あらゆるボーダーが消えていくネット社会のグローバリゼーション

出井伸之×石井裕 日本からは見えていない世界の視点

Apple、Twitter、Facebook etc. 世の中を大きく動かすビジネスやサービスは、いまやほとんどが海外発だ。どうしてこうなったのか。今、世界で起きていること。日本に見えていない世界の視点を元ソニーCEOの出井伸之氏と、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ教授の石井裕氏が熱く語り合う。

2012年8月1日

国というボーダーはもはや存在しない

クオンタムリープ株式会社
代表取締役ファウンダー&CEO
出井 伸之氏

マサチューセッツ工科大学(MIT)
メディアラボ教授
石井 裕氏

出井 インターネットが普及して、今はもうあらゆるボーダーがなくなっていますよね。それが企業や個人のリアルな世界にも影響を与えてきています。例えば、最近はもう「外国の企業」とかって概念はないんですけど、日本は相変わらず日本と海外っていう枠を気にします。逆に、グローバル企業に勤めている人には、国の概念そのものがない。

 
石井 そうですね。一番困るのは、アメリカに比べて「日本は」「日本人は」もっとこうしなきゃいけない、という議論。いまや突出した個人もいて、ネットの時代になって、スペクトラム(周波数帯域)が広がっている。それなのに、先入観や偏見で平均的な日本の話をし、闘う前から自分を萎えさせてしまっている。「日本は」「世界は」というありもしないくくりで、平均的に論じることは極めて危険です。
 
出井 住んでいる場所は世界のあちこちにありますしね。
 
石井 僕自身、もちろん日本人であることに誇りを持っています。京都の禅寺の美学は本当にすごいと思いますし、知らないうちに自分のデザインも影響を受けていたりする部分もある。でも、それは日本だけの問題じゃなくて、世界が共鳴する何か普遍的な美意識があるわけです。だったらそれをもっと広めたり、いろんな形にトランスレートすることこそ必要です。日本対アメリカみたいな対極で考えるのは、本当にナンセンス。
 
昔ならメモリは量産できても、オリジナルのCPUはデザインできないのではないか、などと言われた。でも、そんなことはないわけです。セルプロセッサなど、とんでもないものをつくっているわけですね。そういう思い込みは、ある意味で頭に銃弾を撃ち込んでいるようなものです。各個人の突出した個人の可能性は無限です。出る杭をどんどん伸ばすような発言をしなくちゃいけない。
 
石井 AppleのLisaを初めて見たとき、シリアルポートの制御をここまでソフトウェアでできるのかと感動しました。最近ではソフトウェアに加えて3Dプリンタがでてきて、誰でもプロトタイプがつくれる、というパーソナルファブの時代に入ってきました。さらにそれが民生化されて、家でコーヒーを飲みながら自分の好きなプロトタイプがつくれる、というようにすらなってきています。
 
出井 そう、ボーダーがなくなってきているんですよ。職種だって、昔はきれいにわかれていたけれど、今は違う。デザインという機能は、昔はアートだったけれど、今はエンジニアリングでしょう。その意味では、デザイナーとエンジニアの差もない。コンピュータの進化もあって、エンジニアが、設計からデザインに寄ってきている。実は僕は、「この流れはどこかで止めろ」と言っていたんですけどね。そうじゃないと、下請けになるぞ、と。仕事の区別が昔と全く違ってきて区別がないんです。これもコンピュータの進歩でしょう。人間そのものが変わってしまった。
 
石井 その意味でソニーがすごいと思ったのは、クリエイティブセンターのデザイナー達は強烈な【美学】を持っていること。アーティストであること。
 
出井 僕は、ブランドはアートだと思っていたんです。それがデザインだと思ったときに、ダメになってしまう。ブランドをつくるための宣伝、みたいな発想になる。それではダメなんです。

「More is better」ではなくて、「Less is more」を

石井 最近、日本のメーカーがつくっている次世代テレビを見る機会をいただいたのですが、実は目まいを感じてしまったのです。あらゆるピクセルが、現実を越えるリアリティで完璧に表現し尽くしていて。でも、想像でもって補って楽しむ、といいますか、俳句の行間文化みたいな喜びが全くなかった。実際、このテレビと俳句とどちらがリアルか、といったときに、驚くほどの高解像度よりも、集約し、抽象化したもののほうが、自分で解釈する喜びがあると思ったんです。

