第6回(2019年度)表彰式の様子

2020年2月4日、第6回「GOOD ACTION AWARD」の表彰式を開催しました。多数のご応募の中から最終審査を経て、7つの取り組みをGOOD ACTIONとして選出。「大賞」のほかに、今年「ワークスタイルバリエーション賞」「ワークスタイルイノベーション賞」「審査員賞」「特別賞」を新設しました。当日の表彰式の模様を、受賞取り組みの担当者さまや審査員のコメントを交えて紹介します。

審査員賞

各審査員が独自の目線で選んだ取り組み

性別・国籍・年齢・経験の有無に関わらず多様な人材を全員正社員採用
株式会社KMユナイテッド

アキレス美知子さまより評価ポイント

職人の世界というと、私たちは「習得するのが大変で時間がかかる」という先入観を持ちがちです。この取り組みはそうした先入観を打ち破り、通常なら10年かかる育成期間を3年にしました。
そのために教育体系を合理的に書き換え、若い人だけではなくベテランも巻き込んでいます。
印象的だったのは「時間軸を壊したい」という社長の言葉。昔ながらの職人の世界でも男女、国籍関係なく応用でき、テクノロジーも有効に活用している素晴らしい取り組みでした。

受賞企業より

日本社会は仕事でも家事でも、性別役割分担の考えが根強いと感じています。7年前に当社がハローワークで求人を相談したときには「女性の仕事ではない」と言われていました。
それから作業内容を分析したり、特許を取得して軽い工具を開発したりと、さまざまな取り組みを進めてきた結果、女性はもちろん体力に自身のない男性もできる仕事になりました。
有名な「太陽の塔」の改修工事の職長を務めたのも当社の女性職人です。現在では外国籍の社員も増え続けており、動画教材の「技ログ」を開発して、効率的に学んでもらえる体制を整えました。
ただ女性を入れる、外国人を入れるということではなく、どんなルートでキャリアを築いていってもらうべきなのかを考え、みんなと一緒にやってきたからこそ現在があると思っています。
今では魚市のようなにぎやかな職場となりました。

見て覚えろはもう古い。新人がどんどん育つ独自の職人育成制度
有限会社原田左官工業所

若新雄純さまより評価ポイント

面白いのは、ベテラン職人の真似をする、つまり「見て覚える方法」を学ぶために動画を見るというやり方です。昔はテクノロジーがなく、「新人は瞬き一つせずに見ておけ」という世界でしたが、動画を見てコピーした上で現場の職人に学ぶことで、新しい関わりの中で人が育つ体制を作っていると言えるでしょう。

個人的には、今回の応募内容に「これによって技能が上がった」とは一言も書かれていなかったことが印象的でした。ともすればすぐに技術レベルや生産性の話になりますが、僕はどうでもいいと思っています。
大事なのはそこで働く若い人が、どんな気持ちで働けているか、どんなふうに職人さんとの関係性を作っているかということ。
働いている人がどんな居心地で過ごしているのかを考え続けている、素晴らしい取り組みだと思います。

受賞企業より

家業として左官業を引き継ぎました。私が小さい頃は、家に職人さんが寝泊まりしていたんです。
入ってくる人も多いけど、辞めていく人も多い。私によくしてくれたお兄ちゃんたちも、辞めるときは辞めてしまう。それが当たり前の環境でした。
最初はやる気があって始めたはずなのに、何かのきっかけで「お前はダメだ」と言われ、シャットアウトされてしまうのです。職人さんたちのやる気をもっと引き出していくにはどうしたらいいのか、その疑問がこの取り組みのきっかけでした。

取り組みを始めた当初、うちのベテラン職人さんたちは猛反対でした。
「若い者を遊ばせているだけだ」と言われたこともあります。でも、これを何年も繰り返しているうちに、今までとは違うタイプの見習いさんが現場へ出ていくようになりました。
動画を見る狙いは「見て覚える”やり方”を学ぶ」こと。何を見て覚えればいいかが分かっていれば、現場でもポイントをつかみやすくなります。
今ではベテラン職人さんも、「うちの若いのはモデリング訓練をやっているから違うでしょ」と誇らしげに他社の人に話しています。

