趣味の道具であるおもちゃ。そのおもちゃを作っているのは、まぎれもないエンジニアたちだ。単なる仕事として割り切っていては、面白いものができないのがホビーの世界。趣味を仕事にしたおもちゃエンジニアの仕事ぶりに迫ってみた。
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/関 洋子)作成日:06.04.12 |
おもちゃ――それはいつの時代においても、人生の時間をより豊かなものにしてくれる、とてもすてきなデバイスだ。のみならず、70年代のLSIゲームしかり、80年代のファミコンしかり、おもちゃは時代のハイテクの象徴でもある。 子供のみならず大人をも夢中にさせるハイテクおもちゃは今日、果たしてどんな人がどのような現場で生み出しているのだろうか。実はハイテクToyからローテクおもちゃまであらゆるおもちゃに目がないTechスナイパー、井元康一郎が、その開発現場にロックオン。
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技術の粋が表れているおもちゃとは── さまざまなおもちゃが頭をよぎる。その中でも、最もTechスナイパーの関心をひきつけた2つのおもちゃ、ラジコンヘリとキッズパソコンに狙いを定めた。それらのおもちゃを、エンジニアはどんな思いで開発しているのか。その素顔に迫った。 |
車や飛行機、果ては二足歩行ロボットまでも自由に操ることができるラジコンは、間違いなくホビーの王様のひとつ。そのなかでも、最近世界で流行しているのが、ラジコンヘリコプター。アメリカをはじめ、各地で世界選手権が開催され、腕に覚えのあるマニアが目を疑わんばかりのすごいアクロバット飛行を競って披露している。
かつては50万円から、ハイエンド機では100万円オーバーという高価なおもちゃだったラジコンヘリを劇的に低価格化させたのが、ラジコンヘリコプターからJAXA(宇宙開発機構)無人機まで、さまざまな航空機の設計業務を手がける田屋エンジニアリング(以下田屋)だ。 社長の田屋惠唯さんは、ラジコンヘリブームが巻き起こったころ、85年の第1回F3C世界選手権(ラジコンヘリの国際大会)で優勝を果たした。 実は、田屋さんはラジコン好きではあったが、スーパーパイロットではなかった。 「当時、ラジコンヘリの機構設計のレベルは低かった。腕前ではなく、機械設計の巧みさで勝ってやろうと考えたんです」(田屋さん) このコンセプトで勝利を手にした。まさに闘うエンジニアだったのである。 |
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優勝の2年後に現在の会社を立ち上げた田屋さんのヘリ設計へのこだわりはすごい。
「ヘリの機構設計はとても面白い。操縦性を改善するために、ローターを制御するアームを1本から2本に増やしました。エンジンマウント部もパワーロスを防ぐための剛性の高さと着脱性のよさを両立させるべく、工夫を重ねました」(田屋さん) 田屋のローターまわりの精密制御は、最先端技術のかたまりである無人ヘリにも使われているという。ラジコンヘリは、サイズは小さくとも、その中身はメカトロニクスの粋を凝らした、こだわりの逸品なのである。 それだけのスペックを備えながら、田屋のヘリの価格はきわめて安い。アミーゴという入門機は、2ストロークグローエンジン付きで何と定価6万9800円という破格値。これでアクロもひと通りこなせる性能をもっているというから驚きだ。「ラジコンヘリの楽しさを低価格で一般の人にも味わってほしい」というコンセプトで作られた田屋のモデルは、世界にファンを作った。 「ラジコンに限らず高度な制御機構をもつ機械を作ることが楽しい」 と言う田屋さん。先端メカトロニクスを自らのホビーとしてしまうエンジニア魂に、Techスナイパーも脱帽だった。 |
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家庭用テレビにアナログ接続するだけで、勉強やお絵かき、家族同士でのファミリーメールなど、さまざまなIT体験ができる子供向けのハイテクおもちゃ。それがエポック社の「テレビパソコン」だ。
