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転職を繰り返すことで見えてきた「企業選びの基準」とは?

知名度ではなく、理想の開発環境にこだわったK・Yさん(31歳)

あれほど熱望したのに、入ってみたらぬるま湯状態だった地元有名企業。今度は開発に全力投球したいと考えたK・Yさんは、再び東京の企業への転職に挑んだ……。
(取材・文/中村伸生 総研スタッフ/山田せいめい)作成日:04.03.31

キッカケ編
理想の会社だと思って転職したのに不満が蓄積

地元有力企業に入社してみたものの

 地元の中堅エンジニア派遣会社を振り出しに、東京の大手ソフト開発会社を経て、とうとう生まれ育った地元を代表する巨大メーカーの系列ソフト開発会社に転職できた。高校を卒業した当時は高嶺の花だった企業である。専門性を高めるために働きながら大学に通うなど、スキルアップの努力が実ったのである。両親も喜んだし、豊かな生活が保証されたも同然……と思ったら、思わぬ落とし穴が待っていた。

 最初のつまずきは給与のことだった。中途採用などほとんど実績がない会社ということで、28歳でプロジェクトリーダーを任されながら、規約上の待遇は新卒者と同等だったのである。同年代と同じ給料がもらえるはずだと短絡的に考えていたのだ。もっと面接時に細かい契約を確認すべきだったのだが、この会社に入社できるというだけで浮き足立っていた自分が情けない。

エンジニアとしての停滞感を感じる

 さらに、この会社の技術水準が思いのほか低かったことには驚いた。ついつい前の会社と比較してしまう。東京で参加していたプロジェクトは世界最大級のクラサバシステム開発で、ユーザー側の担当者も、元請けSIerのエンジニアも、スキル的にすごい人ばかりだった。オンサイトの派遣SEながら、そこで得られる技術や知識の一つひとつが、エンジニアとしての向上心をビリビリと響かせてくれたのだった。ところが、こちらではミーティングの進め方ひとつ取っても緊張感に欠け、コンペティティブな刺激も皆無なのだ。先輩たちのプロジェクト管理能力は低く、得るものが何もない。かつてあこがれたこの会社はこんなにもぬるま湯だったのだろうかと自問自答した。そして、東京時代の最前線の激務がいつしか私を鍛えていたという結論に至った。

 また、東京で知り合って結婚した妻も、「最近、あなたはしゃべり方がスローになってきた」と言う。どうやらこちらのペースに染まってきたようだった。最新のスキルを磨き続けなければならないソフトウェアエンジニアが、こんなにのんびりしてしまっては、先行きが危うい。

 決定的だったのは、社長に工程管理の手法などに関してもっとシビアに行うべきだと直訴したことで、変化を嫌う直属上司たちより疎まれる存在になってきたことだ。心が決まった。やはり東京の開発の最前線に戻ろう……。さっそくWebの求人サイトをのぞき始めた。

PROFILE
ソフトウェア会社
システム開発エンジニア
K・Yさん(31歳)

高校卒業後、地元の中堅エンジニア派遣会社に入社。その後東京の大手ソフト開発会社を経て、地元の大手系列ソフト開発会社に勤務しながら、夜間大学でIT系の専門技術を勉強。そして02年に東京にある現在の会社に3度目の転職。
K・Yさんの転職活動DATA
前勤務先 大手系列ソフト開発企業 プロジェクトリーダー
転職した時期 2003年5月
活動期間
(決意〜内定)
約10カ月
転職理由 自分のスキルを高められる企業で働きたい
会社選びで優先したこと データベースのスキルを生かせること、自分を刺激してくれる風土であること
実際に応募した社数 4社
内定社数 1社
落ちた社数 2社
辞退した社数 1社

応募からの日数
 A社:外資系コンサルティングファーム
 B社:外資系ソフトウェアベンダー
 C社:ソフトウェアベンチャー
 
A社
B社
C社
1次面接
10日
10日
10日
2次面接
25日
20日
25日
最終面接
32日
30日
 
内定
(不合格)
(不合格)
35日

第一次活動編
知名度にこだわって失敗

世界的に知られる外資2社に挑戦

 応募の一社目は世界的なコンサルティングファームA社の開発部門に定めた。今の会社の親会社も世界的に知られる大企業なので、気後れすることはまったくなかった。応募書類を送付したところ、10日後に1次面接として電話インタビューを行うことになった。これまでの転職経験で自分をアピールするプレゼンテーションには慣れている。質問には支障なく答えられた。2週間の後、2次面接として人事マネジャーの面接を受ける。これも通った。そして最終が社長面接だった。どこかコンサルファームのビジネスと、自分がやりたいソフト開発のビジネスにギャップを感じた。案の定、1週間後に不合格の通知を受け取った。

