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スペシャリスト対談「分析結果のビジネスへのインパクトが魅力」

注目の職種!データサイエンティストに
なるための条件

本格的なビッグデータ時代を迎え、注目を集めている「データサイエンティスト」という新たな職種。今回、データ分析のスペシャリスト2人による対談から、データサイエンティストの役割や存在価値、また今後の活躍の可能性などについて探ってみたい。

(総研スタッフ/山田モーキン 撮影/勝尾仁) 作成日:12.10.31

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倉橋一成氏 iAnalysis 代表・最高解析責任者

倉橋一成氏
iAnalysis 代表・最高解析責任者

保健学博士(東京大学大学院医学系研究科)
東京大学で医療分野を中心に統計学を研究。機械学習に関して論文発表し博士号を取得。研究成果をビジネスに活かすために、卒業と同時に分析専門会社iAnalysis合同会社を設立。博士過程のころから製薬会社の統計アドバイザーも務める。 現在は医療分野のほかにソーシャルゲーム・Webサービス・金融分野などにおいて、統計学を応用したデータマイニングサービスを展開している。

佐藤洋行氏 株式会社ブレインパッド アナリティクスサービス部 ゼネラル・マネージャー

佐藤洋行氏
株式会社ブレインパッド
アナリティクスサービス部
ゼネラル・マネージャー

1977年生まれ。2008年九州大学大学院修了(農学博士)。
大学院にてリモートセンシング画像解析の研究に従事し、2008年ブレインパッドに入社。データアナリストとして化粧品会社をはじめとする大手通販企業のプロモーション、顧客構造分析、Webマーケティング支援にデータアナリストおよびプロジェクトマネージャーとして従事。2012年7月より現職。ダイレクトマーケティング、R&D、テキストマイニングなど幅広い分野でのデータ分析プロジェクトに精通している。

テーマ1 「データサイエンティスト」の定義とは?

―最近、「データサイエンティスト」という職種がクローズアップされていますが、一般的なデータ分析のスペシャリストである「データアナリスト」と何が違うのでしょうか?


倉橋:いきなり難しいテーマですね(笑)。私や佐藤さんと最近、データサイエンティストのしっかりした定義づけをしようと試みているのですが、なかなか線引きが難しくて。

佐藤:ただ単に「分析ツールを使える」というだけではデータサイエンティストとは呼ばないと思います。少なくとも大容量データを取扱えることと、もっと数字や技術とビジネス、双方を広く理解していることが前提になってきますね。

倉橋:データサイエンティストで重要なのは、「予測モデル」をつくれること。データを分析した上で、そこにフィットしすぎない予測モデルをつくるのは、非常に難易度が高いミッションなんです。

佐藤:データ分析の業務フローとして「1.データの抽出 2.抽出したデータの集計 3.集計したデータによる現状分析 4.予測モデルの構築 5.予測モデルを利用した施策の最適化 」という5段階があると考えています。その中で、データサイエンティストが特に「4.予測モデルの構築」というフェーズにおいて、重要な役割を担っているというのは一つの定義として成り立つと思います。

倉橋:一方のデータアナリストの場合、その前段階の集計や現状分析フェーズに主な軸足を置いているように思いますね。ただこれも場合によっては、一人ですべてのフェーズを対応できるデータサイエンティストもいます。
先ほど示した5つのフェーズも、そのどれもが重要な役割を担っています。データアナリストとデータサイエンティストの違いは、現時点ではどのフェーズに注力するかの違いで区分けされるような気がしますね。

佐藤:職域の上下を、その職種の人が生み出すビジネスインパクトの大きさで測るとしても、集計だけでビジネス的な価値を生み出せる場合もありますしね。もちろん、予測や最適化がビジネスにおいて価値を生み出しやすい場面は多くありますが。データの量についても、扱うデータの量が多いほど、ビジネスインパクトが大きいかというと、必ずしもそうではないですし。

テーマ2 データサイエンティストに必要な能力とは?

