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No tech No life 企業博物館に行ってみた Vol.4 誰もが電話を“携帯する”までの歴史
今や生活の必需品、大人から子供まで、誰もが日々使いこなす「ケータイ」。しかし、たった20年前、それはほとんどの人にとって、まだまだ“未来の夢”でしかなかった。その普及と発達の歴史を担ってきた日本電気(NEC)の資料コーナーを訪ねた。〔タイトル写真:NEC玉川ルネッサンスシティにある同社携帯電話資料コーナー〕
(文/川畑英毅 総研スタッフ/根村かやの)作成日:08.10.16
「電話」が人とともに「外」に出た日
 単に通話するだけでなく、メールし、ブラウジングし、カメラになり、動画や音声のレコーダー・プレーヤーになり、テレビも見られれば、簡単なプログラミングまで可能な機種も。
「ケータイ」と縮めて呼ばれるのが当たり前になったが、実際、ここまで多機能・高機能になると、果たして「携帯“電話”」という本来の名前がふさわしいのかどうか、とさえ思えてくる。
 そんな携帯の歴史に――それがまだ「移動体電話」と呼ばれていたころからかかわり、その進化・発展を担ってきた主要メーカーのひとつが、NECである。神奈川県川崎市にある、同社の玉川事業場(通信機器生産および研究開発)、「NEC玉川ルネッサンスシティ」の一角には、そんな歴史の初期から、NECが開発した数々の機種が展示されている。

 現在の携帯電話の直系の祖先と言えるのは、電電公社(当時)が1979年にサービスを開始した自動車電話システム。今のように基地局のインフラも整備されていない当時のこと、車から電源を取ることでパワーも出せ、アンテナも比較的大型にできることが、“まず自動車から”となった理由だった。続いて、自動車に固定ではなく、バッテリーパックを取り外して肩に掛け、車外でも使えるショルダーホンが登場した。
 展示されているTZ802a〔写真1〕も、そんな初期のモデルのひとつ(1985年発売)。車載状態では車のバッテリーから電源を取り、アンテナは自動車に据え付けてあるが、携帯状態ではパックに蓄えた電気を消費、アンテナも車から取り外してバッテリーパックの端に付け替えて使用する。バッテリーパックを含めた重さは、約3kg。昔のトランジスタラジオのチューニングメータか何かのようなバッテリー残量計〔写真2〕が、いかにも時代を感じさせる一品である。

「当時は、機器類はすべてレンタル形式で、保証金が当初20万円、さらに月額基本料金に通話料と高価。それなりに使えば、すぐに1カ月で100万円単位の額になってしまう。ですから、持っている人、使える人は非常に限られたものでした。
 しかし、トランシーバーのような単なる無線機ではなく、移動・持ち運びができて、しかも基地局を通じて電話網に接続される機器として、この自動車電話やショルダーホンが、今の携帯電話につながっていくのです」(モバイルターミナル技術本部グループマネージャー、尾崎和也氏)
写真1
▲写真1
写真2
▲写真2
写真3 自動車電話から、90年代初頭までの初期の製品群を収めたコーナー。
▲写真3
自動車電話から、90年代初頭までの初期の製品群を収めたコーナー。
重さ900g、初めての携帯電話
 そして1987年に登場した、これぞ携帯電話のハシリと言えるのが、TZ802b〔写真4、写真5左〕である。見た目こそだいぶ違うが、型番が示すように、電話機それ自体の機構は基本的に前出のTZ802aと同じ“姉機”と言える存在。そのゴツい見た目にふさわしく900gと重く、取り落とす危険を減らすためのハンドストラップ付き。1989年登場の後継機種TZ803b〔写真5右〕では640gにまで軽量化されているものの、それでも今の片手にすっぽり入る携帯から見れば“巨大”なご先祖サマたちである。

