プラネタリウム「メガスター」&ロボット「エボルタ」の開発者

大平貴之×高橋智隆 「失敗上等!」で動きだせ

今、日本の開発現場では「突出した個性」を求める声が高まっている。エンジニア側も「チームワークは大切だが、もっと自由に動きたい」と考える人が少なくない。そこでまさに「個」として独自のモノづくりを続けてきた2人に対談をお願いした。

2012年6月6日

ひとりを貫くロボット開発、事業化によるプラネタリウムの共同開発

プラネタリウム・クリエイター
有限会社大平技研
代表取締役
大平貴之氏

ロボットクリエイター
株式会社ロボ・ガレージ
代表取締役社長
高橋智隆氏

高橋智隆氏は独力で「エボルタ」(EVOLTA)や「ロピッド」(ROPID)などのロボット開発を続けており、大平貴之氏もプラネタリウム「MEGASTAR」(メガスター)を独力で開発した。
そんな2人が初対談! 「たったひとりのモノづくり」を語る。

高橋 ひとりのよさは好き勝手ができることだと思います。だから「尖がったこと」がやりやすい。民主的に「皆でワイワイ」だと結局は常識的なことになってしまいます。
ただ、ひとりで閉じる気はありません。インスピレーションは常に受けたいと思っているので、クリエイティブな人に会うのは大好きです。互いに気持ちがわかり合うものですし、対象は違っても開発の大変さを理解してくれます。それで今日、お会いできるのを楽しみにしていました(笑)。

大平 ありがとうございます(笑)。僕がひとりでMEGASTARを開発してきて感じたメリットは、企画から開発、製造までの意思決定の速さ。一瞬で決まる。企業ならまず市場調査をして売れる見込みを出すのが前提だろうし、最終的に決めるのは上司の判断でしょう。
例えば、100万個の星を映し出すプラネタリウムを提案しても、それでは収益が厳しいから10万個でまずやってみようなどの、折衷案になることが多いと思う。こうしたシステムだと、すでに世の中にある製品のバージョンアップならよくても、まだないものを出すのは難しくなる。
特に開発エンジニアがメカ、電気、ソフトがわかっていれば、そのトータルバランスを考えた意思決定ができるので、「ひとり」の効果はもっと大きくなる。高橋さんは全くの独力で、メカ、電気、ソフトを担当しているのですか?

高橋 そうです。ただ、メカや加工は得意でも、回路設計やソフトを書くのは不得手ですね。マイコンの基盤やソフトウェアのツールは市販されているので、こうした製品を購入するか、知り合いの会社にカスタマイズをお願いしています。モーターやバッテリーもの市販品を改造して使っています。
部品の加工にはフライス盤、旋盤、電動ノコギリなどを用いますが、コンピュータ制御ではなく、どれも手動で操作するものです。彫刻刀もよく使います(笑)。

大平 手作業はいいですよね。僕が最初のMEGASTARを作ったのは大学時代で、図面を手書きして、主にボール盤を使って作りました。2004年くらいまでは続けたのですが、2005年に会社を設立して事情が変わっていきます。
短期のイベントは対応できるんです。イベントは長くて半年なので、逆に言えば半年持たせればいいわけで、個人でも対応できた。しかしその後で、科学館から依頼が来るようになりました。こちらは常設になりますから、10年とか20年単位でのサービスやメンテナンスが求められます。当然の要望なのですが、僕にとっては「壁」だった。
そのために少しずつエンジニアを雇い、大きな仕事がどんどん入ってきて、しだいに人を増やしていきました。現在の社員は16人で、8割近くはエンジニアですが、僕がいなくてもすむ環境を作るのが課題。ですので、仕事の中心は新機種の開発やスケジュールを考えたり、報告書やバランスシートを読んだりが多く、ここ2カ月ほどはボール盤もはんだこても触ってないです(笑)。