―次にそのデータサイエンティストにとって、必要な能力についてお二人にうかがいたいのですが。


倉橋:2つの能力が必要です。ひとつはまさに分析・統計学的な専門スキルや知識。もうひとつはコンサルティング力やビジネス的知識。分析や予測をするにも、そのテーマとなる仮説が必要です。そこで仮説を持つ方から詳細なヒアリングをして、仮説をうまく引き出して、その中身をしっかり理解する能力が必要なんです。

佐藤:理想はこの2つの能力を完璧に備えることですが、そんな人はなかなかいません(笑)。ただどちらか一方のスキルしかない場合、いろいろ不都合な面が出てきますよね。だからどちらも“ある程度のスキル”があることが大事なんだと思います。
確か倉橋さんは医療系から発展してデータサイエンティストになったんですよね?

倉橋:僕の場合、医療系の統計研究室で統計の研究をしていました。その時、多くの医師から統計に関する相談や仮設をヒアリングすることを実践していたので、それによって分析能力と対話能力の2つの能力を自然と身につけることができた気がします。

佐藤:学生時代にすでに専門家から仮説を引き出すことをしていたんですね。私は農学部で農地を衛星画像で解析する研究をしていました。農地の変化は画像で理解できるのですが、農地の管理方法は実際に農家の方に聞かないとわからない。そこでいろんな方からヒアリングする経験が積めたことで、倉橋さんと同じように2つのスキルを身につけられたのだと思います。

倉橋:あと重要なのは“バランス”ですね。予測や最適化のミッションは将来、役に立たないことも多いので、あまりデータばかりに固執せず、そのデータを有するクライアントや関係者と話し合いながら、バランス感覚を持ってデータ分析していく必要があると思います。

佐藤:データとビジネスモデル、双方を理解した上で、ビジネスインパクトを持つ、本当に役立つ分析を実行する能力が重要だと思います。

テーマ3 データサイエンティストに最も近い職種とは?

―これまでのお二人のお話からすると、データサイエンティストになるためのハードルは高いように思われます。実際にどんなタイプや職種の方が、データサイエンティストに近いポジションにいるのでしょうか?


倉橋:そもそもPCアレルギーや「エクセル使いたくない」みたいなタイプは、まず難しいでしょうね(笑)。でもITエンジニアであれば、それだけでかなりデータサイエンティストへのハードルは下がるのではないでしょうか。

佐藤:特にデータベースを使ったアプリケーション側にいるエンジニアであれば、データ分析に関する技術面はすぐにでもクリアできそう。

倉橋:RやPythonなどのデータ分析に関する主要言語は、エンジニアの方は覚えて使えこなせるようになるなでそんなに時間がかからないです。あとはデータを持つ相手から仮説を引き出すヒアリング力やビジネス知識を身につけることが大事だと思います。

佐藤:例えばある顧客から「DM発送の効率化を図るためのデータ活用をしたい」という依頼が来たとき、こちらは純粋に効率化だけを突き詰めて分析〜予測します。でも顧客側には、「優良顧客にはすべて発送しなければならない」という常識があったりするんです。その優良顧客を除いたほかの顧客へのDM発送を効率化したい思いが本心としてあっても、常識と思っているので言わない、あるいは言い忘れる。こういったことを聞き出すためには、丹念なヒアリングをする必要があるんですね。それによってビジネスインパクトを持つ、本当の分析や予測ができるのです。

倉橋:私の場合、「データはあるけどどういう分析をしたら良いかわからない」と相談をされることがあるのですが、そのときは必ず「何をしたいですか?」と聞くようにしています。先方の目的を深掘りして聞いていくことで、どんな分析をしたら良いか提案できるようになりますし正直、ある程度の業界知識がないと先方との会話は難しいです。ただし実際、データサイエンティストはさまざまな業界の顧客を相手にしなければならないので、すべての業界の知識を細かく把握するのは難しい。そこで僕の場合はまず医療という専門分野で徹底的に経験を積んで「業界の常識を引き出す能力」を高めた後、ほかの業界に横展開していきました。

佐藤:そういうスキルやノウハウに関して「横展開できるフレームワーク」みたいなものは必ずあると思いますね。ただそれをうまく形にできてないだけで。

テーマ4 データサイエンティストの仕事の魅力とは?

