自分の市場価値、どう見定める?プライシングのプロが「市場価値の測り方」を伝授

市場における価値をベースに製品やサービスなどの価格を決める「プライシング」。プライシングスタジオ株式会社代表の高橋嘉尋さんは、企業の価格戦略を決める“プライシングのプロ”として活躍しています。
そんな高橋さんに、ビジネスパーソンが自分の市場価値を判断する際に、プライシングの考え方を応用する方法について伺いました。

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市場価値を考える際には、「コストベース」の発想は捨てること

勤務先で評価のフィードバックを受けるときや、転職活動での年収交渉のときなどに、「これだけ働いているのだから、これぐらいボーナスがもらいたい(昇給したい)」とか「これだけ経験年数があるから、入社の際には最低これぐらいの年収が欲しい」などと考える人は多いと思います。

しかし、「これぐらい働いているのだから」というのはコストベースの考え方であり、実態に即しているとは言い切れません。

どんなビジネスも、企業が商品・サービスなどを通して顧客に価値を提供し、その対価を受け取ることで成り立っています。企業と従業員との関係も同様で、従業員が生み出している価値に対して、勤務先は給与という対価を支払っています。

これをベースに考えると、「これだけ働いているのだから○万円欲しい」という要望には根拠がなく、勤務先に提供している価値に見合っていない可能性があります。要望している報酬額に対し、提供価値が足りてないケースもありますし、逆に提供価値に対して報酬が安すぎるという意味で「見合っていない」ケースもあるでしょう。

自分の市場価値をつかみ、適正な報酬基準を知りたい場合は、他の人にはない、もしくは他の人より自分の方ができると思う強みや長所(=自分の価値)を洗い出し、それが今、市場でどれぐらい評価されているのかリサーチするという方法が有効です。

我々プライシングスタジオでは、企業の製品やサービスなどの価格戦略を担っていますが、価格を決める際には、顧客が自社の製品やサービスに感じている「価値」に基づいて価格を決める「バリューベースプライシング」を採用しています。しかし、多くの企業が未だ「これだけのコストがかかっているから、これぐらいの利幅を取ろう」とか、「競合他社が○円で売っているから、当社はこれぐらいに抑えよう」などという価格の決め方をしているのが現状。これでは、本来の価値に対する正当な対価が得られず、価格競争に巻き込まれてしまう恐れがあります。

ビジネスパーソンの市場価値の測り方もこれと同様で、コストから考えると誤った判断をしてしまう可能性があります。あくまで自分が持っている「価値」ベースで考えることが何より重要。我々がついイメージしがちな「時給換算」や「人月換算」などといったコストベースの考え方は、いったん頭から外しましょう。

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8,568通り、あなたはどのタイプ?

自分の市場価値を測り、さらに上げる方法とは?

企業の製品やサービスに対してプライシングを行う際には、EVC(Economic Value to the Customer)という調査手法を用いることがあります。
EVCとは、競合商品にはない要素を持つ商品に対し、その要素の価値を勘案した上で販売する商品の価格決めをするための指標のこと。価格を決める際に、参照する競合商品の価格(=参照価格)に、販売しようとしている製品やサービスの「参照価格に対する付加価値」を足すことで、EVCを求めます。

これを応用し、自分自身に当てはめることで、ある程度正確な市場価値を導き出すことができるでしょう。

手順1:経験・スキルを棚卸しする

まずはこれまでの社会人経験を振り返り、棚卸しをしてみましょう。過去の業務を振り返って整理するうちに、自分の強みや得意分野や成果、持ち味、モチベーションの源泉などを明らかにすることができます。

そして実績や成果は、できるだけ「数字」で洗い出すことが大切。たとえば営業職なら売り上げ実績、目標達成率、商談決定率など、マーケティング職ならコンバージョン数、ROI、利用者増加率など。事務系職種など成果が数字で示しにくい仕事の場合は、コスト削減や生産性向上などを数字で示してみましょう。