生の声でコミュニケーションギャップを解消! 社内ラジオ「パネラジ」
株式会社パネイル

藤井薫より評価ポイント

現代人は目を酷使していて、「99%以上の情報は目を使ってコミュニケーションされている」とも言われます。
しかしテキストのやり取りだけでは、送り手と受け手の本心が見えにくい面もあるのではないでしょうか。
「声」があるからこそ、本心を伝えられるということもあります。会社の中のほとんどの働き手は仮面をかぶっていて、役割の中で自分自身の感情的な部分、個人的な部分はあまり出せないもの。
パネラジでは社長をはじめ、みなさんが個人を出せています。今までの社内コミュニケーションは「言う」「伝える」だけでしたが、ラジオを通じて「語りかける」「問いかける」のコミュニケーションができるようになったのでしょう。音声コミュニケーションの大きな可能性を教えていただいた取り組みです。

受賞企業より

当初は社内報や、全社員を集めての総会といった伝達方法に頼っていましたが、社員が増えていく中でコミュニケーションギャップが生まれていきました。
そこで社内報の企画で社長への質問を募ったところ、「社長の休日の過ごし方は?」「短パンで会社に来てもいい?」などの質問が来ました。
社長と広報、編集担当、デザイナーなどで企画会議をしたらとてもいい雰囲気になり、「これはラジオっぽいね」ということで、その場の雰囲気をみんなにも届けたいということでパネラジがスタートしました。
社内コミュニケーションのターゲットは社員です。
その声を実際に拾うために、どんな手段であれとにかくアクションすること、「とにかくやってみよう」という姿勢が大切だと思います。
パネラジを始めてからは、社員から「聞いていると自分も会話に参加している気持ちになれた」「初対面の社員とも気軽にコミュニケーションが取れるようになった」といううれしい声が寄せられています。
ラジオという箱を作ることで、「ごっこ遊び」的な側面が生まれ、みんなが素を出せるようになったのだと感じています。

ワークスタイルバリエーション賞

性別や年齢、国籍はもちろんのこと、その人の価値観など内面的なバリエーションもとらえた取り組み

「生きる」を看る医療職700人の「生きる」を尊重する
ソフィアメディ株式会社

アキレス美知子さまより評価ポイント

世間一般で言われる働き方改革は長時間労働是正の側面が強くて、あらゆる業種にフィットするかというと難しい面があります。
その中で、この取り組みでは訪問看護という業種に合う工夫が考え抜かれており、かつビジョン・ミッション・スピリットの分かりやすい言葉で表現されています。
2時間単位で取れる有給休暇など現場の声を取り入れた制度に加え、私が特に驚いたのは仕事でもプライベートでも活用できる弁護士さんとのホットラインがあること。
仕事と私生活は密接に関係しているからこそ、両面をサポートする思いきった施策の意味があります。
結果的に離職率が大幅に低下しており、素晴らしい施策だと感じました。

受賞企業より

社員が仕事において能力を発揮するためには、プライベートを安心して過ごせることが欠かせないと考えています。そのための画期的な取り組みとして、当初は「各拠点に調理師さんがいて、その人に日々の夕飯を作ってもらえたらうれしいのでは?」と提案したこともあったのですが、現場のスタッフに意見を求めたところ「そんなものはいらない」と言われてしまいました。
現場のスタッフが日々お客さまと向き合う中で求めていたのは、まず「マイナス面をプラスに変える」ための制度でした。そうした声を踏まえて生まれたのが、ちょっとした空き時間を活用できる2時間単位の有給休暇をはじめとした制度です。現状の制度が完璧だとは思っていません。
これからもさらに進化させていきたいと考えています。

