リクナビNEXTジャーナル

キャリア・ビジネスの情報満載【リクナビNEXTジャーナル】

【働き方に対する意識を変えるきっかけに】アビームコンサルティングが取り組む「Smart Work 推進」とは?

アジアを基点とするグローバルコンサルティングファームである、アビームコンサルティング株式会社。同社では現在、CWO(チーフ・ワークスタイル・オフィサー)の指揮のもと、働き方改革を推進する社内ワーキングチーム「Smart Work Initiatives」(SWI)による活動が始まった。社員の働き方に関してどんな課題感を持ち、どのような取り組みを行う計画なのか?そして、同社が目指す将来像とは?SWIの推進責任者である執行役員の矢野智一氏に、詳しく伺った。

f:id:k_kushida:20170522180208j:plain

アビームコンサルティング株式会社 

執行役員 プリンシパル プロセス&テクノロジービジネスユニット FMCセクター長 

矢野智一氏

「仕事に没頭するあまり」の長時間労働。意識変革から取り組む必要性

アビームコンサルティングの経営理念は「Real Partner」。クライアントの変革を実現する“真のパートナー”として、クライアントとともに歩み、課題解決を実現する――という姿勢を示したものだ。

 

「この理念のもと、当社のコンサルタントは皆プライドを持って、お客様の期待値の“さらに上”を目指すべく日々努力しています。お客様からの期待も大きく、コンサルタントは皆、熱意とやりがいを持って働いています。ただ、ともすればその熱意が、『より良いものを提供するためならば、いくら時間を使っても構わない』という考え方を生みだし、長時間労働につながる傾向がありました。この傾向が続くと、本来評価を行うべきアイディアや成果ではなく『長く働いた者が評価される』という認識につながりかねません。当社では以前からダイバーシティ推進に取り組んでいますが、長時間労働をよしとする考え方の中では、多様な人たちがイキイキ働くことはできません。そこで、早急に働き方に対する考えを変革し、働く環境を整備する必要があると考え、『Smart Work Initiatives』(以下、SWI)の推進を決断したのです」

 

SWIへの取り組みが本格的にスタートしたのはこの4月だが、これに先駆けて昨年11月より、「毎週水曜日のノー残業デー設置」「深夜時間帯と休日に上司から部下への業務連絡は原則禁止」「18時以降は社内会議室を利用しないことを推奨」など、いくつかの施策を進めている。この結果、昨年に比べて時間外労働時間が月平均で2時間短縮するなど、すでに成果が出始めているが、初めは現場からの反発もあったそうだ。

同社では常に、1000~2000ものプロジェクトが動いており、現場ごとに契約内容や勤務条件、クライアントが置かれている状況などが異なるため、「全社一律でルールを決められても対応できない」との声が多く聞かれたという。

 

「我々が意図しているのは“水曜日に残業をしない”ことではなく、こういう制約を設定することで働き方を見直すきっかけにしてほしい、ということ。そのため、反発は然るべきだと思っています。ただ、『無理だ』とならず、その後、自分たちのプロジェクトでの最適な形は何か、という前向きな検討を活発にして欲しいと思います。例えば『水曜日の夕方はお客様との定例ミーティングがあるから定時に帰れない』のであれば、金曜日をノー残業デーにしてもいいし、当社の働き方改革についてお客様にご説明し、理解いただいたうえで、定例ミーティングを水曜日の午前中に変更することを提案してみるなど、プロジェクトごとに、自分たちに合った、よりよい働き方に変えるきっかけになればと考えています」

f:id:k_kushida:20170522183326j:plain

▲「smart work」推進のための3つの取組みについて、社内にポスターを貼っているほか、社内のデジタルサイネージでも放映、ノー残業デーである水曜日にはメールで全社員に送付し社員へ積極的に呼び掛けている。

  

今までも、プロジェクトごとの働き方は各プロジェクトに一任されてきた。ただ、それらのルールは、例えば「このプロジェクトのお客様は生産拠点だから、始業時間を8時にする」など、クライアント起点によるものだったという。「これからは、我々起点でも積極的に働き方のルールを提案し、条件交渉にも組み入れることを推奨したい」と矢野氏は話す。

 

「実際、ノー残業デーの設置を提案に組み込み、『この勤務条件下で最大の成果を挙げる』ということでお客様の了承を得たプロジェクトも出始めています。このような取り組みをピックアップし、皆に共有することで横展開を促したいと考えています」

 

テレワークの推進で「働く場所・時間」を自由に選択

f:id:k_kushida:20170522180829j:plain

一方で、どのクライアントも、自社の課題解決のため、より高い成果を挙げてほしいと願うもの。自社のために長時間働いてくれるコンサルタントを高く評価する傾向も強かった。

 

ただ、長時間労働を是正する動きは、あらゆる企業において強まっており、クライアント側の認識も徐々に変わりつつある。ノー残業デーや勤務時間の短縮などへの提案も、比較的理解してもらいやすく、「うちもまさに今、取り組んでいる最中なのでよくわかる」と共感されることも多いのだとか。

 

「私にも経験がありますが、コンサルタントはどこまでも仕事を突き詰めたくなるもの。例えば、最終報告書をまとめているときなど、『あと1時間頑張れば、こんなことも調べられる。あと2時間かければ、これも盛り込める…』などとどこまでも上を目指してしまい、いつの間にか時間が経ってしまうのです。ただ、この行動自体は仕事への熱意やお客様への誠意によるものであり、ここを変えるつもりは毛頭ありません。実際、当社のコンサルタントは皆、その高い働きぶりから、お客様との強い信頼関係を築いています。この姿勢を大切にしながらも、例えば、常駐時間を短縮して、クオリティーを担保しつつコストを低減する策を提案したり、地方のお客様に対して出張コストを減らすためにリモートの比率を高める提案をしたりするなど、契約条件交渉の中に“時間”の概念を加え、今までとは異なる価値を提供してほしいですね。お客様にもメリットがあると示しながら、一緒に働き方を変えていく気概で臨んでもらいたいと願っています」

 

「異なる価値」を発想するきっかけにすべく、現在導入に向けての準備に注力しているのが「テレワーク」の推進。

 

「“場所の自由”と“時間の使い方の自由”の2軸で考え、24時間のうち、どの部分を仕事に割り当てるのか、そしてその仕事をどこで行うのか、より柔軟に考えることを推奨しています。例えば、子どものお迎えのために午後早めにオフィスを出て、後は自宅で業務を続けるとか、集中して仕事をするため別の場所に移動して環境を変えてみる、など。より効率的な働き方の実現と、新しい発想の創出につながると期待しています」

 

社員一人ひとりが働き方を自由にコントロールし、最大の成果を実現できる未来へ

f:id:k_kushida:20170522180850j:plain

同社では、2020年をSWIのゴールの目安に置いている。「そのときに、アビームコンサルティングとしてどんな姿になっていたいか」との問いに対し、矢野氏は「自由であること」を挙げた。

 

「我々は知的生産を行うプロフェッショナル集団。個々がプロフェッショナルである以上、個々が時間も含めて自身の働き方を自由にコントロールしたうえで、最大の成果を上げることが理想の姿。その結果、今まで以上にお客様が、当社のコンサルタントを信頼してくださる状態を作り上げたいですね。我々とお客様が、互いに尊敬し合い、尊重し合える状態を作ることが、本当の意味での『Real Partner』の実現。コンサルタント一人ひとりが自由にイキイキ働き、成果を最大化することで、お客様の満足度が上がり、さらに信頼をいただけるようになることで、コンサルタントの自由度がさらに増し、お客様がより多くの価値を享受できるようになる――こういうサイクルを目指しています」

 

同社のコンサルタントは皆、新しいアイディアや、新しい仕組みを考えたりすることが得意だ。SWIでは今後、管理職の意識改革、テレワークなど柔軟な働き方や、評価項目の見直し、複線型キャリアパスの導入などといった、さまざまな取り組みや制度の実行を検討していくが、制度で「縛る」のではなく、考え方を切り替え発想を促す「サポート役」として捉え、一人ひとりの自発的な行動を促す考えだ。

 

なお、矢野氏はSWI推進責任者として、率先して働き方改革に臨み、プライベートタイムの有効活用に取り組んでいる。

 

「意識しているのは、社外の方との交流を増やし、刺激を得ることです。私自身、現場にいるときには一つひとつの仕事にのめり込む傾向が強く、時間を気にせず働いた経験もあるし、勤務時間後もメンバーと過ごすことが多かった。それが純粋に楽しかったというのもあるのですが、意識して社外に出て自社にはない視点や考え方に触れることは、新たな価値創出にもつながるはず。働き方を見直して創出した時間を使って積極的に外に出ることで、社内にいい影響を与えられるようになりたいと考えています

 EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:刑部友康

グーグル社員の「働く満足度」は、なぜこれほど高いのか?――「元気な外資系企業」シリーズ〜第6回 グーグル

大きな変革の時代。企業でも、さまざまな取り組みが進む。では、海外に本社を持つ外資系企業では、どんな取り組みが推し進められているのか、探ってみる外資系特集企画。第6回は、グーグルの「ワークスタイル」だ。

f:id:k_kushida:20170524155544j:plain

創業者たちが毎週、ライブで直接、社員にメッセージ

 事業としての魅力はもちろん、その働きやすさについても常に注目され、「働きたい会社」としても、世界的な人気企業になっているグーグル。

 どうしてグーグルが働く場所として高い評価を得ているのか。ビリヤード台や卓球台、防音の音楽ルームやお洒落なライブラリー、「竹ガーデン」などがある独創的なオフィス環境や、1日3食社員食堂で無料で食べられるなど、福利厚生はよく語られる。

 では、持っている力を存分に発揮できる「ワークスタイル」としては、どんな特徴があるのだろうか。人事部長のギャリー・チャンドラー氏は、2つのキーワードを挙げてくれた。一つ目のキーワードが、「エンパワーメント」だ。

f:id:k_kushida:20170524161144j:plain

▲人事部長 ギャリ―・チャンドラー氏

「グーグルの大きな特徴として、社員はたくさんの情報リソースにアクセスできるようになっている、という点が挙げられます。グーグルのミッションは『世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること』というもの。これを、グーグル内でも意識しているんです。たくさんの情報を、透明性を持って共有する。会社についての決定事項についても、今後どういったことが起こっていくのか、何か変更点があるのか、さらに製品の状況についても相当な情報に触れることができます」

 エンパワーメント、つまり権限委譲。情報を積極的にオープンにし、社員にどんどん権限を委ね、仕事をしていってほしい、というスタンスだ。

 その機会のひとつとして世界的にも知られているのが、グーグル社内で「TGIF」と呼ばれている「全社員ミーティング」。日本時間では金曜の朝、アメリカは木曜の夕方だが、社員を映像でつないでライブでミーティングが行われるのだ。驚くべきは、全世界の全社員6万人が対象になっており、社員なら誰でも参加できること。そして、創業者や本社の経営トップ自らが直接、社員に語りかけることだ。

「ラリー、セルゲイ、スンダーといったシニアと呼ばれるトップの経営層が、今週何をしていたのか、どんなことを今考えているのか、新しいサービスについてどんな進展があったか、どんなインパクトを社会に与えているのかなど毎週、直接メッセージしています」

 会社の草創期から行われてきた全社員ミーティングが、この企業スケールになっても今なお行われているというのだ。リアルタイムで行われるため、社員が受け取る“今、明かされる”感は強烈だという。しかも、“伝説的な創業者”たちが直接メッセージするのだ。

 さらに堅苦しいものではなく、笑いに溢れた雰囲気で、和気藹々として盛り上がる場だという。だから毎週、社員はみんな楽しみにやってくる。時には、新しいプロダクトを開発したエンジニアを、創業者2人が直接“イジったり”することもよくあるらしい。経営層と社員の間が極めて近いのだ。そしてTGIFは、後にビデオでも見られる。

 経営層から社員にダイレクトに何かを伝える、という会社はあるが、グーグルの場合は“カスケード”(上から下に流れていく)的な感覚ではなく、“フラットにシェア”されていく感覚なのだという。情報は、上から伝達されるのではなく、みんなで共有されていくのだ。

「TGIFでは毎週20分間、質疑応答の時間も設けられています。経営層に対して、聞きたいことを直接、聞くことができる。どんな質問でもOKです。経営層と違う意見も歓迎されます。実際、ストレートに自分の意見をぶつける社員もいます。意見の違いがあるということは、社内に多様な見解ができるということ。それはみんなの学びになるからです」

 

全社員のスケジュールが社内で公開されている

f:id:k_kushida:20170524162227j:plain

 質問は事前に提出することも可能で、いろいろな質問について世界の社員がランキング投票もできる。ランキング上位の質問は優先的に質問されたりする。いずれにしても、経営層に直接、その場で質問ができてしまうのだ。しかも、どんな質問でも構わない。そして、その場で経営層が全世界の社員を前にライブで答えてくれる。考えてみれば、これはなんとも大胆な取り組みなのだ。

