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省エネだけじゃない!創エネ・蓄エネで注目される環境技術
今注目の“ecoエネルギー”エンジニアニーズを探る
あらゆる産業分野であらためて注目される環境関連技術。CO2排出をセーブし、より安全で高効率のエネルギー利用技術を開発することは、エンジニアに求められる最大の使命だ。環境にかかわるエンジニア、新たな採用ニーズを探る。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/設楽政浩)作成日:09.09.09

【Part1】温暖化を食い止める技術は、まだ確立されていない

 地球温暖化が確実に進んでいることに、異を唱える科学者は、ごく一部をのぞきほとんどいない。温暖化対策はすでにサイエンスの問題ではなく、ポリティクス(政治)の課題となりつつある。いやこれからは排出権取引など経済手法の領域に入ってくるという人もいる。
 しかし、忘れてはならないのは、CO2の排出量を減らし、温暖化を食い止めるためには、まだ試されていない技術課題があるということだ。あるいは、技術としては確立されていても、誰もが購入できる安価な製品としては実現されていないものが、まだまだ多いということだ。

 観念論や理想論ではなく、人々がふだん手にする製品や道具を通して、温暖化対策が行わなければ、地球の平均温度はこのまま上昇を続けるしかない。エンジニアの役目はここにある。
 太陽光発電、発電プラントなどのエネルギー産業、二次電池・電力サイクルなどの蓄電産業、高効率の電源IC、パワー半導体などの導電産業、モーター、ロボット、通信インフラなどの部品産業、そして家電、自動車、産業機械の最終製品メーカーでも、今多くのエンジニアたちが、「環境」をキーワードにさまざまな製品開発に挑んでいる。彼らの技術開発力が、製品として結実し、それが世界中の人々に広く行き渡ること。それがなければ温暖化対策など、夢物語にすぎないのだ。
 環境対策に挑むエンジニアは今何を考えているのか。企業は環境対応製品開発のために、今どのような技術者を必要としているのか。

図1:環境エネルギー産業のモノづくりプロセス

【PART2】「ホームでの取り組みをクルマの世界へ(From home to car)」 パナソニック オートモーティブシステムズ社が求める次世代環境エンジニア

「省エネ」「創エネ」「蓄エネ」をキーワードに

「ホームでの取り組みをクルマの世界へ (From home to car)」

  今、パナソニックグループではこうした標語をよく耳にするようになった。家電製品で培った省エネ・環境対策の技術を、クルマの環境対策に活かそうという意味だ。
 これまでカーナビなどを開発してきたパナソニック オートモーティブシステム社(以下オートモーティブ社)では、今後さらに注力していく技術テーマに、電装品やエアコンの使用するエネルギーをいかに効率化するかという「省エネ」、ブレーキ回生システムなどの「創エネ」、車載用の二次電池による「蓄エネ」などがある。

 このテーマを広く電気エネルギーのコントロール技術ととらえれば、これはすでにグループ内の家電、産業機器分野に存在する技術。ただし、それをそのまま転用すればいいというものではない。グループ内のシーズを車にどのように応用・展開していくか、それを推し進めるための組織として昨年オートモーティブ社内に誕生したのが「事業開発センター」だ。グループ内のシーズとカーメーカーのニーズをすりあわせる「目利き」の役目を果たす。

本庄谷義彦氏
パナソニック オートモーティブシステムズ社
事業開発センター 本庄谷 義彦氏  

「オートモーティブ社自体にもエンジンECUなどの開発実績は20年以上あります。しかし、グループ内に蓄積された技術を車に応用・展開するためには、高度な信頼性や長期保証など、車ならではの難しさを超えていかなくてはなりません。その課題を事業横断的にとらえていく視点が必要でした」
 というのは、同センター横断事業開発グループの本庄谷義彦グループマネージャーだ。
 一方で、カーメーカーが今後どういう技術を必要としているか、そのニーズを探索する動きも強まっている。
「ハイブリッド車、EV車をどのように開発していくか、カーメーカーごとに戦略が違います。また、従来のガソリン車の燃費向上に、ハイブリッドの要素技術を導入する動きもあります。私たちには、それぞれの車の特性に合わせた最適なデバイスを供給していくことが求められています」

