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前年比アップでも不満。
2010年冬ボーナス平均は56万円 |
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2010年冬のボーナス。デフレの深まり、円高の進行など景気の先行き感は不透明が続くが、大手企業では前年比プラスに転じているものの、個人消費を刺激するには十分とはいえない。Tech総研によるエンジニア1000名のボーナス額調査の結果はいかに──。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/絵理すけ) 作成日:10.12.20
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冬のボーナス全体平均は56.2万円。前年比7.25%のアップ
日本経団連が10月末に発表した東証1部上場大手企業の今冬のボーナス集計によれば、 回答企業の平均妥結額は前年比3.76%増の77万6949円で、3年ぶりに前年実績を上回った。まだら模様とはいえ、一部の業種で業績が回復していることが平均値にも反映している。その一方で、中小企業の景況感は悪化している。9月の日銀短観では、中小製造業の業績判断指数はマイナス14。3カ月先の見通しについてはさらにマイナス幅が拡大している。こうした状況下では、たとえ足元に利益をためこんでいても、そう簡単にボーナスを弾めないというのが、経営者の心理だろう。 さて、景気の足踏みあるいはさらなる悪化も懸念される年末に、Tech総研がソフト、ハード系のエンジニア各500人に聞いた冬のボーナス調査。全体の平均支給額は56.2万円(税込み)という結果が出た。回答ボードは異なるものの、昨年同期の調査結果では平均52.4万円だったから、7.25%ほどアップしており、増加幅は経団連調査を大きく上回っている。アンケートでも、昨年との比較で「増えた」とする人が49%いて、平均増加額は12万円だった。反対に「下がった」人は22%、マイナス幅の平均は11万円となっている。ちなみに、2010年夏のボーナス調査の全体平均は59.2万円だったので、これよりは3万円少ないということになる。 |
DATA1 昨年比較で「増えた」は約半数 |
コンサル・研究・開発など上流工程に関わるエンジニアが好調
それではアンケート調査の内容をやや詳しく見ていくことにしよう。職種ごとの比較では、60万円以上のボーナスを手にしているのは、IT系(ソフト系)では「コンサルタント、アナリスト、プリセールス」の74.7万円を筆頭に、「通信インフラ設計・構築」「研究、特許、テクニカルマーケティング、品質管理」の3職種グループ。ハード系では、「研究、特許、テクニカルマーケティング」がトップで63.7万円。次いで「素材、半導体素材、化成品関連」「生産技術、プロセス開発」「制御設計」が上位を占めている。
最も低いのは、IT系では「ネットワーク設計・構築(LAN、Web系)」45.9万円、ハード系では「サービスエンジニア」52.2万円となっている。IT系の場合、コンサルタントが高く、システム開発が中位に位置し、ミドルウェアやネットワークなどインフラ系は下位に甘んじるというのは例年の傾向。システム開発の工程上の上流・下流の違いがそのままボーナス額の差になっていることは興味深い。
最近はソーシャルゲームやeコマースの盛況で、Webテクノロジーやオープンソースを使ったシステム開発が注目を集めている。調査結果では、「システム開発(Web・オープン系)」と「システム開発(マイコン・ファームウェア・制御系)」は同額だが、いずれも「システム開発(汎用機系)」を上回っている。Web・オープン系がシステム開発の中軸を占め、それらの技術を擁する中小システム開発企業の業績も好調であることを物語る数字といえるかもしれない。Web・オープン系やマイコン・ファームウェア・制御系は、いずれも昨年同期のボーナス額を若干ながら上回った。
ハード系では素材、化成品、生産技術などの職種が、機械・メカトロ、回路設計などよりも上位に出ている。これは化学・素材業界がエレクトロニクスやメカ業界よりも構造的に高給与という事情を反映しているともいえるし、あるいは、電池・材料・エネルギーなど素材系の分野の業績が好調に転じているという見方もできる。
職種をソフトウェア系とハードウェア系でざっくり分けてみると、ソフト系が54.4万円、ハード系が58.0万円と、ハード系優位の状況は相変わらずだ。年齢別には、IT系エンジニアでは20代後半が45.8万円、30代前半が57.6万円と11万円以上の差がついている。ハード系の7万円よりもその差は大きい。
DATA2 職種・年代別の2010年冬のボーナス額
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業種の景気や企業規模の違いで、ボーナス額に差がつく
日本の賃金構造は、実際には職種別の差よりも、企業規模や業種による差のほうが大きいといわれている。ボーナス額にもその違いが強く反映される。ボーナス額は、好調、不調業種を見極める重要な指標にもなる。
冬のボーナスを回答者の勤務先の業種別にランキングしたのがDATA3。上位は「外資系SIer/NIer、コンサルファーム」「商社系総合商社・素材・医薬品」「大手SIer/NIer、コンサルファーム、ベンダー」「マスコミ系」「総合電機メーカー」などとなっている。広告収入の激減や出版不況で打撃を受けているマスコミ業界が上位に顔を出しているのはやや不思議。高賃金体質はそう簡単に変わらないということかもしれない。