連続性を切っていくのは、個人としての尖ったアイディア

高橋 僕がひとりで開発しているのは、人に任せて納得できないものが上がってくるのが嫌だからです。僕もロボ・ガレージという会社を経営していて、東京大学に研究室を持っていますが、どちらもひとりでほかのスタッフや学生はいません。
まだ、自分にないものを持っている人であれば、距離を保ちつつ一緒に仕事ができるのですが、自分と同じ分野で、自分よりも少しスキルが劣る人との共同開発は一番避けたいですね。(笑)。

大平 ただ、小さいながらもチームワークのメリットはあると思う。ここ数年で優秀なエンジニアが入社してきて感じるのは、自分のできないことをやってくれるありがたさ。
MEGASTARは個人で開発した製品としてはうまく機能したけど、製品化となると先のサービスやメンテナンス以外に信頼性、耐久性、トラブル対応などが必要です。また、図面にしても以前は自分だけにわかるものだったのですが、社員がきちんと一般的なものに仕上げてくれた。組織としても一皮むけた感じですし、3D-CADが苦手なので教えてもらってもいます(笑)。

高橋 僕も3D-CADは苦手です(笑)。ところで、ひとりでできる/できないの差は、プラネタリウムとヒューマノイドロボットの、産業としての成熟度の違いではないですか? プラネタリウムは産業として確立しているけど、ヒューマノイドロボットにはまだ市場と呼べるものがないので、10年のメンテナンスも常設展示もまず必要ない。産業としての正解が見つかっていないから、アイディア次第で何でもできると言えます。

大平 そうかもしれないですね。プラネタリウムが最初に開発されたのは1920年代ですが、技術的には特別難しい仕組みではありません。特に重要なのは星を映し出す角度の精度ですが、基本的には「枯れた技術」が使われています。だから、仕様書は書きやすい。「ここはこうしたいのでこう作ってほしい」という依頼はしやすいですね。

高橋 大平さんの会社は国内外の大きなプロジェクトが多いですし、ずっと新規開発も続けています。ここでもチームワークを重視しているのですか?

大平 僕がアイディアを出し、方向性を決めて、その後でエンジニアたちが形にします。皆で話し合って決めたりはしません。従来の製品では自分がいなくてもすむようになりつつありますが、星の量を数百万個から数千万個にするといった「改良」ではなく、製品の連続性を切っていくのはまだ私の仕事だと思っています。
例えば、新製品の「MEGASTAR-3V FUSION」は、輝星投影数をあえて135個に抑えてデジタル処理を優先させました。このようにすることで光学式とデジタル式の技術を同時に使った映像を表現できるのですが、こうした方法は過去にありませんでした。

高橋 不連続な進化は大平さんが個として尖っているからできるわけですよね。

大平 なるほど。そうかもしれませんね。

オンとオフ、ボクシングと日本拳法、将来は試合も?

大平 ひとつお聞きしたいことがあります。何らかの製品開発には「社会への貢献」という目的があっても、もう一方では「自分が好きだからやっている」という気持ちもあると思います。言ってみれば仕事のオンとオフですが、高橋さんはどう分けていますか?

高橋 僕がロボットを作るのは「好きだから」です。もともと工業製品フェチでして(笑)、クルマも時計もカバンも船も好き。ロボットを作るのもクルマの窓にシールドを張るのも同じ気持ちで、その差はお金が入るか出ていくかくらい。ですから、仕事のオンとオフは分かれていません。

大平 僕は会社員時代は就業時間内がオン、仕事が終わったらオフでMEGASTARの開発もしていたけれど、起業して常設設置の案件が増えてからは仕事が最優先。最近はずっと忙しくてオフらしいオフもないのですが、昨年会社を移転した場所の隣がボクシングジムで、ずっとそこに通っています。それが今の僕のオフ。
何も用事がなければ毎日行きますが、今は1日置きくらいかな。スポーツは全般的に苦手でしたが、ボクシングは面白い。

