スマートフォン、EV、次世代送電網…、新領域での需要急増! |
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アナログ回路が大復活!
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「電気の職人」アナログ回路設計者に仕事が集まる理由
――セミコンダクタポータル編集長 津田建二氏
「デジタル時代」で激減した人材に、成長産業で需要が急増
株式会社セミコンダクタポータル
編集長
国際技術ジャーナリスト
津田建二氏
「アナログ回路をひと言でいえば、自然界と電気の世界の入出力インタフェースです。なくなるはずはないのですが、80年代にデジタルエレクトロニクスの時代がきました。このためデジタル回路設計者が増加し、逆にアナログ回路設計者が減ってしまった。これが現在のアナログエンジニア不足の大きな理由です」
こう語るのはセミコンダクタポータルの編集長、津田建二氏だ。津田氏はデジタル回路のメリットを、1/0の世界なので誤りの訂正が容易にできること、圧縮できること、データをたくさん積め込んで処理できることだと語る。
「ただ、デジタル回路設計は、VHDLなどの言語で機能を記述するプログラミング。言語がわかれば作業ができるので、電子回路を知らない人も実際にいる。一方のアナログ回路はその調整が大変なので基礎知識と経験が必須で、経験10年ではまだ『小僧』、20〜30年で一人前になるという職人の世界。全く別なのです」
絶対数の不足に加えて、近年ではアナログ回路のニーズが急増している。将来に向けた成長分野で驚くほど使われているためだ。太陽光発電や風力発電、EV、スマートグリッド(次世代送電網)、医療機器やヘルスケア、スマートフォンなどに使われる加速度センサーもアナログだ。
また、「コネクティビティ」という言葉を津田氏は挙げる。スタンドアロンで稼働する機器同士をBluetoothやWi-Fiなどの無線でつなぐという考え方で、ここでもアナログ回路が必須となる。
「デジカメで撮影した画像がそのままサーバーやクラウドに転送されて保存される。EVの運行状況がデータセンターに送られて、バッテリーがなくなる前に周辺の充電器の場所を教える。生体情報が携帯電話などを介してリアルタイムで病院に送られる。こうした利用方法が今後は拡大すると思います」
アナログ回路のニーズ拡大に伴い、一時減少していた大学での講義も増え、企業の人材育成も始まっているが、長い間の「ツケ」を取り戻すまでには至っていないのが現状だ。
差別化の要となるアナログを学ぶには「ワクワク」から
アナログ回路に期待されているのが「差別化」だ。下図は津田氏提供の「電子システムの信号チェーン」。これを見てわかるように、組み込みSoC(System On Chip)以外はすべてアナログであり、かつSoCの中で差別化できるのはROM(ソフト)と周辺回路(ハード)くらいだという。
ただ、ソフトのOSにはLinuxやAndroidが使えるし、ミドルウェアも一から開発はしないだろうから、実際の差別化要因はアプリケーションくらい。「他社に先んずるにはアナログ」ということになる。
「わかりやすい例ではモニターの『色味』で、この調整ができるのがアナログ回路設計者。また、携帯電話やスマートフォンに電池、マイク、カメラなど電圧の違う10種類にも及ぶ製品が入っていますが、これらを制御する電源(パワーマネジメント)を制御するのもアナログの仕事です。デジタルの回路設計は将来、インドなどでオフショア開発する時代がくるかもしれません」
これからはアナログ、デジタル、ソフトウェアのわかる人が求められると津田氏は語る。この3つがわかれば「何でも作れる」し、顧客の要望を聞いて開発につなげるキーパーソンにもなれるからだ。しかし、上記のようにアナログを学ぶには時間がかかる。そこで津田氏は、「自分でやって楽しいこと」「ワクワクすること」を考えて、それを実現する技術手法を考えてみてはどうかと提案する。
「そこには必ずアナログの要素が含まれてくるからです。私は日本発売前のiPhoneをアメリカで見て、触って、『これは楽しい』と感じました。任天堂のWiiも同じです。『ワクワク』をきっかけにアナログ回路を学ぶわけですが、これは新商品開発にもつながりますから、一石二鳥ですよ(笑)」
電子システムの信号チェーン
基礎知識、経験、論理的思考力で「アナログ時代」に対応
――技術者派遣大手 アルプス技研
EV、HEV、再生可能エネルギーでアナログ回路ニーズが拡大