下位の5つは下から「繊維・服飾雑貨・皮革製品メーカー」「技術系人材派遣企業」「流通・小売系」「商社系電気・電子・機械系」「独立系SIer/NIer、ソフトハウス、コンサルファーム」などとなっている。トップの外資系SIerと最下位のアパレル会社を比べると、実に50万円以上の開きがある。
DATA3 勤務先業種別の2010年冬のボーナス額
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このランキングを見る限りは、同じシステム構築を仕事にするにしても、業種の景気や企業規模の大きさを重点に選ぶべきということにはなる。逆にいえば、ボーナスを増やしたいのであれば、業種を越えた転職が有効ということでもある。しかし、そうした業種をまたがるキャリアップ転職がそんなに簡単にはいかないことは誰もが知っている。ただ、好調な業界では、人材派遣で仕事をしていた人にも、正社員としても採用されるチャンスが出てきた。今後、ボーナス額増大のための転職戦略はますます重要になるだろう。
「しょうがないか」──大半はあきらめモード。強い不満感は影を潜める
Tech総研調査では毎回、ボーナスの額だけでなく、実際の仕事の負荷や業績に対してボーナスが十分かどうか、その満足度を聞くことにしている。実際の手取額がどうであれ、また前年比の増減がどうであれ、ボーナスに対する満足度は人によって異なるからだ。例えば、前年に比べてボーナスが激減した人でも、会社の業績の落ち込みを知れば、「もらえただけマシ」「やむをえない」と心理的には消極的満足に転じる。
全体の満足度は「今回の金額に満足しいている」が54%で最も多い。次いで「仕事内容に比べて50万円程度安い」という「やや不満」層が40%となっている。「仕事内容に比べて高い」と感じる人がほとんどいない一方で、「仕事内容に比べて100万円以上安い」という強い不満感も影を潜めている。
DATA4 2010年冬のボーナス額に対する満足度
この満足・不満感を分析するには、エンジニアの生の声を聞く必要がありそうだ。
満足度の高い人の声を拾うと、「長期休業していたいためもらえるだけマシだった」「入社1年目で一人前に仕事をしていないため」「業績の落ち込みほどボーナスが減らなかった」「会社の収益を考えると妥当と思う。自分への評価はそれなりだった」などの声が多い。総じて「ま、しょうがないか」(システム開発/35歳/額面50万円/前年比マイナス17万円)という印象なのだろう。ボーナスは業績に連動してその額が変わるものだが、組織全体の業績が下がっていても、個人業績の評価がそれほど下がっていなければ、相対的には満足度は高くなる。
一方で、「大赤字プロジェクトにヘルプ要員として投入されたが、そのプロジェクトのせいで正当に評価されなかった」(システム開発/34歳/額面25万円/前年比マイナス10万円)と、身の不遇を恨めしく思う人もいる。「もし好調プロジェクトに配属されていれば、ボーナスは上がったかもしれない」と思えば思うほど、悔しさも募る。しかしサラリーマンであるかぎり、こうした運・不運はつきもの。それでも割り切れずに生じる不満感を、上司がいかに聞いてやるかが、チーム・マネジメントとしては重要になる。
不満の理由は、金額ではなく、評価の不公平感
ボーナスが、他の人よりも高く、かつ前期比でプラスになっているにもかかわらず、不満を述べる人もまた少なくない。不満感の多くは、ボーナスの絶対額には左右されない。不満の理由は、金額というよりも、評価の不公平感なのだ。
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うちはそういうブラックな会社だから。下っ端のエンジニアはみんなこんなもの |
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社員全員のボーナス月数が同じである。個人能力の評価が全く考慮されていない |
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出来高も何も関係なく全体の相対評価でしかない。極端にいえば会社の業績がよければ出て、悪ければ減り、仕事の頑張りでは評価されない |
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売り上げ、経常利益に対する社員への還元が少なすぎる。マネージャー、役員の報酬が高く、不明確 |
といった評価システムへの不満が、最も集中的に現れるのがボーナスなのである。ボーナスをアップしたのに、逆に社員の不満が高まるのでは経営者としても困る。しかし、個人をどう正当に評価し、納得感につなげていくかは、組織活性化のための重要な課題ではある。成果主義の賃金体系が根づきつつある日本だが、制度設計と実際の運用はまた別のもの。最適なボーナス評価をめぐっては、まだまだ試行錯誤が続きそうだ。
さて、最後にボーナスの使い道を聞いてみたところ、「貯金する」が32.3万円、「ローン返済にあてる」が6.6万円、「買い物をする」が7.9万円、「旅行する」は3.4万円、「親・家族・恋人などにプレゼントを買う」は2.3万円となった。昨年に比べボーナスが少しだけ多かったからといって、エンジニアの財布のひもはそう簡単には緩まない。緊縮財政モードは当分の間、続くだろう。
DATA5 2010年冬のボーナス額の使い道は?
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