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ループス斉藤徹氏に聞いた「エンジニアならではの利用特性は?」
エンジニア800人に聞いたソーシャルメディア利用実態
日常の情報収集や企業のマーケティングで、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアを活用するケースが増えてきた。ITリテラシーも高く、情報感度の高いエンジニアは、どう活用しているのか。800人の利用調査と、ループス斉藤徹氏への取材から実態を探る。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/関本陽介)作成日:11.05.27
震災でも活躍したソーシャルメディア。800人のエンジニアに利用度を聞いた

 3月の東日本大震災では、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)が大活躍したと言われる。Twitter上では震災後すぐに家族・親族の安否を尋ねる情報が飛び交い、ハッシュタグをつけることで、地域ごとの被災・避難情報が共有される動きもあった。これはmixiなどでも同様である。「TwitterやFacebookには、震災情報が集まっているから」と、この時期に初めてアカウントを取得する人も急増した。

 電源とインターネット回線さえ生きていればという条件付きだが、Twitter、mixi、Facebookなどのソーシャルメディアは、災害時に強いコミュニケーション・インフラとしてその特性を発揮した。インターネット・ルーティングの冗長性やサーバー技術の向上がその実力を発揮したのだ。

 震災を通してその有用性が注目されるソーシャルメディアだが、もちろんエンジニア系人種であれば、日常からその利用には関心が高いはずだ。とりわけ日常的にITを仕事に利用する層にとっては、電話よりも使いやすいコミュニケーション・ツールでもある。ソーシャルメディアは友人・知人たちとの何気ないおしゃべりから、イベントの告知、新商品などの宣伝・マーケティングまで幅広く使われるようになってきた。

 20代〜30代のエンジニア800人を対象に行ったアンケートから、エンジニアがどのようにソーシャルメディアを利用しているのか。その現状を垣間見ることにしよう。なお、今回アンケートで対象としたソーシャルメディアは、Twitter、Facebook、mixiである。

mixi 56%、Twitter36%、Facebook18%が利用。女性とソフト・ネット系が強い

 利用率が高いのは、mixiが55.9%、Twitterが36.3%、Facebookが17.6%という順番。これは日本での定着の度合いをそのまま物語っている。ただ、利用しているとは言っても、「登録をしているがほとんど利用していない」比率は高く、1日に数回という多頻度での利用は意外と少ない。(DATA2参照)

 Twitterについてやや詳しく見てみると、男性・女性比では女性のほうが多く、また、職種別では「ソフトウェア・ネットワーク関連」が「ハードウェア関連」を上回るという結果が出ている。女性層では15.9%が「一日に数回以上」というヘビーユーザーだ(男性は8.1%)。なかでも、20代女性の多頻度ユーザー率23.8%は抜きんでている。こうした傾向はmixi にもある程度当てはまる。

【DATA1】エンジニア800人のソーシャルメディア利用状況

 職種別に細かく見ると、「一日に数回以上、かなり頻繁に利用している」のヘビーユーザーは、「コンサルタント・アナリスト・プリセールス」「通信インフラ設計・構築(キャリア・ISP系)」に多い。業種的に多頻度ユーザーが多いのは、「インターネット関連」と「コンピュータ・通信機器・OA機器関連メーカー」。Twitterがもともとアメリカ生まれであることや、インターネット関連業種ではコミュニケーション・ツールとしてTwitterとの親和性が高いという事情が背景にある。(DATA5)

 Twitterで男女比の頻度傾向を紹介したが、Facebookはやや異なる傾向を示している。「1日に数回」「1日に1回程度」「週に数回程度」の合計は、男性で7.1%占めるのに対して、女性は4.3%だ。「新しいものに飛びつくのは男性が多いが、慣れるうちに使用頻度が高くなるのは女性」ということか言えるもしれない。

 Twitterのフォロー人数(自分がフォローしている人の数)は、全体で「10〜50人」が39.2%、「10人未満」が36.2%だ。ここでも「ソフトウェア職」のほうが、「ハードウェア職」よりもフォロー人数が多いという傾向がうかがわれる。フォロワー人数(自分がフォローされている人数)は「10人未満」が43.2%、「10〜50人」が37.2%だ。世の中には、1万人以上をフォローしているユーザーもいるし、逆に著名人などはそのフォロワーが軽く1万人を越える人もいるが、今回のアンケートではフォロー人数「1001人以上」は2%、フォロワー人数「1001人」以上は1.5%にすぎなかった。

