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「プラチナバンド」と呼ばれる900MHz帯を利用する認可を総務省から得たことや、スマートフォンなどの普及により活気づくソフトバンクモバイルが、基地局建設、無線網設計、サーバー設計など、約200名のエンジニアが必要だという。その背景と求める人材像を、佃英幸常務に聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:12.04.16
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ソフトバンクモバイル株式会社
常務執行役員 技術副統括/ モバイルネットワーク本部 本部長 佃 英幸氏 |
2012年3月1日、東京汐留のソフトバンクモバイル本社は、プラチナバンドに関する孫正義社長の記者会見で賑わっていた。プラチナバンドの認可はネットワーク満足度向上を目指すソフトバンクグループにとって積年の念願。孫社長も笑みを隠せない。その想いを深く共有するのは、ソフトバンクモバイル常務執行役員の佃英幸氏(技術副統括/モバイルネットワーク本部 本部長)だ。
孫社長は「これからはどこでもつながるソフトバンクを目指す」と決意を述べ、基地局の拡大計画にも触れた。ソフトバンクモバイルの佃氏も同じようにうれしさを感じる一人。しかし、そこで単に舞い上がれないのが実務の統括者だ。
電波をより遠くに、そして屋内にも届きやすくなるという特徴を持ち、接続率改善に大きな寄与を果たすと考えられるプラチナバンドだが、周波数帯を利用する認可を得られたからといって、後は何もしなくてもいいはずがない。2012年7月の900MHz帯サービス開始に向けて、専用の基地局開設計画を急速に進めなければならない。2016年の全国基地局4.1万、人口カバー率99.9%という計画は、容易に決して達成することができないクリティカルな数字だ。 |
今回のソフトバンクモバイルのエンジニア大募集は約200名規模。職種は大きく、基地局建設、無線網の設計、そしてサーバー・ネットワーク技術(伝送)に分かれる。最後のサーバー技術には、パケット交換、メール配送、Web変換などのネットワーク・サービスの企画・開発が含まれる。
三分野のうち、まず欲しいのは、基地局建設関連の技術者だ。移動体通信キャリアにとっての重要インフラといえば、無線基地局。どの地点に基地局を設置(置局)するかは、人口密度やトラフィックなどのデータからベストポジションが決まる。しかし、実際の置局にあたっては現場の住宅密集度やビルの立地状況、住民の意向など細かい情報を集めなくてはならない。
山間部では用地買収で難航することもあるし、都市部でも他社のアンテナが林立する中で、好ポジションを占めるためには、ビルオーナーとの交渉が欠かせない。アンテナの新設工事だけでなく、既設アンテナを一つひとつ900MHz帯に対応させるための改修工事もビッグプロジェクトだ。
橋梁や高層ビルを建てるのに比べたら、建築物のサイズははるかに小さいが、同時進行でマネジメントする物件の数は桁違いに多い。それに対応したプロジェクトマネジメント能力が必要になる。
「施工は協力業者が行うものの、建設計画は私たちが立て、施工のスケジュールや品質については私たちが業者を監督しなければなりません。地図と情報から現場の状況を予測する、場合によっては現地に足を運ぶ。そういう地道な努力とセンスがこの仕事には欠かせないのです」
基地局建設は、“地図や周囲の状況を読む力”が問われる仕事でもあるのだ。
佃氏の脳裏には、昨年の東日本大震災で倒れた基地局が今でもまざまざと蘇る。
「コンクリートポールはこういうときに弱く、やはり丈夫な鉄塔が必要だと実感しました。都市部だけでなく、どんな田舎でも通じるようにするために、それなりの鉄塔を建てなければならない。基地局のバッテリー持続時間も延ばさなければならない。課題は山積みなのです」
700/900MHz帯の割り当て状況
エンジニア需要は基地局建設周りだけではない。基地局一つひとつ異なるトラフィックを解析し、トラフィックの容量設計を行うエンジニアも必要だ。一般には無線網の企画・設計と呼ばれる仕事だ。
スマートフォンの普及で膨れあがる通信需要に応えるために、まずは基地局増設、無線機増強が欠かせないが、狭い場所に多数の設備を配置すれば、電波干渉も起こり得る。干渉を防ぐためには、セルの多層化など高度な技術力が必須だ。2012年2月からは通信規格AXGPを採用した「SoftBank 4G」のスタートもあり、無線網や個々の基地局の容量設計にはより繊細な技術が求められる。
「繁華街の待ち合わせ場所に近いアンテナには、小容量・多頻度のトラフィックが押し寄せます。住宅街では長電話、長時間のネット閲覧など、場所によってトラフィックのプロフィールが違います。それらを個々に分析し、最適容量を設計し、最適な設備投資を計画する必要があります」と、佃氏は言う。