発達障がい社員のインクルーシブ経営
グリー株式会社 グリービジネスオペレーションズ株式会社

アキレス美知子さまより評価ポイント

正直に申し上げて、最初に応募の書類を見たときには「特例子会社の取り組み自体はそんなに珍しくないのでは」と感じていました。
しかし詳しく見ていくと、この取り組みは他社のそれとはまるで違うことが分かりました。発達障がいの方にスポットライトを当て、「特例子会社はコストセンターではなく、事業に貢献するための組織である」ということを重視し、本体の事業を知る人が社長を務めています。
その上で一人ひとりの特性を知って強みを理解し、それを生かすために必要な環境を整え、事業に貢献するための働き方や力の生かし方を明確にしています。
「コストセンターだと見られていたらモチベーションなんて上がらない」という社長の言葉もおっしゃる通りだと思いました。

受賞企業より

代表である私はグリー本体の事業責任者と、特例子会社グリービジネスオペレーションズの代表を兼務しています。障がい者雇用をする企業では「モチベーション向上」が課題。会社を作った2012年当時は、よくある「人事の機能を分業する形」で運営していましたが、それでは事業貢献につながりません。
代表自らが事業のことを理解し、積極的に事業部からの業務の受託にかかわることで、現在では、グリーグループのすべての子会社から仕事を依頼されるようになりました。
健常者でも障がい者でも、誰にでも強みと弱みがあります。障がい者の場合は、健常者が作ってきた枠組みでは能力を発揮しづらい面もあります。物理的な環境もそうだし、制度や仕組みもそう。
大切なのは「弱みを消すためにどんな工夫が必要か」というステップを踏むことでしょう。
その上で、健常者も障がい者も同じステップで個々の強みを見出していくことが大切だと考えています。

特別賞

働く個人と企業との関係のあり方を熟考させられる、可能性を秘めた取り組み

日本活性化プロジェクト
株式会社タニタ

若新雄純さまより評価ポイント

仕事で活躍できる人を、これまでの正社員という形ではなく新たな契約形態で活躍してもらうという取り組みです。「日本活性化プロジェクト」というネーミングもすごいですよね。
「活性化」とは、必ずしも良い方向だけに向かうことを意味するわけではありません。
それでも大きな変化を起こしています。この取り組みを選出した最大の理由は、新たな議論ができるのではないかと思ったこと。
新しい発見が生まれそうな取り組みとして表彰させていただき、結論ではなく、ここから議論が始まる出発点になればという期待を込めています。

受賞企業より

最近は副業解禁がトレンドになっています。会社外で仕事をすることで、社内に新しい流れを作るのはいいことだと考えています。
タニタは社員の副業を事実上解禁していませんが、決して消極的に考えているわけではなく、アプローチが
ちょっと違うのです。
まずは個々人の主体性が高まることを目指しており、そのために社員が独立した事業主として活動する道筋を用意しました。その延長として他の仕事もできるようになるのは歓迎するところ。
そんな道筋を作ったので、あえて副業だけを取り上げる必要はなくなりました。
今の日本の働く環境を考えると、「会社と個々人の信頼関係」がますます大切になっていると感じます。
タニタのような仕組みを他社さまで落とし込む際には、時間・場所に象徴されるような、仕事に直接関係しない要件で拘束をしないことが何より重要だと考えています。

大賞 および ワークスタイル・イノベーション賞

生産性向上につながるイノベーティブな取り組み

エーデル土山の超働き方改革
社会福祉法人あいの土山福祉会 エーデル土山

守島基博さまより評価ポイント

企業変革には、トップの思いが大変重要です。
今回の応募書類からは施設長である廣岡さんの思いがひしひしと伝わってきて、かつ多大なご苦労をされてきたのだということも分かりました。
廣岡さんは一人ひとりのメンバーに語りかけ、個々の状況を丁寧に把握し、一人ひとりの改革に結びつけています。働き方改革というと大きな枠で考えることが多いのですが、エーデル土山は各個人に合わせたオーダーメイド。だから個人は受け入れやすくなるし、言いたいことも言えるようになるのでしょう。
主役である働き手とトップのつながりがきれいに見られる取り組みです。
こんな改革が多くの企業で起きれば、日本の働き方は変わるのではないかと感じました。

