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電子書籍サービス「kobo」、英語公用語化で進むグローバル戦略
三木谷社長が自ら語る「楽天はどこに向かうのか?」
店舗数3万9000店以上、流通総額(取扱高)も1兆円を超えた楽天市場を中心にさまざまな事業を展開する楽天。現在、電子書籍サービス「kobo」や海外企業の買収、社内公用語英語化などでも注目の三木谷社長にグローバル展開と技術者について語ってもらった。
(文/上阪徹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/刑部友康)作成日:12.08.08
世の中を「便利にする」だけでなく、「元気にする」のがミッション

Q:国内ナンバーワンではなく、ゴールはあくまでも世界一のインターネットサービス企業だとおっしゃられています。どのようにして、そのためのステップを進められるのでしょうか?

三木谷 浩史氏
楽天株式会社
代表取締役会長兼社長
三木谷 浩史氏

 いま、世界で知られているインターネット企業といえば、グーグルであったり、アマゾンであったり、Facebookであったり、場合によってはマイクロソフトやアップルも入ってくるでしょう。まずは、この一群の仲間入りをすることが必要ですね。

 楽天は日本ではネット企業としてトップランクの位置にいると思っています。しかし、残念ながら世界に出ればそうではない。サッカーのワールドカップでいえば、予選は突破できているんです。ベスト16には残った。これから、その先を目指していく。準決勝や決勝に向かいたいということです。

 そのために必要なのは、「イノベーションとオペレーション」だと考えています。いま、世界をリードしているネット企業は、イノベーションでガンガン押してきているわけですね。楽天は、イノベーションとオペレーションを組み合わせたいと考えています。

Q:イノベーションは、圧倒的に海外が進んでいる印象があります。

 ただ、いま世界で行われているイノベーションというのは、無機質なものが多いという印象があるんです。とにかく顧客、エンドユーザー主義、弱肉強食で市場原理がすべて決めます、というような。一気に世界を席巻して、顧客主義を標榜して、根こそぎ持って行ってしまう。そんな印象がないですか。実は、ここに強い抵抗感をもっている国々も少なくないのです。

 楽天は、ローカルエコノミーや中小企業を、インターネットを使ってどうエンパワーメントするか、というビジョンから生まれました。インターネットを使って世の中を「便利にする」だけでなく、「元気にする」のがミッションなんです。

 他の世界的な企業との最大の違いは、インターネットに詳しい人や、ネット感度の高い人だけがうまくいく仕組みにするのではなく、いろんな人たちがインターネットを活用してビジネスができるようにすること。端的にいえば、顧客、エンドユーザーだけを見るのではなく、サプライサイド、つまり店舗側も見てきたんです。

 私たちはWin-Winコマースと呼んでいますが、既存の店舗や流通を破壊してしまうのではなくて、既存の店舗や流通も栄えて、しかも消費者も栄える仕組みをつくりたいんです。BtoBtoCといえば、わかりやすいかもしれません。そのほうが、社会は元気になるじゃないですか。ただ便利になるからと、既存の社会的な価値を破壊してしまうのは、どうかと思うわけです。

 もちろん顧客、エンドユーザーへのサービスも厚くしていきますが、店舗へのサービスも厚くしていきたい。そんなモデルをつくりたいんです。

欧米迎合ではなく、日本の良さを世界で展開するための英語化

Q:英語公用語化で社を挙げて海外に出ようとしていますね。

 英語化や国際展開は、もっと深いところまで考えています。これはぜひ勘違いしないでいただきたいのですが、欧米に迎合するために英語化をしているんじゃないんですよ。日本の良さを世界で展開するために、英語化している、というところもあるんです。日本の良さを海外に持ち込むための手段なのです。

 例えば、日本のサービスって、素晴らしいじゃないですか。日本人的なサービスのメンタリティの高さは、海外を知れば、みんな気が付くわけです。日本語にすれば、「おもてなしの心」。この「おもてなし」の精神の素晴らしさやビジネスとしてのサービスレベルが日本では極めて高いことは、世界的に認知されているわけです。これは、日本発の企業にしかできない、楽天にしかできないインターネットサービスにつながっていくと思うんですね。

