気鋭の専門家が語る「これからの雇用基盤」

2011年下半期、日本経済を読む8つのキーワード

間もなく東日本大震災の発生から半年が経とうとしている。大震災は、日本企業にどのような影響を及ぼしたのだろうか。また震災の影響以外にも、世界的な金融不安による円高など不安要素は多い。今後日本企業を取り巻く環境は今後どうなっていくのだろうか。3人の専門家に、2011年下半期の日本経済を読み解くためのキーワードを聞いた。かなり混乱した先行き不透明な世界経済を反映するように、識者の見解はそれぞれ違う。今後どんな企業で雇用が生まれる可能性があるのか、識者の意見を参考にしてほしい。

2011年8月24日

<ADVISER>

<経済誌編集長に聞く><br />
東洋経済新報社『週刊東洋経済』編集長<br />
大滝俊一氏

<経済誌編集長に聞く>
東洋経済新報社『週刊東洋経済』編集長
大滝俊一氏

1987年、東洋経済新報社入社。『統計月報』『オール投資』『会社四季報』『株価四季報』などの編集部を経て、『週刊東洋経済』の編集部へ。家電やアパレル、医薬品、映画、鉄道、運輸業界など幅広い分野の担当記者として活躍。2010年10月から現職。

<経済ジャーナリストに聞く><br />
ジャーナリスト<br />
財部誠一氏

<経済ジャーナリストに聞く>
ジャーナリスト
財部誠一氏

野村証券、出版社勤務を経てフリーランスのジャーナリストに。金融、経済誌に多く寄稿するほか、BS日テレ『財部ビジネス研究所』、テレビ朝日『報道ステーション』などのテレビやラジオでも活躍中。経済政策シンクタンク「ハーベイロードジャパン」を主宰。『パナソニックはサムスンに勝てるか』(PHP研究所)、『アジアビジネスで成功する25の視点』(PHPビジネス新書)など著書多数。

<人材のプロに聞く><br />
株式会社リクルートエージェント<br />
ソーシャルエグゼクティブ<br />
海老原嗣生氏

<人材のプロに聞く>
株式会社リクルートエージェント
ソーシャルエグゼクティブ
海老原嗣生氏

リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社後、人事制度設計などに携わるほか、リクルートワークス研究所で「Works」編集長に。2008年からは人事経営雑誌「HR mics」の編集長に就任するなど、「人材のカリスマ」と呼ばれる。2008年に人材コンサルティング会社、株式会社ニッチモを立ち上げる。「就職、絶望期」(扶桑社新書)、「もっと本気で、グローバル経営」(東洋経済新報社)など著書多数。

経済誌編集長・大滝俊一氏に聞く
覚えておきたい2011年下半期を読み解くキーワード

本社機能の分散化

今回の震災によって、特に関東より東に本社機能が集中していた企業の多くは、「一極集中」のリスクを感じるようになりました。事業継続を重視すれば、本社機能の分散化は避けて通れなくなっています。被害の大小は関係なく、主に関西や東海圏の支社に今以上の権限を付与することを検討する企業が増えており、あわせて西日本への人材流入も起きそうです。
また、電力不足の問題や、震災後の経済の混乱によってもたらされた1ドル76円台という戦後最高値の円高で、輸出中心の製造業、特に自動車やエレクトロニクス業界などは大打撃を受けました。その後、一時は回復傾向にありましたが、ギリシアの国家財政の粉飾決済(ギリシア危機)に端を発した欧州ソブリン危機がついにスペインやイタリアにも波及し、米国国債格下げショックも重なった結果、2011年8月初旬には、1ドル75円台まで円高が進みました。
このような円高に影響を受けやすい業界を中心に、「海外シフト」もどんどん加速しています。海外進出して子会社を作る、海外の有力企業と手を組んで合弁会社を作る、現地企業に生産を委託するといった形でです。このような本社機能の分散化に伴い、グローバル展開に強い人材を増員したり、配置を見直す企業が出てくるでしょう。

インターナルクラウド化

震災直後、社屋が倒壊したり、電力の供給がストップしたりしました。また首都圏をはじめとする一部の地域でも、「交通網が寸断して出社ができない」という現象が起こりました。そのために、主に首都圏では「在宅勤務」という働き方を取り入れた企業が多かったのですが、それが「企業のクラウド化」へのシフトをより加速させたのです。企業のクラウド導入自体は震災前から進められてきましたが、「場所を問わず、同じ仕事ができる」環境整備という点でもクラウドが見直されてきているようです。地震のみならず、今後何かが起こった時にも備えられます。もちろん、セキュリティなどの課題はあるものの、注目度は高まっています。クラウドに対する導入側企業への注目度はさらに高まることでしょう。