【DATA2】ソーシャルメディア利用者の頻度 (メディア別)
【DATA3】エンジニア800人のTwitter利用頻度 (性別・職種分野別)
【DATA4】職種分野別ヘビーユーザーランキング
ソフトウェア・ネットワーク関連
1位 コンサルタント、
アナリスト、プリセールス
2位 通信インフラ設計・構築
3位 社内情報システム
4位 システム開発(マイコン・ファームウェア・制御系)
5位 システム開発
(Web・オープン系)
ハードウェア関連
1位 半導体設計
2位 品質管理、製品評価、品質保証、生産管理
3位 制御設計
4位 研究、特許、テクニカルマーケティング
5位 機械・機構設計、金型設計
【DATA5】業種別ヘビーユーザーランキング
1位 インターネット関連系
2位 コンピュータ・通信機器・OA機器関連メーカー
3位 通信系
4位 医療機器メーカー
5位 独立系SIer/NIer、ソフトハウス、コンサルファーム
【DATA6】Twitterのフォロー人数/フォロワー人数
フレームワークの本質を見抜く力と創意工夫の実践力

 全体の傾向を見ると、「エンジニアだからもっと使っていそうなのに、意外と少ない」という印象を免れない。国内でサービスを展開しているSNSにはすべてアカウントをもち、最近は、メールよりもTwitterで友人たちと連絡を取る人も少なくない。この点を、ソーシャルメディア全般に詳しい、ループス・コミュニケーションズの代表取締役社長・斉藤徹氏に聞いてみた。

「日本におけるTwitter訪問者は最近2000万人に近づいています。国内PC人口は6000万人ですから、約3割ですね。今回のアンケートでのTwitter利用者36.3%という数字は、調査対象のほぼすべてがPCユーザーであることから考えると、やや多いという結果になっています。対象が技術系職種であること、20〜30代に限っていることからすると、もう少し多くても不思議ではないですが、違和感はありません」(斎藤氏)

 一方、Facebookは国内のアクティブ・ユーザーが300万人に達した。PCユーザーの5%程度だ。
「ここからの比較だと、アンケートのFacebook利用者17.6%という数字は、さすが新しいテクノロジーに関心の高いエンジニアというべきで、かなり多い。mixiの利用率約6割というのも驚くべき数字です。職種別ではコンサルタントや通信インフラ設計者が、業種別でもインターネット関連業種の人が利用率7割を越えていますが、これは当然といえば当然。好きな人はすでに利用しているということ。さらにBtoCビジネスに関わる人は、仕事でも使い始めているということは言えると思います」
 と、斉藤氏は評価する。

 SNSを利用するデバイスで「デスクトップPC」や「ノートPC」の比率が高いのは「エンジニア的」とも。「例えばmixiの場合、8割以上が携帯電話からのアクセスですから、この違いは目立ちます。現状はまだiPhone+Andoroidの合計が携帯電話をやや下回っていますが、今後1年間で逆転しそうですね」と予想する。

斉藤 徹氏
株式会社ループス・コミュニケーションズ
代表取締役社長

斉藤 徹氏
Twitterは補完メディア、Facebookはコミュニケーション基盤に

 日本にはmixiというローカルなSNSがしっかりと根づいている。さらに日本ではTwitterがFacebookをユーザー数で上回っている。しかしこうした現象は、世界と比べたとき、「かなり特異なもの」と斉藤さんは指摘する。 「諸外国にもローカルなSNSは存在していましたが、この2年ほどで、それらはほぼFacebbokに席巻されました」

 Twitterは圧倒的な数のフォロワーを抱える情報発信者が存在するが、それ自体の数は少ない。かたや、もっぱら有名人などが発信する情報を受け取るだけの情報受信者が無数に存在する。こうした「情報の非対称性」は、テレビや新聞と似たメディアとしての特徴だという。

 それに対して、Facebookは一人のユーザーの友人数を5000人に制限するなど、情報の非対称性が目立たないような工夫がされている。また、Facebookは実名やプロフィールで検索して知人を探り当て、そこにダイレクト・メッセージを送ることができるが、Twitterは相手が自分をフォローしていないと、ダイレクト・メッセージは送れない仕組みだ。