受賞企業より

みなさんご存じの通り、介護業界は一般的に人気がない職場です。この取り組みをしなければ生き残ってこられませんでした。そんな私たちの「超働き方改革」の実践について、簡単にご説明します。
まずは、なぜこの改革を進めたのか。地元の滋賀県は人口が大きく減少している中で、かつてのエーデル土山は離職率40%を超える職場でした。不人気な介護業界、かつ私自身も個人的に共働きの子育て世帯であり、早く帰れる職場を作らなければならないと感じていました。
そこで「人材確保対策・労働室」という部署を作り、どうすれば人が辞めないのか、どうすれば人を採用できるのかを考えていきました。離職の3大要因となっていたのは「残業」「腰痛」「メンタル不調」です。これをトリプルゼロにすることを目指しました。
残業ゼロに向けては、まずはトップダウンで「残業が美学だ」という考えを変えるために、「ワークライフバランスのしおり」という冊子を作って一人ひとりと面談。
帰れない理由を詳しく調べて、意味のない作業を見直していきました。結果的に残業は年間平均0.02時間となっています。
腰痛の対策では、電動リフトを導入して人力での抱え上げを廃止。インターバル規制の実施やエアーマット導入、酸素カプセルなどの設備導入に加え、無駄を徹底的に見直して確保した利益で余剰人員の確保も行っています。
メンタル不調の解消に向けては、スタッフの業務上の悩みやプライベートでの悩みを「トーキング」と呼ぶ1on1の場で聞き、迅速に対応しています。このトーキングは、経営側の思いを伝える場としても大切にしてきました。
一連の取り組みを進める中では、つらいこともたくさんありました。
その中でもできることを一歩ずつ真剣にやってきた結果として今があります。
ブラックな職場、ブラックな業界と言われ続けている現場でも、手法次第で魅力的な職場へと生まれ変わることができるはずです。

【第二部】

2020年2月4日に開催した第6回GOOD ACTION AWARD表彰式では、第二部にて、特別賞を受賞した株式会社タニタさまのご協力のもとパネルディスカッションを行いました。同社の「日本活性化プロジェクト」は、社員が独立して個人事業主(業務委託契約)として活躍できる制度。雇用にとらわれずに会社と個人の新しい関係性を考える取り組みとして、さまざまなメディアで取り上げられています。今回は「脱・正社員の時代か? 〜雇用ってなに?〜」をテーマに、GOOD ACTION AWARD審査員の若新雄純さんの進行のもと、同審査員の守島基博さん、アキレス美知子さん、藤井薫、そして実際にこの制度で独立した久保彬子さんをパネラーに招いて議論しました。

1社だけでずっと働くほうが怖い

若新:久保さんは入社後、どのタイミングでこの制度を活用したんですか?

久保:私は新卒入社10年目で、1期生としてこの制度で独立しました。

若新:会社に不満があったわけではないんですよね? 最初に入った会社で10年働き、独立するときの気持ちは?

久保:30歳前後くらいで、転職を考えた時期があるのも確かです。それでもタニタという会社は好きだったのですが、「ずっと1社だけ」というキャリアに不安も感じていて。

若新:会社は好きだけど、他にも可能性があるのではないかと。

久保:そうですね。同時期に「終身雇用の崩壊」や「人生100年時代」といったキーワードが盛んに聞かれるようになり、自分の働き方について深く考えるようになりました。

若新:雇用関係を失うことについて、不安はありませんでしたか?

久保:私は「1社だけでずっと働くほうが怖い」と思っていたので、逆にポジティブにとらえていました。10年働いてきて、自分がどんな方向性で貢献できるかということは見えてきたので、それを会社の外でも生かせるよう挑戦してみたいと考えていました。独立した人たちの動機はみんなバラバラなんですが、私の場合は自己実現でしたね。

大正時代の日本は転職が多かった

若新:今回の取り組みは全員を対象にしたものではなく、あくまでも希望者が対象ですよね。それでもメディアで取り上げられた際には「体の良いリストラではないか?」という指摘もありました。それくらい、日本では雇用というものが当たり前になっているともいえます。守島先生に聞きたいのですが、日本の雇用慣習というものはどうやって成立してきたのでしょう?