ウォームビズ・電力に頼らない暖房需要

今年の冬も電力不足は続くでしょう。「節電」や「クールビズ」がよりいっそう注目された今年の夏と同様に、「ウォームビズ」や電力に頼らない暖房需要が高まるはずです。そのため、新しい衣料品や節電型暖房器具の需要が増えるといわれています。アパレル業界や家電業界は注目を集めることでしょう。

経済ジャーナリスト・財部誠一氏に聞く
覚えておきたい2011年下半期を読み解くキーワード

対アジアへの優位性

リーマンショックをきっかけに、日本の多くの企業は保守的になりました。人件費や無駄な投資を抑え、キャッシュを多く蓄えました。その結果、2010年度末年の決算は史上まれに見る高水準となり、2011年度は株価も相当上がり、給与も配当も上がると予想されていました。しかしながら震災の影響でサプライチェーンが寸断されたことによって生産が劇的に落ち込み、4月から6月期の経済成長率はマイナス1.3%となってしまいました。さらに円高が追い討ちをかけ、多くの企業は溜め込んだキャッシュを、生産拠点をシフトするためにアジアへの投資に使おうとしているのが現況です。
サプライチェーン寸断の問題は被災地域だけではなく、被災していない地域で製造業の生産が止まってしまったことにあります。東北の部品メーカーのひとつの部品がないだけで、自動車の生産ラインすべてが止まってしまう。被災していない地域の部品メーカーも部品を納品できなくなってしまった。震災によって日本の製造業のサプライチェーンはストップしてしまい想像もしなかったリスクが露呈してしまったのです。
さらに電力供給不安や、法人税引き下げの据え置きなどの問題が起こってきました。一方、アジアがダイナミックに成長し、世界中の先進国がこぞってアジア市場に狙いを定めるようになった。企業にとっては日本国内でものづくりを続ける必然性が激しく低下し、拠点をアジアに移す方が得策だという考え方がより一層加速したのです。もともとリーマンショックによって欧米経済の不振があったところに、拍車をかけるように強烈な円高。サプライチェーンの崩壊が起ったことで、今、企業は本気でアジアへ生産拠点をシフトしています。
そういったグローバル化を進めるうえでポイントになるのは、日本は「対アジア」において欧米より絶対的に有利だということです。アジアの国々の日本へのリスペクトは相当なものです。日本製品のブランド力に加え、戦後、高度成長を果たした実績から、日本人は信頼されています。欧米に比べて距離的にも恵まれていて、時差も少ない。言葉や文化の面でも、欧米よりは共通点が多く、理解しやすい。こういった「対アジアへの優位性」を最大限に生かし、勝負に出る企業は、業界問わず活況していく可能性が高い。転職先企業を選ぶ際は、応募先のアジア戦略に注目することが重要です。

広域フラグメンテーション

アジア進出のキーワードとして、もうひとつ挙げられるのが、「広域フラグメンテーション」です。フラグメンテーションは、経済用語では「生産の分散立地」といった意味で使われます。ASEANのFTA(自由貿易協定)で関税が撤廃されたことに加え、東アジア各国間が高速道路でつながったことによって物流のインフラも整備され、「広域フラグメンテーション」という東アジア全体の複合的な生産が現実的になってきたからです。
例えば、いすず自動車では、「トラックをどの国で作るか」という発想ではなく、「鋳造品はタイ」「鍛造品はインドネシア」というように、部品を最も効率的な場所で生産しています。まさに「生産の最適化」を実践しているわけです。
一方で、アジア諸国の消費の伸びも日本企業のアジア進出を後押ししています。全日空がマレーシアの航空会社と提携し、格安航空会社を設立するのは、アジアからの旅行客を見込んでいるからです。航空業界以外でも、たとえば銀行をはじめとする金融業界でも、企業への小口融資や住宅ローンなど、日本が得意とするビジネスを現地の中間所得層向けに、展開するため合弁会社設立の動きを進めています。
日本企業が商品やサービスをローカライズして現地の人に受け入れられるようにするには、アジアの国々の個別事情に目を向けることが大切になっていきます。そのためには、ただ現地の言葉が話せるだけでなく、アジア各国の歴史や商習慣を知っておく必要があります。例えば、中国では家族ぐるみの付き合いなしに、真のパートナーシップは築けません。2、3年で転勤する日本人の言うことなどには耳を傾けません。現地の真実に目を向けてビジネスを展開することが大切なのです。