株式会社アルプス技研
業務執行役員
技術部長
小林節夫氏
技術者派遣大手のアルプス技研。大手企業を中心に数多くのメーカーから請負や受託開発を行う同社だからこそ、昨今の「アナログ回路設計ニーズ」が見えてくる。技術部長の小林節夫氏は、アナログ回路のエンジニアニーズはこの2〜3年で顕在化したと語る。
「主な要因はEVやHEVなどのエコ自動車と、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの市場拡大です。こうした業界では熟練のアナログ回路設計者が求められますから。この傾向は初代プリウスの登場(1997年)から見えていましたが、急激に膨らんだのは数年前からです」
一方では、テレビなどのデジタル家電や白物家電が新興国に押され、国内メーカーからのデジタル回路設計の依頼が減ったことも一因だという。デジタルのトレンドが落ちたことで、相対的にアナログが浮かび上がってきたようだ。
この背景には、1980年代初頭から起こった「デジタル化の波」により、現在まで続くアナログ回路設計者の減少がある。技術教育グループの田中吉彦氏は、その時代を肌で知る元電気エンジニア。大学や高専などの教育機関で、アナログ回路を深い内容で教える講座や教える人材が減ったこともあり、同社では新入社員の教育研修に注力している。電気系のエンジニアならアナログをベースにして、座学と実習で通常2カ月、長い場合は3カ月の研修を行うという。
「技術教育を担当して6年目になりますが、今の新入社員はモノづくりに触れる機会が少ないと感じます。例えば、はんだこてを持ったことがない人もいる。モノに触らせるのが理解の早道ですから、講習より実習が中心で、特に数年前からは『電力の制御』に特化させています。先ほど小林が言ったEV、HEV、再生可能エネルギー、将来的にはスマートグリッドに向けた人材を育成するためです」
人材ニーズは企業単位でさまざまだ。当然だが同社に依頼をするのは人手が足りない、すなわち好業績な企業であるため、同業界であっても個社で差が出る。そのため、回路設計エンジニアへの現状のニーズは「部分的」であるという。ただ、小林氏と田中氏は口を揃えて、今後はますます増えていくだろうと語る。
「新入社員でなくすでに働いている社員には、土日を使って研修をしています。研修センターに来られない人は各拠点に集まってもらい、テレビ会議システムで行います。今後はアナログ回路の人材不足が深刻化すると思うからです」(田中氏)
求められるのは経験を積むことと論理的な思考力
技術部
技術教育グループ
田中吉彦氏
アルプス技研ではアナログ回路とデジタル回路で人材を分けていない。商品やプロジェクト単位で仕事を請けるため、アナログとデジタルもそうだが、ソフトウェアとデジタルの線引きもしていないという。例えば、EVはアナログ的、テレビはデジタルに近いなどの差はあっても、それに適した人材を派遣しているとうわけだ。
しかし、アナログ回路で一人前になるには時間が掛かる。無線系エンジニアとして13年勤めた後、同社に転職して17年間現場で働いた田中氏は、「電気屋のベースはアナログだが、電気は広い」と語る。同じアナログ系であっても、入っていきやすい分野とそうでない分野があるという。
「家庭用の低電圧、あるいはオーディオなど趣味として接せられる分野は入りやすいでしょう。難しいのは通信機器やカーナビなどに使われる高周波や、送電系や発電所などでの高電圧。技術レベルもそうですが、個人的に学べず、テキスト自体も少ないからです。専用の計測器が用意できない高機能医療機器も同様ですね。習得には10年以上の経験が必要になると思います」
これらを自分のものにしていくには何より経験の積み重ね。すると、「延長線」で考えられるようになると田中氏は語る。まずは趣味関連やわかる範囲でのアナログから接して、徐々にレベルを上げていくことが、地道に思えても一番の早道になりそうだ。
また、求められるエンジニア像について小林氏は、「論理的な思考力」が再認識されていると語る。
「アナログを理解したうえでどんな仕事ができるか、が大切なのです。極端に言えば、キーボードを叩くだけの仕事なら器用さでまとめてしまうこともできます。でも、それはエンジニアの仕事ではない。回路に限らずどの技術分野にも言えることですが、基礎的な知識に加えて論理的思考ができないと、応用が利かないのです」
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