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賛否両論渦巻く中、まずは実態を把握しよう それでも進む!成果主義時代のエンジニア処世術
ここ数年で成果主義を導入する企業が急増。一方ではこの傾向に警鐘を鳴らす意見も続発している。そんな時代に戸惑いを隠せないのが、仕事の成果を数値で表しにくい技術職だ。まずは成果主義をきちんと認識して、その対処法を考えたい。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/栗原克己) 作成日:05.01.05
Part1 大手ほど進む成果主義の導入に、企業も社員も困惑中
今、成果主義を取り巻く環境が揺れている。導入企業は増加の一途だが、この制度を利用してみて「思うような結果が出ない」という声が多く出ているのだ。従業員のみならず、企業も困惑の度合いを深めている。
大手企業の80%超が既に成果主義制度を導入 成果主義を導入している企業

成果主義の評価状況
 厚生労働省の昨年の調査によると、半数以上の企業が既に成果主義(個人業績を賃金に反映させる制度)を導入済み。従業員1000人以上の企業に限れば、何とその割合は80%を超えている。しかし、その運用は必ずしも成功していないようだ。何らかの改善や修正を検討している企業は、全体でも従業員1000人以上の企業に限っても70%以上ある。

 評価の課題を複数回答で尋ねたところ、全企業では「部門間の評価基準の調整が難しい」(54.5%)、「評価者の訓練が十分にできていない」(50.5%)、「格差がつけにくく中位の評価が多くなる」(36.3%)が多く、対応策では、「評価のためのマニュアルを作成」(46.6%)、「低い評価を受けている労働者に対する対策」(41.3%)、「業績評価制度に基づく評価結果を本人に通知」(35.0%)の順になった。

 一方で1000人以上の大企業の場合は、課題では「評価者の訓練が十分にできていない」が最も多く(59.4%)、対応策としては「評価のためのマニュアルを作成」が70.4%とかなり高率だった。この背景には、評価の対象である従業員人数の多さがあるのだろう。
「評価の納得感」は成果主義導入後に低下
 このように、成果主義を導入した企業の多くは現状に満足していないのだが、それは評価される側も同様であ る。労働政策研究・研修機構は昨年の調査で、成果主義導入企業の従業員3000人に、導入前と導入後の納得感を尋 ねている。「賃金や賞与の判断材料となる評価」に、「納得感が高まった」は15.1%止まりで、逆の「低下した」 は倍近い28.8%だった。現在が成果主義の過渡期であることは、まず間違いないようだ。
Part2 転職を考えるエンジニアは成果主義に賛成かつ反対
成果主義制度が一般化していけば、当然ながら、転職先にも成果主義を導入した企業が増えていく。転職を希望するエンジニアは、評価制度の変化をどう考えているのか。リクルートエイブリックで主に電気・電子系職種を担当する、熊本優子氏に話を聞いた。
転職エンジニアは、成果主義に賛同しつつ安定性も重視
転職エンジニアの成果主義への反応例
 リクルートエイブリックを訪れるエンジニアの多くは、転職の理由として「評価の透明度が低い」「評価の基準が不明」「評価への説明がない」などを挙げるという。しかし、単純に成果主義を歓迎しているわけでもないようだ。
「やはり多くの方はまだまだ安定志向です。こだわるのは基本給の金額、福利厚生、メーカー出身者なら寮の有無などで、インセンティブ制度などに目を向けられる方は少ないですね。多分、労働の対価ではなく、変動するだけにお小遣い程度ととらえているのでしょう。報酬面ではまず、最低保障額を気にされます」
 しかし、多くのエンジニアの転職動機が不透明な評価制度だとすれば、一律ではない実力評価の成果主義に、もっと積極的でもよさそうだ。
「成果主義に賛成かどうかを単純にイエス・ノーで聞けば、イエスと答えるエンジニアが圧倒的に多いと思います。成果主義の導入や福利厚生費の削減を進めている企業が増加していますし、それに対する納得感は高いと思います。しかし、いざ転職となるとそれが自分にどのような影響を与えるかが見えてくるため、不安定な世情もあり、転職の入り口では成果主義賛成でも、意思決定時には安定志向に即した会社選択になるのではないでしょうか」
熊本優子氏
リクルートエイブリック
キャリアアドバイザー
熊本優子氏
それでも全員一律の評価制度には異議あり
 ただ、企業の多くは、程度の差こそあれ成果主義や実力主義を取り入れている。そして、この傾向は今後も強まると予想されている。
「安定志向の方は5人のうち4人くらいです。逆に成果主義に抵抗感のない方は、大手企業では自分の役割が見えないと新卒でベンチャーに就職した人や、ある程度のリスクを承知で外資系企業に勤めている人ですね。ただ、堅実な保障を求めてはいても、全員一緒の評価には皆さん疑問をもたれています。成果主義が本格的に始まってまだ3年ほどですから、多くの方が戸惑っているという印象です」
 最近の企業は成果主義で待遇に差をつけるばかりでなく、従業員が安心して働ける方法もアピールしている。熊本氏は、「これから本当の日本流成果主義が生まれるのでは」と語る。
Part3 成果主義は日本企業に合致するのかしないのか?
一昨年あたりから成果主義を批判する意見が増加している。中でも「成果主義はすぐにでも廃止するべき」と主張するのが、東京大学の高橋伸夫教授である。氏は生活保障を基本とした、日本型年功制度に戻すべきだと語る。
評価はお金ではなく「次の仕事」で報いるべき
 私は成果主義そのものが間違っており、すぐに年功制に戻すべきだと思っています。仕事の成果を賃金に反映させれば、社員のモチベーションが高まる。これが成果主義の大前提ですが、そもそもお金でやる気が起きますか? うれしいのは、やりがいのある次の仕事ではないでしょうか。上司が与える次の仕事を見れば、その人の評価がわかる。上司でなくても同じ職場にいれば、優秀な人とダメな人の差は自然と見えてくる。仮に働いても働かなくても同じだと感じるのであれば、それは上司が無能だからです。制度の問題ではない。

