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大手メーカー系SIerからの転職はもったいない? 気楽な環境を振り切ってベンチャーに飛び込んだK.Eさん
安定した経営環境、明確なミッション、完成された組織。大手メーカー系SIer のSEは腰を落ち着けて働ける環境に恵まれることが多そうだ。K.Eさんは、そんなメーカー系SEの魅力を振り切ってベンチャーに転職。彼を待っていたのは……
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/山田モーキン)作成日:07.04.16
 大手ハードベンダー直系のSIerは、SEにとって微妙に緩い環境であるようだ。親会社からプロジェクトが落ちてくるから、案件を獲得するためにコストを切り詰めることなどが独立系ほど厳しくはない。元請けあるいは元請けに近い立場でプロジェクトを動かすから、実際のプログラム製造は外注化できる。必然的に納期にも余裕が出る。すべてのメーカー系SIerがそうだとは言えないが、少なくともK.Eさんの所属していた企業はそうだったらしい。K.Eさんはそうした環境をあえて捨てて、ベンチャーに飛び込んだ。なぜ? 何が変わった? K.Eさんの選択が正しかったか否か。思い切って進むべきかあえてとどまるべきか……キャリア設計を迷っているSEにとって、ひとつの参考になる事例と言えるだろう。
Profile ソフト開発企業 マネジャー K.Eさん(30歳)
大学卒業後、大手通信システム開発会社に就職。コンサルタントになるための技術を磨くために大手ハードベンダー直系のSIerに転職後、ソフト開発ベンチャーに引き抜かれて現在に至る。
転職前
(プロジェクトリーダー・28歳)
転職後
(開発チームのマネジャー・29歳)
年収520万円 給与 年収550万円(大幅昇給の予定)
10〜15時間(開発時期による) 勤務時間 10〜15時間(ほとんど変化なし)
今回の注目!
大手企業の直系らしい、広くてきれいなオフィス。整った設備・環境。 職場環境 スタートしたばかりの会社なので、設備が整っていない。ネットワーク環境も自分で構築した。
社内の人脈が中心で、自分の得意分野とそれを活用してくれる部門との調整のみに注力していればよい。気楽な人間関係。 職場の
人間関係
20代の社員からは技術リーダーとして頼られる一方、経営層からは職務遂行能力が買われ、管理業務も並行して行う。やりがいはあるが、サンドイッチ状態。
サーバ構築エンジニア。プロジェクトリーダー格。 仕事の中身 開発グループのマネジャーのほか、現場ではプロマネ、社内では採用・教育・IT環境の整備など幅広く兼任。経営の準メンバー。
上司・営業が決めたプロジェクト構想・提案内容の中で、線表どおりに開発業務をこなしていく。 仕事の
進め方
複数のミッションを忙しく掛け持ちしている。自ら発案するのはもちろん、最後まで見届ける責務を負う。小さな会社にとってはどれも重要な業務なので手は抜けない。
社内では特に目立つ存在ではなく、開発業務をこなすことが主要な役割。 仕事の役割 幹部候補として期待されている。直属の部下が3人いるほか、新人教育も任されていることからリーダーシップを自覚。
転職前編 転職で入社した会社は、大手系列のSIer。 事業拡大意欲に欠けていた。
 新卒で入社したのは大手通信システム会社。そこで携わったのは、グループ各社を結ぶIP-VPNの導入プロジェクトだった。TCP/IPの基本ぐらいは学べたが、仕事としては見積もりを算出したり外注会社に簡単なネットワーク構成を説明したりするぐらいで、エンジニアとはとうてい言えないような業務だった。これでは技術会社の事務屋になってしまうと考え、転職を決意。そのときに構想したキャリアプランが、40代には市場価値の高いコンサルタントになるということだった。

 それで転職したのが、大手ハードベンダー直系のSIer。コンサルティングファームを選ばなかったのは、現場経験を積み上げる必要があると感じたためだ。転職先のSIerは、オープン系のシステム開発が得意で、親会社経由の案件が中心。この会社のプロジェクト現場で技術スキルを磨き、上流工程での経験値を積もうと考えたのである。その考えは半ば実現できた。

 任されたのはLinuxのサーバ構築。DNSサーバやメールサーバをLinux上に構築する業務である。ただ構築するだけではなく、より高いパフォーマンスを出すために最初の1年間は技術的なポイントを必死で覚えた。それによってネットワーク・サーバスキルは飛躍的に向上した。だが、向上心とは裏腹にキャリアアップはそこで頭打ちとなった。この会社の実績や技術力からすれば、どんなWebシステム開発プロジェクトも主導できる。なのに、前向きにビジネスを拡大しようとしない社風だったのである。親会社経由で大規模な案件が与えられるから、積極的に取り込まなくても経営は揺るがないのだ。そのおかげで、何となく二次請けのようなかかわり方が多い。基本設計までは担当できても、その先のコンサル領域や要件定義フェーズは親会社がすませてしまう。  
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転職活動編 前職のときにお世話になった先輩から引き抜きの話がくる。
 コンサルタントへのキャリアプランが滞っている……そう思い始めたころ、前の会社で何かとお世話になった先輩から電話がかかってきた。システム開発の会社をつくったのだが、参加しないかという誘いだった。開発マネジャー兼準経営メンバーとして迎えたいと言ってくれた。格好よく言えばヘッドハンティングである。