情報を人に提供することで、偉大な何かが生まれる、素晴らしいものが生まれる、というのがグーグルの信念なんです。だから、できるだけ情報をオープンにする。結果的にそれは、社員の仕事のアウトプットを高めてくれるものになると考えています」

 入社したばかりの社員の驚きは、「経営層はこんなに社員を信頼してくれているのか」というものだという。ローンチ情報など、“この情報を今、開示するのか”とびっくりする情報もあるというが、社員から外部に漏れたりはしない。経営層は自分たちを信じてくれている、という信頼関係があるからだ。

 そして、すばやくオープンにされ、共有された情報は当然、自分の仕事に活きてくる。何かを教えてもらえないストレス、“もっと早く言ってくれよ”といった事態は起きない。会社や事業の方向性をしっかり把握しながら、仕事をしていくことができるのだ。

 こうしたオープンマインドは、驚くべきところでも貫かれている。例えば、全社員のスケジュール。これがすべて公開されているのだ。社内のグーグルカレンダーで、プライベートを除く個人の仕事スケジュールが、誰でも見られるようになっているという。

 例えば、役員とのアポイントを取りたい。多くの会社はまず秘書にメールを入れて用件を伝え、空いている時間を聞いて確保してもらって……といった手順を踏むだろう。だが、グーグルでは、そんな面倒で時間がかかることは不要だ。

 役員のスケジュールを見て、空いているところに仮予約を入れてしまえばいいのである。そしてカレンダー上に用件を書いておく。役員がOKすればアポイント成立である。複数の社員によるミーティングも同様だ。全員にカレンダーを見て、共通して空いているところをブッキングしてしまえばいい。

 一般的には、こうしたアポイントや会議のブッキングが、いかに時間をロスしているか、多くの人が認識しているに違いない。グーグルでは、これがあっという間にできてしまうのだ。仕事効率が良いばかりでなく、こういうところでストレスがないのである。

「私たちは、いろいろなものをデジタル化して共有しています。ペーパーレスで、世界のどこにいても必要な情報にアクセスすることができる。しかも、すばやく、です」

 さまざまな情報がオープンになり、どんどん仕事が委ねられていく。これが一つ目のキーワード「エンパワーメント」がもたらしているものだ。

 そしてもう一つのキーワードが「インディペンデンス」。独立、自立性とでも訳することができるが、もとよりグーグルは社員を縛り付けることを好まないのだ。

「ミッションやポリシーはありますが、それ以外は最低限のルールや制度しかありません。そうしたストラクチャーを事前に決めることをしない。それ以外は、社員個人の自由裁量です。もし、何かわからないことがあれば、一緒に考えればいいんですから」

 グーグルでは“セルフ・スターター”という言い方をするそうだが、基本的に自分のことは自分でやっていく。マニュアルのようなものはない。前例も参考にならない。自分で考えていかないといけないのだ。

 だが、自分で考えて動きたい人には、これが心地良いものとなる。縛るものもなく、自分でやりたいことをやっていくことができるからだ。そして、だからこそ周囲の人たちが協力してくれる。

 転職してきたばかりの社員は、当初、戸惑うことも多いという。仕事の引き継ぎなど基本的にない。上司からの命令もない。やるべきことは自分で考えるのだ。だが、もちろん最初はわからないことだらけ。だから、聞けば周囲の社員が積極的に教えてくれる。なぜなら、かつての自分もそうだったからだ。多くが中途入社の社員。同じ道を通ってきているのである。こうして基本を理解すれば、次第に自立して考えられるようになっていく。

「社員が社員に教える、というカルチャーは強いですね。社員同士で教え合うティーチングプログラムもあります。誰でも教えることができるし、学び合うことができる。それが、グーグルの考え方です」

 

失敗をどんどんしなさい、というカルチャー

f:id:k_kushida:20170524162856j:plain

 世界的に有名な「20%ルール」も自立性と関わっている仕組みだ。

「仕事時間の中で、20%を社員が個人的にやりたい仕事やプロジェクトに割り当てることができるプログラムです」

 グーグルの独創的なサービスを生み出した働き方として知られているが、実はエンジニアにだけ委ねられているわけではない。営業でも広報でも経理でも、自分が手を挙げればできるのだ。

 例えば、営業の仕事をしている社員が、広報の仕事に興味を持っているとする。そうすれば、仕事の20%を広報の仕事に使うことができる。「20%ルール」とは他の職種を経験できる仕組みなのだ。

 もっといえば、職種に限らない。やってみたかった、知りたかった、試してみたかった、というものに取り組むのもOK。例えば、グーグル広報部長の河野あや子氏は、「talks@google」という社内イベントを日本で主催している。インパクトのある話をしてくれる講演者を招き、社内に話をしてもらったり、場合によってはYouTubeにアップして外向けにも発信する。

 もともとアメリカ本社で行われていたものを、日本でもやってみたいと考えたのだという。そこで、クロスファンクショナルチームを社内で立ち上げ、ミーティングをセットし、プログラムを作り、本社に掛け合って予算をもらって、この社内イベントを実現させた。だが、本業の広報とはまったく関わりがない。

 20%の範囲内であれば、本業とは異なっても、興味があるなら何をやってもいい、というのは、こういうことなのだ。ただし、もちろん自発的な意志あってこそ。指示が来ないと仕事ができないような人には、できることではない。だから、自立性が問われるのだ。

 そしてもうひとつ、自立性といえば、仕事の目標も自分で設定しなければいけない。そして、グーグルが社員に求めるものが、極めて興味深い。

野心的な目標を設定することです。インパクトがあるもの、社員本人が成長できるもの、新しいもの。こういうものにトライすることを奨励していますし、期待しています。ただ、野心的な目標が100%うまくいくことはなかなかない。だから、失敗することも見越しています」

 自分で目標を立てるだけに、自ら低い目標を作ってしまうこともできる。そうすれば、簡単にクリアすることができるが、グーグルでは誰もそんなことはしない。また、前例を踏襲したような目標も作らない。会社が求めているのは、新しいこと、野心的なことだからだ。

「だから、失敗を許容します。失敗してうまくいかなかったということは、それまでになかったことをやろうとしたからです。失敗していないということは、無難にこれまでを踏襲しただけかもしれない。これでは何も前進しません」

 実際、「最近、何を失敗したのか」が社員間ではよく問われるという。もちろんうまくいこうと頑張るが、「やってみたけどダメだった」がネガティブな返答にはならない、というのだ。むしろ、「学びがあって良かったね」と周囲からは言われたりする。上司も、むしろ積極的に「失敗しろ」と声をかける。失敗に寛容どころか、失敗を求めているのである。それはチャレンジした証だからだ。

 ちなみに評価は360度。上司、同僚、部下・後輩すべてが評価する。もちろん結果も問われるが、ただ結果だけ出せばいい、というわけではない。その結果にどう到達したか、も問われる。360度評価だから、そこはしっかり見てもらえているという印象が社員にはあるという。上司も自分から評価できるし、同僚から日頃の仕事ぶりも見てもらえる。社員には、評価の納得度は高いそうだ。

 

長時間労働は、そもそも社内で尊敬されない

f:id:k_kushida:20170524163336j:plain

 今、日本では「働き方改革」が話題になっており、長時間労働対策が問題になっているが、グーグルではどうしているのか、聞いてみた。

「まず、グーグルがメッセージしているのは、野心的で面白く興味深いゴールや目標に取り組んでほしい、ということです。ただし、それをどこでどのようにやるのか、はまったく問いません。ただし、長時間労働を勧めたりするメッセージはまったくしていません。そういう様子が見られたら、サポートが必要という信号ですから、本人と話をしてリソースが必要か、バランスを変えたほうがいいのではないか、などコミュニケーションします」

 実際の現場でも、長時間働くことはまったくリスペクトされないのだという。長く働くことがカッコイイことだと誰も思っていないし、周囲からの評価もされない。営業時間外のメールすら、好まれない。受け取ると返信をしてしまうから、仕事スイッチが連鎖してしまうからだ。営業時間内に仕事ができるよう、タイムマネジメントすることが求められる。

 しかし、野心的な目標を掲げているほどだ。無理をしてしまう社員は出てこないのか。

「これも自立性と関わってきますが、自分の人生や生活に対して、仕事をどうコントロールしていくか、という意識は極めて重要です。健康的な形で、どう仕事を推し進めていくか。そこは自分で考える必要がある。実際、どうやろうといいんです。自分の調子のいいときに長く働いて、翌日は早く帰る、というのもいい。自宅で仕事をしたほうが良ければそうすればいい。仕事ツールはたくさんありますので、まったくの自由裁量です」

 実際には、グーグルに転職した社員に聞くと、仕事の密度は相当なものだという。もちろんオープンで仕事がしやすく、ツールが充実していることもあるが、1週間分の仕事を1日でやっている感覚すらある、らしい。だが、これもブッキングのしやすさのように、密度高く仕事ができる環境が揃っているから、ともいえる。

 一方で、エンパワーメント&インディペンデンスだけに、働き方は極めてフレキシブルだ。例えば、エアコンが壊れて修理業者が来るので明日は自宅で仕事をする、などというのは、普通にできること。仕事がどこでもできるなら、だ。

 また、それぞれの仕事はそれぞれが管理しているので、「朝、急に子どもが熱を出したので家で仕事をすることになりました」となったとき、周囲で「えーっ!」などと声が上がることもないという。共同責任ではないので、誰かが困ったり割を食うようなことはないからだ。だから、職場もギスギスした雰囲気はまるでない。

「定期的に在宅で仕事をしている人もいますが、やはりグループで物事を動かしていくほうが仕事はスムーズですから、基本は職場に来て仕事をします。ただし、それは自分で決めること。会社が考えているのは、男女問わず、いい結果を出していくためにコンフリクトを起こしたり、障害になっているさまざまなことや日常的に困っていることを、どんどん取り除いていこう、ということです。もっと仕事がしやすくなるには、どうすればいいか、まだまだいろんなことができると考えています」

 それこそ人事も野心的な目標に取り組んでいる、ということ。はっきりとしたミッションがあり、オープンに情報にアクセスでき、自分で組み立てていける仕事環境が作られている。こういうところに魅力を感じる人には、心地いいということになるのだろう。

WRITING:上阪徹 PHOTO:小出和弘

エッジの立った社員を生かして「働きがいナンバーワン」――アスペルガー傾向と向き合うIT企業の仕組みとは

f:id:k_kushida:20170509181333j:plain

「GPTW(Great Place To Work)インスティテュート」の働きがいのある会社ランキング、従業員100人未満の部門で“2年連続日本一”に輝いた横浜市のIT企業、アクロクエストテクノロジー株式会社。同社は、ユニークな社内制度を数多く整備していることで広く知られています。その中でも、とりわけ異彩を放っているのが、コミュニケーションでつまずきやすいアスペルガー症候群(自閉スペクトラム、AS)の傾向がある人も技術者に迎え、適性を業務に生かしている点です。そのベースとなる同社の社風や、間もなく8年目となるASへの具体的な取り組みについて、共同創業者で人事担当の新免玲子副社長に伺いました。

f:id:k_kushida:20170509180841j:plain

▲アクロクエストテクノロジー株式会社 取締役副社長 新免玲子氏

先端を追求するオープンな会社

―2015年、16年と連続で“働きがいのある会社日本一”。17年のランキングでも2位でしたが、まず会社の概要から教えてください。

ITエンジニアの夫が1991年に興した、企業向けのソフトウエア開発やITコンサルタントを柱とする会社です。今はおよそ80人の従業員と、業務委託のエンジニアが働いています。

「アクロクエスト」という社名は、直訳すると「先端の追求」。事業内容の一つのJava障害解決では、突然のシステム障害などでよくトラブルシューティングを依頼されますが、ここまで解決率は「100%」。開発の領域は時代に合わせて変化を続けていて、現在はビッグデータをリアルタイムで処理・分析できるシステムなどを提供しています。

そもそも夫と私が起業した理由のひとつに、「会社組織の中で現場の声を上げてもマネジメントに届きづらい」と感じていたことがあり、それだけにずっと「建設的な意見が通るオープンな職場にしたい」と考えてきました。また、IT企業にとってエンジニアは全財産と言ってよいほど大切な存在。いつも最先端を手がけるとんがった社風で、優秀な人を呼び込みたいという思いもありました。

 

―従業員の報酬を年1回、全員参加の場で話し合って決めるなどユニークな社内制度が多くありますね。

そうですね。全員参加による給与・賞与の査定は20年以上続けています。始めた当初はなかなか思うようにいきませんでしたが、試行錯誤を経て定着した今では、日取りの設定や議事の進行など、人事ではない担当社員で構成された査定コミティチームがすべてを仕切っています。

各自の自己査定と、上司を含めた360度による評価が適切かどうか話し合うので、よく社外の方からは「ギスギスした雰囲気にならないか」と聞かれますが、ならないんです。誰しも失敗するし、成果の出ない時期もあるとみんな理解していますし、あとは最後の1人が納得するまで徹底的に話し合っているからだと思います。「1人についての議論だけで3時間」という年もありますよ。

