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世界中の携帯電話サービスで、いま最も使われている端末はどこのメーカーのものか、ご存じだろうか? それは「ノキア」の携帯電話である。米ガートナー社の調査結果によると、2005年度第4四半期の世界シェアで、「ノキア」は実に約35%を占めており、2位のモトローラ(約17.8%)以下を大きく引き離している(下図参照)。このシェアは、世界中で携帯電話を使っている人々のうち、およそ3人に1人が「ノキア」の携帯電話を所有していることを意味している。 その「ノキア」の日本法人が、「ノキア・ジャパン(株)」である。そこで採用された日本人技術者たちは「ノキア」の世界シェアを支える大きな力として、世界を舞台に大活躍している。 ではそのノキアが今、「日本人技術者を求めるわけ」について早速探ってみた。 |
ノキアは、北欧フィンランドで1865年にパルプ製造会社として誕生した。その後、合併吸収を重ねて巨大企業となるが、1980年代末に深刻な経営危機に直面、90年代には通信エレクトロニクス部門だけを残して他の事業をすべて売却する大リストラを敢行する。これが功を奏し、携帯通信業界で急成長を遂げていくことになる。現在では世界52カ国に主要拠点を持ち、また、ユニークな組織形態、企業文化を持つことでも知られている。 「ノキア・ジャパンは、世界でも非常に重要なポジションにあります。日本は、携帯通信ビジネスにおける新技術の開発、多機能な携帯電話のデザインなどにおいて、業界最先端をいくレベルにあるからです」と、ノキア・ジャパンでノースイーストアジア・パシフィック地域担当人事部ディレクターを務めるリー・マーフィー氏は語る。 1989年に設立されたノキア・ジャパンは、これまで着実に人員を増やしてきた。現在の従業員数は約500名である。昨年度の採用実績は、日本国内の採用者が約80名。ほかに海外のノキアから異動してきたメンバーもいる。マーフィー氏によると、2006年度はさらに日本での採用者数を増やす計画だという。 |
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ノキア・ジャパンには4つの事業部がある(上図参照)。その中でも世界市場で成長著しいのは、3G携帯電話など多機能なモバイル機器やソリューションを開発する「マルチメディア事業部」だ。 「世界各国で、カメラ付き携帯電話はもう当たり前になってきました。世界には『ノキアの携帯電話に付いているカメラで、生まれて初めてデジタルカメラというものに触った』という人たちが大勢いるのです。そうしたカメラ機能に加え、メールやWebブラウズ、PCとの連携など、携帯電話の多機能化はますます進んでいます。『マルチメディア事業部』で活躍する日本人技術者たちは、そうした携帯電話の多機能化を支える、すばらしい仕事をしてくれています」とマーフィー氏は言う。 「マルチメディア事業部」でも今年度の採用において人員増強を予定しているという。そして、ノキアが求める技術者像について、マーフィー氏は次のように語ってくれた。 「何よりも内面的なスキルを重視します。チームワークが尊重できること、新しいことにチャレンジできること、自分を開発していく意欲があること、などです」 こうした条件には、ノキアならではの組織形態や企業文化が色濃く反映しているようだ。 |
では、そうしたノキアならではの組織形態や企業文化とは、いったいどのようなものなのだろうか? また、ノキア・ジャパンで働く日本人技術者たちは、実際にどのようなワークスタイルを送っているのだろうか? そのあたりのことを、マーフィー氏の話にも出た「マルチメディア事業部」に所属する2人のエンジニアにうかがってみた。彼らの働き方を知ることで、ノキアという企業のさまざまな魅力がよりいっそう鮮明になってくるはずだ。 |
外資系企業の日本法人は、大きく2つのタイプに分けられるだろう。あくまで海外本社の出先機関的な役割と権限しか持たない企業か、もしくは、本社とはまったく別の存在のように、日本企業そのものの慣習と制度を持つ企業のどちらかである。ノキア・ジャパンは、そのどちらのタイプとも違っている。 「ノキアには、本社・支社のような上下関係や拠点間の優劣がありません。ある事業をどこかの国の1社が担うのではなく、世界中にその事業に携わるチームが存在します。例えば、日本で発売中のNTTドコモの「FOMA NM850iG」やボーダフォンの「Vodafone 702NK II(Nokia 6680)」についても、ノキア・ジャパンだけで開発したのではなく、ハードのデザイン、カメラ部分、液晶部分、インターフェース、搭載するソフトウエアなど、開発チームは世界中に分散しています。各チームの成果が結実して、1つの製品が生まれているのです」と蒲生氏。文字どおり、世界規模のネットワークで仕事を進めている企業なのである。 そうした世界中に分散するさまざまなチームの中で、蒲生氏は、多機能型携帯電話に搭載するソフトウエア・チームのまとめ役を担っている。 |