守島:日本の雇用契約には特殊なところがあります。新卒採用では、どんな仕事をするのか明示されることがほとんどありません。どんな部署へ異動するのかも分かりません。そうした状態で、毎月入ってくる給与が保証されているのが日本の雇用。対して海外の雇用は、「私は何をもって会社に貢献できるか」を明確にして契約を結ぶんです。

若新:なぜ日本はそうなったのでしょうか?

守島:実は昔からこうだったわけではないんですよ。大正時代の日本は、アメリカのような雇用慣習でした。転職も多かったし、ある意味では格差も大きかった。戦争が終わって日本の労働市場が極めて人材不足に陥ると、企業にとっては「人材の内部育成」が重要な戦略ポイントとなっていきました。終身雇用が重視されるようになったのもそれ以降です

若新:「まずは頑張ります」という人を集めて教育も含めて丸抱えするやり方が始まったんですね。アキレスさんは外資系企業でも働いてこられましたが、どんな契約のあり方なんでしょうか?

アキレス:まず採用の段階で、どんなスペックの人材が必要かを明らかにして、そこに当てはまる人を見つけてくるんですよね。そうした「ジョブ型雇用」に対して日本的なやり方は「メンバーシップ型雇用」と言われています。

若新:僕たちは当たり前のように雇用という言葉を使っていますが、守島先生の言うように「まず人を抱え込む」という方法と、アキレスさんの言うように「まず必要な人材の要件を定義する」というやり方の違いがあるわけですね。

「タニタの社員」と説明できなくなったときの壁

若新:久保さんも入社当初は漠然と採用された1人かもしれませんが、個人事業主になるには、何をやる人なのかを明確にしていく必要がありますよね。外部に対して、自身の役割をどのように伝えていますか?

久保:「タニタで新規事業を立ち上げる仕事」と説明しています。実は独立した直後にぶちあたった壁がそこでした。それまでは「タニタの社員」と言えば伝わる部分があったけれど、そうではなくなったときに、どう説明すればいいのかと。

若新:例えば藤井さんも、仕事を聞かれて「リクルート」と答えればなんとなく説明できるわけですよね。会社名ではなく、「自分はこんな仕事をしている」と説明できるようになったのはいつ頃からですか?

藤井:事業開発とかナレッジ編集とか、そうした得意領域を認識するようになったのは
35〜36歳くらいでしょうか。

若新:そう考えると、新卒採用された人はどうやって成長していくべきなのでしょう?

アキレス:海外でも新卒採用をやっているところはありますが、就職する前に海外を旅したり、いろいろなところでボランティアをしたり、インターンをしたりといった経験を積んで、新卒であっても「経験の豊富さ」をアピールする人が多いですね。20代の若手を「ヤングタレント」「アーリータレント」と呼ぶこともあります。

若新:それも「この人は何ができる人なのか」という理解を前提にして雇用するということですよね。

「選択が正しいか」ではなく「自分で選択できているか」

若新:雇用ではなく契約という関係に変わることで、「立場」ではなく「役割」で選んでもらえるようになりますよね。また、お金や時間を自分で管理することで、見える景色が変わってくる部分もあると思います。

久保:そうですね。私は働くということへの意識が大きく変わりました。あるとき、テレビ番組の取材でインタビューを受けたんです。「私は80歳や90歳まで働きたい」と話したら、その放送を見ていた親が「あんた、本気でそんな歳まで働くの?」と驚いていました。何歳まで働きたいか、どんなプロジェクトを選びたいか、どんな仕事を取りに行くか。そんな意識は、社員時代にはなかったと思います。

若新:自分で考えて選択できるのであれば、年齢を重ねてから働き続けることもつらくなさそう?