他にもユニークな制度として、例えば「花一輪」というものがあります。社員の誕生日に他の社員が1輪ずつ花を贈って祝うという習慣です。色や品種など、その日の主役に合うイメージのものを考えて選ぶのがポイント。持ち寄られた花、花と一緒に交わす言葉から、お互いへの理解が形になって見えるという人気の制度です。

 

社員の健康のため、ちゅうちょせず自宅を訪問

―若手の独身社員が住む部屋を、上司がチェックしに行くことがあると聞きました。

はい。しかも、室内の乱雑さが、あまりにも改善されない場合は住宅補助をカットする決まりなので、自室に入られる部下だけでなく、部下を指導する立場の上司にもプレッシャーがかかります。もし同じことをしようとしたら、多くの会社では「プライバシーの侵害だ」と大騒ぎになるでしょうね。どうして当社でそんな制度が成り立つ事になったのかは、健康管理、特にうつの早期発見に必要だと社員が理解しているからです。

会社にいる間はさほど変わった様子を見せない人でも、うつで意欲を失いかけると、身の回りを片付けられなくなって自宅が荒れたりします。社員はほとんど理系大学院卒の男性。身の回りの整理整頓が苦手なタイプも珍しくないとはいえ、異常な荒れ方は見れば分かります。過去にそういうケースがあり「気がかりなときは、ちゅうちょせず居室を見に行き、少しでも早く異変に気づくべき」というのが当社の社員全体の考え方になっています。同時に「逆効果になるのでうつの人は励まさない」といった接し方のポイントも、全員が共有しています。

社員の健康は仕事よりも大切なことですから、会社が「社員個人の問題」という建前だけで済ませてはいけないと思います。何が本人の幸せにつながるかという本質を考えることが大切でしょう。とはいえ、対外的に誤解を与えかねない面が確かにありますので、大企業で実践するのは難しいようにも思えます。そういった意味では、小さい会社で、社員の一体感があるからこそ可能なことなのかもしれません。

 

才能の持ち主がつまずくポイントを、ツールとミーティングで改善

―AS(アスペルガー症候群、自閉スペクトラム)への取り組みは、どのようなものですか。

国の支援制度などを利用せず、そのため診断で対象者を特定しているわけではありませんが、2010年7月から週に1回「AS向上会」と名付けたミーティングを開いています。AS傾向のある社員が自発的に参加している以外に、業務の基本を学ぶ目的で新入社員も加わっており、従業員およそ80人のうち多いときで10人、現在は5~6人で集まっています。「指示通りに物事をこなす」という苦手分野を改善するため、アドバイザー役のベテラン社員と一緒に過去1週間を振り返りながら「パターン化されていない仕事を整理する練習」をしています

仕様書をすべて暗記して客先で事細かに説明できる、オフィスの隅にいても遠くの会話が聞こえている、計算が瞬時にできるなど、私はこれまで驚異的な能力を持つ社員に出会ってきました。ただ、彼らの多くはなぜか仕事上で失敗を繰り返していて、しかもその失敗に「いくつかの指示を並行して処理できない」「指示の最後に少し付け加えた言葉で、肝心な部分が上書きされてしまう」といった共通性がありました。また、彼らには「耳が良すぎて仕事に集中しづらい」「人と話すときの距離感が近すぎる」「周囲の空気を読まない言動をすることがある」といった特徴もあり、そのために業務やコミュニケーションで支障をきたしていることも分かってきました。

10年ほど前、たまたまテレビでASが特集されているのを観た私は「彼らのことだ」と思い、ある社員と親御さんを説得して、番組で紹介されていた大学病院を受診してもらいました。予想通りASとの診断でしたが、当人は「ずっと悩んでいたことの原因と対策が分かって、気持ちが楽になった」と喜んでいたのをよく覚えています。

AS傾向があると指示通りに動けないのは、良くも悪くも1つのことに集中しすぎて優先順位がつけられないことと、そうした状況を相談する対人コミュニケーションが苦手なことが原因です。文字化・可視化することで意思疎通がスムーズになり、対策も立てやすくなります。当社では、1日の予定と実績を15分刻みで比較できるオリジナルのスケジュール帳「Acro DailyCheckNote」や、判断に迷ったときに分かる範囲で「問題」「事象」「原因分析」「解決策」を記入して上司に提出する「ほうれんそうシート」などを活用しています。

f:id:k_kushida:20170509182335j:plain

Acro DailyCheckNote

こうしたツールを使うことで、AS傾向を持つ本人はもちろん、上司もコミュニケーションを効率よく取りやすくなるのでずいぶん楽になります。また、指示を出す側も「必ず文書で・1つずつ」「作業の背景や温度感も併せて伝える」など、伝わりやすい方法を工夫しています。  

 

「ダイバーシティ」とは、いろんな人が共存すること

f:id:k_kushida:20170509182640j:plain

―ASなどの発達障害を持つ人の就労問題が、近年クローズアップされています。

ASについては長く取り組んできたので、私も今は採用面接で少し話せば、その傾向があるかどうかがすぐ分かります。ITは「エッジが立ちやすい」、つまり1つのことに秀でた人が、その能力で評価してもらいやすい世界です。プログラミングが好きでセンスのある人なら、AS傾向はマイナスではなく、むしろいいシステムエンジニアになる素質があると言っていい。当然そこに期待して、AS傾向がある人を採用しています。

AS傾向がある人とそうでない人とで、どこまで同じように接するかはケースバイケースです。「分け隔てなく一緒に」という意見が多数派でも、それがふさわしくないこともあるので、いったんASの立場からの希望を全部聞いて、納得できる場合には例外扱いもしています。例えば「周囲の音で気が散りやすいので、就業時間中にヘッドホンで音楽を聴くことを例外的に認める」といったことですね。

女性の活躍や外国人の登用などが「ダイバーシティ・マネジメント」の例としてよく採り上げられますが、本質的には「いろんな人が共存すること」が大切で、AS傾向と会社の関係も、まさに共存だと考えています。

「状況に応じて言動を使い分けるのが苦手」というASの特徴が対人関係を難しくすることもありますが、一方では「表裏がなく信頼できる」というプラス面もあります。会社が目指す方向性に、純粋な気持ちで賛同してくれる人は、経営者にとってありがたい存在でもあると思いますね。

アクロクエストテクノロジー株式会社では、働き方・組織に関する勉強会を主催しています。詳しくはこちら。

■組織いきいき実践勉強会

■中小企業に入って日本を活性化しよう

 WRITING/PHOTO:相馬大輔

「母親の顔」のまま、バリバリ働く――島根のワーママが活用する「子ども同伴出勤制度」とは?

親が仕事をしている間、子どもも職場で過ごせる「子ども同伴出勤制度」を導入している老人ホーム「サンガーデン 輝らら☆」(島根県浜田市)のリポート。制度創設の経緯や狙いなどをうかがった前編に引き続いて、今回は実際の様子と、制度を利用している親子の本音をご紹介します。

f:id:k_kushida:20170427123119j:plain

取材に訪れた日は、ちょうど小学校の春休み期間中。新3年生と5年生の森映人君・心人君兄弟、新4年生の尾崎暁徳君に話を聞きました。母親の職場に、それぞれ就学前から来ていて、この日は午前中、外でオタマジャクシをつかまえていたそうです

――土日や長い休みのときに来てるって聞いたけど、楽しい?

心人君 いっぱい人がいるから、最初のころは恥ずかしかった。今もまだ、ちょっと恥ずかしい。家にいても近所の友達と遊べるけど、ここは広いからボールが使える。

尾崎君 初めは来るのが面倒だったけど、今は楽しい。でも家のほうが気楽かな。

――お手伝いは何をしている? いろいろしてほしいって言われない?

映人君 机やいすを運んだり、机を拭いたりとか。

尾崎君 いろいろ言われたら、無視しちゃう(笑)。

――働いてるお母さんと家にいるときのお母さんって、何か違うところがある?

心人君 ここでも家でも、あんまり変わらないと思う。

尾崎君 (お年寄りに話しかけるので)ここだと声が大きい。だから家のほうがいいかな。

子どもたちへのインタビューを終えたところで、彼らのお母さんを含むスタッフの方々が、入所のお年寄りも連れてイチゴ狩りへ行くのにご一緒させていただきました。

 

母から子への接し方は「職場も家も同じ」

施設近くの観光農園へ向かう車中、ハンドルを握る森友恵さんにも話を聞きます。映人君・心人君のお母さんです。

――お子さんを職場に連れてこられるメリットは何ですか?

森さん まず仕事がしやすい。子どもが原因で仕事を大変と感じることがないのが、すごく助かります。周りのスタッフもみんなで接してくれて、わが子でなくても悪いことはきちんと叱ってくれるし、それでもダメなときには私を呼び出してくれます。

――お年寄りのケアに支障はないですか。

森さん 特に支障はないですし、ファミリーさん(入所者の呼び名)にはむしろ歓迎されています。近くに子どもがいるだけで、いつもより笑顔なのが分かる。もちろん、近くで騒がれるのが嫌いな方もいて「うるさい」と怒られることもありますが、にぎやかな子どもがおじいさんに注意されるのは昔からよくあること。そういうものだということで、みんなに受け入れてもらえるから、安心して連れてこられるのだと思います。

――仕事中と家庭とで、お子さんへの接し方は変えていますか?

森さん 仕事の顔と家の顔を使い分けるようなことは考えたことがないですね。いつでも同じように接しています。

 

出発から10分ほどでビニールハウスが並ぶ観光農園に到着。練乳の容器を手渡された子どもたちは足早にハウス内を回り、熟したイチゴを見つけては口に運びます。カメラを構えるのが追いつかない目まぐるしさの背後から、ファミリーさんが車椅子を押されてゆっくり近づいてきます。

果汁と練乳でだんだん手がべたつくようになり、森君兄弟も尾崎君も、それぞれ母親に拭くものをせがみます。ファミリーさんのイチゴを摘む手を少しだけ休め、わが子にティッシュを手渡すお母さん。なんだか、親戚同士で遠出したときの雰囲気に近いものを感じます。

とはいえ子どもたちも、ただ楽しんでいるだけではありません。帰り際、車椅子を自動車に乗せるときには、スロープへと引き込むフックの取り付けを言いつけどおり、手際よく手伝っていました。「頼まれても無視」というのは、きっと照れ隠しだったのでしょう。

f:id:k_kushida:20170427123624j:plain

 

“お互い様”の意識で、責任ある仕事と育児を両立

施設へ帰ってきたところで尾崎君の母・尾崎洋子さんにも話を聞きました。肩書は「副施設長」。スタッフのまとめ役であり、同時に「子ども同伴出勤制度」を利用してきた立場から、さまざまなことを感じるそうです。

――施設オープン当初から勤務し、当時からお子さんを連れてきていたそうですね。

尾崎さん 上の子のときは育児に専念していましたが、ここでは保育園を利用しながら、まずパートとして勤務をスタートさせました。行事の準備で遅くなるときなど、一度迎えに行ってここで待たせたりしていたんです。その後、1人勤務や夜勤を伴う正社員になりました。家族の協力ももちろんですが、「せっかく働くなら、なるべくしっかり責任を持つ」という施設の方針や後押しがあったからだと思います。

あとは、うちは核家族なので、子どもが頻繁にここへ来てお年寄りと自然に接することができているのもプラスになっています。介護の仕事に興味を持ってもらえたら、さらにいいのですが…(笑)。

――他のスタッフの子どもも分け隔てなく迎え入れる雰囲気ですね。

尾崎さん 「お互い様」という意識があるからでしょうね。例えば、子どもが病気になったとき。老人ホームという施設の性質上、感染症予防には特に注意しているので、子ども同伴出勤制度は病児保育の代わりにはなりません。そのため親子そろって自宅で休み、代わりの職員がシフトに入ることになりますが、こういうときも、まずは同じ境遇の母親同士で声を掛け合います。

突然夜勤に穴が空いたときなど、本当は独身男性のスタッフに頼りたいんです。予定がなく、お酒も入ってなければ、たいてい応じてもらえることも分かっている。それでもやはり、誰かに負担を集中させないことが大事だと思います。

うちの子どもも、ここへ連れてくると「ずいぶん大きくなった(から手がかからなくなった)ね」と言われることが増えました。なので私も、今度は若いお母さんの急な休みをなるべくカバーするようにしています。これからも「無理なときには無理と言える」「いざというときには何とかなる」という職場であり続けたい。十分な数のスタッフが腰を据えて働ける環境を守っていきたいと思います。

 

取材を終えて

f:id:k_kushida:20170427123906j:plain

文字通り、お年寄りの生活の場である老人ホーム。そこで働く人が「職場に子どもを連れてくる」といえば意外に感じますが、おじいちゃんやおばあちゃんの多くが子や孫と同居していた少し前の時代を考えれば、幅広い世代が集まって過ごす自然な状態を取り戻したようにも思えます。実際の様子を見ても、むしろ何の違和感もないことに驚かされました。