それだけに、各国チームとのコミュニケーションは緊密にしておく必要がある。ノキア・ジャパンでは、入社すると国際ローミングサービス対応の携帯電話が支給されるが、蒲生氏の携帯電話は常に海外からのコールで鳴りやまない。 「一番苦労するのは、各チームのスケジュールを合わせることですね。予定した期日までに必要なソフトが揃わないと、作業が進まない、製品が発売できない、という事態が発生してしまいますから」 一方でノキアは、「個人の生活を大切にすること」をとても重視する企業文化を持っている。これは、フィンランドの社会風土を色濃く反映したものといえるが、例えばどんなに仕事のスケジュールが押していても、できる限り家族のことを優先させるという考えがあり、理解も得られる環境がある。 「プロジェクトをまとめる立場としては困る場合もありますが、私自身もこの企業文化にはずいぶん救われています。それに、『誰かができなければ、他のみんなでその分を助け合おう』という意識がごく自然にありますね」と蒲生氏。 蒲生氏自身も、ご家族に不幸があったときに1週間以上の長期休暇をとったそうだ。自身の精神的なショックはもちろんだが、家族の落胆も大きかった。それで、通常の忌引きよりも長く休みをとって家族と一緒にいる時間を大切にしたという。多くの日本企業などでは、その間プロジェクトが滞ってしまいがちだが、蒲生氏が出社してみると、何事もなかったかのようにプロジェクトは順調に進行していた。日本のチームはもちろん、世界中のチームがしっかりとフォローしてくれていたのである。周囲からは、「なんだ、まだ休んでいてもいいのに」とまで言ってもらえたそうだ。 また、意思決定が早いのもノキアの特徴だ。自分が決定できることはその職責の範囲で決定するという文化が徹底しているため、何でも上に押し上げて採決を仰ぐ必要がないという。すべての人たちが自分の職責内で最大の努力をする。拠点間に優劣がないのと同様に、意思決定の場においてもすべてが水平思考の企業、それがノキアの特徴でもある。 「また、オープンドアポリシーというものがあって、すべてのオフィスのドアは常に開かれています。日本企業では考えられないことですが、必要があればどんな人とでも、自分の拠点の所長や社長、あるいは別の拠点の人たちともすぐに話をすることができる。そういうフランクなところや行動力は、日本企業や他の外資系企業にはないように思います」と蒲生氏は言う。 ネットワーク型企業ならではの組織運営、スピーディーさが、ノキアの成長を支えた原動力と言えるかもしれない。 |
「以前勤務していた電機メーカーでは、製品の企画から開発、最終仕様を固めて製造ラインに乗せるまで、ディベロップ全体を1つのチームで完結して行っていました。それがここでは、例えばコネクティビティ系ドライバは東京チームが開発し、他のデバイスドライバはまた別の国のチームが開発するという、インテグレーション型の仕事に変わりました」と福井氏。 福井氏にとっては、各国チームが連携して1つのプロジェクトを成し遂げるノキアの仕事の進め方は興味深く、新鮮だったようだ。 もちろん、日本企業にもインテグレーション型のワークスタイルをとっているところはあるだろう。ただし、プロジェクトに携わる各チームが平等に横並びではなく、歴然としたヒエラルキーが存在するケースが多いのではないだろうか。システムインテグレーションにかかわる事業などで、元締めとなるSIerの傘下に、各パートを請け負うSIerが階層的に連なる状態などは、その端的な例といえるだろう。 ノキアの場合には、そうした上下関係がほとんど見られない。各チームが対等の関係なのだ。そして、プロジェクトの内容に応じて、必要なチームが有機的に結びついていく。しかも、チームごとに地球上のあちこちの都市に分かれて存在しているのである。そこで各チームをまとめる役、ボスではなく、いわばコンダクター役を務めるのが、プロジェクトマネージャーだったりする。ひとくちにインテグレーション型のワークスタイルといっても、日本企業などとはかなり様子が異なっているのだ。 |