 現在の世界的なネット企業にはない価値が提供できる。でも、それが日本語で行われていたら、世界の人たちは理解できない。だから、英語化の意味があるわけです。英語という世界60億人の公用語を使えば、日本発ならではの強みを、インターネットビジネスを通じて、世界に伝播させていくことができる。これは、楽天ならでは、のサービスになっていくということなんです。

Q:しかも楽天は、他のネット企業にない、金融業を展開されていますね。

 そうなんです。楽天のビジネスの特徴として、リテールとしてのEC、アフィリエイトとしての広告ビジネスに加えて、ファイナンスという金融事業を持っている点は大きいですね。他のグローバルプレーヤーは、ファイナンス事業を持っていないし、コングロマリット化もしていないんです。

 その意味では、ビジネスモデルが多様でかつグローバル展開という楽天エコシステム(経済圏)を通じて、イノベーションし続ける循環をつくっていけると考えています。しかも、銀行があったり、証券があったり、クレジットカードがあったり、メディアもあるし、マーケットプレイスもあるし、直販もあるという、より多岐に渡るビジネスを展開していると、システムが極めて複雑になるんですね。これを支えるには、かなりしっかりしたオペレーションが求められる。イノベーションだけではなく、オペレーションにも強みを持てるということ。

 だから、楽天らしいイノベーションと、楽天らしいオペレーションの組み合わせで、世界に出て行きたいと言っているのです。サッカーワールドカップの、より上位の戦いに挑みたいんです。

楽天のトランザクションデータというとんでもないもの

Q:世界と勝負していくための、技術面での取り組みはいかがでしょうか?

 楽天は常に、テクノロジーとエンジニアを中核に据えてきました。サービス会社であっても、テクノロジーを持たなければならないと考えてきたからです。僕はエンジニアではなくビジネス寄りの人間で、オンラインマーケットを創造するというアイデアを思い付いたものの、プログラムのことは知らなかった。

 それで、まずは優秀な大学生を雇ったんです。アウトソースする代わりに、若い人間を鍛えた。楽天が大きくなった理由の一つは、プログラムを内製することを諦めなかったからだと思います。成功する秘訣は、テクノロジーを所有することなんです。特にITサービスやネットビジネスでは、創造性はビジネスサイド以上に、エンジニアサイドから生まれるべきだと思っています。

 だから、技術への取り組みについては超本気ですよ。グローバルにプラットフォームをつないでいこうという点に関しても、超本気です。Rubyのまつもとゆきひろさん、吉岡弘隆さんなど、各方面から技術的な権威を楽天に巻き込んできたのも、その一つです。

Q:研究機関として、楽天技術研究所をお持ちですね?

 技術のイノベーションという点では、楽天技術研究所が中心になります。すごい頭脳集団なんですが、特に明確なオブリゲーションはないんですよね。自由な世界観でイノベーションを担おうとしている。唯一のリクワイアメントは、将来楽天の役に立つと思うことをやるということだけです。遊びに近くてもいいと思っている。好きなことやってくれていい、と。

 それこそ目の前には、楽天のトランザクションデータという、とんでもないものがあるんですよ。これがどうやったら、もっと価値あるものになるか。それがあるから、何も言う必要はないとも思っていますし。ただ、やってほしいことは、ビックデータ関連の研究、開発にとどまらないですけどね。

 実は僕は詳しく理解できないものもあるんですが、楽天のレコメンデーションエンジンとか、画像分析技術とか、ビッグデータ用のサーバーもRubyで自分たちでつくりだしていたり、チップも開発したりしている。すごいことをやっているんです。

世の中に、人に喜ばれるものをつくれている、という喜びがある

Q:海外にも、研究拠点があるそうですね。

 総勢50人ほどですが、ニューヨークに7名います。それと、今度パリにも拠点をつくります。ニューヨークのヘッドは、自然言語についての世界的権威で、ニューヨーク大学にも籍を置いている人物ですが、彼が超天才ギークたちを連れてきてくれるんですよ。楽天のビジネスを面白がってくれているみたいです。とんでもない量のアイテムや商品をどうマッピングするか、どう解析するか、どう紐付けるか。