入所なさっている、ある方は「大人ばかりじゃつまらない。子どもと一緒に遊んだりできる方が楽しい。折り紙とかトランプとか仲間に入ってくれる」。ほかにも、子どもの姿が見えると涙を流して喜ばれる方や、手をつないで散歩に出かける方、反射的に子守りの経験を思い出される方もいるそうで、この場所で子どもがとても歓迎されていることが伝わってきました。

セキュリティーや衛生、安全面などの理由で大人の出入りさえ制限する職場が珍しくないなか、今回紹介したような“子連れ出勤”をそのまま採り入れられる会社は少ないかもしれません。ただ「職場に子どもがいても、接し方は家にいるときと同じ」というお母さんの言葉を聞くと、心のモードを激しく切り替えるような働き方を考え直したくなる人もいるのではないでしょうか。

アットホームな中にも決まりがあり、またそういう働き方を歓迎する雰囲気が社内でつくれれば、「母親の顔」「父親の顔」のままでバリバリ働ける職場が、実はもっと沢山あるのかもしれません。

WRITING:相馬大輔

76年連続増収。エクセレントカンパニーの秘密とは?――「元気な外資系企業」シリーズ〜第5回ジョンソン・エンド・ジョンソン

大きな変革の時代。企業でも、さまざまな取り組みが進む。では、海外に本社を持つ外資系企業では、どんな取り組みが推し進められているのか、探ってみる外資系特集企画。第5回は、ジョンソン・エンド・ジョンソンの「経営理念」だ。

f:id:k_kushida:20170407093021j:plain

実は一般消費者向けは売上高の約2割

 景気の変動、消費者ニーズの変化、時代の移り変わり……。激しく環境が変わる世の中で、企業が常に成長し続けることは、並大抵のことではない。そんな中、1932年から実に76期にわたって増収を続けてきた会社がある。ジョンソン・エンド・ジョンソンだ。

 本社はアメリカ・ニュージャージー州。世界60カ国に265以上のグループ企業を有している。売上高(2014年)は、743億3100万ドル(約7兆5000億円)。

 ニューヨーク証券取引所に上場し、格付け会社のスタンダード&プアーズが最高ランクAAAと評価している。「全米で最も尊敬される企業」の上位に常にランクされている、文字通りのエクセレントカンパニーである。

 ジョンソン・エンド・ジョンソンといえば、バンドエイドや綿棒、ベビーオイル、コンタクトレンズのアキュビューなどを思い浮かべる人も多いかもしれないが、実は一般消費者向け以外のビジネスが売上高の約8割を占める。人事部門のタレント アクイジション ジャパン ヘッドの沖田千代氏は語る。

f:id:k_kushida:20170407093301j:plain

タレント アクイジション ジャパン ヘッド 沖田千代氏

「ジョンソン・エンド・ジョンソンの設立は1886年でした。当時は、外科手術をしても、殺菌されていない環境のもとで、たくさんの方々が亡くなっている状況がありました。そうした中で、消毒の技術を確立していくことを目的に発足したんです

 会社を創ったのは、ロバート・ウッド、ジェームズ・ウッド、エドワード・ミードのジョンソン三兄弟。アメリカの南北戦争で、多くの負傷兵が傷を治したにもかかわらず、感染症によって命を落としていたことに心を痛めていたのだという。

 そこで最新の医学理論を取り入れ、殺菌済み外科用包帯の大量生産を考案した。医師や看護師に向け、殺菌済みの縫合糸や包帯を使うことを提案するというのは、当時としては革新的なアイディアだった。

 現在も、事業の中心になっているのは、医療機関に向けたものだ。病院などの医療機関で使われる医療機器や、医療用の医薬品が売上高の大部分を占めている。

何が世の中に必要なのかを考えていく。世の中が必要とするものを、生み出していく。そういう精神を今も引き継いでいる企業です

 実際、ヘルスケア領域に特化して、次々に革新的な製品を生み出してきた。研究開発費は、総売上高の約11%を占める。これは、全産業でもトップクラスだ。

「日本では、ジョンソン・エンド・ジョンソンが医療機器やコンシューマー商品を扱い、医療用医薬品はグループ企業のヤンセンファーマが取り扱っています。従業員は2社を合わせると約5000人です」

 医療機器の高度化や複雑化が進み、患者の負担の少ない治療への社会的ニーズが高まる中、医療従事者には医療機器の操作技術の向上も求められている。こうした中で、プロフェッショナルエデュケーション専用の施設をつくり、内視鏡外科手術のトレーニングプログラムも提供している。

 日本では1992年に福島県須賀川市にMIT研究センターを設置。2014年には神奈川県川崎市にも東京サイエンスセンターを設立。病院の手術室や検査室を再現した環境で、医療機器の操作を習得できるトレーニングが行われている。

 こうしたジョンソン・エンド・ジョンソンの成長を支える重要な要素のひとつになっているものがある。それが、経営理念だ。「Our Credo(我が信条/クレド)」と呼ばれるジョンソン・エンド・ジョンソンの経営理念は、世界に知られるものになっている。

時代とともに変わってきた「Our Credo」

f:id:k_kushida:20170414102930j:plain

▲Our Credo(我が信条/クレド) ※全文は記事の最後に掲載

 ジョンソン・エンド・ジョンソンの「Our Credo」は、「顧客」「社員」「地域社会」「株主」という4つのステークホルダーに対して果たすべき責任が掲げられている。「Our Credo」に世界が注目したのは、端的に言えば、常に4つの責任の遂行を、企業としての利益追求よりも優先するとしたことだ。

「1935年、大恐慌の中で企業の責任の中に、地域社会への貢献を入れるべきではないか、という思いを、当時のCEOが強く持ったと言われています。その後、会社が株式を上場する1943年に起草されたのが、『Our Credo』でした」

 以来、70 年以上にわたって、「Our Credo」は世界のファミリー企業とそこで働く社員一人ひとりの行動基準になってきたのだという。だが実は「Our Credo」は、当時、作られたものが今もそのまま使われているわけではない。

「時代の流れとともに生まれてきたものですが、時代の変化とともに変わってきたのも、『Our Credo』の特徴です」

 また、過去には「顧客」「社員」「地域社会」「株主」の順番を重視していた時代もあった。資本主義社会で「株主を最初に持ってこなかった」という点が、まさに衝撃的に受け止められたわけだが、今は順番もさることながら、全ての責任を等しく全うするという意識がより強くなっているという。

「もともとは患者さんのための製品をしっかり届けたい、というところから始まった会社ですから、顧客が大切なのは当然のことです。しかし、顧客をしっかり大切にしていれば、結果的にめぐりめぐって社員も、地域社会も、株主も潤う、というのが基本的な考え方です」

 ただ、歴代のCEOは、クレドチャレンジという形で、それぞれがそのときどきで必ず「Our Credo」に向き合うのだという。

「経営陣でディスカッションを繰り返し、自分たちの『Our Credo』についての考え方をまとめていきます。だから、時代とともに、少しずつ変わっていくんです」

 2012年、アレックス・ゴースキーCEOが、全ての責任も重視する考えを打ち出し、それが今も継続している。

「世の中がますます複雑になって、どちらのステークホルダーにもプライオリティを置かなければいけないような状況は、ますます増えています。そういうとき、どれが自分たちとしてベストな対応なのか、自分たちでしっかり考えてほしい、というメッセージでもあると感じています。実際、顧客に継続的にサービスを提供していくには、売り上げはなくてはなりません。あらゆる場面で、実は『Our Credo』が問われてくるんです」

 どの会社にも、経営理念はあるだろう。創業の精神が、そこに潜んでいたりもする。ジョンソン・エンド・ジョンソンの大きな特徴は、それを形骸化させることなく、今なお真正面から向き合っていることだ。

「それこそ『Our Credo』は、経営戦略の軸に置かれています。会社として何を目指すのか、どのようにして達成していくのか、基本の指針に位置づけられているのが、『Our Credo』です。経営戦略の基盤になっているんです」

 それが象徴的に現れた“事件”が起きたのは、1982年、アメリカでのことだ。このときの取り組みが、ジョンソン・エンド・ジョンソンの「Our Credo」の存在を一躍世界に知らしめることになる。

アメリカ全土からいち早く製品を自主的に回収

 1982年、アメリカのシカゴで何物かがジョンソン・エンド・ジョンソンの頭痛薬「タイレノール」に毒物を混入し、7人が死亡するという痛ましい事件が起こった。当初は、第三者による意図的な犯行なのか、それとも生産過程で生じた問題なのかも、わからなかった。

 しかし、当時のCEOは、自社には責任がないのではないか、などと言い逃れをすることなく、直ちにアメリカ全土からすべてのタイレノールを自主的に回収した。回収のために徹底的な情報公開を行い、新聞広告やテレビなど、あらゆる手段を使った。多くの従業員も回収に動員され、回収費用は当時で推定1億ドルとも言われている。

 事件を受け、ジョンソン・エンド・ジョンソンは異物の混入できない特殊な形状のパッケージを開発。このときのパッケージは、異物混入を防ぐ業界のスタンダードになる。

 当初は厳しく批判していたメディアも、費用を度外視し、正しいことを自発的に行った、として評価。このときの迅速な対応は、ビジネス史上最も優れた危機対応と称されるようになり、経営者向けのケーススタディとしても世界中で取り上げられている。

 この迅速な対応を可能にした背景こそ、まさに「Our Credo」の存在だったのだ。

「そのときそのときの状況で、『Our Credo』に立ち返って判断する、ということは常に行われています。何事も100%確証することは難しいですが、何に立ち返って、何を模範と考えるか。その拠り所がある、というのは企業としてのひとつの強みだと思います。軸があるのでブレることがない。私は中途入社なのですが、『Our Credo』がいかに社内に浸透しているか、常に強く実感しますね」

 だが、ジョンソン・エンド・ジョンソンとて、何もせずして「Our Credo」が社内に浸透しているわけではない。社内では、さまざまな取り組みが行われているのだ。例えば、新卒社員や中途入社の社員が入ると、「Our Credo」についての、しっかりとしたオリエンテーションが用意される。

一行一行、じっくり読んでいくと、『Our Credo』を実践することがいかに大変なことか、というのが見えてくるんです。そして、これがどんな形で社員の中に取り込まれていくか、具体的な日常業務の中でどんなふうに使われていくか、学ぶ場が用意されています」

 入社時点だけではない。会社で配られる手帳には「Our Credo」が大きく記されている。かつては机の前に張り出す社員が少なくなかったという。今は座席はフリーアドレスになっているが、オフィスのフロアや社内会議スペースには必ず貼られている。

「しかし、壁に貼って、お題目とするのではなく、日々の仕事でビジネスの中に生かしてこそ価値がある、というメッセージも経営陣からは常に発せられています」

 そこで年次別の研修、さらには部門やグループ、チームなどでも定期的に、あるいは自発的に「Our Credo」のワークショップが行われている。「Our Credo」という経営理念を、ただ会社が作ったものではなく、自分ごとにしていく取り組みが積極的に行われているのだ。

「例えば人事の採用なら、人が採用できない、ということが会社にどういう影響を及ぼすか。それはつまり、顧客や社員、地域社会や株主にも大きく影響していくわけです。そんなふうにしっかり意識して仕事をしていけるかどうかが問われます。会社のあるべき姿だけではなく『Our Credo』を個人のものにしている、というところが、ジョンソン・エンド・ジョンソンの『Our Credo』の本当の強さなのではないかと感じています」

「Our Credo」は、単なるお題目などではない。実行していかなければいけない、本気の理念なのだ。逆にいえば、だから「Our Credo」は機能し、会社を強くしているのである。

もしベストな選択が他社製品だと思えるなら……

f:id:k_kushida:20170407100432j:plain

「Our Credo」をめぐっては、社内でサーベイも行われている。実行できているか、どう考えているか、多方面から社員が「Our Credo」について応えていく。これが全世界で行われており、「Our Credo」に対する意識の高さは組織ごとに明らかになるという。

「『Our Credo』に則った企業体になっているかどうか、定期的健康診断を行っている、とでも言えばいいでしょうか。そしてその結果を受けて、アクションを計画し、実行していくことが求められます」

 当然、リーダーは部下に対して「Our Credo」への浸透を図っていかないといけないが、そればかりではない。リーダーが「Our Credo」に則した行動を取れているか、というのは評価項目にもなっているのだ。

「もちろん成果を挙げることは大事なことです。しかし、ただ成果を挙げればいいわけではありません。ジョンソン・エンド・ジョンソンでは、リーダーはこうあるべし、こういう行動を取るべし、という考え方がとてもはっきりしています。その責任と成果は、両輪で求められるものになっています」

 冒頭で説明したように、76期も増収を続けてきた企業である。数字に対する意識が低いわけがない。だが、ただ数字を取りに行くのではない。「Our Credo」を実践することによって数字を獲得していく。もっといえば、「Our Credo」を実践してこそ、数字は獲得できるのだという。