人材ビジネス業界に詳しい海老原嗣生氏に聞く
覚えておきたい2011年下半期を読み解くキーワード

日本が誇る「サプライチェーン」の復活

国も地方自治体も思ったように震災復興に取り組めていない中、約2割の企業が4〜6月期の業績を上方修正し、その多くが当初予定していたより3カ月から5カ月ほど早く前年比の売り上げに戻りました。それはなぜか。実は、そうした企業の多くが自社のエンジニアを震災で被害を受けたサプライヤーに派遣し、業務の立て直しにあたったからです。部品を調達するためなら、わざわざ人員派遣なんてしなくてもよく、実際、韓国などの先端企業から代替購入もできたと聞きます。その方が経済合理性のうえでも得策です。しかし、現在好調な企業は、日本が誇るサプライチェーンの要、つまり「系列/下請け」という仕組みを大切にした。下請けとは普通、1社ではなく3社程度で競争をさせながら、それぞれの切磋琢磨により、良い製品が開発され、それをメーカーは受け入れるという流れ。その中で、受注に至った勝ち組下請けの技術を、メーカーはほかの下請けにも共有し、いつも「競争状態が続く3社」を保ち続けるというのが仕組みなんです。その結果、ハイレベルな磨き込みが継続する。このバランスが崩れると、この切磋琢磨は途絶えてしまう。だから、メーカーは自腹を切ってでも系列会社を助けたのです。結果、想定以上の速さでサプライチェーンは復旧し、業績も回復に向かった。求人そのものも増加の動きを見せているというわけです。

金融業界における中途採用の活況化

ユーロ圏の債券問題(欧州ソブリン危機)やアメリカの財政赤字による債務上限の引き上げによるドル安と、その結果もたらされた円高。世界中を席巻する金融不安によって、先々を不安視する見解も多いようです。しかし、雇用面に限れば、アメリカの就業者数は10カ月連続で増加中だということは忘れてはいけないポイントです。そのプラス幅が、5・6月と2カ月続けて「大きくはなかった」だけであり、そんな「プラスだけど想定よりは低い」という数字と金融問題が重なって、不安が増幅されていると思われてしかたないのです。もし、本当に実体経済まで悪いとすれば、その不安の急先鋒である金融業界が求人などするわけありません。しかし、逆に日本では金融業界が中途採用に力を入れ始めています。やはり、実体よりも金融不安という思惑が世間の気分を悪くしているというのが、今の日本状況なのだと考えています。
金融業界の中でも、採用活動が活性化しているのが都銀です。また、証券系ではリテール向け営業やFA(ファイナンシャルアドバイザー)、生保系なら企業の個人向け営業の案件が増えています。

世界同時株安

欧米のソブリンリスクをきっかけに、世界同時株安とドル安が進んでいます。こんなに「株」が安くて、「円」が高い現在、日本企業は外国企業との「M&A」を加速させるかたちでグローバル化を進めるでしょう。アメリカやヨーロッパ、中国などの企業は業績面で不安を抱えています。日本企業はサブプライム・バブル時にも、アメリカのビルを購入したり、企業買収をしていましたが、当時に比べて現在は、株価は3割安でドルも40%安く、日本企業がM&Aに積極的になれる条件が見事に揃っています。今、攻めない手はありません。こうしたことを多くの日本企業も過去の経験からわかっているため、これまでのような流行りのグローバル化ではない、本当の意味でのグローバル化が一気に進むと思います。
この動きは、企業の体力を見極めるのにも有効です。大手企業が中心にはなりますが、技術力のすそ野が幅広い化学系や電気系の企業に注目してください。

大きな変化が企業に “チャンス”を呼び込む

東日本大震災が多くの企業に影響を与えたのは間違いない。しかし、約半年が経った今、震災によって強いられた変化を、前向きに捉え直す企業が増えているようだ。そういう意味では海老原氏が言う「底力」や、財部氏が言う「積極性」が見直されたといってもいい。そんな変化の中で、ビジネスパーソンに求められるものも変わってきている。先行きが不透明な時代だからこそ一人ひとりが「世の中の流れを見極める力」を持ち、自分自身のキャリアを見つめ直していく必要があるだろう。

チャンスを逃さないためにも
リクナビNEXTスカウトを有効活用しよう

大きな変化が起こるであろう2011年下半期。ビジネスパーソンとしての可能性を広げるためにも、リクナビNEXTを有効活用しよう。企業からのオファー数や検索された回数がわかるので、自分の市場価値がどれくらいのものか客観視することが可能。また、「アジアで働きたい」など、やりたいことが明確ならば、レジュメで具体的にアピールしておけば、希望に合った職種のオファーが来る可能性も高まる。成長が見込める業界からのスカウトがあるかもしれない。自分自身の中の「思わぬ可能性」に気づくきっかけになるはずだ。

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EDIT
高嶋ちほ子
WRITING
志村 江
PHOTO
桑原克典、平山 諭、武島 亨
ILLUST
もりいくすお

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