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転職の失敗は転職で取り返す。 2度の転職で企業研究の重要性に気づいたA.Tさん
A.Tさんは、転職市場で多くのSEに人気があるユーザー系SI企業に新卒入社したが、上司と合わず3年で転職。ところがそこには過酷な勤務と将来性のないビジネスが待っていた。そこでA.Tさんは再度の転職を試みた。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/山田モーキン)作成日07.11.12
残念ながら、転職は常に成功するとは限らない。スキルアップとともに新しいステージに向かうのは、今やエンジニアにとって当たり前のキャリアプランと言える。だが、事業環境や市場の変化で、転職当初に望ましいと感じられたステージが一変することもある。転職はタイミングと企業選びを間違えてはならないのだ。
A.Tさんの1回目の転職は、やや勇み足だったかもしれない。新人のころには自分の可能性が無限大にあると考え、つい外の芝生が青く見えてしまう。採用側も第二新卒層にかける期待が大きいので、転職のハードルは低い。容易に転職先を見つけたA.Tさんだったが、思わぬ誤算が待っていたのだ。もう少し慎重に会社選びをしていれば……。そう反省したA.Tさんは、確かな情報を見極めて新たなステージへと向かった。
Profile ソフトウェア開発企業 システムエンジニア A.Tさん(31歳)
新卒で某大手金融のシステム子会社に入社。3年で中堅システムインテグレーターに転職したが、会社のビジョンに不安を感じ、業界のクチコミ情報から現在の勤務先に再度転職した。
転職前
(SE・27歳)
転職後
(SE・31歳)
年収約500万円強 給与 年収500万円弱
(残業が激減した分だけ若干の減少)
月間400時間
(1日14〜15時間勤務・土日もほとんど出勤)
勤務時間 7時間〜15時間/日
(土日はほぼ休み、忙しい時期は前職と変わらないが、通常は残業2〜3時間。定時で帰る日も少なくない)
100人ちょっとのSI企業。ひとつのアプリケーションパッケージだけに特化したビジネス戦略。 職場環境 60人規模のソフト開発企業。2〜3次請けではあるが、さまざまな案件を経験できる。
今回の注目!
ピリピリとした人間関係。社内で怒鳴り合いも。辞める社員が多数。 職場の
人間関係
のんびりとした雰囲気。普通の人間が多いという感じ。
ひとつのアプリケーションパッケージソフトを軸にシステム開発・導入を進める。 仕事の
中身
さまざまなシステム開発を受託するので、ビジネスアプリから組み込みソフトの開発まで幅広い。
2年目からチームのサブリーダーとしてけっこう任される。 仕事の
進め方
プロジェクト次第でPLを任されることも、一エンジニアとして参画することも。
特定のパッケージソフトに特化した開発案件のサブリーダー。 仕事の役割 多彩な開発案件があり、その都度役割が変化する。
転職前編 こんなはずじゃ……転職なんてするべきじゃないのか?
新卒で入社したのは大手金融企業のシステム子会社A社だった。いわゆるユーザー系システムインテグレーター。常に元請けであり、上流工程を担い、経営も安定し、勤務環境も良好とされる。振り返れば、確かに恵まれた環境だった。ただひとつ、上司とそりが合わなかったことが転職を選択させた。日々の叱責が疎ましかった。怒鳴られることもあった。元来、そうした激しい感情をあらわにする人は苦手だ。当初は新人だから仕方がないとあきらめていた。また、その上司は仕事ができる人間で、言っていることは間違いがない。彼が怒鳴るのも熱血指導と言えなくもなかった。でも、そのときはもうどうにも我慢ができなくなった。そこで、土曜日を中心にひそかに転職活動を始めた。20代半ばのSEの転職は難しくなかった。すぐに複数の企業から内定が出た。

内定が出たらすぐにA社に退職願を出した。多少の引き留めはあったが、気にもかけなかった。すぐにでも会社を移りたかったからである。そうして転職したのが、100人少々のSI企業B社。強力なパッケージソフトを扱っていることから、事業は好調とのことだった。前職よりは規模がかなり小さくなった。でも、そんなことは気にしない。残業が多く、休日出勤も続いたが、あの怒鳴り散らす上司から離れられたことだけで、当初は満足できた。
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しかし、日々の叱責から逃れ、冷静になってくると、B社への転職が果たして正解だったか疑問に思うようになった。激務の日々が続き、心身共に疲れがたまっていった。月間の勤務時間は400時間に及んだ。

この会社を選択したことに対する疑問は、失敗という確信に変わった。決定的だったのは、自分がエンジニアとしてほとんど成長していないことに気づいたことである。B社が扱っていたパッケージは、独特の導入手順があり、一般的なシステム開発とは必要なスキルが異なる。また、パッケージゆえ、業務設計を煮詰めたりプログラムを開発したりするような必要がない。言い換えれば、エンジニアとしての基本スキルがいらないのである。パッケージの機能と導入手順と操作を覚えれば、すむことだ。残業に残業を重ねたのは、ちょっとしたカスタマイズのためであり、クライアントを満足させる無駄な仕様書を大量に書いていただけだと思うと、自分の選社ミスに腹が立ってきた。