高橋 そういうオフでしたら、僕は20年ほど前から日本拳法とスキーのモーグルを続けています。団体競技がどうにも肌に合わなくて、ジムやランニングもしなくて、何というか極端なことをしたい性格なのでしょうね。

大平 お、日本拳法ですか。ボクシングのプロライセンス取得は33歳未満が条件なので、僕も高橋さんも無理ですよね。でも、「Theおやじファイト」といって、その上の年齢でもできる試合があるんです。よければ、将来お手合わせを(笑)。

高橋 「Theおやじファイト」は知ってますけど、大平さんはヘビー級でしょ。ずいぶん階級が違いますよ(笑)。

自己完結できるテーマを探して、「変なほう」へ進みたい

高橋 エンジニアにも個人で突出したい人はいるだろうけど、やはり会社の仕事がある。でも、探せば自己完結できるプロジェクトが見つかると思います。実際にアンダー・ザ・テーブルのプロジェクトから製品化された例もあります。
僕が何より言いたいのは、ためらわずに「やってしまえば?」ということ。才能があって結果を出している人もいるでしょうが、そんなエンジニアばかりではない。中には、才能がないのに才能があると思い込んで、それでも走り続けて、結果を出して成功する人もいます。勘違いすることもまた才能。悩むよりもまず動いてほしい。

大平 僕は、世の中がリスクに対して過敏になりすぎていると思う。失敗から学べることは本当に多いので、月並みだけどリスクを恐れずにやってみること。また、ルーチンワークや言われた仕事をきっちり完結させる人もいて、彼らが軽んじられるわけではない。だから、自分のタイプを見極めてこうした仕事に徹することもひとつの道だと思う。逆に言えば、突出した人は言われなくても勝手にやるもの。

高橋 僕はクルマが好きなのですが、同じくクルマにこだわる人で、本当に好きなクルマがあっても、結局は無難なクルマを買ってしまうんですね。周囲の目や安全性や燃費を考えてそうなるのでしょうが、僕だったら同じ金額で怪しいアメ車を買う(笑)。
これって人生の選択でも同じだと思うんです。人に相談されたら「絶対アメ車にしなよ」って無責任に言うくせに、いざ自分で買うとなると無難な選択になってしまう。だから、迷ったらまるで他人事のように考えて変なほう、変なほうへとあえて進む。

大平 まさにそう。変な方向に行くと鉱脈に当たる確率が増えると思う。また、ネットではなく実世界に飛び出すこと。すると、当初の目的以外の収穫も出てきますから。そんな方向に進んだ高橋さんは(笑)、これからどんなことをしたいですか?

まだまだ止まらない、高橋氏と大平氏のモノづくり

高橋氏が開発したロボットの「ロピッド」(左)とテレビCMでもおなじみの「エボルタ」

高橋 ひとりが1台の小型のヒューマノイドロボットを持ち歩く時代を実現したい。ロボットと日常的にコミュニケーションを取ることで、身の回りの家電製品から情報まで、個人の嗜好やライフスタイルに合わせてコントロールしてくれる。
そのときに、人の形や動きを模しているから、人はロボットに対して感情移入して話しかけることができるのです。そんな暮らしが15年後には実現できると考えています。
僕は変わった立場でロボットに取り組んでいるので、特にライバルと呼べるような人はいないです。だから、メーカーや研究者の既得権を侵しておらず、良好な関係が築けていると思います。大平さんはこれからどうしていくつもりですか?

大平 プラネタリウム業界では新参者ですから、まずプラネタリウムの進化は欠かせません。業界内でのバトルもあるので、アイディアを出して製品化し、時には特許を取得します。もちろん自信はありますが、一方の課題はこれから僕の仕事をどれだけ会社から手放していくか、ほかのスタッフに任せていくか。
これができて初めて、もう一度現場に戻るという選択肢も考えられます。そうなるかどうかはわかりませんが、ここ1〜2年でこうしたことを決めるつもりです。再び「個」としての開発を始めるかもしれませんね。

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