手順2:洗い出した強みや長所を、他者と比較する

自分ならではの強みや長所、持ち味などを、周りの人と比較してみましょう。たとえば、同じ部署の同僚たちと比較して、「自分のほうができる」と思えるものをピックアップしていきましょう。プライシングで言えば、前述のEVCにおける「競合商品にはない要素」に当てはまります。
これが、あなたが高く買われるポイントであり、市場価値である可能性が高いでしょう。

手順3:より高く買われる場所を探してアピールする

市場価値とは文字通り「市場における価値」です。つまり、その人が持つ強みや長所、持ち味などの実体だけで決まるものではなく、「需要と供給のバランス」によって最終的な市場価値が決まります。

いくらある分野で卓越したスキルを持っていたとしても、それが市場で求められていなければ価値は下がります。逆に、市場で求められていて、かつ似たようなスキルを持っている人が少なければ、市場価値は上がります。

したがって、手順2で洗い出した強みや長所などの「価値」を、より強く求めている企業や部署を狙えば「この人こそ、当社が切望している人材」と評価され、市場価値はさらに上がります。

狙いの定め方としては、次の2つのパターンが考えられます。

【パターン1:企業の課題をつかみ自分の価値と紐づける】
勤務先(もしくは転職したい企業)が何に困っていて、何に課題感を覚えているのかをつかみ、自分の強みや長所と紐づけて「自分ならばこのような力を発揮して課題解決に貢献できる」と根拠を示す。

【パターン2:自分の価値がよりフィットする企業を探す】
自分の強みや長所が活かせそうな企業(自社内であれば、より強みや長所を活かせそうな部署や役割)を選んで、「自分こそはこの企業(部署)にふさわしいスキルを持っている」と根拠を示す。

いずれのパターンでも、自分をアピールする際には、可能な範囲で数字を用いて具体的に価値を算出できると、根拠がより具体的に伝わります。例えば、以下のような方法です。

<例>
強み=顧客の課題に合わせた商談が得意
他者との比較=商談決定率は約70%と営業部内でトップ
希望=これまでは中堅・準大手企業担当だったが、大手法人チームに異動して昇給とボーナスアップを実現したい
根拠=
「今期の商談決定率は70%と、チーム平均の55%を大きく上回りトップの成果を上げています。大手法人チームでは、営業1人当たり5社のナショナルクライアントを担当すると伺っています。仮に、1社あたりの平均年間受注額が○千万円、利益率を○%とした場合、私が大手法人チームに入れば商談決定率を上げることで受注額の○千万円アップ、約○万円の利益上乗せが期待できます」

市場価値をつかむには、ニーズを正しく把握する力も重要

自分の市場価値を把握して、高く買われるためには、ニーズを正しく把握し理解する力がモノを言います。

我々がプライシングを行う際には、顧客ニーズを精緻につかむため、徹底した市場調査を行いますが、それと同様に、皆さんも自分をより高く買ってくれる企業はどこか、より高く買われる強み、長所はどれか、アンテナを高く張り、情報収集することが重要です。市場は移り変わり、変動するものなので、常にアンテナを張り続ける姿勢も大切です。

現在の市場価値をある程度でも把握できていれば、「将来自分がなりたい姿」との差分が明確になり、どんな経験・スキルを強化すればその差分を埋められるのかもわかります。目指すキャリアを実現するためにも、今の自分の市場価値を知ることは大切なのです。

プライシングスタジオ株式会社代表・高橋嘉尋さん高橋嘉尋さん

プライシングスタジオ株式会社代表取締役CEO。2019年、慶應義塾大学総合政策学部在学中に「価格1%の見直しが、企業の営業利益を約20%改善させる」ということを知り、その影響力に魅力を感じて同社を設立。これまでに30以上の業界、100以上のサービスの値付けを支援している。著書に『値決めの教科書 勘と経験に頼らないプライシングの新常識』(日経BP)。2023年、Forbesによる「アジアを代表する30才未満の30人」に「ENTERPRISE TECHNOLOGY」部門で選出される。

EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山 諭
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