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巨大工場新設で半導体エンジニアの大量採用が始まる 本気の東芝!フラッシュメモリで世界一位へのシナリオ
西田厚聡社長が就任して約1年、東芝の勢いが止まらない。特に半導体事業に掛ける意気込みはすさまじく、今後3年間での1兆円以上の設備投資を発表。大規模な生産工場も来年には完成。そしてさらなる工場を建設予定だ。DRAMで味わった屈辱を晴らすべく、NAND型フラッシュメモリで世界首位奪還を目指す。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ)作成日:06.08.30
新工場1棟分につき三桁のエンジニアが欲しい。共にトップを取りにいきたい
市場の拡大が終わらないNAND型フラッシュメモリ
 入社以来DRAM一筋だった鈴木英徳氏。2000年に三重県の四日市市工場に赴任するが、翌2001年に「DRAMの終焉を目の当たりにした」と当時を振り返る。そして2005年にNAND型フラッシュメモリの開発部署へと異動した。
「DRAMとNAND型フラッシュメモリでは、個々のトランジスタレベルのデバイスは同じだけれど、メモリとしての動作が全く違う。そりゃ最初は戸惑いましたけど、技術開発の難しさはどこでも一緒です。むしろ、決定的な差はその用途でした。DRAMはPCのOSに依存している部分が多かった。例えば、Windowsが95から98にバージョンアップするとメモリの市場は広がりましたが、一段落すると冷えてしまう。その繰り返し。一方のNAND型フラッシュメモリはアプリが実に多彩です」
 NAND型フラッシュメモリ(以下フラッシュメモリ)を搭載するアプリケーションは、デジカメ、携帯電話、携帯型オーディオプレーヤーなどで、PC用HDDへの置き換えも既に始まっている。どれも大規模な世界市場をもつコンシューマー製品ばかりである。
鈴木英徳氏
株式会社東芝
セミコンダクター社