「よく言われることは、セールスの場面で、もし自社の製品よりも他社の製品のほうが、その患者さんにとっていいと思えるなら、他社の製品を勧めることもある、と。なぜなら、『Our Credo』の考え方なら、それが正しいから。目先のことでなく、患者さんから危険を遠ざけるという本当の目的に向き合って行動するのはどちらか、ということです」

 目先の売り上げは失うかもしれない。しかし、自社製品ではなく他社製品を勧められた患者や医師はどう感じるだろうか。どういう企業を、信頼するだろうか。

「人と人は信頼で成り立っています。『Our Credo』に忠実に考えていくことは、いずれ結果ももたらす、というのが私たちの考え方です」

 そして「Our Credo」を読み込むと、いろいろなことがわかってくる。「我々の行うすべての活動は質的に高い水準のものでなければならない」というフレーズは、常に現状に満足せず、新しいチャレンジをせよ、とも読み取れる。だから、社内にはそうした空気が常にあるという。

「Our Credo」の存在の意味とは、常に社員は考えなければならない、ということなのかもしれない。それなら、安きに流れることはない。深く考えて行動する。だから、成長の機会にもなる。

『Our Credo』のない状況は考えられない、とは社内でよく聞く言葉です」

 改めて「Our Credo」をもう一度、読んでみてほしい。その深さが、見えてくる。

我が信条 

我々の第一の責任は、我々の製品およびサービスを使用してくれる医師、看護師、患者、そして母親、父親をはじめとする、すべての顧客に対するものであると確信する。顧客一人一人のニーズに応えるにあたり、我々の行なうすべての活動は質的に高い水準のものでなければならない。適性な価格を維持するため、我々は常に製品原価を引き下げる努力をしなければならない。顧客からの注文には、迅速、かつ正確に応えなければならない。我々の取引先には、適正な利益をあげる機会を提供しなければならない。

 

我々の第二の責任は全社員―世界中で共に働く男性も女性も―に対するものである。社員一人一人は個人として尊重され、その尊厳と価値が認められなければならない。社員は安心して仕事に従事できなければならない。待遇は公正かつ適切でなければならず、働く環境は清潔で、整理整頓され、かつ安全でなければならない。社員が家族に対する責任を十分果たすことができるよう、配慮しなければならない。社員の提案、苦情が自由にできる環境でなければならない。能力ある人々には、雇用、能力開発および昇進の機会が平等に与えられなければならない。我々は有能な管理者を任命しなければならない。そして、その行動は公正、かつ道義にかなったものでなければならない。

 

我々の第三の責任は、我々が生活し、働いている地域社会、更には全世界の共同社会に対するものである。我々は良き市民として、有益な社会事業および福祉に貢献し、適切な租税を負担しなければならない。我々は社会の発展、健康の増進、教育の改善に寄与する活動に参画しなければならない。我々が使用する施設を常に良好な状態に保ち、環境と資源の保護に努めなけれなならない。

 

我々の第四の、そして最後の責任は、会社の株主に対するものである。事業は健全な利益を生まなければならない。我々は新しい考えを試みなければならない。研究開発は継続され、革新的な企画は開発され、失敗は償わなければならない。新しい設備を購入し、新しい施設を整備し、新しい製品を市場に導入しなければならない。逆境の時に備えて蓄積を行わなければならない。これらすべての原則が実行されてはじめて、株主は正当な報酬を享受することができるものと確信する。

WRITING:上阪徹 PHOTO:小出和弘

子どもと一緒に職場へ行くと、仕事にも教育にもプラスなんです――島根のワーママが活用する「子ども同伴出勤制度」とは?

f:id:k_kushida:20170411135649j:plain

都市圏を中心に保育園が不足していることもあり、託児所を設けるなどした職場に子どもを連れて出勤するお母さん・お父さんが時々メディアに取り上げられています。仕事に専念できるよう、子どもは親と隔てられた場所で過ごすことが多いようですが、豊かな自然に囲まれた島根県浜田市の老人ホームには、親が職場で働く姿を間近に見て過ごす子どもたちがいます。託児所とも職場体験とも違う、ちょっとユニークな取り組みをレポートします。

老人ホーム職員の休日出勤時のための制度

「子ども同伴出勤制度」がある「高齢者生活支援住宅 サンガーデン 輝らら☆」は、島根県の西部、広島県との県境が近い山あいの丘の上に2011年7月オープンした有料老人ホームです。47ある個室は現在満室。介護職や調理、事務など43人のスタッフは、ほぼ全員が正社員として勤務しています。運営会社の取締役で施設理事長の髙村奈津代さんと、施設長の長峯妙子さんに、制度のあらましを聞きました。

f:id:k_kushida:20170411133424j:plain

施設理事長・髙村奈津代さん(右)と施設長・長峯妙子(左)さん

―子ども同伴出勤制度とは、どのようなものですか。

髙村さん 職員の子どもが親の出勤にあわせて施設へ来て、他の職員やファミリーさん(利用者の呼び名)と一緒に過ごす制度です。おおむね保育園の年長から中学生までが対象で、近隣の学童保育がお休みの日曜日や、今日のような春休み(注:3月29日に取材)・夏休みといった長期休暇、あとは台風や大雪などでの臨時休校時に利用されています。

長峯さん 保育サービスを提供するのとは趣旨が異なり、いわば「子どもの居場所が自宅かここかの違いだけ」です。ファミリーさんが過ごす共用のリビングで宿題をしたりDVDを観たり、子どもたちは基本的には自由に過ごしていますが、けじめを付ける意味でも毎回「何か1つ手伝おうよ」と声をかけています。庭を掃くとかテーブルを拭くとか、あとはファミリーさんの話し相手になるといったことですね。なので、来た子たちを「子どもボランティア」と呼んでいます。

目指した「女性の働きやすさ」。対象スタッフの半数弱が利用中

―制度はいつごろから、どのくらいの割合で利用されていますか。

髙村さん 施設のオープン翌年くらいから、保育園に預けられない日曜日出勤のスタッフが子どもを連れてくるようになったのが始まりです。個人的にはここを開いた当初から「スタッフが子どもを連れてくるのは普通のこと」という気持ちでいたので、施設長とも話し合いながら、だんだん今のような形になってきました。

長峯さん 対象年齢の子どもを持つスタッフが現在は12~13人いて、そのうち5人ほどが利用しています。全員がいつも来るのではなく、代わる代わる顔を見せるような状況ですが、夏休み中はほとんどここで過ごすという子もいます。

 

―子どもを受け入れるにあたって、何か特別な配慮が必要でしたか。

髙村さん 老人ホームですから、設備はもともとすべてバリアフリー設計。家具の角などもすでに丸く、子どもを迎えるための改修は特にしていません。スタッフの中には保育士の有資格者がいるものの常駐するわけではなく、また子どもに保護者の目がいつでも届く状態にあるため、保育関連の届出も特に必要ありませんでした。

長峯さん 高台にこの施設だけという立地ですので門扉や塀はもともとなく、しかも日中の施設内はあまり鍵をかけないようにしているため、子どもたちは大体どこでも出入りできます。注意するのは屋内で走らないことくらいですね。やはり、お年寄りとぶつかると大変ですから。あとは「下の道路まで行かないように」とは言っています。

子どもの食事は、ファミリーさんやスタッフと同じものを毎回実費(1食250円)で提供しています。子どもの人数が多いときはまとめて別室で、そうでないときはファミリーさんと一緒に食べています。

 

―「普通のこと」とのことですが、親と子どもが一緒に過ごせる職場は、現状ではかなり珍しい存在だと思います。

髙村さん ここは女性の多い職場なので、女性が働きやすい環境をつくりたかったんです。子どものことを大事に考えるお母さんは、働く意欲があっても夏休みや土日の出勤には心が揺れる。そこで1人仕事に来たとしても、やっぱり家に残した子どもが気になるものです。かといって、そうした問題がない年配や独身、男性のスタッフに頼りきるのもよくない。安心して楽しく働いてほしいというのが、子ども同伴出勤を採り入れた第一の目的です。

また、老人ホームというのは生活の場で、小さいけれどもひとつの社会ですから、お年寄りやケアする大人だけではなく、いろんな人がいたほうがいいんです。子どももいるのが自然で、逆にそうじゃないとおかしいと思っていました。

長峯さん かつて私自身が子育てしていたとき、一生懸命働いているのに「いざというとき子どもの事情で休む」という理由で認めてもらえなかった悔しさが今も忘れられません。それだけに「母親が責任ある仕事を続けられる環境づくり」を、いつも考えています。子ども同伴出勤も、そうした中の一つですね。

子どもが「親の背中を見て育つ」ことも大切です。私も幼いころ、父が働く工場へよく遊びに行っていた記憶がありますし、親になってからは3人の子に介護の体験をしてもらい、それがきっかけで次男がこの道に進んでいます。介護業界は慢性的に人手不足。小さいうちからこの仕事を身近に感じ、やりがいを理解してほしいという願いも込めています。

大人はとても助かる。子どもにも得られるものを

f:id:k_kushida:20170411134804j:plain

―子ども同伴出勤を導入したことで実感するメリットは何ですか。

長峯さん 子どもを連れて来られてうれしい・安心できるというスタッフ本人の声はもちろんですが、休日も含めてしっかり働ける仕組みがあることで人手が確保しやすくなり、余裕のある勤務体制が取れていると思います。今日もいまから、ファミリーさんとスタッフ、子どもたちで近くの農園へイチゴ狩りに出かけるのですが、人手にゆとりがあるからこそ、こうした外出も積極的にできています。ファミリーさんと浜田市街のホールで歌謡ショーを観るため、夕方から車を出すこともありますよ。

髙村さん やっぱりお年寄りは子どもが大好き。交流を楽しみにしていますね。あと、ちょっと変わったところでは就職活動中の女子学生からいい反応が返ってきます。就職フェアの会場で子ども同伴出勤の説明をしていると、すごく関心を持って食いついてくるんですよ。

 

―最後に、この制度の課題や展望をお聞かせください。

髙村さん もっと考えていきたいのは、子どもにとっての、ここでの過ごし方です。マンガなども置いていますが、ただ読むだけじゃなく内容をファミリーさんと話すとか、何か得て帰るもの、学んで帰るものがあってほしい。そこのきっかけを工夫したいですね。お手伝いにしても無理強いはしません。自然に何かやってみたいという気持ちを持ってくれたらと思います。

長峯さん いまの子は「手伝って」って言われても、平気で「やだ」って言いますからね(笑)。「キッズスペースのような場所に子どもが集まっていればファミリーさんからも近づきやすいかな」などと考えているところです。いつかはここに来ている子どもたちの中から、介護士になる人を出したい。それが子ども同伴出勤の最終目標だと思っています。

 

お母さんが安心して働ける環境だからこそ人手に余裕が生まれ、行事にも積極的に取り組める。そんなお話を聞き終えたところで、ちょうど出発するイチゴ狩りにご一緒させていただきました。ファミリーさんをお世話する母親と一緒に過ごす子どもたちは、どんな表情をみせているのでしょうか。約束の「お手伝い」は、ちゃんとできているのでしょうか。そして、子ども同伴ワーママの本音とは。詳細は次回に。

WRITING:相馬大輔

凝り固まった考え方を“ほぐして”くれる『イノベーションカード』とは?

f:id:k_kushida:20170406141633j:plain

「いつからそうなった?」「それはどこが重要?」「よくある間違いは?」など、何気ないようでいて、胸にズシンと響く言葉が書かれている『イノベーションカード』(写真上)。メンバーがカードの言葉に沿って考えながら、新しい発見や発想(すなわちイノベーション)を導き出すためのツールです。

開発したのは、コンサルタントの小野ゆうこさん。東日本大震災後のある経験がきっかけで開発を思い立ったというこのカードには、これまでさまざまな問題解決や事業開発の現場に関わってきた経験が活かされています。

なぜこのカードがイノベーションを生み出すのか。どのような使い方をするのか? 詳しくうかがいました。

f:id:k_kushida:20170406142005j:plain

小野ゆうこ(おの・ゆうこ)

株式会社つくるひと代表取締役、デキル。株式会社代表取締役。

情報分析型のコンサルティングではなく、現場のメンバー個々人の成長と集団組織の発展を後押しする「対話セッション」によるコンサルティングを得意とし、特に組織の強みを活かした新規事業の開発や価値の再発見(リブランディング)に定評がある。

著書に『「結果を出す会議」に今すぐ変える フレームワーク38』(日本実業出版社)。

http://www.biztool.jp/

http://www.dekir.co.jp/company/

考え方の層を揃え、比較しやすくするためのツール

――パッと見たところ、タロットカードのようですね。

まさにタロットカードのように、何かあるたびに1枚ずつ引いてみる人もいるようです。そんなふうに子どもでも使える道具にしたくて、カードという形態を考えました。

――開発したきっかけを教えてください。

東日本大震災の約1年後、被災地の経営者の方たちと交流するツアーに参加しました。最終日に、それまでお会いした方たちと、町役場の方たちも交えての食事会があったのですが、「暮らしの再建のためにはお金が必要。だから一日も早く商売の再開を」という経営者の方たちに対し、大きな資本で建てた施設を中心に、人が集まる町にする青写真を描いていた行政の方たち。小さな復興と大きな復興、そのギャップに驚くと同時に、「ここには対話がない」と感じたのです。