 ベンチャーの準経営メンバーなら企業経営も学べる。コンサルタントへのステップとしては悪くないオファーだ。だが、迷いは大きかった。20代で企業経営にかかわるのは早すぎないか、エンジニアとしてまだまだスキルを伸ばす時期ではないのか、というのが表向きの理由。その意識はうそではなかったが、本当の本音は別にあった。今の状況が気楽だったからである。ただ、決して仕事やスキルアップをサボっていた訳ではない。睡眠時間を削っての仕事は日常茶飯事で、キャリアアップセミナーやイベントにはよく顔を出し、技術資格も毎年のように増やしていた。それでも、会社の経営が安定しているせいか雰囲気はあくせくしていなく、大きな責任を背負うこともなく、自分以外のメンバーを気にかける必要もない。この心地よい状態を振り切って、激動のベンチャーに行くのは気が引けたのだ。向上心の裏に、新たな挑戦を避ける怠け心が忍び込んでいたのである。
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 それでも何とか気持ちを奮い立てた。このままでは、いつか、きっと大きな後悔にさいなまれることが明白だったからだ。かつての先輩に、「また、お世話になります」という電話をかけた。
転職後編 生まれたばかりのベンチャーでは経営スタッフも何でも屋。
 大手系列から設立1年ちょっとの会社へ……。ところ変われば何もかも違うことを目の当たりにした。前はきれいで大きなオフィスビル。一人ひとりのスペースも広く、PCやネットワーク環境も最新で、設備にはまったく不満がなかった。ところが移ってきた会社は机も狭くて必要な設備もほとんどそろっていない。ファシリティのレベルダウンがはなはだしかった。これではまともな社内コミュニケーションもできないだろうと、社内のネットワーク構築を自ら買って出たほどだ。

 そんな状況ではあったが、決して不満タラタラなわけではない。むしろ転職してきてよかった、自分の決断が間違いではなかったと心からホッとしている。

 何より社内に活気があるのが楽しい。それに自由自在にやらせてもらえるし、任せてもくれる。開発チームをまとめながら採用活動から新人教育まで行ったが、その成果には手応えを感じられたし、将来のコンサル業に向けて本当にいい勉強になっていると思えた。
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 もうひとつ、自分がコンサルタントをやるには、まだまだスキルの足りないことが判明したのは最大の収穫だ。前々職で、前職で、少々天狗になっていたふしがある。今、経営会議に参加させてもらって痛感するのだが、自分の経営に対する知識はまだまだ未熟だし、大局も見えていない。こんな様子ではコンサルタントなんてはるかかなただ。

 今、何でもやらせてもらえることと、一から勉強できることに感謝している。
かつての先輩、つまり今の社長からは新たに立ち上げる事業会社をいずれ任せたいと言われている。それをクリアできれば、夢であった経営がわかるITコンサルタントがグッと現実味を帯びてくるのではないかと考えている。
K.Eさんの転職考察 迷ったら初志貫徹。キャリアプランにブレが出なくなる。
転職して良かった点
・ 夢だったITコンサルタントへのステップが着実に開けた。
・ 多くの業務を兼任するが、幅広く多彩な経験が積める。
・ 経営にもタッチでき、重要なポジションを任される。
転職して悪化した点
・日々の気楽さがすっ飛んだ。
・不本意な仕事も受けざるを得ないことが増えた。
 大手メーカー系SIerのすべてがそうとは言えないが、K.Eさんの前職企業は厳しさがそれほど必要ない会社だったのだろう。それは決して悪い会社ではない。むしろ、膨大なタスクと迫る納期で超過勤務が続き、身をすり減らしているエンジニアから見ればオアシスのような場所に違いない。社内での刺激が薄いのなら、K.Eさんのように自発的に技術資格に挑戦したり社外セミナーに参加したりすれば良いのだ。
 でも日々のせき立てられるような刺激的な環境でこそ、自分が磨かれると思うエンジニアが少なくないのも事実。自分ならお気楽な環境に甘えてしまい、いつしかビジョンを見失ってしまうだろうと自覚するエンジニアは、K.Eさんのように安定を捨てて刺激たっぷりの環境に飛び込んだほうが最終的に満足できるのかもしれない。
今回の転職ノウハウ
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