 特にエンジニアの評価は難しい。通常はチームで仕事を進めますから、中心となるリーダーのほか、アイデアを出すのが得意な人、体力勝負で走る人、細かなサポートを担当する人など、質的に多様な役割のメンバーで構成されています。仮に一人だけ高い賃金をもらえば、ほかの人は自分の役割の意義を疑い、チームワークは崩れてしまうでしょう。
エンジニアを正確に評価できるのはエンジニア仲間
 多くの企業の従業員は、エース級(A)が10%、一般的な人(B〜D)が80%、能力の低い人(E)が10%という構成です。成果主義ではB〜Dに細かな査定をつけるのですが、実質的にこの中間層はほとんど差がないので、毎回評価が入れ替わります。
 ですから年功制では、B〜Dに基本的な賃金差はつけません。Eの人も賃金は低く抑えますが、退職させたりはしません。なぜなら、Eがいなくなると、どんぐりの背比べのB〜Dの中から次にEになった人の働く気が失せてしまうからです。Eの人に安い賃金を支払ったほうが、企業としては効率的なのです。一方、年功制には厳しい面もあります。前提は「給与に見合った分だけ働くこと」ですから、例えば相応の年齢となった部長クラスが仕事に失敗すれば、どこかに飛ばされてしまいます。

 私も研究職なのでわかりますが、エンジニアの評価で確かなのは「仲間内の評価」でしょう。「あなたともう一度仕事がしたい」という評価です。エンジニアにとって大切なのは、上司の客観評価よりも、部下や同僚が信頼してついてくることだと思います。つまり、成果主義の評価は、たとえ正しくても意味がない。
 特に、若いエンジニアに必要なのはお金でも客観評価でもない。必要なのは、われを忘れて夢中になれる仕事です。彼らに仕事の面白さを教えてやって欲しい。若いときの成功体験を、下の人にぜひ語ってやってほしい。
高橋伸夫氏
東京大学大学院
経済学研究科 教授
高橋伸夫氏