開発を手がけたのは、ゲーム・トイ事業部EL開発室の武藤明さん。この少子化社会のなかでは珍しくなった、子供4人をもつ子だくさんパパである。もちろん自他ともに認める子供好きだ。 「子供は好きですね。うちに子供の友達がよく遊びに来るんですが、おもちゃを作っているというと、素敵な人というふうに見てくれるので、それもうれしい」 武藤さんのチームの最新作は、今年3月に発売されたシリーズ最新機種「ドラえもんスーパーテレビパソコン」と「ハローキティスーパーテレビパソコン」。年齢に合わせたさまざまな勉強、クイズやゲーム、タイピングソフトなどが組み込まれているほか、別売りのカートリッジソフトも用意されている。それらのすべてが、たまらなくほほ笑ましい。かく言うワタクシ、Techスナイパーも開発中の体感ゲーム「ドラえもんエキサイトピンポン(6月発売予定)」をプレイしてみたが、思わず熱中してしまった。家庭で親子が一緒に楽しめること受けあいである。 |
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「子供がどんなものを喜ぶか、毎日そのことばかり考えています。試作ゲームの基板ができたら、それを家に持って帰って自分の子供にプレイさせてみます。また、友達が遊びに来てテレビパソコンでゲームをするときも、どんなものが喜ばれるかがよくわかります」(武藤さん)
武藤さんの“子供愛”は、おもちゃ作りの原動力となっている。将来、パソコンにすんなり移行できるよう、キーボードは子供の小さな手にマッチする16mmピッチだが、配列はJIS準拠。またメインチップにデータ、グラフィック、サウンドをワンチップで処理する *新世代の「SuperXaviX」を搭載している。ハードウェアの構成でもさまざまな工夫を凝らして、9980円という親の財布に優しい価格も実現させた。 「私はおもちゃを、自分の子供へのプレゼントのつもりで作っています。そうすると手抜きなどできません。でき上がったおもちゃで子供が楽しそうに遊ぶのを見ると、自分がサンタクロースに近づけたような気がしてうれしくなります」(武藤さん) 大学では建築史を専攻し、カンボジアの遺跡調査などにも従事していたが、就職活動のときはおもちゃメーカーにターゲットを絞っていたという武藤さん。それから10年以上が経過した今日、 「毎週のように近所の仲良し家族でパーティを開いたり、スキーや釣り、海遊びやバーベキューに行っています。子供と触れ合っていると、なぞなぞや冗談など、子供の反応や笑わせるツボもわかってくる。そんな週末の発見が、おもちゃ作りに大いに役立つんです」 と嬉々として語る様は、仕事とホビーが一致した開発マンの喜びにあふれていた。 *新世代株式会社:「XaviX PORT」などのエンターテインメント商品の企画、開発、製造や半導体の設計、開発、製造、販売などを行っている。本社は滋賀県草津市 |
好きなことを仕事にしているエンジニア3人をロックオンしてみたTechスナイパー。彼らに共通して感じたことは「顔の輝きが違う」ということだった。
これは単なる印象論ではない。自分がのめり込んでいるモノづくりについての語りの熱さが違う。話の内容は技術、フィロソフィーの両面できわめて明確な具体性を帯びたもの。取材なのに、まるでその場で仕事を始めるのではないかと思われるほどの勢いだった。プロフェッショナルとしてのスキルとマニアのごとき情熱の融合は、モノづくりを行ううえで、まさに最強の原動力といえるだろう。 エンジニアはだれでも夢を抱いている。が、転職を考えるとき、自分のスキルを高く売ることを夢よりも優先させてしまうこともしばしばある。もちろん人間が生きていくにあたって、人生設計は大切だ。が、その人生設計を考えるときに、経済的要素だけでなく、夢という物差しを忘れないことが、エンジニアとしての幸福感をモノにするうえでいちばん、大切なのではないか――趣味を仕事としているエンジニアたちを見て、そういう思いを強く抱いたTechスナイパーであった。 |
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