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“グーグリー”な人が、クラウド時代を切り拓く
Google辻野社長が語る、2015年のITワールド
昨年はAndroidや音声検索、また今年はChrome OSのリリースを予定するなどIT業界のみならず、世の中の注目を集める技術やサービスを生み出し続けるGoogle。日本法人の辻野社長にご登場いただき、グーグルが描くIT業界の未来について語っていただいた。
(取材・文/山田モーキン 撮影/勝尾 仁)作成日:10.02.12
グーグル株式会社 代表取締役社長 辻野 晃一郎氏

1957年、北九州市生まれ。84年、慶應大学大学院工学研究科修了後、ソニー入社。88年、カリフォルニア工科大学大学院電気工学科修了。ソニーではVAIO PC事業創業期の事業責任者を務めたほか、ホームビデオ、パーソナルオーディオなどのカンパニープレジデントを歴任した。2007年、グーグル日本法人に入社。執行役員製品企画本部長を経て09年1月、代表取締役社長に就任。

グーグルが、クラウドコンピューティングの未来を創っていく
アドワーズを原資にプロダクト&セールスを強化していく

 これまでのグーグル日本法人は、アメリカの影に隠れた存在として一般ユーザーから見られる傾向がありました。事実、検索エンジンサービスで欧米では圧倒的なシェアを占める一方、日本や中国をはじめとしたアジア地域においてトップシェアを獲得できていないことが、その大きな要因であることは否めません。

 しかし現在、世界の各地域でナンバーワンを目指す中で、日本においても検索の世界で圧倒的に強い存在となるため、内部組織の強化に取り組んでいるところです。 プロダクト、セールス、エンジニア、それぞれの組織間の連携を高めるために年2回の社内イベントをはじめ、“クロスファンクショナルコラボレーション”と呼ばれる、普段接点のない人同士の交流を促進させています。

 また、収入の約98%を占めるアドワーズ(検索結果連動型ネット広告)は、グーグルにとって重要な事業。今後も引き続き、プロダクトやセールスを強化していく必要があります。そしてアドワーズで得た利益を原資にして、「音声検索」や「ストリートビュー」「YouTube」「Android」「Chrome OS」などエンジニアが世界をアッと言わせる技術を生み出し、インターネットやクラウドコンピューティングの未来を創っていくのです。

グーグルが切り拓く、クラウドコンピューティングの世界

 現在、クラウドコンピューティング(以下クラウド)は、当社の「Gmail」などのように、私たちの生活の中にどんどん入ってきています。ビジネスの世界でも、システムをクラウドに置き換える流れが急速に進んでいます。

 一昔前は「ネットワークダウンが頻発する」「情報漏えいしやすい」などネガティブな面が強調されていました。でも今はどうか。作業効率やコスト低減、高い安全性などクラウドのメリットが知られるようになっています。例えばGmailがシステムダウンする確率は、自前のメールシステムがディスククラッシュやウィルス感染する確率に比べ、よほど安定しています。

 新しいことにチャレンジするときに課題はつきもの。それを克服していくのが技術の進歩なのです。そして本質的にいいものならば、最後はそこに集約されていくのが世の常。クラウドも、「個人や企業を問わず、データは専門家に預けるのがベスト」という概念が常識になりつつあるわけです。

 グーグルはこれまで、クラウド時代の先頭を走りながら、自ら“モルモット”になって様々な実験をしてきたことで、世の中で注目を集める技術やサービスを生み出してきました。しかしクラウドは、単に技術やシステムを導入するだけでは意味がない。例えばクラウドシステムで多数の人たちとコラボして、瞬時にドキュメントを作ったとしても、それを公開するために社内稟議にかけたり議事録作りに時間がかかったら、意味がないのと同じ。クラウドのメリットを最大限に引き出すためには、クラウドにマッチした新しいワークスタイルを築く必要があります。

クラウドの未来を切り拓くのは、グーグリーな人たち
カジュアルなコミュニケーションが、クラウド進化の条件

 その点、グーグルは昔からクラウドにあったワークスタイルを実践してきたところがあります。キーワードは「カジュアルなコミュニケーション」。 例えば今、私は皆さん(取材陣)と違ってノーネクタイですが(笑)、スーツでビシッと固めるより、カジュアルなスタイルの方が社内の誰とでも気軽にコミュニケーションをとれるし、結果的に仕事の効率が早くなる。

 また、同じように「外」に対しても私たちは常に、カジュアルなコミュニケーションを取り続けています。自分たちが作ったシステムをすべてオープンにすることで、世界中の誰もが独自のアプリを作れる環境を提供しています。それによって開発側が思いもつかないようなクリエイティブなアイディアの誕生につながり、“ハッピーサプライズ”を起こす。これこそが、クラウドならではの醍醐味なのです。

 米国グーグルCEOのシュミットが「発明は朝起きて閃くものではなく、コミュニケーションからイノベーションが起こる」と語っているように、グーグルはコラボレーションやコミュニケーションを大事にする文化が根付います。だから社内では、質疑応答が頻繁に行われていて、そのやり取りの中から新しいアイデアが今も生まれているのです。

グーグリーな人はGoogle以外にも。クラウドはグーグリーにマッチした環境

 今、全社員と面接をしているところですが、中でもエンジニアと話をしていると非常に楽しいんですよ。夢を持ってやりたいことをしているエンジニアが多いし、皆、ネットの未来やクラウドがもたらす恩恵に対する「ゆるぎない確信」を持っている。だからといって盲信するほど深刻にとらえているのではなく、あくまで“軽いノリ”で信じているから、ただ話をしているだけでわくわくするし楽しい。

 例えば「ストリートビュー」なんて、道という道をすべて地道に走ってデータを収集しているけれど、手間や採算を考えたらとてもできることではない。でも開発者は「地図の世界をクラウドに移行させ、実写の風景を足し合わせれば人類の発展につながる」と信じている。そんなエンジニアの姿勢を経営陣もリスペクトしているから、話しているだけで楽しいのです。

 グーグルには“グーグリー”という言葉があります。それは今取り上げたような夢を持って楽しく仕事をしていたり、オープンでカジュアル、決断が早くてイノベーションが好き、チームワークを大事にし、ユーザーの喜ぶ顔が好きといった要素を兼ね備えている人を指します。

 逆に「このアイデアはグーグルっぽくないね」といわれるのが、社内では一番屈辱的なこと。それはどんなに優秀で高い技術を持っていたとしても、例外ではないんです。
 それにグーグリーな人は何も社内だけではなく、例えばオープン(デベロッパー)コミュニティに参加している人たちのように、世の中にはたくさんいる。そういう意味ではグーグル社内にいる・いないという組織の境界線は、クラウド時代においてナンセンスです。

 もし今置かれた環境に閉塞感や不満があるならば、もっと自分のやりたいことができ、その価値を高く評価してもらえるところに移ればいい。移ることにリスクを感じる人が特に日本人には多いけど、留まることで才能をつぶしてしまうリスクの方がはるかに高いこともまた事実。これから本格的に迎えるクラウド時代はまさに移るリスクを減らす、グーグリーな人にとってベストマッチな環境を提供してくれるはずです。

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