オリジナルミュージカルを数多く手がける作・演出の鈴木聡氏とタッグを組んだ主演舞台『君の輝く夜に〜FREE TIME,SHOW TIME〜』の東京公演が決定した稲垣吾郎さん。錚々たるジャズミュージシャンの生演奏をバックに、3人の実力派女優陣と展開する夏の終わりの恋の物語。歌やダンスによる華やかなショーもはさんだ、大人のための贅沢でお洒落なステージだ。主演を務める稲垣さんに、仕事観を聞いたスペシャルインタビュー。
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今の年齢の僕に大人の恋の役をやらせたいんだな、と
2012年、14年、16年と3度にわたって上演された稲垣吾郎主演の舞台『恋と音楽』シリーズ。喜劇作家でもあり、数々のオリジナルミュージカルを手がける作・演出の鈴木聡氏と鬼才のジャズピアニスト・作曲家の佐山雅弘氏がタッグを組み、実力派の俳優陣と生演奏で上演され、人気を博した。このシリーズのクリエイター陣と再びタッグを組んだのが、『君の輝く夜に〜FREE TIME,SHOW TIME〜』。今秋、東京・日本青年館ホールで上演される。
――1人の男と3人の女たちの恋の物語です。最初に台本を読まれたときは、どんな感想を持たれましたか?
稲垣:作家の鈴木さんは毎回、僕にあてがきして書いてくださっているんです。セリフ、役の設定や立ち振る舞い、男の恋愛観のようなものを僕になりきって書いてくださっている。これはご本人もおっしゃっています。
ファンの方が喜ばれるところや求めているところ、また今この時代の中で稲垣吾郎が何を表現したらいいか、プロデューサーの目線で、いろんなことをすごく客観的に考えられているんですよね。特に今回は、今の年齢の僕に大人の恋の役をやらせたいんだな、と思われたんだと感じました。
鈴木さんと初めて仕事をご一緒したのは、28歳くらいのときなんです。そのときと今とでは、もちろん僕自身もまったく違うし、世間での僕の見え方も変わっている。それから16年になりますが、間に何度もご一緒していて、そのときそのときにあてがきをしてくださっているというのは、なかなかないことだと思います。
それだけでも大変なことですよね。鈴木さんと僕との、ちょっと面白いものの作り方、そして舞台の表現なんです。
作品として、役者としての自分を生で観てもらえる場
――ミュージカルという舞台については、どうお考えですか?
稲垣:ずっとミュージカル畑で育ってきたわけではないので、やっていてフワフワする感じがやっぱりありました。でも、鈴木さんとは7作目なので、だんだんと自分なりにつかめてきたものがあります。
芝居をしながら歌うとか、歌に乗せてセリフを伝えるとか、ミュージカル特有の違和感はなくなりました。
ただ、僕らが今回やろうとしているのは、グランドミュージカルのようなものではなくて、ショーやレビューに近いんですよね。こじんまりしたステージで、生ジャズバンドと一緒にやっていくという独特のスタイル。
だから、僕もできるんだと思っています。また、リラックスして、ファンの方々にも楽しんでいってもらえるんだと思います。
お客さまの目の前でお客さまと一緒に同じ時間を過ごす、というのは、やっぱり舞台くらいしかない。ファンミーティングをやらせていただいたこともありますが、作品として、役者としての自分を生で観ていただける場は、やっぱり舞台です。
鈴木さんと、昨年亡くなられてしまった佐山さんの独特の世界観が東京で、そして日本青年館という新しい劇場でお披露目できるのは、ものすごく楽しみです。
そのときの自分の興味のあることを黙々とひょうひょうと
――稲垣さん自身は、20代、30代、40代と、どんなふうに仕事意識を変えていかれましたか?