 また、「ひとけ」がわかる、と社内では言っていますが、リアル空間ではお店の前に行列があれば、その店舗が人気であることはわかりますよね。Web上でもそれがわかるようなアプリをつくってきたりする。発想がすごいんですよ。まさに、Webショップ技術の最先端を行こうとしています。

「労働時間の2割を自由研究にする」ということで話題になった企業がありましたが、楽天は、好きなことだけをずっと自由にやっていられる集団もつくっているんです。

Q:研究だけではなく、エンジニア全体が、とても元気な印象があります。

 仕事を楽しんでくれているからではないでしょうか。エンジニアといっても、プロデューサー、プログラマー、R&D職などたくさん職種があって、またたくさんのエンジニアがいますから一概には言えませんが、「人に喜ばれるものをつくれている」という喜びの声が聞こえてくることは多いですね。

 だからやっぱり、世の中の役に立つものをつくりたい、人に喜ばれるものをつくりたい、という気持ちをお持ちの方に来てほしいですよね。世の中を便利にするだけではなくて、元気にする。ローカルビジネスや中小企業をエンパワーメントする。そういうミッションを持った楽天というプロジェクトに参加したいという気持ちがとても重要だと思います。コミットメントとオーナーシップ、アカウンタビリティを持てる人です。実際、やっぱり人の役に立てている、喜ばれると、やりがいは大きく高まると思うんですよ。

楽天なら世界で勝てるかもしれない、という共感が高まっている

Q:海外に留学中の日本人学生からの問い合わせが増えていることはもちろん、世界の超一流大学からの外国人学生の問い合わせも少なくないそうですね。

 英語公用語化も効いていると思いますが、特に最近は、Pinterestへの出資をリードしたり、Kobo社がグループに加わったりしたことで、楽天の知名度がグローバルなインダストリーで一気に上がりましたから。それこそ、無機質で既存の小さな店舗を破壊するビジネスとは違う、という共感を世界からもらえたり、こいつらならそういうビジネスに勝てるかもしれない、新しい境地が開けるかもしれない、という期待の声がものすごく大きくなってきているんです。その意味でも、楽天で働きたいという人は増えていると思いますよ。

 地元の小さな店舗がなくなってしまう、時代の波にのまれて困っているという姿を見て、心を痛めている人は多いですからね。楽天は、そういう店舗を楽天の仕組みで売れるようにしてあげることができる。どっちがやりがいがありますか、ということです。Win-Winコマースという考え方は、世界に通用すると改めて思いました。消費者が便利になればいい、だけじゃなくて、店舗も栄えてほしい、社会も元気になってほしいとみんな思っているんですよ。

著書「たかが英語!」
著書「たかが英語!」

 それこそ、楽天の取り組みは、ネット上での都市開発、街づくり、街おこしなのです。そういうお祭りが好きな人にぜひ来てほしい。これから世界でブランドウェアネスも上げていって、もっともっと世界で知られる会社になりますからね。ますます面白いことができる会社になると思いますよ。

楽天株式会社 代表取締役会長兼社長 三木谷 浩史氏

1965年神戸市生まれ。88年一橋大学卒業後、日本興業銀行に入行。93年ハーバード大学にてMBA取得。興銀を退職後、96年クリムゾングループを設立。97年2月エム・ディー・エム(現・楽天)設立、代表取締役就任。同年5月インターネット・ショッピングモール「楽天市場」を開設。2000年には日本証券業協会へ株式を店頭登録(ジャスダック上場)。04年にJリーグ・ヴィッセル神戸のオーナーに就任。同年、50年ぶりの新規球団(東北楽天ゴールデンイーグルス)誕生となるプロ野球界に参入。11年より東京フィルハーモニー交響楽団理事長も務める。2012年6月28日に社内公用語英語化等について書いた著書「たかが英語!」を発売。

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