるのは、自由競争が成立するときだった。

K だけど場合によっては、政府の干渉が必要なときもあるわ。

S 今日の話では、2つのパターンを考えたよね。「独占企業」と「外部不経済」だ。

K 独占企業のような価格決定者(プライスメイカー)が登場すると、自由競争が成立しなくなるわ。価格が吊り上げられて、モノは過小にしか供給されなくなる。すると、資源が効率的に分配されなくなり、「厚生の損失」が発生してしまう。

S 外部不経済というのは、いわゆる公害のことだ。外部不経済を発生させる企業は、環境対策の費用を充分に負担していない。だから、より安く、より大量にモノを生産できる。けれど、そういうメリットよりも、公害によって社会全体が負担するコストのほうが大きくなってしまう。

K 外部不経済を発生させる企業には規制が必要ね。たとえば生産量に応じた税金を課したりして、公害のコストをきちんと負担してもらう必要があるわ。

S 世間では「自由競争は良いか悪いか」って二択の議論になりがちだけど、経済学では自由にすべき場合と、政府が干渉すべき場合が、合理的に説明できるんだね。

K 今日の話は、経済学の初歩中の初歩。入り口を入ってすぐの玄関部分でしかないわ。だけど、あんたもそのうち大人になって、仕事をするようになる。働くということは、経済活動をするということよ。

S 働くことは経済活動をすること、かぁ……。

K そう。だったら、その「経済」がどういう仕組みになっているのか。今日話した内容ぐらいは教養として身につけておくといいわ。

エピローグ

S ありがとう、とても勉強になったよ。これで追試は安心だ。

ピッ(手に持った機材のボタンを押す)

K ぴ?

S ぐふふ、今日の講義はバッチリ録音させてもらったよ。これさえあれば……ふふ、ふふふ……。

K ま、まさか――
あんた、追試のテスト中にその音源を聞くつもりじゃないでしょうね! それって立派なカンニングよ!?

S へ!? ど、どうして分かっ……って、そんなコトするわけないだろ!

K あんたは嘘をつくとまばたきが増えるのよ! いいから、それを渡しなさい。録音したものを削除してやるわ!

S わっ、……ちょ、ま、待って!

K 問答無用! 大人しくなさい!

S ち、違うんだ。テスト勉強のときの復習に使うんだよ! これがあればいつでもケイリさんの声を聴けるから!

K ……………………………………………………………………あ、あたしの、声を?

S そうだよ。いつでもケイリさんの言葉を聴けるように、持ち歩いていたいんだ。

K し、しかたないわね。そういうことなら……消去はしないであげる……。

S え? 本当に! やったー!!

K だけどカンニングに使うのは禁止! 絶対、絶対よ!

S ぃやっほぉぉうう!

K もう! あたしの話を聞きなさいよ~~~っ!

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著者:Rootport

Rootport

ブログ『デマこい!』を運営している匿名ブロガー。1985年生まれ東京育ち京都在住……という設定だが、真偽のほどは分からない。ネットでは誰が言ったかよりも何を言ったかのほうが大切! を信念に匿名主義(?)を標榜している。大して飲めないくせに左党でスコッチ好き。たい焼きは頭から食べる派。
「なかよし銀行・調査室」のストーリーは、ブログでも「知識ゼロから学ぶ簿記のきほん」シリーズとして掲載している。