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発達障がい社員の活躍がグリーグループを変えた。 「自律・自走する特例子会社」のカギは“事業に貢献すること”

グリー株式会社/グリービジネスオペレーションズ株式会社
取り組みの概要
2012年に障がい者雇用を推進するために特例子会社を設立。特に発達障がい者を積極的に採用し、持てる力を最大限に発揮するための環境作りを推進している。 一人ひとりにどのような特性があり、会社生活を行う上でどのような困難が生じるかを深く理解するために、特例子会社代表との1on1面談や支援機関面談、上長面談、カウンセリングなどを実施。その上で、易疲労・過集中などに配慮した休憩室や、聴覚過敏用のイヤーマフ、光過敏用のサングラスなどを用意して環境を支援し、マニュアル整備や作業工程の見える化によって業務をサポートしている。 現在は56人の社員のうち37人が発達障がい者であり、グリーグループの事業における戦力として、グループ全体で価値を共創しながら経営を持続している。
取り組みへの思い
私たちは「自身の能力を最大限に発揮でき、仕事を通じて自律的に成長し続けられる会社を創る」を企業ビジョンに掲げています。社員の個性に向き合い多様な働き方を許容することで障がい者の就労機会を創出し、社会課題の解決と企業利益への貢献の両立を、持続可能な形で実現しています。
受賞のポイント
1.発達障がい者の力を最大限発揮できる環境を作っている
2.社長との1on1をはじめ、個性と向き合う機会を多数設けている
3.事業に貢献し、特例子会社の枠を超えたつながりが生まれている

自律・自走する特例子会社を目指して

発達障がいのある人が活躍できる職場を作るために必要なこととは? 世の中全体では現在ほど関心が高まっていなかった2012年からこのテーマを追い続けてきたのがグリーグループだ。自社の基幹事業を支える存在として発達障がい者が力を発揮する環境は、どのようにして作られたのか。

グリービジネスオペレーションズ(株)代表取締役社長/福田智史さん

事業に貢献しなければ持続可能な経営はできない

2012年、グリーグループの障がい者雇用を進める特例子会社としてグリービジネスオペレーションズ(以下、GBO)が設立された。ゲーム事業を基幹とするグリーは、パソコン操作を得意とする人、ゲームやアニメが好きな人も多い発達障がい者の能力を活用すべく動き始めた。

その歩みを主導してきた福田智史さん(代表取締役社長)は、「かつてはありがちな『大企業グループ内の特例子会社』で、存在感は薄かった」と振り返る。

「当初から重視していたのは『個々の特性理解』『環境整備』『事業貢献』の3ステップです。個々の障がいの特性をつかむべき、その特性に合わせた環境を作るべきということは

障がい者雇用を解説する書籍などにもよく書かれていますが、この2つをやるだけなら福祉と変わりません。でも特例子会社は立派な営利企業です。その前提を忘れてしまうと、持続可能な経営はできないと思いました。そこで重きを置いたのが『事業貢献』でした」

大企業の中の特例子会社は、コストセンターとして割り切られることが多い。しかしそれでは現場の人たちのモチベーションが上がるはずはない。「だからこそきちんと事業貢献をしなければいけない」と福田さんは強調する。

福田さん自身は特例子会社であるGBOの社長を務めながら、グリーの本体事業も兼務している。その理由も「事業貢献」のためだという。

「GBOとして営業し、仕事を取ってこられなければ意味がありません。私は本体事業に関わっているので、グリー本社やグループ内の子会社へ直接トップセールスができるんです」

GBOが設立された当初は、廃棄資料をシュレッダーにかけたり、何もなければエクセルの勉強をしたりといった仕事が続いていたという。本体やグループ内から受託する仕事をどんどん増やし、基幹事業であるゲーム作りにも直接関わりながら、事業貢献できる状況を作る。それが働く個人のモチベーションアップにつながっていった。

福田さんはこれを「自律・自走する特例子会社」だと表現する。

「福祉」や「社会課題解決」だけでは人は動かせない

GBOの社員が事業貢献への実感を持てるよう、福田さんは四半期に一度、グリーのIRサイトに掲載される決算発表資料を使って社員向けの説明会を開催している。グループ全体の事業や将来に向けた計画が、GBOの現場にどうつながっているかを伝えているのだ。

一方ではグループ他社のメンバーにも、GBOが提供できる価値を伝えるために奔走する。

「最初の頃は、私がどれだけ熱量高く話しても、事業側が持っている既存のアウトソース先を変えてもらうのは大変でした。福祉や社会課題解決の重要性を訴えるメッセージは重要ですが、企業の中でそれだけを発信し続けても人を動かすことはできないのだと感じました。みんな責任を持ってビジネスをしているから、当然といえば当然です」

そこで福田さんは、「GBOに仕事を依頼するメリット」の根拠を示していった。

「GBOに任せたほうが安く済みます。GBOも赤字はダメですが、過度な利益を追いかける必要はありません。また、グループ内であれば機密保持契約や請求書のやり取りもありません。グリーグループでネットワークを共有しているので、同じオフィスツールを使えるというメリットもあります」

そうしたビジネス上のメリットを積み重ね、「商談」をまとめていった。重要な業務を委託するようになった事業側のメンバーがGBOのオフィスを訪れると、障がい者手帳を持って、強みを生かしながら働いている人たちと出会い、意識が変わっていく。冷静なビジネス上の判断をきっかけにして、結果的にはグループ内の多くのメンバーが社会課題解決を本気で考えるようになっていったのだった。