稲垣:もちろん少しずつ変わっていきました。ただ、これは変わったというより、変えられちゃうところが大きいかもしれないですね。自分発信でなくても、世の中が求める役柄が流れていくと、自分のパブリックイメージもそうなっていったり。環境が変わると、見え方も変わっていきますし。
グループが解散して今は1人でやっているわけですよね。3人でやることもありますが、やっぱり僕の見え方は世間から見ると変わっている。SNSで発信することも多かったりしますし、おそらく稲垣吾郎というものは変わっているでしょう。
でも、僕にしてみれば、どれも本当の自分なんです。だから、あまり自分で何かを変えていこうという意識はないんです。流れに身を任せるというと無責任に映るかもしれませんけど、やっぱりそのときの自分の興味のあることを黙々とひょうひょうとこなしていって、それが結果的に自分の見え方というか、映り方になっていくのかな、と。
あまり自分で計画的にプロデュースしていく、とかはないですね。
――特に大事にしてきたこと、というのは、どんなことでしょうか。
稲垣:それは今回ご一緒する鈴木さんと、まさに通じる部分なんですが、自分の世界に入り込むのではなくて、やっぱりお客さまをより楽しませたい、ということです。
僕ら芸能界の仕事は、お客さまあってこそ、ですから。自分は商品ですし、エンターテイナーとしての自分の根底にあるものは、まさにこれですね。
その意味で、鈴木さんにうまく使ってもらっている、というイメージを持っていますね。この意識はすごく大きいです。
ただ、なかなかこんな贅沢なことはないと思います。時代とともにアップデートして、バージョンアップしてくる自分に合った役を書いてくださるわけですから。それはもう面白いですよね。それこそ、もう家族みたいですよね(笑)。
技量が足りなければ、厳しく言ってもらったほうがいい
――そんなふうに、スタッフや共演者と、いい関係を作るために気を付けていることはありますか?
稲垣:無理に最初から仲良くしないといけないとか、そういうことはあまり考えないですね。自然体です。同じステージに立ったり、同じ緊張感や同じ喜びを共有すると、そこでぐっと結びつきは強くなると思うんです。
でも、いろんなやり方の人がいますから、人それぞれですよね。僕はこういうやり方なんです。大所帯のときは、まわりの人が仲良くなって、そこに入っていったりすることもありますよ。
基本的には、だんだん感じ合っていくものだと思っています。一緒に頑張って、お客さまから拍手をいただけて、それをお互いで共有できたら、ひとつの絆のようなものが生まれてきますので。
それは舞台の素敵なところでもあります。結果が目の前で一緒に感じられますから。映画やドラマとの違いはそこかな。映画やドラマは、終わって公開やオンエアまで、ずいぶん時間がかかることもありますし。その意味で、舞台はかけがえのない関係が作れますよね。
もちろん、時には厳しさも必要です。自分の技量が足りなければ、厳しく言ってもらったほうがいい。お客さまに来ていただくわけですから。でも、基本的には楽しいほうがいいですね(笑)。今回も、そういうお芝居ですし、楽しい稽古になると思います。
舞台の芝居について、大竹しのぶさんのアドバイス
――舞台は一発勝負のところがありますが、ベストなステージにするために意識していることは、どんなことですか?
稲垣:健康管理や睡眠時間の確保、食事とか、そういう基本的で細かなところはやっぱりしっかり意識しますね。ただ、あとはこれといって変わったことはやっていないんです。
僕は、慌ててやるのが苦手なので、ちゃんと自分の時間を考えて、スケジュールを組んでやっていけるようにします。その意味で、舞台はルーティンとして組み立てていきやすい。予定が変わったりして、いろいろと乱されないのは、ありがたいところです。
一方で、舞台ならではの難しさがあって、回を重ねるほど慣れていくんです。良くなっていく部分は当然あると思うんですが、新鮮さが失われていく。これが、とても危険なところです。
演じるこちらが新鮮さを持っていないと、お客さまは楽しめないんです。なぜなら、お客さまは初めて観るわけですから。だから、そこは常に考えていますね。鮮度を忘れないよう、一度リセットする。
条件反射の段取りみたいになってしまうのが、一番怖い。舞台の上で驚かされるシーンがあって、ちゃんとドキっとできるかどうか。そういうところは、意識しておかないといけないところです。