久保:そうですね。

若新:これは最も重要なポイントかもしれません。実際のところ収入に大きな差はないかもしれないけど、働き方に対する考え方や景色が大きく変わるということですよね。そういえば、「日本と海外では仕事への向きあい方が違う」ということもよく言われますね。

アキレス:そうですね。基本的に大きく違うのは「自分で選んでいるかどうか」。社員の場合は原則、嫌な仕事も引き受けなければいけませんよね。フリーランスは安全性が下がるけれど、その代わりに自分が能力を発揮でき、好きだと思える仕事を選ぶことができます。海外では新卒でも部門別採用をするので、学生時代から「自分はどんな領域で成長したいか」を考えるようになっていきます。

若新:長く仕事を続けていく上では「自分で選んでいる」という実感が大事なんですね。日本の多くの企業ではそれができるんでしょうか?

守島:雇用というものが提供する価値の中には、安全も含まれますよね。フリーランスでは得られないものがあるのも事実。今の日本で完全に脱雇用に舵を切ろうとしても、不安を覚える人のほうが多いでしょう。よく言われるのは雇用を守る法律の存在ですが、実はそんなにネックではなく、雇用と契約の境界線を決めるタニタさんのような仕組みがあれば難しくないのかもしれませんが。

若新:僕もすべてが変わる必要はないと思うんです。でも久保さんのように、チャンスがあることで変われる人はいるんじゃないかと。

守島:そのためには、タニタさんのように「社会保険分の報酬上乗せ」などソフトランディング要素のある仕組みも大切ですよね。ただそれ以上にまずは、「自分の人生は自分がコントロールするんだ」という感覚を若い人たちが持つようにしていかなきゃいけないのだと思います。

若新:自分の選択が正しいかどうかではなく、「自分で選択できているか」ということですね。ちなみにリクルートの場合は、このあたりはどうなんですか?

藤井:働く喜び調査などを毎年やっていると、共通項として「3C」が見えてきます。「Clear」に自分の持ち味を自覚している。その持ち味を活かせる仕事を選べている「Choice」。その持ち味に向かって他者から期待されている「Communication」。それぞれの持ち味を大事にしようとするから、結局は「お前はどうしたい?」という問いかけになるんです。

会社だけではなく、自分がいる業界や業種でどこまで通用するか

若新:社員として働く人の中には、「自分も久保さんのような人生を歩むべきなのだろうか」と悩んでいる人もいるかもしれません。どんな声をかけますか?

久保:私の場合は、「自分の人生を自分でコントロールする」という感覚は独立して初めて得られました。だからといってむやみに独立を推奨するつもりはありません。どんな立場であれ「自分でコントロールする」ことを大切にするのが重要なのでは。人生100年時代にあって、いつまでも健康に楽しく働くためには大切な要素だと思います。

若新:とはいえ、まだまだ数値に出せる条件を重視する人が多いですよね。収入アップとか年金とかボーナスとか。

藤井:正社員で、会社や上司の言うことをひたすら聞く毎日を続けていると、鏡が一つしかない状態になるんですよね。自分が本当にやりたいことが見えなくなっていくのかもしれません。それに対して、独立している人や副業している人は鏡をたくさん持っていますよね。

若新:そうした意味では、給与や賞与や年金といった数値が分かりやすい指標であるのに対して、「選択できる喜び」は分かりづらいのかもしれません。海外ではそもそも「一つの場所にとどまることが正しいわけではない」という価値観ですよね?

アキレス:私がいちばん知っているのはアメリカの例ですが、IT業界などでは次々と転職を繰り返し、転職によって収入が1.5倍になることもあります。お金だけじゃないといっても、若いうちは「もっと収入がほしい」という思いもあるでしょう。タニタさんはそこにうまく答えていますよね。

若新:一つに留まるべきではないという意味では、「外的エンプロイメントアビリティ」、つまり外でも通用する人になろうという考え方があります。日本の会社では、「どこへいっても通用する人間」を育てようとしないところが多い気がしますが。

守島:それは「自分の会社に役立つ人材を育てたい」という考えが強いからでしょう。でも若新さんが言う通り、これからは外的エンプロイメントアビリティを伸ばすことが企業に求められる人材育成のスタンスだと思います。

若新:会社だけではなく、自分がいる業界や業種でどこまで通用するか。

アキレス:そうですね。実際に私はマネジメントにおいて、「社内だけでなく、業界で5本の指に入るように頑張ろう」「自分自身の市場価値を高めよう」「人脈・ネットワークを社外にも広げよう」とメッセージしています。

若新:久保さんは独立後、社外のネットワークは拡大していますか?