誰もがみんなのために考え、自分は正しいと思って発言している。でも、対話によってそれぞれの“正しさ”をきちんと交流させておかないと、この先、目に見える復興が進んでも、このギャップは続くのではないかと思ったのです。

あることに対し、Aさんはこんなことを考えていて、Bさんはこう考えている。比較するためには、考え方の「レイヤー(層)」を揃える……つまり、見ている方向や本人の依って立つ位置を揃える必要があります。そのための道具として考えたのがこのカードです。

重要なのは「考え方の“矢印”はひとつではない」と知ること

f:id:k_kushida:20170406144605j:plain

――カードの1枚1枚に言葉が書かれていますね。

私はもともと事業開発のコンサルティングをしていますが、そこでは異分子である私が現場に入って、メンバーによる問題解決を目指す「対話セッション」を重視しています。

問題を抱えているチームに入ると、第三者である私には、解決の妨げになっている思い込みや固定化した考えがよく見えます。そこで私がファシリテーターとなって、「それって本当にゴールなの?」「なんで私たちがやるの?」といった言葉を投げかけると、固まっていたものが揺さぶられ、思い込みの枠が外れる。そこから「そうだ、そもそもうちの商品(サービス)ってこういうところが大事だったんだ」という気づきが生まれ、ものすごいスピードで、誇りを持って改善に向かうのです。

このような“自ら気づいた力”を私たちは『内発』と呼んでいるのですが、その内発を促進するためによく投げかけている言葉を集めたところ、250ほどが集まりました。そこから汎用性の高いものを絞り込み、残った56の言葉がカードになっています。

――このカードが、第三者から発せられるのと同じような問いかけをしてくれるということですね。

私たちは毎日何かしらのインプットがあり、何かしらをアウトプットしながら暮らしています。うまくいかないことがあると、「なぜあんなこと言ったんだろう」とか「どうしてこうなったんだろう」と思い、その部分にばかり目が向きがちですが、実は一番重要なのは、自分の中にある「矢印」の部分。つまり入ってきたものを処理する解釈の仕方とか、思考のパターンです。

ところがこの解釈とか思考のパターンというのは、自分で思っている以上に固定化されていることが多いのです。

たとえば「A」というインプットがあっても、これを「あ」とアウトプットする矢印しか持っていないと、「A´」や「A″」のように「A」に近い形のものも、全部「あ」に変換してしまいます。でも、「A」は「あ」だけど、「ア」にも「エー」にもなるよね、というふうに、違う矢印があることに気づけば、「A´」や「A″」にふさわしいアウトプットは何だろうと考えるようになり、それが新しい発見、イノベーションにつながります。だからイノベーションカードなのです。

f:id:k_kushida:20170406161950j:plain

――自分の力で「考え方を変える」のは難しいのでしょうか?

難しいと思います。そもそも“別の考え方があること”を知らないのですから。だからカードの指示に沿って考えてみることが重要なのです。

たとえば、なかなかダイエットできなくて悩んでいる女性が、「言い方を変えてみる」というカードに従って、「あの服が着られるようになりたい」とか「あのモデルみたいになりたい」と言い換えてみます。“あの服”とか“あのモデル”というのは、今までの思考パターンでは出てこなかった情報ですが、カードによって自分の中にそういう情報があったことに気づいて、矢印が増える。ただ「考えてみましょう」では、今までの矢印からはずれた発想をするのは難しいでしょう。

――「とにかく新しいことを考えろ」という上司の掛け声だけでは、新しい発想は生まれにくいということですね。

手がかりもなく「考えろ」と言われても、無理ですよね。多くの人にとって、変化は恐いことだから、「あのときもうまくいきませんでした」とか「あそこは規模も大きいし、うちとは違うから」などと、「変化=恐いこと」をしなくてすむような情報を見つけるのは得意なんです。でも、変化は本当は怖いことではないし、自分の中から解決を導き出すことができると気づけば、それがすでにイノベーションの始まり。つまり、このカードを使って、いろんな矢印で考えるクセをつけましょう、ということですね。

思考するって、実はひとつの対話なんです。「あのお客さんのところに行きたくないな」「じゃあちょっと寄り道しちゃおうかな」と、これも自分の中の対話ですよね。その対話のパターンが固定化しているから、「あのお客さんのところに行く」⇒「いやだな」となるけれど、パターンが変われば、苦手なお客さんのところにも積極的に行けるようになるかもしれません。

カードで「対話の場をデザイン」し、参加者全員による「創発」を促す

f:id:k_kushida:20170406162432j:plain

――教育現場でもこのカードを利用する試みがあるそうですね。

今、21世紀型ヒューマンスキルのひとつとして「協働的問題解決能力」が重要といわれています。これはひとつのテーマについて仮説を立て、アクションを起こすというのを循環させていく力のこと。ところがこれまで「正しい・正しくない」を教えるのが仕事と思ってきた先生方は、正解のない話し合いに取り組んだ経験がありませんし、問題解決に関与せず、その場にいる人たちに考えさせるというファシリテーターのスキルもありません。

そこで昨年、東京都内のある小学校で、このカードを使った「イノベーション学習」をさせていただきました。上級生には「校庭の遊具を考える」とか「理想のレストラン」といったテーマをチームで考えてもらったのですが、ふだんは消極的でめったに発言しない子が生き生きと自分のアイデアを発言したりして、先生方も驚いていました。

ここで重要なのは、誰かひとりのものすごい発想を伸ばすのではなく、みんなの発想と発想を掛け合せて、集合知の価値を高めること。これを「創発」と呼びますが、協働的問題解決においては、お互いを尊重しあいながら、創発が起こる場を作ることが重要です。そしてこのカードによって、そんな対話をの場をデザインできるのです。

――「対話の場をデザインする」とは?

さきほどはカードを1枚引いて違う矢印で考えると言いましたが、この場合は何枚かのカードを組み合わせて、対話の流れを作るという意味です。

f:id:k_kushida:20170406162707j:plain

化学の元素記号と化学式に例えるとわかりやすいでしょう。HとかO、N、Feといった元素記号は、対話における「思考要素」であり、カードの1枚1枚がそれにあたります。一方、元素の化学反応の結果、生まれた物質を表す化学式が「思考フロー」、つまり対話の流れです。

H(水素)やO(酸素)は、それぞれが特性を持っていますが、このふたつがくっつくと、まったく違う性質のH2O(水)という物質になります。同じようにカードも1枚1枚が性質を持っていますが、何枚か組み合わせることで別の性質を持つようになります。

ただし、HとOが結びついたら必ずH2Oになるのと違い、カードは順番を入れ替えることができます。たとえばさきほどの「ダイエットができない女性」でいえば……

【カード1】「言い方を変えてみよう」⇒あの女優みたいになりたいな。

【カード2】「理想の状態を作ってみる」⇒痩せて生き生きとした毎日を送りたい。

【カード3】「いつからそうなった?」⇒5年前の失恋がきっかけかな。

でもカードの順番を変えると……

【カード1】「いつからそうなった?」⇒5年くらい前かな。

【カード2】「言い方を変えてみよう」⇒いつも失敗ばかりで自信が持てない。

【カード3】「理想の状態を作ってみる」⇒やっぱり継続できるダイエットがいいな。

……といった具合に、思考の流れも変わるのです。

それを考慮しながら、ファシリテーターがカードで流れを作り、参加者全員がその流れに沿って考えるので、アウトプットが比べやすくなります。そして最終的に集まった全員のアウトプット(情報)の中から、解決策を見い出すのです。

「自分たちの中から生まれた発想」という自信と誇りがチームを変える

f:id:k_kushida:20170406163756j:plain

――このカードを使うのに向いている業種・業態はありますか?

すでにいろいろな業種・業態で取り入れられていますが、特に「新しいことに取り組みたい」「今までと違う発想が欲しい」という現場では役立つと思います。たとえば新しいことに取り組みたいけれど、人材を増やす余裕はない。現状を維持しながら、今ある人材で取り組みたいが、どうすればいいか困っている中小企業…といったケースですね。

さらにこのカードは、冒頭でもお話ししたように、フレームワークなんて初めて聞きました、みたいな人でも簡単に、楽しく取り組めるのも特徴です。

たとえば「工場の壁に5Sって貼ってあるけど、そもそも5Sってナニ?」というようなとき。現場の人はもちろん、管理者も一緒にこのカードを使ってアウトプットすれば、現場の人たちの中に「だから5Sが大事なんだ、じゃあ自分たちはこういうふうに取り組もう」という発想が生まれます。マニュアルを渡してこうしなさいというのと違い、自分たちで発見したという当事者意識があるので、すぐにアクションプランが定まるなど、その後の行動スピードが速くなるメリットもあります。

――とはいえ、ファシリテーター役は、ある程度勉強しないと難しそうですね。

本格的にやるとなればそれも必要ですが、もっと軽い感覚で取り入れていいと思います。たとえば、その日の会議のテーマについて、ひとり1枚ずつカードを引きながら発言する、といったやり方ですね。

あるいは、カードには6種類のカテゴリー(疑う、調べる・把握する、概念を操作する、整理する、本質を抜き出す、未来を描く)があるのですが、どれかひとつのカテゴリーに絞って考えることもできます。たとえば、今抱えているプロジェクトについて「疑う」のカードだけ使って話し合えば、見失いかけていたコンセプトを共有できたり、今まで誰も気づかなかった価値を発見できるかもしれません。

とにかく全員がカードに沿って考えていくので、ふだんは遠慮しがちな人も発言できますし、意義を挟む余地がないから口論になることもありません。少なくとも、誰も発言しないといった停滞がなくなり、会議が効率的になります。

そういえば、部下とのコミュニケーションに使っている経営者の方もいます。面談などで、このカードを引きながら本人に「次の四半期はこれを目標にします」などと決めさせるのだそうです。「自分の中から出てきた目標値だから達成率が高い」とおっしゃっていました。

――どんな使い方があるか、体験したり勉強する場はあるのですか?

このカードを使ったことのある人たちが自主的にやっている勉強会が、奇数月に開催されています。勉強会といっても、初めての人でも参加できますし、貸し出し用のカードもあるので、そこで体験してから、自分のところでも取り入れるか考えてもいいと思います。参加者には経営者やチームリーダーの方も多いので、参考になる体験談も聞けるのではないでしょうか。

『イノベーションカード』(税込\6,246)は、「つくるひと」のホームページhttp://www.dekir.co.jp/で購入可能です。また、勉強会の開催については「つくるひと」「デキル。」のFBで告知しています。

取材&文章/小野千賀子 撮影/朝比奈雄太

サイクロン掃除機に羽根なし扇風機…あの斬新な製品たちは、いかにして生み出されたのか?―― 「元気な外資系企業」シリーズ〜第4回ダイソン

大きな変革の時代。企業でも、さまざまな取り組みが進む。では、海外に本社を持つ外資系企業では、どんな取り組みが推し進められているのか、探ってみる外資系特集企画。第4回は、ダイソンの「製品開発」だ。

f:id:k_kushida:20170316153552j:plain

空気を操る高度な技術を応用して新しい製品が

 サイクロン掃除機の登場は、日本の家電の世界にまさに旋風を巻き起こした。その後も羽根のない扇風機、空調家電、ロボット掃除機、そして大きな話題になったヘアドライヤーなど、次々に斬新で画期的な製品を世の中に送り出してきたダイソン。

 家電売り場では、圧倒的な存在感を誇る人気ブランドだが、どうしてこんなに独自の製品を次々に生み出せるのか。ダイソンとは、どのような会社なのか。ダイソン株式会社コミュニケーションディレクター(日本&アジア)の神山典子氏はこう語る。

f:id:k_kushida:20170316153721j:plain

▲ダイソン株式会社 コミュニケーションディレクター(日本&アジア)神山典子氏 

「大きな特徴は、エンジニアが起こした会社だということです。エンジニアリングをキーワードに問題を解決するというコンセプトのもと、新しい技術によって、よりよい生活を提供することを目指しています」

 ダイソンの設立は1993年。イギリスのマルムズベリーに本拠を持つ。創業者であり、今も製品開発の指揮を執っているのが、ジェームス・ダイソン氏だ。王立美術大学で工業デザインとエンジニアリングを学んだ。在学中に友人とともに立ち上げた事業が成功するが、7年で自ら会社を離れる。当時使っていた紙パック式の掃除機の性能が低下することに不満を持ち、新しい掃除機の開発をすることに挑むのだ。5年の期間と5000台以上の試作品を経て開発に成功したのが、世界初のサイクロン掃除機だった。サイクロン(遠心分離式)という新しい技術を作り出したのである。

f:id:k_kushida:20170327155846j:plain

「どんな会社も製品開発のためのさまざまな努力を続けておられると思いますが、ダイソンの考え方は、製品を開発するのではなく、新しい技術を開発する、ということなんです。マーケティングサイドからの発想に寄った製品開発ではなく、まずは新しい技術を作った上で、必要な製品を作り上げ、世の中の課題を解決していく、という流れになります」

