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景気回復と残業規制で
エンジニアの残業はどうなった? |
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景気は徐々に回復しつつあり、労働統計上では残業時間も伸びる傾向にある。ただ、景気低迷期に、賃金総抑制やワーク・ライフ・バランス的な観点もあって強化された残業規制は依然続いている。1000人のエンジニアたちに、残業の実態を聞いてみた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/絵理すけ) 作成日:11.02.28
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月々の残業時間は25時間。光学技術者とパッケージソフト開発者が40時間超
好況期には、一般的には所定外労働時間(残業時間)は伸びていく傾向がある。「基本給は急激には伸びないから、仕事が忙しいときにはガンガン残業代で稼いで、生計の足しにする」というのは、昔ながらの給与生活者の処世の術ではあった。
とはいえ、近年は仕事のために他の私生活の多くを犠牲にしてしまうワーカホリック状態が、さまざまな問題の原因になることから「ワーク・ライフ・バランス=仕事と生活の調和」が提案され、それに積極的に取り組む企業も増えている。ワーク・ライフ・バランスに取り組む企業がまっさきに手をつける施策が、残業規制だ。従って、現在は景気がよくなると残業時間が無制限に延びるという構造になっていない。
もちろん、残業規制の名目はワーク・ライフ・バランスであっても、実際は、残業代の抑制を通して賃金全体を抑えたいというのが企業の本音でもある。そのため景気がよくなっても安易に残業時間を増やさず、そのぶん時間あたりの仕事の密度は高まる、という傾向も見られる。
Tech総研が2010年12月に調べたエンジニアの残業に関するデータを見ていこう。対象は、ソフト、ハード系のエンジニア各500人計1,000人で、職種として多いのは、Web、汎用機、ファームウェアなどのシステム開発(計25%)、機械・機構・金型設計(12%)などだ。(DATA1)
月々の残業時間は、全体平均で25時間。ただ、業種や年代によってばらつきがあり、最も多いのは「光学技術/30代前半」と「パッケージソフトウェア・ミドルウェア開発/20代後半」の41時間、ついで「ネットワーク設計・構築/30代前半」の39時間、「コンサルタント、アナリスト、プリセールス/20代後半」の38時間などとなっている。
DATA1 職種・年代別の平均残業時間・残業代 | (単位:時間/万円) |
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IT・ソフト系職種は残業時間が長い
これを会社の業種別でみると、残業時間が長いのは(各年代合計)は、「インターネット関連」「大手SIer・NIer、コンサルファーム、ベンダー」「独立系SIer・NIer、ソフトハウス、コンサルファーム」「総合電機メーカー」だ。ネット業界とソフトウェア、コンサルタントファームが上位に顔を出している。全体にIT・ソフトウェア業種のほうが、製造業よりも残業時間が長いことがわかる。(DATA2)
DATA2 会社業種別の平均残業時間・残業代 | (単位:時間/万円) |
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中でもインターネット関連業種の30代前半のエンジニアは残業時間で目立ち、月に39時間という結果になっている。月々の残業代(超過勤務手当)も、概ね残業時間の多寡に応じたものになっており、業種別では「総合電機」「外資系SIer/NIer」「大手SIer/NIer」「家電・AV機器・ゲーム機器」「機械関連」「医薬品・化粧品」で月の残業代平均が6万円を越えている。ただ残業時間が長いベスト1業種の「インターネット関連」は平均4万円と残業代は少ないほうだ。しかし、残業時間と残業代が比例していない。
残業時間の統計からも仕事ぶりの一端はうかがえるが、より具体的にイメージしてもらうために、毎日の平均退社時間についても質問項目を用意した。全体としては、19時台に帰れている人が24%と最多である。以下、18時台(21%)、20時台(21%)、21時台(14%)、17時台(12%)の順。22時〜24時台という人も7%いるが、概ね午後8時台にはなんとか退社できているようだ。
とはいえ、退社時間を業種別に詳しくみると、また違った印象が得られる。例えば、インターネット関連業種では退社時間が21時台という人が33%、つまり職場の3人に1人は9時過ぎまで職場にいるという日常だ。外資系のSIer/NIer・コンサルファームでは18時台に帰る人が43%いる反面、23時台という人が29%存在する。こうした業種では、たとえ6時に会社を出たとしても、まっすぐ帰宅するというわけではなく、客先とのミーティングが待っていたりするのかもしれない。
これら多忙業種に比べると、食料品メーカーや、鉄鋼・金属メーカーなどでは、大半が19時台には退社する。同じサラリーマンでも、職種によってまったく違った日常風景がそこにはある。