メモリ事業部
ファイルメモリ・デバイス技術部
ファイルメモリ・デバイス第二担当グループ長

鈴木英徳氏(45歳)
東芝メモリ事業部のフラッシュメモリ事業
 東芝ではメモリ事業を大きく2つ、ファイルメモリとモバイルメモリに分けている。ファイルメモリではメモリカードやUSBなどの「カード」と、デジカメや携帯型オーディオプレーヤーといったデジタル機器に組み込まれる「NAND単体」があり、どちらもNAND型フラッシュメモリが使われる。
 一方のモバイルメモリでは、携帯電話に搭載するMCP(Multi Chip Package)の開発を行う。これはNAND型をベースにNOR型フラッシュメモリやPSRAM、L/P SDRAMなどを組み合わせてつくるが、最大9層まで積層可能なパッケージ技術により、次世代携帯電話など高機能化が著しいモバイル機器の限られたスペースに、最適なメモリを搭載することができる。部品点数を増やすことなく搭載できるため、高性能なシステムを実現させることが可能となる。
微細化を進め、2008年には40nm世代で32GBも
 これから市場が本格化するフラッシュメモリ。東芝では2005年〜08年に掛けて世界市場が倍増し、約2.6兆円を超える市場に成長すると予測している。そのマーケットで競合他社と勝負するために欠かせないのが、技術力と生産能力での先行だ。
「技術的には、メモリセルの微細化が大きな課題です。現在弊社が量産している製品のプロセスルールは90nm(ナノメートル)と70nm。各世代で100人以上のエンジニアがそろっています。これを徐々に56nmへと軸足を移し、再来年からは40nm世代の開発を始める予定です」
 年率で2倍の大容量化を進めている東芝では、今後も同率での開発・生産を予定している。
「微細化による最先端の製品をできるだけ安く、大量に、世界に向けて供給したい。そのためのカギは、他社がまねできない東芝の技術です」
東芝のNAND型フラッシュメモリ メモリセル微細化ロードマップ
 東芝ではメモリセルの微細化について、2009年までのロードマップを描いている。2008年にはプロセスルールを40nm世代に、容量を32GBまで増加させる予定。ただ、ここまで微細化が進むと、新規開発には別の要素も必要となる。例えば新しい材料で、小面積でも誘電率を稼げるような新素材が求められる。こうした「次の手」は現在でも構想中だ。
 また、表下部にある「Multi Level Cell」(MLC)とは多値化(後述)技術のこと。同じ集積度の回路の記憶容量を倍増できる技術で、実用化された2001年からはグラフが2つに分かれ、通常のSLC(Single Level Cell)と比べて容量が倍になっていることがわかる。
メモリ容量を倍にする半導体技術「多値化」
 競合他社より先行している東芝の半導体技術が「多値化」技術である。
「ひとつのメモリセルに2値以上のデータを書き込む技術です。従来の半導体が『1』と『0』の2値1ビットで行ってきた信号処理を、『00』『01』『10』『11』の4値2ビットで行います。これにより、例えば1GBのメモリであれば実質的に2倍の2GBになり、逆に同じ容量であれば大幅なコストダウンが図れます」
 電圧制御の難しさやゆらぎの幅のコントロールといった課題は多いが、東芝は数年前から実用化を進め、フラッシュメモリの多値化比率は既に95%を超えている。競合他社が追い上げ中だが、多値化比率は20%程度と見られている。
「もちろん安心しているわけではありませんが、エンジニアからは新しいアイデアが次から次へと出てきます。開発の早い段階でディスカッションを進めてアイデアを固め、事業の大きな柱へとつなげています。例えばデータ保持の方法やセルの構造など、検討中のアイデアはかなりの数に上ります」
微細化メモリセルにより実現した東芝の極小製品
microSDメモリカード
USB「Nail Drive」
microSDメモリカード USB「Nail Drive」
 microSDメモリカードは幅11mm×高さ15mm×厚さ1mmと、その体積はminiSDメモリカードの約4分の1。現在の世界最小メモリカードで、この夏にも発売予定だ。また、USBの「Nail Drive」は幅14.4mm×高さ31.5mm×厚さ6.9mm(キャップ部分含む)。SDカードよりも小さいサイズで、名前のとおり爪の上にのる大きさ。これ以外にも、4GBという大容量のSDHCメモリカードを9月から量産開始予定である。
 鈴木氏はデバイスの技術開発を行う一方、約30人のメンバーを指揮するグループ長でもある。開発のプロセスルールは70nmだ。
「私が東芝に入ったころは1.2ミクロンでしたから、約20分の1になっているわけです。当時は想像もできなかった数値。半導体製品の微細化は永遠に終わらないと思います」
国内最大の「第3棟」を超える「第4棟」、そして「第5棟」へ
 フラッシュメモリ生産の主力拠点である四日市市工場。その敷地内には第1棟〜第3棟までの生産工場が建つ。第1棟と第2棟は200mmウェハ、300mmウェハ対応の第3棟は国内最大の工場だ。月産能力は合計で約11.8万枚(300mmウェハ換算:06年度末)を誇るが、現在はその隣に第4棟を建設中である。
「第4棟は来夏に完成予定で、10〜12月の量産開始を予定しています。完成すればここが国内最大。2008年にはこの第4棟の稼働により、現在の倍の生産能力を見込んでいます。さらに次の製造棟の建設についても検討をしていますが、現段階では具体的には決定していません」
 とはいえ、四日市市工場の敷地面積は約31万2300uと東京ドーム7個分の広さ。各工場の巨大さがうかがえる。
「設備投資に躊躇して結果的に断念することになったDRAMと、同じてつは踏みません。西田社長は開発現場にも頻繁に下りてくる方なのですが、何よりハートが熱い人。十分な投資を続けてくれるので、こっちも『やってやる!』って気になりますね」
市場シェアのカギを握る生産能力とコストダウン
 フラッシュメモリ事業の成否を決める大きな要素が、生産能力だ。「日本のお家芸」と呼ばれたDRAMにおいても、投資不足から生産能力が落ち、価格競争で負けてシェアを奪われ、撤退を余儀なくされたという過去がある。
 2005年のフラッシュメモリ世界シェアは、韓国のサムスン電子に次いで、東芝は2位のポジション。今後はインテルとマイクロン・テクノロジーの合弁会社も参入予定で、いっそうの競争激化は避けられない。東芝が今年度の半導体事業に投資する金額は約3540億円、今後3年間で約1兆200億円を予定。生産能力の増強によるスケールメリットが出せなくては、世界市場での勝負は難しいという判断だ。
必要となる人材は最低で三桁のエンジニア
 建設中の四日市市第4棟には、デバイス開発、プロセス開発、生産技術、製品評価などからラインで働く人々まで、丸々1棟分のエンジニアが必要になる。全部で1000人以上を予定しているので、技術職だけでも三桁の人材需要が発生するという。これから建設を検討している第5棟においても同様だろう。
「とにかく人が欲しい。中途採用の条件は、『何らかの半導体に携わって3年以上の経験がある』こと。この程度の実務経験があれば、足りない分は自分の努力で吸収できるはず。もちろん、フラッシュメモリの経験者なら大歓迎です。それと、弊社の事業展開やデバイスの開発力に共鳴していただいて、フラッシュメモリの事業拡大を目指せる人がいいですね」
 東芝では「できるだけ早く、ひとりでも多く、半導体エンジニアの採用を進める」予定である。
東芝にいるとスピード感に驚かされます
半導体製造装置のプロセス開発者が転職
 大手半導体装置メーカーの研究所で8年間、主にプロセス開発に携わってきた重岡隆氏。2004年3月に東芝に転職した。当初は主にプロセス開発のインテグレーションを行い、昨年10月からデバイスの全体的な開発へと移行、現在は56nm製品を開発する。
「NANDについては本で読んだ程度だったので、最初の3カ月は戸惑いばかりで落ち込んだこともありました。このため、必死で勉強し恥を捨て人に聞きまくり、仕事を少しでも早く覚えようと努力しました。切り張りしたノートは、まるで受験のときのようです(笑)」

前社の2倍のスピードで進む東芝の開発
 前出の鈴木氏は、「彼らプロセス屋は材料や膜、例えば物理特性などから攻めていく。僕らデバイス屋とは違った視点なんです。だから、膜の質を変えてくれといった注文もできます」と、背景の異なる転職エンジニアの貢献を語る。
「東芝に入って何が違うって、スケジュールのスピード感です。前社より2倍は速いですね。製品化まで信じられない速度で進むのですが、皆が無理なスケジュールだといいながらきちんとやっている。驚きました」
 重岡氏は毎晩自宅で技術的な勉強を続けているという。そのためか、新しく入社するエンジニアには「常に現状に満足しない人」が望ましいと語る。
重岡 隆氏
株式会社東芝
セミコンダクター社

メモリ事業部
ファイルメモリ・デバイス技術部
ファイルメモリ・デバイス第一担当 主務

重岡 隆氏(36歳)
東芝が求めるフラッシュメモリ事業の主な募集職種
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  高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ  
高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
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半導体って非常に魅力的な技術対象ですよね。キルビーが発明してノイスが育てたICが40歳を超え、これほどの微細化と高集積化が進み、技術系産業のエンジンになるとだれが想像できたでしょうか。語弊のある言い方かもしれませんが、日本の半導体事業で「てっぺん」を目指せるのは、当座は東芝さんしかないような気がします。世界一、頼みます。
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