観客・来場者が数万人に及ぶ大きなイベント会場では、トラフィックが過剰になり、携帯電話がつながりにくいということも発生してくる。「Aというキャリアはつながるが、Bというキャリアはだめだ」ということが実際よくある。お客さまからのクレームが解決できなければ、解約につながりかねない。そのため、収容力の大きなスタジアムやホール周辺での無線網の設計についても慎重を要する。
「私たちは、常に全国のイベント・カレンダーを収集し、集客や通信量の推移を予測しています。その意味では、単なる無線技術の専門家というだけでなく、世の中で今何が起きているかに興味のある人。なぜ多くの人々がそこに集まるのか、人間の行動心理のようなものに関心がある人が、この仕事には向いているかもしれません」
求められているのは、いわば“人の心を読む力”とも言えようか。
モバイルネットワークのエンジニアは、「地図を読む」「人を読む」に加えて、「電波を見る」ことも欠かせないと、佃氏は言う。
「私も若い頃はよくやりましたが、車にアナライザーを積んで、電界強度分析をするんです。毎日100km車で走りながら、地図と装置とメモに首っぴきですからね、下手をすると酔うんですよ。その頃は、車に酔わないエンジニアというのが重要な採用要件でした(笑)」
今はデータロガーが自動的に電波状況を収集するが、やはり現場に立つことは重要だ。そこで肌身で感じる周波数特性の違いは、基地局設計に必ず役立つ。
「電波に対する洞察力とでも言うべきでしょうか。電波は生き物ですからね、その様子が自分の目で見えるようになると、この仕事は面白くなりますよ」
電波の強度や品質を分析して、それに対する手当を行えば、ユーザーのクレームは減る。意外なほどダイレクトな手応えがあるという。それもこの仕事の醍醐味の一つだ。
「携帯電話やスマートフォンをこれほど高頻度に使い、かつ回線に高品質を求めるユーザーが多いのは、日本をおいて他にありません。しかもそのマーケットで多数のオペレーターがしのぎを削っている。外資系のネットワーク機器のベンダーもそこに注目し、みな日本でR&D開発を進めています。だからこそ、ネットワーク技術者にとっては“いま・ここ”がチャンス。私たちと一緒にモバイルキャリアの最前線で仕事をすることは、世界最先端の仕事をすることにつながっていきます」
周波数帯別 電波の到達距離イメージ
モバイルブロードバンド・ネットワークの仕事は、専門的なノウハウが必要であるがゆえに、経験者は決して多くはない。だが「プラチナバンド」900MHzの対応のためには一定の人数は不可欠。そのため、今回の募集では周辺技術の経験者にまで枠を拡大し、広く人材を募集することになった。
「私たちはあくまでもサービス提供事業者ですから、基地局の施工も、無線機の開発も直接携わるわけではありません。しかし、協力してくれる工事会社や機器ベンダーとの関係は極めて密なものがあります。そういう外部の業者さんと協業しながら、彼らを引っ張っていかなければならない。そのためには、論理的思考力、マネジメント力、交渉力、コミュニケーション力といったヒューマンスキルがベースになります。たとえ通信ネットワーク業界での経験がなくても、こうしたベーシックな仕事力があれば、入社後も十分キャッチアップ可能だと思います」
さらに付け加えれば、仕事のスピード感は大切だという。 「モバイルネットワークの世界は、日本の産業界の中でも競争が激しい業界。その中でも当社は、最もチャレンジブルな会社だと自負しています。しかも、社長の孫が即結果を求める人なので、号令が出たらすぐに動かなければならない。仕事のスピード感だけは他社に負けないと自負しているのです」
そのスピードの中で揉まれることで、通信業界の経験不足のエンジニアも瞬く間に成長できる。最初は失敗の連続だろうが、「失敗を恐れないこと」もまた同社の社風。チャレンジを続ける人こそ称賛する文化が同社にはある。
「キャリア採用者には、いくつものプロジェクトを経て、一刻も早くリーダーとして育って欲しい。別の業界での経験があり、我々の知らない知見を持っている人たちだからこそ、それが可能だと思うんです」と、佃氏は中途採用技術者への期待を語る。
最後に、今回のエンジニア募集は、東京本社だけでなく、各地の支社勤務を前提にした全国採用として行われていることにも注目したい。
「地域の無線網を拡充するためには、やはり土地勘が必要。東京だけではすべてが見えません。この街が今後どのように発展していくのかという産業立地や都市計画的な視点も欠かせません。東日本大震災の被災地も含めて、全国的に雇用を増やすためのお手伝いをすることも、私たちの企業としての使命です。私たちが全国のエリア品質を改善することで、多くのお客さまへさらに“笑顔”をもたらすことができる。そんな充実感を一緒に味わっていきましょう」
と、佃氏はこれからのエンジニアにエールを送るのだった。
日本テレコム(現ソフトバンクテレコム) 交換エンジニアを皮切りに太平洋証券(現UFJつばさ証券)にてデリバティブディーラーを経験。その後東京デジタルホンの開業から従事し、ジェイホン、ボーダフォンを経て現在に至る。
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