 
出井 高精細テレビですか? 僕は、女優さんのシワが気になった(笑)。
 
石井 そうなんですよ(笑)。見たくないものまで見えてしまう。ある種、現実を超越するスペックで画面一面塗りつぶされた映像を観る事により、大切なものに集中できなくなってしまったというパラドックスだと思っています。だから、電機メーカーの方に、こう言いました。「More is better」ではなくて、「Less is more」(建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉)のフィルターで発想できないか、と。オーグメント(拡張)の反対で、ディミニッシュしてほしい、と言ったら、怪訝な顔をされていました。高解像度はわかりやすい技術目標ではあるんですが、求められているのは、そうじゃないと思うのです。
 
出井 自動車だったら、時速80キロ出るよりも、150キロ出るほうがいいとか、お米だったら五穀米よりも十穀米、二十穀米のほうがいいとか、どんどん上がっていく、大きなほうがいい、という昔の発想ですよね。
 
石井 見えすぎたら危険だし、見えないからこその美もある。
 
出井 でも、大きくしたり、増やしていくのが、日本人は好きですよね。
 
石井 アジアはみんなそうですね。機能スペックの、わかりやすい数字を上げていこうと考えて、それを疑わないところがある。

過去に縛られていることに、エンジニアは気付け

出井 やっぱり、過去にものすごく縛られているんだ、ということに、エンジニアも気付かないといけないんじゃないかと思います。ドクターの論文でも、今はものすごい短期間しかできないものをやります。30年経ったら使い物にならないものが出てきて、どうするんだと思う。もう少し、大局的な見地から指導したり、考える方もそうしないと面白くないのではないかと。

 
石井 テレビをもっと高解像度にするためのチップをつくるのに対して、どういう映像が本当に感動を呼ぶのだろうか、という問いが、むしろ後からついてきている気がします。きちんと自分のエステティックス(美学)を持って、これは美しい、これはいい、と自分の言葉でビシっと言える。そういうエンジニアは、やっぱりまだ少ないと思います。でも、問われているのは、そういうことなのですが。
 
僕はよく聞かれるんです。あなたは何なのですか?と。エンジニアなんですか?サイエンティストなんですか?アーティストなんですか?と。要するにラベルを貼りたいのです。でも、僕はどれでもない、でもすべてだと思っています。本来、エンジニアの仕事はもっとクリエイティブであるべきです。ラベル貼りから始まるべきではない。でも、どうもこうした感覚との乖離が大きい気がする。

例えば、国のOSを考えてみる。もっともっと視座を高めよ

石井 トム・クルーズが主演して大ヒットした「マイノリティ・リポート」という映画がありましたが、あのアイディアは僕の研究室から出ました。今は別会社をつくって、あの映画そのもののOSをつくろうとしています。新しい空間型OSです。すでにこんなことを考えているコンピュータ・サイエンティストがいるのですが、まだ必ずしもビジネスやネットワークとは結びついていない。これから、とんでもないチャンスがやってくると思っています。

 
出井 僕はオペレーティングシステムというものを、結構大きく捉えています。国のOSが必要なんですね。日本は、東京都を中心とした一極集中型のメインコンピュータなんです。しかも、全部がバラバラで同期している。こういう同期型のものは、ものすごくもろい。もっとディストリビューション・インテリジェンスにすべきです。スケーラブルなOS。僕は、国OSを変えないと、すべてが変わらないと思う。日本も、日本人も。
 
石井 OSをメタファーとして、国や都市を考えてしまう。面白いですね。都市のデザイン、流通、情報だけでなくて、水、車、人まで全部デザインして、スケーラブルにする。
 
出井 それで今、いろんな建築家に会っています。ただ、土木のところと都市が離れてしまっている。結局、思うのは、日本に一番、欠けているのは、システム工学的発想だと思う。システム的な発想ができない。これを変えないといけない。
 
石井 これもメタファー的ですが、僕はやっぱりパースペクティブがすごく大事だと思います。どれだけ、高い視座を持てるか。どれだけの高さから、物事が見られるか。そうすると、自分たちが今、どこにいて、どこに向かっているかがわかる。そしてこのときに必要になるのが、出井さんがよくテーマにされる「対極」を考えることだと思うんです。対極にある極端な考えを結びつける価値の基軸をつくるということです。個人対社会、過去対未来、過去の遺産や財産と未来への継承……。どこで切るべき、ではなくて、全体を見渡す。
 
出井 若い人には旅をしてほしいんですね。いろんな意味での旅を。
 
石井 私も心からそう思います。徹底的に違った環境で、裸ひとつでどう生き抜けるか。その経験が決定的な差になる。
 
出井 その感覚があれば、英語なんかいくらでもできるようになりますから。僕だってソニーに入ったとき、英語もフランス語もできなかったんだから。しゃべらざるを得なくなれば、しゃべるようになるんですよ。そのくらいどっしり構えていい。それよりも、もっと根本の自分自身に対する危機感をこそ、もつべきなのです。

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