「今の携帯は小さくて軽いので、もし落としてもそうそう壊れるものではありませんが、さすがにこれは、落としたらまず無事にはすみませんからね(笑)。このストラップは必需の装備品だったと思います。
 バッテリーを小型化することで、ショルダーホン形式ではない、本当の“携帯電話”が可能になった。とはいえ、これに使われているニッケル・カドミウム電池は、せいぜい数十分で使い切ってしまうというレベル。“とりあえず、電話を持ち運べるようになった”というところで、常時電話を持ち歩くという状態には、まだ程遠いものでした」
尾崎和也氏
尾崎和也
日本電気株式会社
モバイルターミナル技術本部
 その後、ニッケル・カドミウム(Ni-Cd)電池に代わって、より高性能のニッケル・水素電池が登場することで携帯の小型化も進むが、これら初期のバッテリーは、容量を使い切らないうちに充電を繰り返すと、使える容量が減ってきてしまう問題、いわゆるメモリー効果が深刻だった。現在主流のリチウムイオン電池では、小型高性能化とともに、このメモリー効果の問題も解消してきている。

「携帯の小型化はバッテリーの小型化に負うところが大きいのはもちろんですが、単にバッテリーが高性能化したからでなく、携帯自体が極端に省電力化されてきたからでもあります。もちろん、基地局のインフラが高密度になったこともありますが、LSI自体を省電力化したり、通話時以外の局との連絡を最小限に抑える制御を加えるなど、さまざまな工夫が凝らされているんです」(尾崎氏)
写真4
▲写真4
写真5
▲写真5
写真6
▲写真6
「本当に折りたたんで平気なのか?」
 より本格的な携帯電話として、それまでの機種よりも格段の小型化を目指し、NTTがNECほか主要通信メーカーと共同で機器を開発、1991年に登場したのが「mova(ムーバ)」シリーズ。各社の機種は「mova」+「メーカー略号」の名前が付けられたが、NEC製の「mova N」〔写真6〕は、当時としては画期的な、折りたたみ型の採用で大きな注目を浴びた。
 持ち歩きに便利なようにコンパクト化できる。大画面に対応できる。ボタンがむき出しにならないので、誤作動が防げる――現在、ほとんど携帯の“基本スタイル”にさえなっている折りたたみ型だが、その先鞭を付けた機種である。

「『容積150cc、重さは230g以内』というのが当時、携帯電話事業者から出された目標でした。容積と重量はクリアできたのですが、他社と同じでは面白くない、ということで、折りたたみ型にチャレンジしました。今でこそ当たり前になった折りたたみ型ですが、当時は冒険。求められている通信スペックは高く、それと折りたたみというギミックが両立できるのかどうか。まずは、折りたたみ部で壊れてしまわないかが問題です。
『信頼性はどうなんだ、本当にできるのか、NEC?』とNTTさんから心配されただけではなくて、社内の上層部からさえも『大丈夫なのか』と……。外からも内からもだいぶ言われたと聞いています(笑)。しかし、繰り返し折り曲げても断線しないヒンジ部の配線などを開発、関連の特許も取得。
 しばらくは折りたたみ型といわゆる“キャンディ・バー”型とを並行して作っていました〔写真7〕が、折りたたみ型は当初は当社ならではの形状で、“折りたたみのNEC”とも言われて、シェアを大きく伸ばす要因にもなりました。その後iモードが登場すると、大画面化できるというメリットが大きくなったので、折りたたみ型一本としました。次第に他社でも折りたたみが主流になりました」(尾崎氏)