自身の特性を理解した経験がチームマネジメントに生きる

発達障がいのある社員が活躍できている理由は、オフィス環境が整っていることだけではない。全体ではなく個別に一人ひとりと向き合い、承認欲求とやりがいを満たしていくプロセスがあった。

「信頼して任せてくれているんだ」と感じたゲームの仕事

Aさん(経営企画室 経営企画チーム)は、2012年のGBO設立から間もない頃に入社した。グリーグループからの仕事を請け負うチームのリーダーを経て、現在は経理や総務、広報など幅広い管理側業務を務める。

GBOを知ったきっかけは、発達障がい者の支援機関からの紹介だった。それ以前は外資系企業で働いていたが、当時は発達障がいの診断を受けていなかったため、自分が何を苦手としているのか分からなかったという。

「仕事で困っていたのは、スピードが遅くて量をこなせないことでした。頑張れば何とかできるけど、反動で一気に疲れが出てしまう。その積み重ねで体調を崩すことが続いていました」

2011年に発達障がいの診断を受け、「ワーキングメモリーが弱い」と分かった。口頭で指示を受けてもすぐに忘れてしまう。それが仕事のスピードの遅さにもつながっていた。

逆に得意なことも認識できた。Aさんは一度経験した業務については、関連する資料の保管場所など細部に至るまで記憶できるのだ。そうやって自分のことを理解するようになってからは、指示を受けたらPCにすぐ入力する、マルチタスクはメモに書くなどのアクションを取るようになった。

「GBOへの入社後は自分のことだけでなく、他の人の特性も意識するようになりました。『正確性が必要だからこの人に任せよう』『スピードが必要だからあの人に任せよう』といった具合に、一人ひとりの特性を理解し、仕事をお願いしています」

2016年に入社した二宮祐美子さん(事業管理部 事業管理第2チーム)は、Photoshopなどを使ってゲームの画像加工を行うチームのリーダーを務めている。チーム内には発達障がいの特性が強いメンバーも多い。

自分が発達障がいだと知ったのは2014年のこと。それまでは自覚がなく、「仕事でうまくいかないことはすべて自分のスキル不足が原因」だととらえていた。社内のコミュニケーションで意図したことがうまく伝わらず、人間関係が悪化して退職に至ったこともある。

「昔から、『空気を読めているけど正しい返しができない』という特徴がありました。先輩や上司から渡された書類にミスがあったときには、相手が誰であってもストレートにミスを指摘していたんです。言い方を気にしたり、人を経由して伝えたりといった配慮がありませんでした」

転職が続き、4社目に入ったのがGBOだった。

「仕事内容としては、Word・Excel・PowerPointを使う業務だと思っていました。ところが実際は、初日からPhotoshopがインストールされたパソコンを渡され、いきなり本社のゲーム事業に関連する仕事を対応することになりました。その後もゲーム内に登場するキャラクターの画像を加工する仕事などを担当することが続き、自分の関わった作品がどのようにリリースされるのか、日々の楽しみになりました」

実際にリリースされたキャラクターを確認すると、担当したキャラクターは二宮さんが加工した通りの画像で出ていた。「信頼して任せてくれているんだ」と実感したという。

今は6人の発達障がいのメンバーがいるチームでリーダーを務めている。二宮さん自身が自分の特性を理解するまでに時間がかかった経験を踏まえ、メンバーにはどんな特性があるのか、分析的に関わることもしばしばだ。

かつては苦手としていたコミュニケーションも、ここ1〜2年で意識が変わった。

「今は自分がどんなコミュニケーションをしているか、相手の視点で考えるようにしています。『私がこれを言ったら相手はどう思うか』と考えながら会話できるようになりました」

過干渉にならない「適度な距離感」で接する

福田さんは現在も定期的に、全社員との面談を続けている。

「障がい者であれ健常者であれ、誰しも期待されるとうれしいものです。一人ひとりの承認欲求や自己顕示欲を満たせるよう、個別に向き合っていくことが大切だと思っています」

かつての日本人の働き方では、「頑張って働いていると給料が上がる」「長く勤めれば退職金が増える」といったように、経済メリットを訴求してモチベーションアップを図ることが一般的だった。「でも今はそうした時代ではなくなった」と福田さんは指摘する。

「経済的なインセンティブ以外で、いかにモチベーションを高められるか。やりがいに訴えかけていくことが大切なのでしょう。一方で、やりがいを感じさせてあげたいと思うあまり、過干渉になってしまうこともあります。干渉しすぎたり、マネジメントしすぎたり、価値観の共有をやりすぎたり……。それらは押し付けにつながるので、適度な距離感を保ちながら、個人の思いを受け止められるよう心がけています」

GBOは今後も、持続可能である状態を維持するために事業貢献の度合いを高めていく計画だという。発達障がいがあり、自分に合った環境で働けずに悩んでいる人が世の中にはまだまだ多いはず。GBOの経験を日本中に広げていくため、福田さんは多忙なスケジュールの合間を縫って全国各地で講演している。

目指すのは「日本中の障がい者が活躍できる社会の実現を。」というGBOの想いを実現することです――。福田さんはそう結んだ。

(WRITING:多田慎介)

※ 本ページの情報は全て表彰式当時の情報となります。

第6回(2019年度)の受賞取り組み