 パナソニックは2009年度を最終年度とする中期経営計画「GP3計画」のなかで、「ABCDカルテット」と呼ばれる4つの重点事業を掲げてきた。Aはアプライアンスソリューション(生活家電)、Bはブラックボックスデバイス、Cがカーエレクトロニクス、DがデジタルAVネットワークスだ。今年度からは新たに「E」を頭文字とするエナジーソリューション事業を加え、「ABCDEクインテット」と呼ぶようになった。

 今回のオートモーティブ社内における事業開発センター創設も、エナジーソリューション事業への注力と連動した動きといえる。カーエレクトロニクス、エナジーソリューションを含めた車載関連事業は、これからの成長分野として経営トップの関心度も高いという。

図2:パナソニックが注力する5つの事業領域

パワーエレクトロニクス、熱マネジメントの技術者が今すぐ欲しい

本庄屋義彦氏

 オートモーティブ社には今「省エネ」「創エネ」「蓄エネ」の3つの分野で強い技術者採用ニーズがあるが、なかでもきわめて即戦力度の高いのは、パワーエレクトロニクス分野における電源設計、回路設計などの技術者だ。家電用モーターなどで使われる電圧よりさらに大きなパワーを扱う知識が必要不可欠だ。

 もう一つは、熱制御に関するエンジニア。
「たとえば、EV車になると車内暖冷房にヒーターが必要になります。つまり走行にかかわる電力以外に、どこかで電気から熱を生み出さなければなりません。ヒートポンプシステム、熱交換機、熱解析シミュレーションなど幅広い技術を求めています」(本庄谷氏)

 これまでエレクトロニクス産業分野でパワーエレクトロニクスや電池、熱のデバイス開発の経験を持つ人はもちろん、自動車関連産業にいながらも、環境技術へのかかわりは薄く、これからそれを極めたいと考えるエンジニアも募集の対象になる。
「パナソニックは自動車そのものはつくっていないが、要素技術を結集して次世代車にトータルにかかわれるポジションにいると思います。モーター、ヒーター、空調、エンジン制御、車載マルチメディアなど、あらゆることができる。さらに、自動車市場はますますグローバルに広がっていくので、海外での開発に関心をもつ人にとっても魅力的な職場だと思います」と本庄谷氏は言う。

 日本を支える自動車産業だが、温暖化防止とエネルギー問題という差し迫った危機に対して大きな変換が求められている。次世代のクルマはハイブリッド車にしてもEV車にしても間違いなく電気エネルギーが主役になってくる。エネルギーの制御をよりうまく行った企業こそが、次の時代の覇者になる可能性がある。そうしたマクロな視点を持ちながら、新しいシステムの開発に取り組むチャレンジスピリットのあるエンジニアが今求められている。

図3:環境対応車向けビジネスについて

【Part3】ecoエネルギー分野で活躍できるエンジニア人材とは

クリーンエネルギーで地球を救うエンジニアたち

「昨年来の不況の中でエンジニア中途採用のニーズが全体に冷え込む中、環境・エネルギー関連のニーズだけは落ち込むことなく、採用市場における大きな注目株になっています」と言うのは、リクルートエージェントのキャリアアドバイザー・竹内賢一さんだ。

 環境技術と一口にいっても幅広いが、まずは注目なのが、太陽光発電、原子力プラントなどのエネルギー分野。太陽光発電を拡大し2020年には現在の20倍、2030年には40倍にするというのは自民党のマニフェストでもある。またCO2排出の少ないクリーンエネルギーという観点から、原発プラント増設計画が米国で熱気を帯びており、日本の技術が求められている。

