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20年以上前から風車を作りたいと思っていた 現在の風力発電は、ブレードの長さが何十mもあるような大型風車が主流。その理由は、小型で実用に耐える性能をもつ風車作り自体が、技術的に難しいからだ。実際、世界で発売されている小型風車を見ると、スペックは立派でも設置後の発電が不十分、すぐに故障するなどのトラブルに悩まされるケースも見られている。 その小型風車に革命をもたらしたいと考えたのは、複合材加工技術の高さで知られるジーエイチクラフトの木村學社長だった。 「私が風車を作ってみたいと考えたのは、実は20年以上前のことでした。弊社はもともとヨット作りのために創業した会社。ヨットの開発は非常に面白く、競技において世界レベルで戦うことができたのも収穫でしたが、趣味のものばかりでなく世の中の役に立つ製品を作りたいと思うようになりました。その候補のひとつが風車だったのです」 |
キーデバイスであるダクトの装着で効率が3割向上 小型風車「GHDWT」シリーズの開発に乗り出したのは2002年。当時、ジーエイチクラフトは自動車メーカーと共同でバスを電気自動車に改装するプロジェクトに参画していた。その際にインホイールモーターなどさまざまなモーター技術に触れ、「風車に応用しても素晴らしい回転体になる」ことを確信したのが、GOサインを出した理由のひとつだという。 木村氏は最初から、普通の風車を作ろうなどとは考えなかった。写真を見てわかるように外観はかなり独特であり、最大の特徴はローター外周へのダクトの装着だろう。いかにも空力的なダクトとブレードの形状は、実験用風洞を思わせる。 「このダクトは、小型でありながら大型風車と同等の効率を実現するためのコアテクノロジーです。風車に当たる風というのは、実は想像するよりずっと脈動が激しいんですよ。ブレードに当たる風の速度は1秒間に秒速0mと10mの間で何度も変動することがあります。この風の変化にどう対処するかが、小型風車の開発では極めて重要なテーマとなるんです」 小型風車は風を受ける面積が小さいため、風の変動の影響は大型風車より格段に大きい。ならばダクトを使って風を強制的に導いてやれというのが発想だった。このアイデアは大当たりで、ダクトなしに比べてトータルで約3割もの効率向上を果たすことができたという。 夢は「自動車1台、家1軒につき、風力発電1基」 ジーエイチクラフトの風車は、最先端の宇宙航空向け材料でもあるフルカーボンコンポジット製。ブレードを軽量化し、微風から発電のためのトルクを得られるようにするためだ。ちなみに宇宙航空技術は複合材だけでなく、空力特性、機械設計、発電のための制御技術など、さまざまな部分に応用されている。 こうした作り込みにより、直径わずか5.6mというコンパクトなサイズながら、定格出力が10kwという性能の小型風車を実現した。現在、中部国際空港や横浜・みなとみらいのMM33プロジェクトビルなどで既に稼働中だが、小型であるにもかかわらず、事業用発電機としての能力をも有していることが、発電計測データによって実証されつつある。 将来の目標は「自動車1台に1基、家1軒に1基、小型風力発電機が装備されるような時代を到来させること」だという。そのため今後は、「総費用約1500万円という今の価格を半分にすることに取り組んでいきたい」。 同社は現在、風車に続いて航空機事業への本格参入を計画している。完全無人垂直離着陸機を開発しているが、その3号機のプロペラには風力発電機と同様のダクトが装備されている。そのほうが高い性能が出るからなのだという。複合材と流体力学について高い技術力をもつジーエイチクラフトの夢は、地上へ、空へ広がるばかりだ。 |
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人類の夢、再生可能エネルギーの利用手段である風車開発の仕事に、チャンスがあるなら就いてみたい!――そんな思いを抱くエンジニアもいるだろうが、未経験から風車の開発職に転じることは可能なのか? 答えは「エンジニアのスキルとやる気次第でYES」である。 風車は製品トータルでは極めて特殊性が高い技術だが、要素技術を見ると、そのほとんどはほかの業界でも使われているものばかり。 風を効率よく運動エネルギーに変えるための流体力学、軽量化と高強度を両立させるための構造設計や材料工学、風車のブレードの可変ピッチや首など可動部分の機械設計およびメカトロニクス、発電した電気を安定したエネルギーに変換するパワーエレクトロニクス、蓄電システム等々。どこかに重なる技術分野があるはずだ。 問題は転職先の企業探し。リクナビNEXTでは「風車」「風力発電」などのキーワードで求人情報を得られるが、風車自体がまだ大きな市場を形成しているわけではないため、求人があったら応募するというスタンスだけでは苦しい。 風力発電を手がけているのは重工メーカー、自動車メーカーなどの大企業がメインだが、発電機メーカーや電力会社が自前で開発を行ったり、ジーエイチクラフトのようにスタンドアロンで開発に乗り出すケースも多々見られる。また、技術的には未成熟な場合も少なくないが、ベンチャー企業勢も徐々に力を蓄えてきている。それらの企業に自分からアタックする気構えが重要だ。 風車開発に携わっているエンジニアは、中途採用についてこう口をそろえる。 「やりたいなら若いうちに積極的に門をたたくこと。未経験でも情熱次第でできることはあるし、他分野の技術が風車を大きくレベルアップさせることもある。とても面白いし、やりがいもあるので、ぜひチャレンジしてほしい」 |
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