 こうした違いについて斉藤さんは、「Facebookは手紙や電話、あるいはメッセンジャーサービスと近いコミュニケーション・インフラとしての活用を強く意識しています。Twitterはリアルタイム情報メディアとしての活用が中心です」と言うのだ。

 斉藤さんは、mixiには親しい仲間内での本音の会話交流を、Facebookにはオフィシャルな交流の場として、また、Twitterには従来のマスメディアを補完する新しいリアルタイム情報メディアとしての発展性を、それぞれ期待している。

ファンを増やしブランドを作る。エンジニアも意識せざるをえなくなる

 最近は、企業がSNSを使って、宣伝・広報・マーケティングをする例が増えている。なかでも斉藤氏が注目するのは、Facebookページだ。
「世界最大のユーザー数を集めるFacebookページはコカコーラ社のものです。そこには企業からのバナー広告やキャンペーン案内などはほとんどありません。ただ、世界中のコカコーラファンがたびたび訪れては、“コーク大好き、コカコーラ万歳!”と書き込んだり、その大好きぶりを示す写真をたくさん投稿しています」

 Facebookページは、企業が情報を発信し、それをユーザーが受け取るという一方通行のホームページではない。企業側の業績向上やキャンペーン効率などの計算を越えたところに成立するコミュニティ。ファンが交流するサイトなのだ。一定の企業ブランドをもつ企業はもちろん、知名度やブランド力がない企業にとっても、そのブランドを育てていく場となる可能性がある。愛される企業になるためにこそ、ソーシャルメディアを活用するという新しい使い方が生まれている。

「これはモノを作る企業や製品開発者、エンジニアにとっても重要なポイントだと思います。モノを作るプロセス、作ったモノを売るプロセス、売れた後のサポートをするプロセスなどをソーシャルメディアで公開することで、企業活動の大切な部分をユーザーとシェアすることができます。ユーザーはそこに何らかの共感や、驚きを感じ、それを他のユーザーと共有したくなる。そこにユーザー同士の交流が生まれ、結果的に技術や製品へのファンを増やすことができます」

 考えてみれば、コミュニケーションは企業活動の原点、つまり「商い」の原点だ。
「行き過ぎた資本主義によって、企業活動はこうでなくてはならないというような、妙なルールや決まり事ができてしまっています。しかし、人と人がつき合うというのは企業活動の原点。ソーシャルメディアは、その原点の大切さをあらためて教えてくれています」

 これからの企業はソーシャルメディアを全く意識しないで、ビジネスを展開することは不可能になるだろう。とすれば、世のため、人のためにモノを作り続けるエンジニアにとってもそれは同じだ。
「ソーシャルメディアの本質はいくら本を読んでもわかりません。実際に使ってみて初めて見えてくることが多いんです。ソーシャルメディアを使いこなし、それを好きになるなかから、ユーザーとより深く交流する、新しい時代のエンジニア像が生まれてくるような気がします」と、斉藤氏は語っている。

Coca-ColaのFacebookページ
世界最大のユーザー数を集めるFacebookページはCoca-Cola
Coca-Colaからのファン投稿写真
Coca-Colaからのファン投稿写真

1985年3月慶應義塾大学理工学部卒業後、同年4月日本IBM入社、1991年2月フレックスファームを創業。2004年同社全株式をKSKに売却。2005年7月ループス・コミュニケーションズを創業した。現在、日本国内での企業のコミュニティ構築分野でトップシェアを誇るほか、ソーシャルメディアに関するコンサルティング事業を幅広く展開している。「新ソーシャルメディア完全読本」「ソーシャルメディア・ダイナミクス」「Twitterマーケティング」「Webコミュニティで一番大切なこと」「SNSビジネスガイド」など著書多数の他、人気ブログ「In the looop」も運営している。

  • 【ブログ】 http://blogs.itmedia.co.jp/saito/
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  • 【ツイッター】 http://twitter.com/toru_saito
株式会社ループス・コミュニケーションズ 代表取締役社長 斉藤 徹氏
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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
本を読むだけではわからないというソーシャルメディアの本質。「伝説のカーディラ−は営業しない」「ユーザーに認められる製品はユーザーが支援してくれる」「コップがあふれ出してからが、企業のメリット。短期的な収益を見ないこと」そんな斉藤さんの話で、なんとなくわかった気になってきました。ソーシャルメディアを使いこなすのは意外とパワーが必要ですが、有効活用してほしいと思います。

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