 mova登場のころまで、携帯電話はまだアナログ式。通話が傍受できてしまう恐れがあるという弱点があったが、1993年にはデジタル方式が開始され〔写真8〕、また、94年には電話機の売り切り制も始まる。このあたりを境に、200万程度だった累計加入数は急上昇を始め、95年度末には1000万、2000年度末には6000万を突破。現在では、1億を超えている。
「特に普及期は、開発も、生産もまるで戦場。設計して新しい機種を投入したはいいものの、資材が入らない、なんてことも。生産途中での手直しがあっても、ラインを止めては機会損失が大きいので、設計者が飛んでいってその場で調整するなど、“止めないための努力”もすごかった。
 一方で、新たな要求も次々に入ってきます。液晶画面がカラー化され、すると併せてボディもカラフルなものが求められるようになる。折りたたんだ状態でも最小限のものが見られるように背面液晶が付いたり、カメラが付いたり、そのカメラにまたマクロ用レンズが付いたり……」(尾崎氏)
写真7
▲写真7
写真8 1993年登場、mova Nとほぼ外形は同じだが、デジタル化された最初の機種、Digital mova N。
▲写真8
1993年登場、mova Nとほぼ外形は同じだが、デジタル化された最初の機種、Digital mova N。
写真9
▲写真9
 中でも2001年登場のN503i〔写真9〕は大ヒットを記録した機種。傑作と言われたN502iの後継で、4096色液晶、赤外線通信機能を搭載、iアプリ対応などの高機能が評価された。100万台売れればヒットといわれる携帯だが、400万台を超えたというN503iの売り上げ台数は、市場が急成長を続けていた時期という条件を差し引いても、破格の記録といえる。
小型・薄型化は永遠のテーマ
 携帯の小型化、高機能化という進化は、メーカーにとっては、熾烈な開発競争の場。特にその中でも、ここ最近の“激地”として記憶に新しいのが「最薄競争」だろう。
 その先駆けとなったのが、海外向け機種であるe949〔写真10左〕。登場当時は世界最薄の11.9mmだが、その薄さを実現するために、電池カバーの着脱機能は省略。そんな開発経験を生かして、“本命”国内市場向けに、2007年2月に投入したのが、N703iµ〔写真10中〕。電池カバーもしっかり付けて、世界最薄を更新する11.4mm。この薄さを実現するために、要素技術も一つひとつ、とことんコンマ単位で絞り込んでいる〔写真12〕。後継の、2008年2月登場のN705iµ〔写真10右〕では、機能をアップしながら、9.8mmのさらに“極薄”を実現している。

「今は、単なる最薄の追求は一段落、というところでしょうか。最近では薄さだけではなく、グラデーションや、素材の“ホンモノ感”など、加飾や形状についても重要視されてきています。携帯の普及自体は飽和に近付いてきただけに、より個性的・高品位な、かつ高機能な機種が求められるようになってきているんです。ネットには接続できて当たり前、テレビは見られて当たり前、それ以上の“何か”が勝負になってきているというわけです。
 とはいえ、個々の要素の小型化、薄型化の必要性は、まったく薄れていません。中身を薄く小さくすればするだけ、その余裕をほかのプラス・アルファに回すことができる。ですから、これは永遠のテーマですね」(尾崎氏)

 急速な進化、普及を遂げ、ほんの一昔前までは夢のようでしかなかった機能をわれわれの手のひらに収めさせてくれた携帯。これからまた近い将来、あっと驚くブレイクスルーがあるのかどうか。
「そのための研究開発は続いていますし、いずれお目に掛けることができると思います。もちろん、まだ秘密ですが……(笑)」(尾崎氏)
写真10
▲写真10
写真11 “形のインパクト”が重視されるアジア市場で発売された、カード型のN900(右)とペンダント型のN910(左)。
▲写真11
“形のインパクト” が重視されるアジア市場で発売された、カード型のN900(右)とペンダント型のN910(左)。
写真12 N703iµの開発時、個々の要素がどれだけ小型化・薄型化されたか、説明資料として用意された分解サンプル。
▲写真12
N703iµの開発時、個々の要素がどれだけ小型化・薄型化されたか、説明資料として用意された分解サンプル。
見学情報
日本電気 玉川ルネッサンスシティ 資料コーナー
公開・非公開の別
非公開
所在地
〒211-8666 川崎市中原区下沼部1753
電話番号
044-433-1111(代表)
最寄駅
JR 向河原駅
取材協力
日本電気株式会社
次回予告 次回の掲載は11月13日です。
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根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ 根村かやの(総研スタッフ)からのメッセージ
91年の「mova」は、かなり現在のケータイに近い形状ではありますが、それでも液晶ディスプレイの大きさは折りたたみ上半部3分の1程度。通話中に相手の番号と名前を表示するぐらいなら、モノクロ・3行表示のこのサイズで十分だったんですね。テンキーにカナが刻印されるようになったのもこのころから。まだ確実に「携帯“電話”」だった時代でした。

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