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エグゼクティブプロデューサー兼吉氏のゲーム制作のこだわりとは
KONAMIのソーシャルゲーム「ドラコレ」ヒットの要因
(株)コナミデジタルエンタテインメントのソーシャルゲーム「ドラゴンコレクション」は、登録会員数600万人以上という空前の大ヒットを記録。その作り手は、どんなプロセスで制作を行ったのか。エグゼクティブプロデューサー兼吉完聡氏に話を聞いた。
(取材・文/白谷輝英 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:12.05.16
登録会員数が600万人を突破した、大ヒットソーシャルゲーム「ドラゴンコレクション」
ドラゴンコレクション
ドラゴンコレクション
兼吉 完聡氏
株式会社コナミデジタルエンタテインメント
ドラコレスタジオ 兼吉プロダクション
エグゼクティブプロデューサー
兼吉 完聡氏

「ドラゴンコレクション」(以下、ドラコレ)は、コナミデジタルエンタテインメントが2010年9月にリリースしたソーシャルゲーム。リリースからわずか1カ月で「GREE」ランキングの1位を獲得し、その後も爆発的なペースで登録会員数を伸ばしてきた。2012年3月には累計会員数が600万人を突破し、空前の大ヒットを記録した。また、ソーシャルゲームとして初めて「日本ゲーム大賞2011 フューチャー部門 特別賞」を受賞するなど、業界内でも高い評価を受けているタイトルだ。

 ドラコレの企画・ディレクション・プロデュースを手がけたのが、「ドラコレ」や「戦国コレクション」をはじめとしたKONAMIのソーシャルゲーム制作部門「ドラコレスタジオ」でエグゼクティブプロデューサーを務める兼吉完聡氏。現在、ドラコレはもちろん、同社のソーシャルゲーム事業全般のプロデュースを担当している。ソーシャルゲーム業界のキーマンとして注目を浴びている人物だ。

 KONAMI入社前の兼吉氏は、映画やゲームに強い関心を抱いていた。中でも、映画的な表現で広く知られるゲーム「メタルギア」シリーズは、憧れの存在だったという。念願がかない、KONAMIに入社し、希望通り「メタルギア」シリーズの制作チーム・小島プロダクションに配属され、以来、「メタルギアソリッド2 サンズ オブ リバティー」「メタルギアソリッド2 サブスタンス」「メタルギアソリッド3 スネークイーター」「メタルギアソリッド3 サブシスタンス」といったタイトルにかかわってきた。

 入社後、兼吉氏の中では、ある想いが徐々に大きくなっていた。それは、オンラインゲームを手がけたいという気持ちだ。
「ゲーム制作の仕事を始めたころから、オンラインゲームには興味がありました。大きな転機になったのは、オンライン要素が付加された『メタルギアソリッド3 サブシスタンス』での制作経験です。お客様と直接つながり、みなさんが驚いたり楽しんだりしている様子をダイレクトに感じたことで、オンラインゲームに特化したクリエイターになりたいと思うようになったのです。中でも、誰もが持っている携帯端末で遊べるゲームには、大きな可能性があると感じていました」

「ゲームづくりのプロ」の誇りを抱き、短期間・少人数体制で質の高いリリースを果たす

 ドラコレがリリースされたのは、2010年9月14日。兼吉氏が中心となって制作を始めたのは、それから数カ月前だったという。
「コンシューマ系ゲームは、1つの作品に数年間かけることもあります。でもドラコレは、あえて数カ月という期間で仕上げることに挑戦しました。一般のソーシャルゲーム開発会社では、短期間でゲームを完成させるケースがほとんど。私たちも『ゲーム会社』という枠を取り払い、彼らと同じ条件で勝負したかったのです。また、ソーシャルゲームで成功するには、お客様が求めるものをゲームデザインとして、できるだけ短い期間で切り出すことが鍵。スピード感をもって制作を進めるべきだと考えました」