―実際のところ、データサイエンティストの魅力や仕事のやりがいに関して、お二人はどのようにお考えでしょうか?


倉橋:ビジネスとインフラ、双方の橋渡しができることですね。そもそもITとマーケティングは仲が悪い(笑)。

佐藤:マーケティング側は直感に頼ったり、自分の手にある限られたデータからの分析だけで施策を打ち続けていて、逆にインフラ側は定型的なレポートは提出するけれど、それがビジネスにおける施策立案に活かせていない、というようなことも多いですね。そのような中、経営側はこれまで多額のインフラ投資をしてきたのに、それに見合う成果が数値として見えない現状に不満を持っています。そこにデータサイエンティストが活躍するチャンスがあるわけです。

倉橋:実際、マーケティング側の感や経験と、インフラ側のデータを活用して分析・予測・最適化していくことで、確実に自社のサービスの品質や売上向上につながった事例が山ほどあります。サービス改善ではZynga、Amazon、Netfrixなどが行なっているA/Bテスト。Web業界では介入評価が簡単に行えるので分析も行いやすいです。他にもコスト削減や新商品開発にも利用できます。米鉄鋼会社Rocky Mountain Steel Millsという会社は、ある工場を再稼働するかどうか意思決定するために、データを見ながら需要予測を活用。収益が予測された段階で再稼働を決定できたわけですが、もし早まって生産再開していたら、4,300万ドルの損失を受けるところだった、というように。(『分析力を武器とする企業』より)
このように自分の分析結果が直接サービスの改善につながる。この「目に見えるインパクト」は体験してみるとかなり衝撃的ですし、やりがいも感じます。

佐藤:その他にこの仕事の魅力を感じるのは「面白い課題設定と提案ができたとき」ですね。データ分析を活用することで、ビジネス的な課題を解決するためのヒントが一目瞭然となる瞬間。長年わからなかったものがわかるようになることで、顧客が明らかに驚き喜んでくれる面白さがあります。

倉橋:どういう分析をして、そのためにどんなデータが必要なのか?そこで理想の分析設計ができて、理想のデータを引き出せた時はテンションが上がりますね(笑)。

テーマ5 データサイエンティスト活躍の可能性

―最後に今後のデータサイエンティストの活躍は、どのように広がっていくのか?お聞かせ下さい。


倉橋:まずWeb系における活躍範囲が飛躍的に広がっていくでしょうね。それに私が専門の医療系も伸びるはずです。電子カルテや効果的な治療をするためのデータ分析など、やるべきテーマは無数にあります。

佐藤:私もWebマーケティングの領域が一番大きな可能性を秘めていると思いますね。それに今後、3D画像などの高度化されたセンサーデータや非構造化データも分析の対象になってくるので、対象範囲が飛躍的に広がりさらに面白くなるはず。

倉橋:そもそも現時点で、ビッグデータに象徴されるように、データ増加率に対して分析キャパシティが圧倒的に追い付いていない(笑)。だからこそ、データサイエンティストの活躍領域も圧倒的に大きいのです。

佐藤:仕事に対して何か大きな“手ごたえ”を求めている人には、最適な環境ではないでしょうか。もちろん、成功も失敗も両方含めてですけど(笑)。

倉橋:クリエイティビティを如何なく発揮したい方にこそ、もっとデータサイエンティストに関心を持ってもらい、活躍してほしいですね。

エンジニア向け実務スキル評価サービス「CodeIQ(コードアイキュー)」で、データ分析に関する問題を出題!


株式会社リクルートキャリアが運営する、自分の実力知りたいITエンジニア向け実務スキル評価サービス「CodeIQ(コードアイキュー)https://codeiq.jp/」では、今回ご登場いただいた倉橋氏、そして佐藤氏が所属する株式会社ブレインパッドからも11月を予定に、データ分析に関する問題を出題。(※倉橋氏の問題はこちら https://codeiq.jp/ace/kurahashi_issei)
自分のスキルがどれだけの価値を持つのか? そしてデータサイエンティストに向いているのか?
一度トライしてみてはいかがだろうか。

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