 象徴的なのが、羽根のない扇風機である。羽根があると危険、掃除が面倒、といったニーズから、次は扇風機を作ろう、と考えたのではないのだ。

「サイクロン掃除機も、その後に手がけた手を乾かすためのハンドドライヤーもそうなんですが、ダイソンは空気を操る高度な技術を培っているんですね。掃除機は空気を吸う技術、ハンドドライヤーは空気を出す技術。流体力学を理解し、空気の原理を使っている。こうした考え方で何かできないか、というところから生まれてきたのが、羽根のない扇風機だったんです。この技術が結果的に、危険がない、掃除が不要、といった消費者のベネフィットにつながりました」

 空気を操る高度な技術を扇風機に活用したということだ。そしてこの先に、空調家電の開発があった。

「先に技術があって、それを何に使えるかを考えていく。昨年、発売になった、ヘアドライヤーも同じ空気を操る技術を使っています」

f:id:k_kushida:20170317134440j:plain

 掃除機や扇風機、空調家電を作ってきたダイソンが、なぜヘアドライヤーだったのか。不思議に思った人も少なくないだろう。だが、空気を操る技術を使った、と聞けば合点がいく。

「ヘアドライヤーに使われているのは、吸い込んだ空気よりも、何倍も増幅させた空気を排出していくという高度な技術なんです。空気を効率良く吸い込み、心地良い風をたくさん送り出す、という発想をすれば、使う人にとって意義のある製品ができると考えました」

 実際、ダイソンのヘアドライヤーに驚く人は少なくない。風量が多いため、乾きが早い。だから、髪の毛のダメージも少ない。しかも、表面だけが乾くのではなく、奥まで届いて頭皮も乾かせる。空気を扱い、出す技術をフルに駆使した、これまでにないヘアドライヤーだったのである。

世界の従業員の3分の1がエンジニア

 そしてドライヤーもそうだが、驚くほどの小型化を可能にしているのが、オリジナル開発のモーターである。

「ダイソンはモーター開発も重要視しています。ヘアドライヤーでいえば、コントロールチップがついていて、温度調節ができるんですね。だから、温度が上がりきらない。ただヒートして風を送るのではなく、乾くのに必要な温度だけれど、ダメージを与えない仕組みを作り上げています。ヒートコントロールと呼んでいます」

 自社でのモーター開発は、20年以上になる。そしてこの技術の蓄積が、今や掃除機マーケットを席巻しているコードレス掃除機に結実した。

「白物家電用のモーターは市販されていますが、既存のものでは、ダイソンが思うような結果は出せなかったんです。これでは次のステージに進めない。そこで自社モーターの開発に着手しました。コンパクトで耐久性があって、パワーがある。この3つを兼ね備えたモーターの開発がなければ、コードにつながなくても変わらない吸引力を保てて、しかも長く使えるコードレス掃除機の開発は難しかったと思います」

 技術を生み出してから、製品に落とし込んでいく。となれば重要なのは、技術を生み出していくエンジニアだ。ダイソンはすでに世界75カ国に展開し、従業員は8000人を超えているが、なんとその3分の1がエンジニアなのだという。

「イギリス、シンガポール、マレーシアに研究開発センターがあります。ここで行われているのが、新しい技術の開発です。ダイソンが強く意識しているのは、先手先手で技術を開発していくことです。新しい技術を開発していかないと、会社に未来はない、という明確なビジョンがあります

 次に何をするべきか、早い段階から考えて、研究開発をしていく。その研究開発費用は、売上高の17〜18%にもなるという。

 そして開発に携わっているのは、世界中から集まってきた若いエンジニアたちだ。

「新しい技術を積極果敢に作っていくのは、若い頭脳だと考えています。経験以上に、斬新なアイディアやリスクを恐れないチャレンジ精神を会社は求めています」

 権限も大胆に委ねられる。大卒で入社して5年もすれば、プロジェクトを一つ任されることも珍しいことではないという。

「研究開発のリーダーを委ねられるだけではなく、製造ラインまで含めたところでプロジェクトを推し進めていくこともあります。社内のさまざまな専門家を束ね、いいチームを作って、最後の製造プロセスまで、一人のリーダーがまたがって見ていく。これを私たちは社内で、デザインエンジニアと呼んでいます」

 社内では、今も数多くのプロジェクトが進められている。もちろん、新しい技術開発は極秘中の極秘事項。その舵取りをしているのが、創業者のジェームス・ダイソン氏だ。ダイソンは、上場していないプライベートカンパニー。だからこそ、オーナーは思い切ったことができる。画期的で大胆な製品が出せる。そして、エンジニアもリスクが取れる。挑戦できる。成長できる、というわけである。

斬新なデザインと大胆な価格付けはなぜ行われたか

f:id:k_kushida:20170317134820j:plain

 ダイソンといえば、もうひとつ、日本のマーケットを驚かせたのは、これまでになかった家電製品としてのデザインの斬新さだった。ここでも、独自の考え方があった。

「一つは、機能からデザインを考えている、ということです。ダイソンの製品開発の基本は、プロジェクトリーダーがすべてを貫くこと。分業ではないんですね。だから、デザインにもすべて意味があります。例えば、サイクロン掃除機は遠心力を使った技術のため、コーン状の形をいくつも重ねてサイクロンパートは設計されています。そしてそれをそのまま見せるデザインになっている。技術をむき出しにしてみせるというのも、ひとつの美、という考え方もあります」

 だから、デザインのすべてに理由があるという。機能に根ざした理に適った形になっているのだ。デザイナーが勝手に作りだしたものではないし、今年の流行りがこれだから、というものもない。

 一方で日本の家電製品には、流線型のものが多い。それだけに、どうしてこんなゴツゴツしたデザインのものを、という疑問の声をかつてよく取材では聞かれたのだそうだ。

これこれはこういうもの、という常識のようなものを気にしない。これが、二つ目のデザインに対する考え方なんです。ダイソンは、いわゆるコモンセンスを気にしません。それよりも私たちにとって何が大事なのか、自分たちのコモンセンスを信じている。これがアイデンティティになっています」

 背景にあるのは、自分たちの仕事に対する誇りかもしれない。かつての白物家電は目立たなくあるべきもの、という考え方があったのではないか。だから流線型しかり、色しかり、目立たないものが求められた。しかし、そうではない考え方の人も必ずいる。そこに届くものを、と考えたのだ。だが、デザインで目立とうとしていたわけではまったくない。むしろ、デザイン家電と呼ばれることは、あまりうれしいことではなかったという。

「ダイソンが目指しているのは、嗜好品ではなく、あくまで普及品だからです。日用品として使ってもらうことを考えていたんです。だから売り場でも、競合のすぐ横に置いてもらうことを最初から考えました。試してもらい、触ってもらい、実感してもらって買ってほしい。そう考えていたからです」

 そして、取材でぜひ聞いてみたかったのが、価格について、だ。今やすっかり掃除機のマーケット自体が変わってしまったが、ダイソンが出始めの頃は、他の掃除機の4倍、5倍もの価格となった。ダイソン製品は、総じて今でも決して安くはない。

「まずは研究開発にとにかくお金がかかっているということです。モーターから自社開発をしていますし、人件費も開発整備も必要です。長く使っていただくというのが基本のスタンスですから、そのために必要な技術をしっかり開発する必要があります」

 何より開発にお金がかかっているということだ。

「もう一つはアフターセールスの充実です。コールセンターは、72時間以内の対応を目指しています。製品に愛着を持って、長く使ってもらえる体制を作っています。その意味では、生活空間をより豊かにするものを評価くださる人が、本当に増えてきた、という印象を持っています」

日本の消費者の技術を見る目を信じていた

 日本への進出は1998年。それにしても、競合製品の4倍、5倍の価格で乗り込んでくるのは、相当な勇気が必要だったのではないか。

「ジェームス・ダイソンは80年代に日本との関わりを持っていました。日本はソニーやホンダを生んだ国であり、技術をしっかり見極める目を持った国だという印象を強く持っていました。自分の技術を認めてくれる消費者が、間違いなくいるはずだ、と信じていたんです」

f:id:k_kushida:20170327160022j:plain

▲James Dyson

 一方で、もちろん日本の消費者の研究もしていた。マーケットニーズから製品を発想することはしないが、消費者が困っていることには極めて敏感なのが、ダイソンなのだ。

「サイクロン掃除機がホースを巻き付けたデザインになったのは、日本のためだったんです。当時、海外では大きな掃除機が主流でした。コンパクトでパワーがあって場所を取らずに収納しやすい、というのは日本の住環境を知っていたダイソンにとって、なくてはならない考え方だったんです」

 今やダイソンにとって日本は、グローバル市場の中で最も重要視しているマーケットのひとつである。だから今もイギリス人エンジニアは、実際に日本に暮らして日本を研究するという。

現地のリサーチ会社に依頼する、なんてことはしないですね。自らの目でしっかり確認することは、ダイソンで最も大切な考え方のひとつです

 そして、日本の消費者の技術を見る目への信頼は、今も揺らいでいない。昨年のヘアドライヤーしかり、ダイソンの新製品が世界で最初に発表され、売り出されるのは、日本のマーケットなのだ。

「2015年のロボット掃除機もそうでした。日本の消費者、日本のマーケットの感度の高さ、技術への関心の高さは、やっぱり特別なんです。私たち日本法人としては、毎回、試行錯誤の連続で大変なんですが(笑)」

f:id:k_kushida:20170317135152j:plain

 今も積極果敢な技術開発、製品開発が進んでいる。

「次に何が来るかはまだ申し上げられませんが、カテゴリーも増えていくでしょう。身の回りで普段使っているものが、少し変化することで生活が画期的に変わる、というものもあるかもしれません」

 ひとつの注目は、3年ほど前から取り組みが拡大したソフトウェアとハードウェアの融合だ。すでに空気清浄機ファンやロボット掃除機がスマートフォンで操作できるようになっている。

「ソフトウェアを使って機能がアップデートできるようになる製品が、今後はますます増えていくと思います。その意味でも、私たちダイソンの位置づけは、家電メーカーからテクノロジーカンパニーへと変わっていくと考えています」

 ちょうど取材した前の週に、ダイソンは照明器具を発表した。なんと、BtoBの取り組み。オフィス向けに天井から吊すライトである。実際に見せてもらったが、蛍光灯とは違った、やさしく美しい光が会議室を包んでいた。

 今度はオフィスの「働き方改革」にも、ダイソンの名前が出てくるかもしれない。さて、この先、何が起きるか。ますます目が離せない会社だ。

f:id:k_kushida:20170327182237j:plain

▲Cafe (c)WilkinsonEyre and Dyson Ltd. taken by Peter Landers

  WRITING:上阪徹 PHOTO:中恵美子

バスクリン社はなぜ、「銭湯部」の活動が社内外で評価されたのか?

f:id:kensukesuzuki:20170314122859j:plain

こんにちは。銭湯芸人のハブチン(写真中央)です。
今回は株式会社バスクリンに伺いました。同社には「銭湯部」という会社公認の部活動があり、そのユニークな取り組みが2016年度「グッド・アクション」を受賞されたそうです。銭湯部ではどのような活動が行われているのか、他の部活動とは何が違うのかを聞いてきました。

高橋正和氏(写真右):学生起業~ベンチャーでの経験を経て、2012年に株式会社バスクリン入社。ダイレクトマーケティング部に所属。2015年4月に「バスクリン銭湯部」を設立。部長として活動中。


齊藤翔大氏(写真左):株式会社バスクリン 総務部所属。バスクリン銭湯部では「人事」を担当。

バスクリン銭湯部 | 東京銭湯 - TOKYO SENTO -

銭湯で社員交流?部活動は「銭湯巡り」

--- バスクリン銭湯部は具体的にどういう活動をしているのですか?

f:id:kensukesuzuki:20170314123707j:plain


高橋:まずは「銭湯巡り」ですね。定例活動として、都内を中心に各地の銭湯巡りを実践しています。あとは「銭湯コラム」を発信していて、銭湯やお風呂の魅力を伝えています。そこから派生して「バスクリン銭湯部」と「銭湯」との共同企画や、社外コラボ企画が生まれています。

 

--- それはマーケティング活動の一環なのでしょうか?