【略歴】
1980年に小樽商科大学商学部卒業後、東京大学教養学部助教授、同大大学院経済学研究科助教授などを経て98年から現職。専門は経営学、経営組織論。特定非営利活動法人グローバルビジネスリサーチセンターの理事も務める。
『虚妄の成果主義−日本型年功制復活のススメ−』
昨年刊行された高橋教授の『虚妄の成果主義−日本型年功制復活のススメ−』。多くの分野で話題を呼んだ。
Part4 拡大が確実視される成果主義時代を生き抜く5原則
エンジニアは成果を形に表しにくく、個人プレーヤーとしての評価が難しいため、成果主義になじまないといわれる。では、この制度の下でどう対応すればよいのか。リクルートワークス研究所の豊田義博氏にうかがった。
企業は今、評価制度の正解探しをしている
豊田義博氏
リクルート
ワークス研究所
主任研究員
豊田義博氏
【略歴】
1983年に東京大学理学部卒業後、リクルートに入社。大手企業の新卒採用戦略、広報計画業務に制作ディレクターとして従事。現在は研究員として、組織・人材マネジメントの未来形、雇用構造の変化、若年層のキャリアデザインなどに携わる。
 成果主義とひと口にいっても、企業により評価方法はさまざま。豊田氏は給与とリンクさせた成果主義には、大きく3つがあるという。
「結果に対して値段をつける、文字どおりの『成果主義』。結果ではなく能力に応じて値段をつける『能力主義』。SEやプロマネといった職種・職位、いわゆる椅子に値段をつける『職務主義』。この3つを組み合わせて待遇を決める企業が多いのですが、そのバランスは業界、業種、事業、企業などにより異なります。多くの企業は今、この正解探しをしているところでしょう」

 また、成果主義制度は、プロセスが明確な職種に向いていると語る。
「例えば営業職は、金額や件数などの目標があり、そこに至るプロセスが分解・定義しやすい職種です。だから、ある時点での金額が低くても、その後のプロセスへの貢献度などが測れて、評価がしやすい。一方、技術職、事務職、財務、広報などはこれがはっきりしないため、評価は難しいのです」
 もうひとつの問題は「期間」だ。目標管理制度では一定期間での達成度を問われるわけだが、こうなると短期間での目標が増えてしまう。豊田氏は「未知の何かをつくり出すという、エンジニア特有のミッションや夢を追いかけなくなる恐れがある」という。
成果主義制度では「自分の仕事」をアピールせよ
 このような課題を内在させながらも、成果主義を導入する企業は今後も増えそうだ。エンジニアはどのように対応すればよいのだろうか。
「自分の仕事をきっちりPRすることです。『ほう・れん・そう』はもとより、業務日誌を付けておいて1カ月ごとに上司にメールで送る、あるいは、師匠や相談相手として社内にメンターを見つけておく。愛想を振りまくという意味ではなく、自分の情報が相手に見えるようにするのです。表現は悪いですが、成果主義には『言ったもの勝ち』や『やったもの勝ち』という側面があります」
 成果主義でカギとなるのは、「部下に適切な仕事を与えてそれを評価できる人」の存在だ。しかし、この立場にある多くの人は、成果主義による評価を受けたことがなく、自分もまた始めたばかり。だからこそエンジニアからのアピールが必要だと、豊田氏は説く。

「今後も年功制度は減衰し、成果主義が拡張していくでしょう。ただ、それが結果主義かどうかはわからない。単なる結果以外に能力、知識、行動をパラレルに見て、評価する企業も増えるのではないでしょうか。確かにいえることは、これまでは『積み上げてきた能力』が評価対象だったのに対して、今後は『常に能力を磨くこと』が求められる評価制度になることです」
成果主義時代のエンジニア処世術5原則
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
成果主義について調べたところ、実にさまざまな評価方法と報酬制度があり、評価の対象者や対象職種も細かに分かれていました。企業も最良のシステムを模索しているようです。この問題は簡単には結論が出そうにありませんが、Tech総研は追いかけます!

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