久保:そうですね。飲み友だちがどんどん増えています(笑)。自分が業界の中でどんな価値を発揮できるかについて考えることも増えました。社員ではないことに寂しさを感じる瞬間もありますが、社外に広がるネットワークの中で、何かが起きたときに頼れる人がいるというのは心強いですね。

若新:自分がいる会社だけではなく、自分が所属する分野や業界にどんな貢献ができるかを考えるわけですから、個人にとって独立とは、本質的な自分の成長と向き合う良い機会なのかもしれませんね。

審査員総評

変革を拒む「見えない壁」と向き合うために
守島 基博 氏

学習院大学 副学長/経済学部経営学科教授

現在、組織の中にはいろいろな意味での壁や、変革を拒んでいる要素があると思います。今回受賞されたみなさんは、そうした見えづらい壁、暗黙の壁に対して丁寧に丁寧に向き合って、その上でアプローチを行っています。

例えば職人の世界で女性は活躍できないのか? 介護業界はブラックでなければ成り立たないのか? 組織全体を変えていくということは難しいことです。しかし、トップと現場で働いている方々の会話を通して変革を成し遂げていく、非常に大きな学びを得られました。大企業のみなさんにもぜひ学んでいただきたいと思います。

常識を塗り替えようとする動きが広がっている
アキレス 美知子 氏

SAPジャパン株式会社 人事戦略特別顧問
横浜市参与 男女共同参画/人事制度担当

審査の過程で私たちが対象としたすべての企業さまに、感銘を受ける取り組みがありました。このアワードの審査は、いちばん難しくていちばん楽しい。そんなことを実感しています。

現在は新しいことにチャレンジしたい、あるいはせざるを得ないという企業が多く、そのために今までの常識を塗り替えようとする動きも広がりつつあると思います。これまでは「どうせ無理」と言われていたことに対しても、現場のみなさんの声を聞き、改善に向けたアクションを行っていく。組織のミッションを掲げ、それを一人ひとりのスタッフが意識していく。良い職場づくりには、そんなコミュニケーションがとても重要になっています。

結論ではなく、これから考えるべきテーマとして
若新 雄純 氏

慶應義塾大学特任准教授/株式会社NEWYOUTH代表取締役

これまでは「働くといえばこうだよね」という、みんなが正しいと思っている型のようなものがありました。1社に勤め続けるという終身雇用もその一つです。しかし時代の変化によって、一つの型だけでは通用しなくなりました。答えが多様化していく時代だからこそ難しい面もあります。

このアワードは「GOOD ACTION」と銘打っていますが、これが必ずしも次の時代の正解というわけではありません。結果がGOODなのではなく、あくまでも試みの視点や目標がGOODであるということ。結論としてではなく、これから考えていくべきテーマとして、今回の受賞取り組みを知っていただけたらと思います。

職場の暗黙知や個人の強みを「認識知」にする
藤井 薫 氏

株式会社リクルートキャリア リクナビNEXT編集長

職場というのはまだまだ面白くなっていくのだと教えていただきました。今回もたくさんの学びがありましたが、その中で「業務の切り出し」というキーワードが出てきました。きっと職場の中には、業務に関する暗黙知がたくさんあるのだと思います。それらを改めて認識知化することが大切です。

また、個人にも強みの暗黙知があるのだと思います。一人ひとりの強み、それぞれが分かったふりをしていないでしょうか? 改めて振り返り、個々人の強みを認識知化すべきではないでしょうか? 見て、触って、知っていくと、職場はもっと面白くなるはずです。

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。

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