「原子力関連の求人は昨年から引き続き活発。発電の中核を握るタービン設計から、原発プラント建設まで職種は幅広い。ただ原発そのもの経験者は少ないので、広く、機械系、電気系、制御系の設計、生産技術、品質管理などの分野の人材を対象としています」と竹内さん。  プラント関連では、公共事業が全体に抑制される中で、下水処理場などの環境プラントを経験した人が転職するという例もある。また、工場でクレーンや搬送設備などの設計を担当した技術者にも熱い視線が注がれているという。

竹内賢一氏
リクルートエージェント
首都圏第一ユニット EMCマーケット
キャリアアドバイザー 竹内賢一氏

 太陽光発電では、パネル設計技術に関心が集まる。不況の真っ直中にある半導体製造装置メーカーが、太陽光パネルに事業を拡大したというニュースもあった。微細加工、製膜技術、クリーンルーム設計など半導体製造で培った技術が、そのまま太陽光パネルでも活かせるからだ。

「ただ、太陽光は原子力などに比べて、経験者を求める傾向が強く、採用条件が高く、ピンポイント」と竹内さんは指摘する。  循環型自然エネルギーのもう一つの担い手と期待されるのが風力発電。「原子力、太陽光ほどではないが、発電装置メーカーから保守メンテナンス分野の企業まで、求人は続いている」という。


ハイブリッドカー需要などでリチウムイオンに新たな注目

竹内賢一氏

 リチウムイオンなど二次電池分野でも、エンジニアが求められている。二次電池は本格的に売れ出したハイブリッドカーや電気自動車の中核部品。エネルギー産業でも蓄電プロセスの要を握る技術だ。さらに家電、パソコンまで需要のすそ野は広がる。

「電池そのものを開発する化学素材メーカーはもちろん、自動車・家電・産業機器メーカー、さらにそれらへ部品を提供するサプライヤーまで、“電池技術”はいま中途採用の重要なキーワードになっています。20代前半の若年層であれば大学で電気化学を専攻されていれば採用チャンスがあります。ただ、30代前後になるとある程度の電池の経験が必要になる」と竹内さん。
「たとえ直近の経験はなくても、以前、二次電池にかかわっていたというだけで、企業は関心を示します。まだまだ延びる産業分野だけに、ここで思い切って転職という選択は十分ありうるでしょう」
 その他の環境・省エネ技術では、半導体全体の落ち込みの中で一人気を吐く感のあるパワー半導体技術がある。ここでは化学、物理系のエンジニアの他、パワーエレクトロニクスという観点からアナログ回路技術も活かせそうだ。

 また、エレクトロニクス分野での電源制御技術も、省エネという観点からあらためて関心が高まる。コジェネレーションなど高効率のエネルギー供給システムが広まる中、電気工事士やボイラー・タービン関連の技術資格を求める企業も増えている。さらに環境技術の専門家という意味では、製造工程から排出される有害物質管理や、環境マネジメントシステムの経験者の活躍の場も広がっている。

「以前から、専門を問わず、広く環境技術にかかわりたいというエンジニアは多くいました。自分の技術で社会に貢献したいという思いがみなさん強いのです。彼らの活躍の場がようやく本格的に広がりつつあるという実感がします。環境対策をたんにイメージアップのためにいう企業もありますが、この不況期でもあえて求人を出す企業は、それだけ本気の証拠。そこから生涯にわたる活躍の場を選び出す、今は絶好のチャンスと言えます」
 と、竹内さんはこの分野をエンジニアの未来を拓く有望な選択肢と話す。


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宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ 宮みゆき(総研スタッフ)からのメッセージ
エコブームなのは家電や自動車だけじゃない。環境・次世代エネルギー分野のエンジニアを求める企業も増えています。社会や地球環境を守るやりがいのある仕事で、携わってきたいと思っているエンジニアも多いのでは? これからTech総研ではさまざまな環境技術に取り組む企業を紹介していきたいと思っていますので、今後もぜひご注目を!

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