DATA3 職種分野別の平均退社時間
景気回復で伸びる製造業の残業時間。ただし残業規制も強化の傾向
景気回復を示す指標の一つとして残業時間を見た場合、最近の傾向はどうなっているのだろうか。厚労省が2月に発表した平成22年分の毎月勤労統計調査によれば、2010年の総実労働時間は前年比1.4%増と4年ぶりの増加となった。このうち残業時間は9.0%増と増えており、中でも製造業では32.3%増と大幅な増加になっている。今回の統計によれば、日本の勤労者の年間総実労働時間(所定内と所定外労働時間の合計)は1754時間だった。
全体の労働時間は縮減傾向にあるとはいうものの、景気回復を受けて製造業の残業時間は増える傾向にある。ただ、先にも述べたようにワーク・ライフ・バランス施策やコンプライアンスの重視という観点から、残業に対して厳しい監視の目が向けられるようになっていることも事実。こうした変化を、調査対象者はどのように感じているのだろうか。全体には「特に大きな変化なし」とする回答が多いが、それでも目立つのは残業規制の強化だ。具体的に報告してくれた人もいる。
■ | 残業時間の抑制と定時退社の徹底、残業時間の上限設定など (システム開発/32歳) |
■ | 21時の超過勤務が事前承認制になった (システム開発/30歳) |
■ | 月60時間を越えてはいけなくなった (システム開発/29歳) |
■ | 月42時間を越えると理由を書いた申請書を出し、60時間越えると残業申請を分割してするように言われる。60時間までは今月分にし、残りを翌月以降に振り分ける (コンサルタント/26歳) |
残業規制はワーク・ライフ・バランスの観点からは歓迎すべきことではあるが、働く側にとっては残業代が減るという経済的な“実害”もある。ただ、景気が低迷していた時期は仕事が少なくて残業が減り、景気が回復しても残業規制は続いていくとなると、賃金補てんとしての残業代の意義は年々薄くなっていくのもかもしれない。
また、職種によっては労働時間の制約を受けず、業績に応じて給与が支払われる裁量労働制も普及しており、この場合は残業時間のカウントが難しい。特にITや製造業では、研究開発やシステム設計、ゲームソフトウェア開発などの職種では裁量労働制が一般化している。裁量労働制ではあっても、みなし労働時間が法定労働時間を越える場合には、労使協定が必要であり、超過分の時間外労働手当は支給されることになっているが、必ずしもこれが厳密に守られている会社ばかりとはいえない。
「サービス残業が増える」のはコンプライアンス的に問題
たとえ残業時間が規制されたとしても、やるべき仕事はたまっており、やむなく残業せざるをえないという人は少なくない。こうして賃金不払い残業=サービス残業が増えることになれば、なんのための残業規制か、ということになる。実際、今回の調査でも「サービス残業が増えた」という回答は多いのだ。もちろん、コンプライアンスの観点からすれば、サービス残業はゼロであるべきだ。コンプライアンスの徹底ぶりがうかがえる声もある。
■ | 毎日がノー残業デイになったが、実際はやむを得ず残業している。残業申請しづらくなり、結果的にサービス残業している (システム開発/25歳) |
■ | 表面上は残業が禁止になったが、すべてサービス残業になってしまった。加えて、休日出勤手当もなくなった (システム開発/34歳) |
■ | 労働基準監督署が入って、サービス残業が減った。というより残業禁止になった。残業一覧リストが月に一度全社員へメールが送られて、誰がどれだけ残業をしているかが見えるようになっている。これらは“会社見える化プロジェクト”という計画に沿って行われています (運用・監視/33歳) |
残業規制の裏で、実際の残業が「サービス化=賃金不払い化」していく。さらにサービス残業が禁止になっても、そのぶん仕事を家に持ち帰ったり、休日出勤する割合が増えていくということになれば、ワーク・ライフ・バランスは遠い先の夢ということになりかねない。
かつてIT産業のシステム開発者やシステムコンサルタントの一部では、「俺は月80時間が平均」「いや、私は先月100時間を越えて、さすが死にそうだった」など、自虐的に残業時間の多さを自慢する傾向があった。ただ、「残業時間が長いのは、仕事ができない証拠」とみなされる風潮もあって、残業自慢の自虐ネタはいまはもう流行らない。
企業がいま求めているのも、「上司に言われなくても率先して残業する人」よりは「残業せずに成果を挙げる」エンジニアだ。つまり時間あたりの仕事の効率をいかに挙げるかが重要なテーマになっている。しかし、これは言うほど簡単なことではない。IT労働者の時間あたり生産性といわれても、それを明確に測定する基準はないからだ。
残業──個人にとっても企業にとっても忌まわしきものではあるが、サラリーマンである限り、その呪縛からは逃れきれない。とすれば、そこに正面から向き合うしかない。残業が増えざるをえない理由を個人的に組織的に、かつ社会的に研究しながら、残業がなくても豊かに働ける世界をめざすべき時期にきている。
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