福井氏はまた、「あくまでディベロップにこだわるエンジニアには、ノキアのワークスタイルは向かない場合もあるかもしれませんね」とも指摘してくれた。製品企画から出荷開始まで、すべての工程に携われるわけではないからだ。チームが担当するのはあくまでパートであり、ときにそれは、自国では発売されない製品だったりもする。製品開発の全工程を見渡すことに魅力を感じるエンジニアは、確かに同社のワークスタイルは馴染まないかもしれない。 「その代わりにノキアでは、私のような開発に携わるエンジニアにとっては、仕事に専念できる環境がかなり整っていると思います。日本企業では開発系のエンジニアも、売れ行きを考慮した営業担当などから何かとリクエストされることが多いと思いますが、ノキアでは、その点では完全分業化されていて、開発は開発、マーケティングはマーケティング、と役割が分かれています。たぶん事前の準備の過程を重視しているからそうできるのだと思います。もちろん、だからといって、開発が始まってから横の連携がないわけではありませんし、製品開発の節目節目や市場投入時等にはマーケティングなど含めプロジェクトチーム全体でお祝いします」 ただ同社では、個人のステップアップを積極的にバックアップする体制が確立しているため、主体的に仕事に取り組んでいくことができる。 「まず、半年に一度、ラインマネージャー、プロジェクトマネージャーを相手に、自分の目標について話し合います。そこで、仕事の範疇や取り組むべきプロジェクトについて、主体的に選び取ることができるようになっています」 気がつくといつの間にか抱えきれないほどの仕事を任されていた、というような話は、同社では皆無だ。もちろん、フラットな組織だけあって、いつでも相談はウエルカム。役職や上下関係など問わずにわりと気軽に相談を持ちかけることができる雰囲気が醸成されている。 また、各国間での異動を可能にする社内転職制度も徹底している。例えば日本法人が、あるチームを増強したいと人員募集を全社に呼びかけると、「東京で働きたい」という希望を持った社員が世界各地から応募してくる。同様に、日本から世界へ飛び出していくエンジニアも少なくないという。 |
「開発にかけるパワーよりも、バグを見つけ出して、それをつぶす作業のほうにより多くの時間を要しますね。どのチームが担当する部分が問題となっているのか、その切り分けが難しいこともよくあります。私の仕事は製品の機能や信頼性に直接関わるものだけに、問題を迅速に解決するスピードが要求されます」と福井氏は言う。 テクニカルなやりとりが多いため、各国チームとは、主にメールを使って情報交換を行うという。しかし、メールや電話だけではどうしても話がかみ合わないケースがある。また、バグの原因がチーム内で特定できないというケースも少なくない。そんなときは、関係する各国チームに呼びかけて、「キャンプ」を行うのだという。 「例えば、『いついつから3日間、フィンランド本社の第2会議室に集合』といった具合に関係者に呼びかけます。そこで全員で集中して作業を行うのです。これを私たちは『キャンプ』と呼んでいます。ふだんメールや電話でのやりとりはあっても、顔を合わせるのはこの「キャンプ」が初めて、という人がけっこう多かったりします」 集まるのはフィンランドだったり、ドイツだったり、その時々のテーマで核となるチーム次第だ。そうした「キャンプ」が状況に応じて柔軟に開催できてしまうところが、ノキアなのである。海外出張もノキア社内では日常茶飯事に起こっている。必要であれば一エンジニアであっても、全世界に呼びかけ、即断即決で行動できる。様々な上司に伺いを立てて許可を待ったり、関係各部へ稟議を回したり、といった手間と時間は、同社では必要ない。フラットなネットワーク型組織を生かしたスピード力こそが、ノキアの真骨頂なのである。 |
現在日本ではノキアの携帯電話は数機種しか発売されていないため、実感が薄いかもしれないが、全世界規模では、ノキアは昨年1年間だけで実に56機種もの携帯電話、モバイル端末を新たに発表し、累計販売台数は2億6500万台にものぼる。それだけ開発のスピードが早く、1国に特化せず、グローバルな製品展開を進めているのである。 こうした製品開発を支えているのが、世界中のチームがフレキシブルに連携できるネットワーク型組織と、上下関係に縛られない迅速な行動力だ。 蒲生氏も福井氏も、「海外出張した際に、自分が開発に携わったノキアの携帯電話を使っている人を目にするのが最高の喜び」だと語ってくれた。そう、ノキア・ジャパンのチームが開発に関わった携帯電話が、いま世界中で大人気なのだ。それが、同社の人員増を後押ししている。日本国内だけを相手にするのではない、海外本社の出先機関でもない、日本人技術者が世界を相手に仕事ができる場、それがノキアなのである。 最後に、蒲生氏と福井氏に、どのようなエンジニアが同社にふさわしいかを尋ねてみた。2人が口を揃えて語ったのは、「技術的なスキルは、土台がしっかりしていて、一定の経験があれば大丈夫。語学力とりわけ英語力はもちろん必要ですが、流ちょうに会話ができなくてもまったく心配ありません。もともと英語を母国語とする人はそんなに多くないので、みんな第二言語としての英語ですよ。何より大切なのは、世界各国の顔の見えない人とも積極的に、そして円滑にコミュニケーションができる明るさ、大らかさ、意欲!」だそうだ。 エンジニアレベルで世界を動かせる希有な国際企業、ノキア。興味のある方はぜひ一度、同社の門戸を叩いてみてはいかがだろうか。 |
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