 制作体制も他の開発会社と同じ条件にするため、小規模なものにした。そのため、一人一人のメンバーがカバーすべき領域は、コンシューマ系ゲームとは比較にならないほど広がった。そこで兼吉氏は、ソーシャルゲームにふさわしい組織作り・意識改革を実施。まずは、ゲームのコンセプトを全員で共有した。また、担当する業務がはっきり区別された分業制ではなく、各自が判断して柔軟に動ける仕組みに変えた。その上で、メンバーには「スピード感」と「自律性」を持って制作に当たるよう強調したという。上司からの指示を待つのではなく、メンバー一人一人が考えて制作を加速する。それが、短期間・少人数で質の高いゲームを完成できた理由だった。

 2010年当時のソーシャルゲーム業界では、成功作のほとんどがソーシャルゲーム開発会社の手によるもの。同社をはじめとするゲーム会社はヒットを生み出せず、苦戦を続けていた。
「このままではゲーム会社がソーシャルゲームの分野で取り残されるという危機感がありました。私たちは、ゲームづくりのプロです。だからこそ、ソーシャルゲーム開発会社と同じ条件で、それ以上に面白いものを創らなくては自分たちの存在意義がない。自らに強いプレッシャーをかけて制作にのぞみました」

 兼吉氏は、既存のソーシャルゲームを徹底的に研究した。斬新なアイデアが盛り込まれたゲームも多く、その都度、クリエイターとして感銘を受けたという。しかし、まだ工夫できる要素はある。コンシューマ系ゲームで蓄積してきたノウハウを生かし、面白い仕組みを提供できれば、十分に勝算はあると考えたのだ。
「ドラコレは、モンスターを題材にしたカードゲームです。企画としては、ごく当たり前。ただ、お客様を楽しませる一連のサイクルを、コンシューマ系ゲームのノウハウとソーシャルの新手法を組み合わせながら、徹底的に煮詰めたのです。方向性は王道ですが、完成度の高さは飛び抜けていた。リリースする前から、チーム全員で自信を持っていました」

ユーザーと一緒にゲームを作り、彼らの期待をいい意味で裏切ることが喜び

 これだけ面白いソーシャルゲームは、ほかにないはず。兼吉氏は、そう確信していた。しかし、リリース当日の登録者数は、他の自社ゲームの水準をも下回る低調なものだった。
「他のソーシャルゲームと同じ条件というラインを守りたかったので、あえてプロモーションはしませんでした。でも、この内容ならたくさんのお客様が登録してくれると期待していましたね。それだけに、初日の動きが鈍かった時は、メンバー全員で激しく落ち込みました(笑)。ただ、盛り返すための仕掛けは準備していました。ドラコレでは、友達を招待したり、仲間にコメントしたりすることで、レアカードを手に入れられる仕組みを導入。初日にゲームをたっぷり楽しんだ人々が続々と友達を誘い、翌日からの会員数は爆発的に増えたのです。その結果、あらゆるKPI(重要評価指標)が劇的に改善。幸いなことに、落胆したのは1日だけでした(笑)。その後も強く伸び続け、短期間でランキング1位を達成する事ができました」

「遊んで楽しいゲームを作る」という根幹は、コンシューマ系ゲームもソーシャルゲームも変わらない。しかし、やはり双方の違いも存在するという。最も大きな差は、やはり「スピード」だ。不具合が見つかれば、できる限り短時間で修復を行う。ユーザーを飽きさせないよう、定期的にイベントを実施したり、ゲームをアップデートしたりすることも必要だ。
「アップデートもイベント企画も、のんびり進めていては間に合いません。素早い対応力が、ゲームを成長させる最大のキーポイントだと感じました。また、制作の初期段階から、イベントなどを組み込みやすい仕組みを作っておくことも大切です。細かい部分は企業秘密ですが(笑)、新しい仕掛けを取り入れても運営に負担がかからないようなシステムは、最初から用意していました」