 

高橋:いいえ、あくまで社内のイチ部活動という立てつけですね。
会社公認の野球部やサッカー部らと同じ位置づけですね。銭湯部は文科系部活動として存在しているのですが、会社のアイデンティティを探求する役割と、ベテラン社員から若手までを繋ぐ取り組みが社内外から評価してもらえるようになってきました。銭湯を通じて、バスクリン社らしい社員交流が生まれています。

 

会社のルーツを知るために銭湯部を設立

--- 銭湯部を立ち上げようと思ったきっかけは?

f:id:kensukesuzuki:20170314123732j:plain

高橋:私は(株)バスクリンに中途入社したのですが、入社して気づいたのは、社外の方からよく「バスクリンを日頃から愛用しています。お世話になっております!」と言われるんです。そんなバスクリンを育んできたのは誰か、どういう風に愛されてきたのか、会社のことをもっと深く理解するためにルーツを探りたいと思いました。

 

f:id:kensukesuzuki:20170314123749j:plain

齊藤:バスクリンは、当社の前身である「津村順天堂(現株式会社ツムラ)」が明治時代に「中将湯」という婦人薬をつくっていて、その生薬の残りをお風呂にいれたところ、体が温まったり湿疹がよくなったりする効果があったことから、日本初の入浴剤として「浴剤中将湯」が生まれました。

当時は内風呂を持てる家庭が少なく銭湯が主流の時代。「浴剤中将湯」を使った銭湯は、庶民の人気を博したそうです。東京都新宿区の「大星湯」、愛知県名古屋市の「寿湯」など、現在も「中将湯温泉」の看板や暖簾が残っている銭湯も各地にありますよ。

 

--- ルーツは銭湯にあったんですね。

f:id:kensukesuzuki:20170314124300j:plain
△ バスクリン銭湯部メンバーのみなさん。(写真提供:バスクリン銭湯部)

 

高橋:はい。ただ銭湯の数は減ってきているので、このままではルーツが失われてしまう。銭湯文化を残したい。活動を通じて銭湯の活気を取り戻すことにも一役買いたいと思い、20代のメンバー中心に社内の公認部活動として銭湯部を立ち上げました。

 

齊藤:部署の垣根を越えること、世代間を繋ぎ、社員の相互親睦を深めることもミッションのひとつです。総務部長が銭湯部の「番頭」という役割を担い、役員やベテラン社員にも参加してもらえるよう動いてもらっています。

 

原点に立ちかえることで社員がつながる

--- 実際に銭湯部の活動をしてみていかがでしたか?

 

高橋:ベテラン社員の方から、業務上の関わりではめったに聞けない会社の昔話や逸話を聞くことをできました。たとえば定番商品である「バスクリン ゆずの香り」は62回も改善を重ねて商品化に至っているんだよとか。

入浴を通じて、普段は聞けない知識・教養を得ることができました。また、ベテラン社員から若手社員への文化の伝承や社内コミュニケーションの促進にもなったと思います。

f:id:kensukesuzuki:20170314124411j:plain
△ 色んな話題が生まれるのは、銭湯でのコミュニケーションならでは。(写真提供:バスクリン銭湯部)

 

--- 年代が違うことで情報が分断されがちですが、そこを銭湯が繋いでくれたわけですね。

 

齊藤:そうですね。銭湯部は我々の会社が生まれた原点とも言える銭湯に立ち返ったことで、「やっぱりお風呂っていいよね」という共感が生まれたんだと思います。湯船のなかで、若い世代とベテラン世代が熱量をもって語りあうことが、自社の魅力や可能性を再認識するきっかけとなり、改めて自身の仕事や会社に誇りを持つ事ができていると感じます。

 

自社「らしい」部活を

高橋:当社の場合はルーツを探る手法が「銭湯」でしたが、他の企業が同様の取組みをされるのであれば、また手法は変わってくるのだと思います。

例えばコーヒー飲料メーカーなら「純喫茶部」が良いのかもしれません。そうやって歴史ある会社が、ルーツをめぐる部活動を取り入れると、社内親睦としても、ナレッジの共有化としても活性化につながると思うんです。

 

--- 会社の売り上げや社員が大きくなるにつれ、組織や業務も細分化していきます。その中で、失われてしまった組織文化や社会的な使命みたいなものを、部活動という取組みを通じて取り戻しているのですね。

 

高橋:はい、この活動も当社だからできたというわけではなく、各社それぞれに根ざした活動方法があるとおもいます。ぜひ、いろいろなところでユニークな部活動が生まれ、活性化してほしいですね。

f:id:kensukesuzuki:20170314123548j:plain

f:id:kensukesuzuki:20160405175548j:plain

【羽渕 彰博(ハブチン】
1986年、大阪府生まれ。2008年パソナキャリア入社。転職者のキャリア支援業務、自社の新卒採用業務、新規事業立ち上げに従事し、ファシリテーターとしてIT、テレビ、新聞、音楽、家電、自動車など様々な業界のアイデア創出や人材育成に従事。2016年4月株式会社オムスビ設立。

ハブチン (@habchin3) | Twitter

撮影:鈴木 健介

 

「理想の暮らし」を追求した先に見えた、働きやすさとは?

子育て、親の介護、自分の老後…私たちは働きながらも次々とライフイベントが発生し、その都度さまざまな課題に直面することになります。

三井不動産レジデンシャル社がCSR活動としててがける「Neighbors Next U26 Project(※以下、U26)」では、マンションを中心としたコミュニティから「子育て」「介護医療」「独居老人の増加」などの社会課題へのソリューションを提案。プロジェクトディレクターである猪股有佐さんは、マンションコミュニティの研究のかたわら当プロジェクトに従事しています。 「暮らし方」を真摯に見直したとき、生活するうえでの不安や不満は、どのように変化するのでしょうか。

f:id:tyo-press:20170222102631j:plain

<プロフィール>

猪股 有佐(いのまた ありさ)

1987年年京都府⽣生まれ。株式会社タンデム、および不動産系広告会社に所属するパラレルワーカー。学⽣生時代よりマンションコミュニティの研究に従事。銭湯を中心としたまちづくりをおこなう。 

人と人とをつないで、暮らしの課題を掘り起こす  

——猪股さんが「コミュニティ」に関するプロジェクトをはじめたきっかけを教えていただけますか?

小さい頃から「人と人とのつながり」に興味がありました。子どもの頃に住んでいたマンションが名古屋大学の隣にあり大学関係者や留学生が住んでいたのですが、私の家族以外ほとんど外国人だったんです。母親が非常に面倒見の良い人で日々彼らを手助けしていて、さまざまな人種やバックグラウンドを持つ人たちがいる暮らしはとても楽しいものでした。

そしてその後、両親が分譲マンションを購入するも、住んでみて「つまらないな」と思ってしまったんです。例えば親がマンションの理事会に出席しても「みんなマイナスなことばかり言い合って、何も決まらなかった」と帰ってくる。そんな話を聞きながら「前のマンションと何が違うんだろう」と考えたとき、両隣や上下階に誰が住んでいるのか分からないからだと気付きました。

自分のまわりに誰が住んでいるか分かったほうが毎日楽しいし安心する。“もしものとき”助け合える関係を作っておきたい。そのためにはどうしたら……と考え、学生の頃からコミュニティの研究を始めました。

f:id:tyo-press:20170222102756p:plain

▲26歳以下の学生や若手社会人を中心に構成されたメンバーが集まる「Neighbors Next U26 Project」

 

——「U26」の活動について教えていただけますか?

「U26」はプロジェクト運営を統括するHITOTOWAの荒昌史さん、そしてプロジェクトディレクターとして私が関わっています。今年度はオブザーバーとしてクルミドコーヒー店主の影山知明さん、東京R不動産を運営する株式会社スピークの林厚見さんにも参加いただいています。「暮らしの課題」を「社会課題」として捉え、人と人とのつながりによって解決する方法を考えるプロジェクトです。現在は、社会課題を解決するための基盤を作っているような状況ですね。

特にマンションをターゲットにしているため、立地によって築年数も世代構成も全く違い、課題はさまざまです。2016年は「マンションとコミュニティカフェの未来」をテーマに、実際のマンションでのフィールドワークを通じてさまざまな課題を見つけられたので、2017年は場所を変えて同じ築古マンションのコミュニティ形成のお手伝いをしようと話し合っています。

「マンションコミュニティのあり方」に向き合い、一年がかりで追求

——2015年の活動開始後、当初の予想とのギャップや発見はありましたか?

マンション住民のなかには必ず、どうしても出てきてくださらない・出ていけない方がいます。30〜40代の方は忙しいとか人付き合いが面倒という理由が多いですが、70代以上の方はそもそも体を動かすことが辛いという状態。わずかな段差でも転んでしまう人もいるため、どんどん人とのつながりがなくなり、自宅の中へこもってしまうんです。ただ「U26」は、「そういう方もマンションに住んでいるんだ」と認知して、その方たちの交流の糸口も今年度はコミュニティカフェを通じて検討しました。

例えば、2016年にはマンション内に居住者の方と一緒にDIYで屋台を作りました。マンションに住むお子さんや「U26」のメンバーが店員となって、各居住棟まで屋台を持って行き、コーヒーを振る舞う。そこで会話が生まれるので、「昨日は誰とも喋らなかったけど、今日は人と話した」とホッとした気持ちになってもらえたらと思いますね。

f:id:tyo-press:20170222102936p:plain

▲マンション居住者とコーヒーの屋台を試作する「U26」メンバー(写真提供:Neighbors Next U26 Project)

 

また、今年度の最終発表会では居住者の方に向けて、マンション内のエントランスホールにDIYで作った様々な机をおいて、住民の偶然の出会いを生むコミュニティカフェの提案がありました。またマンションを学校に見立て、「教室」になぞらえた暮らしを楽しむ提案もありました。これらの提案が、今後マンションで実際にどう活かされていくか今から非常に楽しみです。

マンションって、長く住んでいる方や管理組合の役員についている方に意見を言いづらい独特の雰囲気があるんです。そんななかで「U26」は、誰に対しても素直にマンションへの疑問をぶつけます。すると他の住民の方にとっても、意見や会話が生まれやすい雰囲気となり、コミュニケーションの質が変化し、活発になっていくのでしょうね。それが活動を始めて得た発見でした。

f:id:tyo-press:20170222102958p:plain

▲居住者とのヒヤリングや意見交換をおこない、マンションが抱える課題を約1年かけて検討(写真提供:Neighbors Next U26 Project)

 

——他に活動を通して得られた成果などはありますか?

「U26」は、2020年までに自分たちが本当に住みたいマンションを作るという目標のもと活動しています。

マンションって、企画立ち上げから実際の売り出しまで数年ほど時間がかかります。ですから私たちが「マンションを買おう」と思ったとき、そのコンセプトは数年前のものなので「いま本当に欲しいもの」とのギャップが生じてしまいます。なので、きちんと自分たちの暮らしに真摯に向き合い、欲しい家を考え、手にいれることが理想的なマンション選びにつながると考えています。

昨年は「U26」の参加者に「自分たちが理想とするマンションを1年かけて考えてください」という課題を出し活動していました。三井不動産レジデンシャル社と共同で、学生寮のアイディアソンを実施したことも。寮の中に本棚や専用ソフトなどを置いて自由に使えるようにし、多様な学生が集まるという寮の特性を生かして互いの知識をシェアしあえるよう設計したり、田舎の両親に寮の友人が自分の生活を伝える文通システムができたりしました。これらのアイディアは高く評価をいただき、採用の可能性もあるとかないとか。こうした成果が、徐々にできてきていますね。

f:id:tyo-press:20170222103057j:plain

仕事でも、「誰と出会うか」「誰とするか」を一番大切に

——「U26」のメンバーにいる若手社会人は、どのようにコミットしていますか?

メンバーの4割は社会人で、彼らにとっては会社とは異なるコミュニティを作れるサードプレイスとして機能しているように感じます。二週間に一度19時半から22時までワークショップがあり、休日はマンションでフィールドワークやイベントというハードな活動内容ですが、みなさん積極的に参加しています。

職業はSEからイベント、不動産、農業ベンチャーまでさまざま。実はもともとコミュニティにあまり興味がない人もいるのですが、実際に一年間マンションの生活に関わることで暮らしに対する価値観がかなり変わっていくようですね。また活動を通してさまざまな事業関係者と知り合えるため、プロジェクトを機にキャリアデザインについて考え、転職を実現するメンバーもいます。

f:id:tyo-press:20170222103203j:plain

——「働き方」は「暮らし」に密接に関わる要素のひとつだと思うのですが、「U26」では「働き方」について、どのような視点を持っていますか?

さまざまな要素がありますが、「誰とどう暮らすか」を非常に大事にしていると思います。

「U26」の活動を通して、みんな「一生の仲間ができた」と言うんです。これから先、仕事で悩んだときや新しく事業を始めようと思ったとき、ここの仲間に相談すればいいんだと。仕事において「何を」するかも大事ですが、「誰と」するかを非常に重要視にしていると思います。

いま、首都圏では47%の人がマンションに住んでいて、災害が起きたときや子育てのシーンで誰を頼ればいいのか分からないなかで暮らしています。私自身は首都圏に3つ拠点を持つという暮らし方をしているのですが、住まいを選ぶときには「誰と出会えるか」を一番に考えています。

住んでいる場所にどんなコミュニティがあるかを知っていると、「そこで自分らしく暮らすためにはどうすればいいか」と前向きに考えることができますし、何よりも住んでいて楽しい。そんな「暮らしやすさ」が「働きやすさ」にもつながっていくのかな、と思いますね。

f:id:tyo-press:20170222103416j:plain

<WRITING・伊藤七ゑPHOTO:廣田達也>