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植物から作られる化合物、バイオプラスチックの注目度が高まっている。植物は成長段階で、大気中のCO2を光合成によって固定する。そのため、製造から廃棄までをトータルでみると、地球温暖化の原因物質のひとつであるCO2の排出量が石油化学製品に比べて少ないのだ。また、資源確保の面でも、脱石油の有力な手段として期待されている。 バイオプラスチックの研究は以前から行われ、既に事業化も進められているが、ここ数年でその需要は急伸している。アメリカでは小売りの全国チェーンを展開するウォルマート社が、レジ袋を全量バイオポリマー製に変更したのが好例だ。将来需要は、当初予測よりはるかに多くなるという観測も出始めている。 |
バイオプラスチックには、水分を通しやすい、加工性に難があるといった欠点がある。そこで、一般の樹脂と接着する技術を開発し、実用に耐えるバイオマスボトルの量産技術を確立したのが、樹脂容器のブロー成型会社である平和化学工業所だ。 |
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困難といわれたバイオプラスチックとPETの接着に挑戦 石油ではなく植物から作る樹脂材料、バイオプラスチック。低CO2で地球環境にやさしい、生分解性があり自然界に投棄されても汚染度を低く抑えられるといった、環境の時代にマッチする特性をもった新材料だ。一方では、湿気や気体の分子を通しやすいという欠点も併せもつ。バイオプラスチックだけでボトルを作ると、内容物が湿ったり腐ったり、炭酸飲料の場合は炭酸が抜けてしまうのだ。 「それならバイオプラスチックと水、ガスを通しにくいほかの樹脂の多層構造にすれば、実用に耐えうる容器を作れるのではないかと考えたのが、製品開発の始まりでした」 バイオプラスチックとPETを接着する技術を世界で初めて実用化し、バイオマスボトルの生産を開始しているブロー成型会社、平和化学工業所の畠山治昌氏は、製品開発のきっかけについてこのように語る。 同社がバイオプラスチックの加工法を研究し始めたのは、生分解性という特性が注目され始めた1980年代。畠山氏の父で、同社の社長を務める畠山和幸氏が研究開発を続けてきたが、どうしてもうまく張り合わせることができなかった。 バイオ系ポリマーは大きく分けて、生体由来高分子(PHB=ポリ-β-ヒドロキシ酪酸、微生物が発生するメタンを原料とする)と、化学合成高分子(穀物やイモ類などのでんぷん質やサトウキビを乳酸菌発酵させて作られるモノマーを、さらに重合して製造するポリ乳酸が原料)の2種類があるが、いずれも組成の関係上、PETやPENなどポリエチレン系樹脂材料と接着させるのは極めて難しい。 高校は理系だったが、武蔵野美術大学に進学、卒業後もしばらく舞台美術の仕事を行っていた畠山氏は、化学については半ば素人だったという。何とか接着法をモノにできないかと模索したが、 「さまざまな化学の専門家に聞いたのですが、バイオプラスチックとポリエチレンはそもそも接着するものではないという考えが支配的でした」 トライアンドエラーから偶然生まれた世界初の接着技術 畠山氏は、接着が無理ならバイオプラスチック層とPET層をモザイクのように入り組ませて、ひとつの樹脂層を形成しようと考えた。いくつかの製造法を考案するも、モザイク方式では衝撃や変形に弱く、すぐに両層がはく離してしまう。 「それでも何とかくっつかないかなと思い、エポキシやアクリル、天然成分などありふれた接着剤をホームセンターで買い込んできて、それらをいろいろ調合して試してみたんです」 トライアンドエラーを繰り返すうちに、偶然、バイオプラスチックとポリエチレンを接着できるパターンを発見した。 「なぜその組み合わせだと接着できるのか、理由は今でもわかりません。ですが、この発見から、バイオプラスチックと水・気体を通さない石化系樹脂の強固な多層構造をもつ、バイオマスボトルの量産までこぎ着けることができました。接着剤の詳細は一切秘密で、現在は特許申請中です」 畠山氏は今後の市場成長にも大きな期待を寄せる。 「バイオプラスチック製品の開発は、大局的にはまだ始まったばかり。アメリカで需要が大幅に増えていますが、今後は世界的な環境規制が始まるでしょうから、ブレイクする可能性は大いにあると思います」 バイオプラスチックといえば化学の専門家の専管事項というイメージがあるが、実際には樹脂自体、製品加工法、加工機の製作など、開発にはさまざまなレイヤーがある。同社がボトルの接着法を見つけ出さなければ量産バイオマスボトルの開発が進まなかったように、樹脂の成分開発だけでなく、量産や加工などの関連技術開発も同時に活性化させることが求められる。コンシューマー向けバイオマス商品を普及させるための必須条件だ。 「われわれも、さらによいバイオマスボトルの製造方法を今後も追求し続けようと思っています。エンジニアの皆さんにも、ぜひバイオプラスチックに関心をもっていただきたいですね」 |
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バイオプラスチックというと萌芽的技術のようなイメージがあるが、CO2削減などの環境行動のニーズが急増していることが追い風となり、研究開発の世界では既に量産を視野に入れた実用化、さらには量産化というフェーズに移行しつつある。エンジニアニーズも今後は大幅に増える見通しだ。 リクナビNEXTでは「バイオ」「生物」などのキーワードで検索可能だが、キーワードが医薬品、化粧品分野と重なるためやや非効率。「職種から探す」→「技術系(素材、食品、メディカル)」→「素材、半導体素材、化成品関連」で絞り込み検索するか、化学系メーカーの社名で直接検索すると好結果を得られる。 求められるスキルは多様である。材料開発では微生物、植物など生物系の知識をもっていると有利だが、非生物系であっても高分子化学、有機合成など化学系全般の知識、あるいは実験のノウハウなどが役に立つ。 生産技術の確立ではプラントエンジニアリングの知識が役立つ。培養に使うバイオリアクターの経験は重宝されるだろう。また、加工では平和化学工業所の例にもあるように、バイオマス材料の特性に合わせた加工技術の開発のニーズが高く、 熱成型、射出成型、ブロー成型など、さまざまな装置開発の経験を生かすことができる。 生物系の知識が皆無では難しいだろうが、基礎的な一定レベルまでは独学で身につけられるもの。また、上記のように携われる業界は思いのほか広い。今後の動向にはぜひ目を配りたい。 |
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