 ユーザーの反応も早い。例えば、朝に始めた新イベントへの感想が、午後には兼吉氏の手元に集まってくるのだ。この「ダイレクト感」は、他では味わえない醍醐味だという。
「お客様と会話し、みなさんの力を借りながらゲームを作る感覚を持てることが、一番の楽しさですね。反対に、『常にお客様から見られている』というプレッシャーも感じます。何しろ、ゲームに関する悪い評価も、あっという間に伝わってくるのですから。それだけに、お客様の期待をいい意味で裏切り、『これは楽しい!』などの声がたくさん寄せられたときの快感は、ものすごく大きいものです」

KONAMIの底力に支えられ、自分で判断しながらゲームづくりに取り組める楽しさ

 ドラコレの成功を機に、コナミデジタルエンタテインメントはソーシャルゲームの方向に大きく舵を切った。ソーシャルゲームの制作チームは大幅に増強され、今では兼吉氏が制作を統括する「戦国コレクション」や、「プロ野球ドリームナイン」「Jリーグドリームイレブン」などのヒット作が続々と生まれている。

 同社がソーシャルゲームに力を入れている事実を象徴しているのが、「ドラコレスタジオ」の設備だ。
「以前のオフィスは、コンシューマ系ゲームの制作に適したオフィススタイルでした。仕事に集中できるよう、各メンバーの机はパーティションで区切られていたのです。でも、ソーシャルゲームを作るときは、メンバー同士で活発にコミュニケーションできる方がいい。そこで、新しく作られた『ドラコレスタジオ』では、パーティションが取り払われたデスクスペース、巨大なモニターを見ながらフラットに話ができる会議室、開放的な雰囲気の休憩スペースなどが用意されました。会社がクリエイターを大事にしていることが伝わってきて、作り手としてもモチベーションが高まります」

 現在「ドラコレスタジオ」が求めているのは、LAMP環境(Linux、Apache、MySQL、PHP、Perl)に対応できるエンジニア。また、今後は海外進出も視野に入れているため、海外志向の強い企画担当者・エンジニアも大歓迎だという。だが、単にコードが書けるというだけでは不十分だ。
「『ドラコレスタジオ』に合う人には、3つの条件があると思います。1つ目は、人から言われたことだけをやるのではなく、自分自身で考えてサービスを作っていけること。2つ目は、SNSに興味があり、お客様とのコミュニケーションを楽しめること。そして3つ目が、ものづくりにより深くかかわりたいと考えていることです。仕様書に書かれたことだけじゃなく、自分の頭を使って一歩進んだ制作を手がけたい人には、ピッタリの環境でしょう」

 ソーシャルゲームの市場は、まだまだ立ち上がったばかり。今後、市場規模はさらに大きくなると見られている。また、制作規模が拡大したり、ユーザーのニーズがさらに高度化したりする可能性も十分に考えられるだろう。だが、コナミデジタルエンタテインメントという会社には、どんなに状況が変化しても対応できる「底力」があるというのが、兼吉氏の意見だ。
「弊社はコンシューマ系ゲームを始めとするさまざまな分野で、さまざまな成功体験を積み重ねてきました。コナミグループは、デジタルエンタテインメント事業や健康サービス事業など、多彩な事業を展開しています。だから人材の層が厚いし、持っているコンテンツやノウハウも豊富。それらを生かすことで、他のゲーム会社・ソーシャルゲーム開発会社などにできないアイデアを実現することができると思うのです。また、今後スマートフォンの機能がさらに進化してソーシャルゲームのリッチ化が進めば、コンシューマ系ゲームのノウハウを持つ私たちにとっては有利に働くと思います。どんな状況にも対応できる、企業の底力。それは、弊社で働くメンバーにとって、強い支えになっていると感じますね」

株式会社コナミデジタルエンタテインメント ドラコレスタジオ 兼吉プロダクション エグゼクティブプロデューサー 兼吉 完聡氏

2000年に入社後、「メタルギア」シリーズの制作に携わる。2010年、「ドラゴンコレクション」の企画・ディレクション・プロデュースを担当して大ヒットにつなげる。現在は、KONAMIの主要なソーシャルゲームプロジェクト全体を統括している。

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