これは、大竹しのぶさんとご一緒したときに、アドバイスいただいたんです。みんな、芝居ができちゃうようになるから1回リセットしようね、と。座長だった大竹さんが、そうおっしゃって、ああなるほどなぁ、と思いました。
慣れてきたら、間違いもしなくなりますし、そのほうがいいと思っていたんですが、そうじゃないんです。何度も何度もやって、間違いなく段取りをして、目をつぶっていてもできるようになっていくことと、新鮮さを忘れないこと、その2つを両立させないといけないのが、舞台なんです。
いつも今が一番楽しいと思っている
――「新しい地図」がスタートして、環境がずいぶん変わりました。新しい環境で何かに取り組むことに注意すべきことは、どんなことでしょうか。
稲垣:そうですね。環境が変わって、日々のルーティンも変わりました。でも、お客さまに楽しんでいただく、という、やるべきことは変わっていないんです。
ただ、今はうまく力が抜けて、ストレスなくやれているところがありますね。これは年齢的なことも大きいと思っています。
ありがたいことに忙しくさせていただいていますが、仕事のペースも、ひとつの作品に集中できる時間が増えました。これは、僕のやり方に合っています。そして新しいこともいろいろ始めたり、新しいチャンスをいただいたりもしている。
僕は基本的にいつも今が一番楽しいと思っているタイプなんです。そう思いたいし、そう言いたい。だから、ずっと今が一番楽しいんです。
――仕事で結果を出してこられました。どうして稲垣さんは、結果を出すことができたのでしょうか? 結果を出すための、ヒントをいただけませんか?
稲垣:正直に言いますが、うまくいって当然だろう、というくらい努力をしてきたわけではないと思っています。血のにじむような努力をして結果が出せたのであれば、そりゃ結果が出て当然だよ、と自分でも思えるし、人にも努力を勧めると思います。でも、僕はそんなに人に誇れるほど苦しい思いをしたとか、本当に自己犠牲をしてきたとか、ないんだと思っているんです。
だから、アドバイスはすごく難しいです。僕は僕のやり方でやってきて、結果がこうだったんですよね。実のところ、ここまでの結果を想像してやっていたわけでもないですし。
――実は、大きな成功願望はなかった?
稲垣:自分の中ではあまり求めていなかったですね。ただ、グループがあまりにも大きな存在になって、日本で多くの人に愛されて歴史を作って、結果的に平成を駆け抜けることになって。
やっぱり結果って難しいです。その日の結果を残すとか、わずかな時間でどう表現して良いものにしていくか。ある意味、目の前のことの積み重ねだと思っているんです。それ以上のことは、あまり考えない。
自分に対しても、人に対しても飾らない
――もしかして、あまり自分を出さない、のでしょうか?
稲垣:そうですね。へんなふうに、自分というものは出さないですね。自分を好きではありますよ。人は誰でも自分が大切ですけど、僕は自己顕示欲が強いタイプではないです。何かに痕跡を残そうとか、爪痕を残そうとか、そういうところに関心はないんですよね。
それより、自分が納得して、これでいいんだと思うことがしたかった。人に高い評価をされたいともそれほど思ってきませんでした。
やっぱり、いろんな人がいて、いろんな結果の出し方があると思うんです。お前は単にラッキーだったんだ、と言われたら、それまでですけど(笑)。
――肩に力がまったく入っていないですね。
稲垣:芸能界での成功って、そういう考え方は意外に大切かもしれません。自分自身がどう映ってくるか、ですから。自分が商品ですし、キラキラしてないといけないですが、世の中のニーズとかを考えていくだけでは難しい。プロデューサーでもないですし、マネージャーでもないですから。
だから、意外に思われるかもしれませんが、地道にコツコツです。毎日のことを一つずつ大切にやっていく。柔軟な、素直な心で日々を過ごしていく。自分に対しても、人に対しても飾らない。肩に力を入れない。あとは何でもやってみる。僕はそうやって、生きてきたんです。
稲垣吾郎主演舞台「君の輝く夜に~FREE TIME, SHOW TIME~」
2019年8月30日(金)~9月23日(月・祝)
東京都 日本青年館ホール
作・演出:鈴木聡 音楽:佐山雅弘
出演:稲垣吾郎 / 安寿ミラ、北村岳子、中島亜梨沙
演奏:佐山こうた(Pf)、高橋香織(Vln)、バカボン鈴木(B)、三好“3吉”功郎(G)、仙波清彦(Perc)