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Googleならではのイノベーションを生み出すGooglerたち。今回登場するのは、テクニカルアカウントマネージャーとして大手携帯キャリアへのサービスインを成功させた韓剛氏。技術力とコミュニケーション力がなければ成し得ないイノベーションである。
(取材・文/中川隆太郎 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:10.02.24
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2008年、テクニカルアカウントマネージャーとして大手携帯キャリアへのサービスインを成功させた韓 剛氏。技術力とコミュニケーション力を駆使し、パートナー企業とGoogleコア製品チームの橋渡し等を行った。
中国でコンピューターサイエンスと電子通信の学士学位を取得。1997年に来日し、米国ミドルウェアメーカーで技術コンサルタントとして活躍。そして、2006年にGoogle入社。現在は、戦略的パートナーに技術ソリューションを提供する技術組織PSOチームの日本と韓国のリーダーを務める。
Googleにおける技術関連の仕事は開発だけではない。実に多くの職種が存在する。テクニカルアカウントマネージャーもその一つ。Googleの戦略的パートナー企業に対し技術支援活動を行っており、インパクトあるパートナー戦略を次々と成功させている日本ではその存在は大きい。Google入社以来、テクニカルアカウントマネージャーとして様々なパートナー戦略に関わってきた韓氏は言う。 「どれだけ多くのユーザーに新しい価値を提供できるか。既存のモノより優れた価値を提供できるモノであっても、使われなければそれは発明に過ぎません。提供だけでなく、価値の実現ができてこそイノベーションだと思っています。だからこそ、自分の仕事においても、いかに大きな変革を、いかに多くのユーザーにもたらせるかが重要なのです。大手携帯キャリアとの検索提携プロジェクトは、そういった意味で一番イノベーティブな仕事だったと思います」 韓氏がそう思うのも無理はない。何しろ数千万人のユーザーを抱える業界屈指の携帯キャリアである。キャリアポータルトップに検索ボックスを設置し、Googleの高品質の検索結果と検索連動広告を提供することで、PCを持たない人達など、新たな多くのユーザーにリーチできるようになる。もちろん、大手携帯キャリアにとってもGoogleと組むメリットは大きい。Googleの広告サービスを活用することでキャリアポータルの収益強化をはかれるし、膨大なユーザーからのアクセスに耐え得る検索システムの構築も同時に可能になる。両社が手を組むことになったのは自然の流れとも言える。 テクニカルアカウントマネージャーは実装コンセプト提案からキャパシティプランニング、実装細部の技術支援までを担い、パートナー企業と協力して一つのサービスを作り上げていくだけに、そういったWinWinの関係を築けることは大きな魅力だ。 |
韓氏の前職はWeb系システムに欠かせない米国ミドルウェア会社の技術コンサルタント。日本の大手テレコム、ファイナンシャルを始め幅広い業界に対して技術コンサルティングサービスを提供していた。そんな韓氏にとっても想像以上だったのがGoogleのIT基盤。 「数千万人が使うシステムというと、大手SI企業が入り、膨大なコストと時間をかけて開発するのが一般的なスタイルだと思います。でも、Googleには優れたスケーラブルなIT基盤があります。同時アクセスがどんなに多くても、それならこれだけのキャパシティを用意しましょうと短時間で応えることができます。このプロジェクトでも、通常では考えられないくらいシンプルにスケールアウトを実現。短期間で遅延なくサービスインし、GoogleならではのIT基盤の凄さを改めて実証できました」 GoogleのIT基盤の考え方は次元が違う。従来のエンタープライズ向けとは比較できないと韓氏は言うが、それはGoogleが初期の段階から世界中にサービスを展開するというビッグな考え方を持っていたからに他ならない。ソフトウェアだけでなくハードウェアでも自前主義を貫き、相当な投資を行い、独自の進化を遂げてきた。 例えば、分散型多次元データストアのBigTableは個別のサーバーに依存しない。テーブルの中に名前を設定し、設計したスキーマを定義として入れておけば、後は世界中に分散するデータセンターから適切なキャパシティを確保してくれる。また、Google File System(GFS)と呼ばれる分散ファイルシステムはファイルの複製を自動で行い別のデータセンターに格納してくれる。たとえ障害が生じても心配はいらない。 「パートナー企業と調整を行い必要なキャパシティの算出は行いましたが、それに対してどれだけのサーバーが実際割り当てられているのかはテクニカルアカウントマネージャーは知る必要がない。高度な社内分業ができているからです」 と、韓氏は言うが、そこにはGoogleのIT基盤に対する絶対の信頼があるのだ。そして、テクニカルアカウントマネージャーとして注力すべきパートナーとのコミュニケーションに全力を注げる。 |
「提携プロジェクトにおいて大切なのはパートナー企業との調整。実装とは異なり、調整にはビジネス面はもちろん技術面でも時間がかかりました。そもそも歴史も風土も事業も異なるわけですから、技術に対する考え方や実行スタイルが異なるのは当然です。それこそスピードを何よりも優先するGoogleでは、仕様書ができた段階で新たな機能が追加されていたりもします。 でも、品質や安全性を第一に考える大手携帯キャリアにとってはフィックスしたものが必要。お互いに驚くことも多かったのですが、理解し合うことでプロジェクトを成功に導けましたし、私自身学ぶことの多い仕事となりました。大きなギャップを埋めながら1つのサービスという形を作っていくのがテクニカルアカウントマネージャーという仕事の醍醐味です」 さらに、テクニカルアカウントマネージャーはパートナー企業とGoogleコア製品チームのブリッジ役も果たす。両者の間にギャップが生じれば、それを埋めつなげていくために特別なツールの作成やサンプルコードを書いたりもする。
また、インパクトが十分に見込める場合、パートナー企業独自のニーズを実現するために必要であれば、Googleプロダクトチームに働きかけ、製品の改良も行う。 |
テクニカルアカウントマネージャーは、Googleの技術職の中で最も多くの人と関わる仕事である。人とのコミュニケーションが好きでなければ務まらないし、時には戦うくらいのコミュニケーション力も必要。「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」というミッションに反しないのであれば、相当な柔軟性もGoogleは併せ持つ。テクニカルアカウントマネージャーに強い気持ちがあれば、パートナー戦略を成功に導き、イノベーションを起こすことができるのだ。 「私が実現していきたいのは、IT技術で人々の生活を本当に豊かにしていくこと。IT技術を活かして、人と人、特に異文化間の質の高いコミュニケーションをより効率的にできるようにしていきたい。難しいかもしれませんが、IT技術はツール。それをどう使うかは人次第です。私自身、まだぼんやりとした思いではありますが、できることから始めていくつもりです」 日本オフィス1号の公認G2G(GooglerがGooglerに教える)プロフェッサーでもある韓氏。楽しく中国語を勉強するというテーマで、異文化の交流とくに日中においての相互理解を深めることに取り組んでいる。そんな人と人とのコミュニケーションを大切にする韓氏だからこそ、テクニカルアカウントマネージャーとして活躍できたのだろう。 |
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