加えて、B社が取り扱うパッケージの商品力に陰りが見えてきた。市場には新しい技術やパッケージが次から次へと出てきている。周囲に辞める社員が続出した。「この製品には先がない」と、誰よりも最初に感じるのは、実際に扱っているエンジニアである。いつしか社内にピリピリした雰囲気が漂ってきた。自分に対してではなかったが、怒鳴り合う場面も見られた。

こうなってくると、あの上司の度重なる叱責も、自分を育てようとした愛情の裏返しかもしれないと、後悔の念がわき出てきた。何と言っても安定したユーザー系SI企業である。あと少し我慢すれば、それなりのポジションが与えられたかもしれない。今ごろはチームリーダーとなって上流工程で活躍していただろう。あの上司の下には自分の代わりに後輩の新人がついていたはずだ。そんな考えが常に頭をよぎるようになった。焦って決めたこの転職は失敗だったのだ! もう後戻りはできない。どうする?
転職活動編 再度の失敗はしたくない。情報収集に力が入る。
次の転職は失敗したくない。前回の反省を踏まえて、じっくりと腰を据えて転職活動を行うことにした。まず、エンジニアとしてこの先で何をしたい、何をすべきなのかを熟考した。そこから得た答えが、「何よりSEとして市場価値の高いスキルを身につけなければならない」というものだった。B社において、特定のパッケージだけを扱っていたことから、キャリアの空白期間ができたことが浮かび上がったのだ。特別なことではない。Javaやデータベースなどのスキルを磨きたいと考えたのである。

次に、どうやって会社選びをするかということである。IT業界に数年も務めていると業界の構造が見えてくる。今更ながら、ユーザー系の魅力を強く感じている。でも、ユーザー系SI企業への転職は難しそうだ。だったら、自分にフィットした風土や経営ビジョンを持った企業に入りたい。それにはふんだんな情報を得て、それを整理し、最適な選択をピックアップしなければならない。

そこで転職サイトや転職誌はもちろん、人材紹介会社をフルに活用した。経営者、事業内容、経営状況、肝心の職務内容、勤務環境、風土、待遇など、あらゆる角度から企業選びをスタートしたのである。
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そんな中から気になる企業としてC社が浮上した。ソースは意外にも、協力会社のエンジニアからのクチコミである。得られた情報の中身は、経営者がしっかりした理念で会社をまとめ、社員を大切にする社風で、着実に成長していること。だからこそ採用を活発に行っている。また、元請けではないが、だからこそ幅広い開発案件をもち、スキルの幅を広げたり深めたりするには最高の勤務環境である、ということが条件にぴったりだった。

人材紹介会社からたくさんの情報を得ていたが、比較検討したところ、このクチコミ情報の会社がいちばん気にかかった。

さっそく応募し、面接で経営者に会ったところ、確かに魅力的な人物だった。先を見通していて、社員にかける期待も大きい。残業も多そうではなく、社内もアットホームということだ。また、新卒と中途入社で区別していないという話も聞けた。そして、その数日後に入社が決定した。
転職後編 なんとかキャリアの停滞期間を乗り越えることができた。
C社に入社し、もう数年が過ぎた。今までの開発業務の中身は、当初の情報どおりさまざまだった。携帯電話のインターフェースを設計したり、コールセンターの画面をつくったりもした。もちろん、一般的なビジネスアプリケーションも開発した。Javaもオラクルもスキルが上達できた。恥ずかしながら、C言語にタッチしたのも初めてだった。

社内はアットホームで居心地が良い。残業も激減し、自由になる時間が増え、プライベートも充実してきた。すべてがうまくいった転職と言えるだろう。

でも、これで満足しているわけではない。キャリアの空白期間を埋めることはできたが、スタート地点に戻っただけとも言える。A社にまだ居続けていたら、今ごろは金融システムのエキスパートか、プロジェクトマネジャーとして活躍していたことだろう。まだまだ失敗を取り返していかなければならない。お世話になったC社には申し訳ないが、3度目の転職も視野に入れているのである。
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A・Tさんの転職考察 転職活動は慎重に。早く辞めたいからといって焦らないこと。
転職して良かった点
・多彩な開発スキルを獲得できる環境を得た。
・激務から解放され、プライベートな時間が持てるようになった。
・居心地のいい職場環境と仲間を得た。
転職して悪化した点
・収入が若干下がったが、残業が激減したので不満ではない
A.Tさんが最初の転職に失敗したのは、転職活動のノウハウや企業研究が不足していたというよりも、ただただ転職したいという一念が冷静な判断を失わせたからだろう。若手SEにとって、現在は転職のハードルが低い“売り手市場”である。だからこそ、慎重に慎重を重ね、じっくりと次のステージを探したいところだ。転職エージェントのアドバイザー、転職サイト・転職誌の情報、業界内の知人たちから得られるクチコミ情報などをベースに多角的な視野をもって活動すべきだろう。
今回の転職ノウハウ:隣の芝生は青く見えるもの。若手SEにとっては売り手市場だからこそ、いっそう慎重な企業選びを行いたい。
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