 コンサルが違うならベンダーだ。次の応募も世界的に知られるパッケージベンダーB社である。こちらも書類選考はあっさりと通った。応募より10日後に1次面接があった。相手は部門長とのこと。B社が主宰する資格を獲得していたこともあって、話はスムーズに運んだ。この1次面接に合格し、2次の役員面接に進んだ。ここでも思いどおりに自分をアピールすることができた。そして3次面接は人事担当との面談だった。ここまでくれば手続き的なものだろうと思われた。それほど手ごたえがあったのである。ところが、不合格。腑に落ちない。合否の理由を聞きに行った。その返事は、自分よりニーズに合致した応募者に決まったということだった。ベンダーとしては開発力だけではなく、顧客サポート力にも期待していたそうで、合格者のプロフィールを聞いてみた。確かに自分にはない素晴らしいキャリアだ。「こんな人が応募しているのか……」。路線変更をしなければならないと思った。
修正活動編
自分が本当にやりたいことを明確にする

名前にこだわらない企業選び

 大手外資系2社から不合格を申し渡されて、出鼻をくじかれるとともに少々自信を失っていた。それで目の前の仕事に没頭しようとしたが、やはり転職への意欲は変わらない。そこで軌道修正を図って活動を再開することにした。まずは会社の知名度にはこだわらないことにした。名前が通っていることにこだわることで自分の可能性を狭めたくない。次に自分がやりたいことは何だろうと自問自答した。浮かび上がったその答えは、かつて東京で働いていたときに体験した「先端システム開発プロジェクトの最前線で活躍すること」だった。

社長面接で心が動かされた

 そんなある日、Webで某サービス会社D社の社内SE募集の情報を得た。自社システムの開発を思う存分できるだろうし、自分のプロジェクトリーダーとしてのキャリアも生かせる。そんな敷居の低さを感じて会社説明会に行ったが、やはり何となくピンとこない。

 その翌日、ベンチャーC社の1次面接に臨んだところ、衝撃的な出会いがあった。

C社はデータベースビジネスでは業界でも名の通った社長が独立起業してつくったベンチャー。役員もたびたびコンピュータ誌にレポートを寄せるような、データベース技術の世界では第一人者とされる面々が名を連ねている。ここなら最新のデータベース技術を修得して、先端システム開発に挑める。だが、ベンチャーだけに企業規模は小さい。
 ところが1次面接の当日に、些細な不安など一掃された。1次なのにいきなり社長面接である。話は盛り上がった。社長から発せられる言葉の魅力がいちいちすごい。インスピレーションもビシビシ感じる。ぜひ、ここで働きたいと思った。


諸条件を確認して入社

 社長面接の15日後にグループマネジャーとの面接があった。ここで確かめたかったのは、長く働ける会社かどうかということだった。会社のビジョン、技術向上や待遇向上の構想を聞いた。夢を語るのも仕事の一つである社長ではなく、実際に働く現場の人のリアルな声を聞くのが確かだと思ったからだった。その結果、ますますここで働きたいと思うようになった。給与の確認があり、希望額1割減で納得する。今までよりかなりマシだ。10日後、メールで待望の合格通知が届いた。

転職後に見えてきた現実から学んだこと

 C社に入社して半年たった。3度も転職した感想だが、入社した後には面接だけでは把握できないさまざまな事実が見えてくる。今の会社も例外ではない。確かに期待どおり先端技術を学べる機会は多い。経営陣の技術力もすごい。しかし、ベンチャーゆえの大変さが、一人ひとりにのしかかっていることは入社後に知った。また、ここには手順を整えてプロジェクトに臨むという発想がない。仕様書などドキュメントをキチンと残しながら、チームでプロジェクトを進めるといった組織力がないのだ。いきおい、個人がすべてを請け負わざるを得ない。果たして今回の転職は成功だったのだろうか……。少なくともエンジニアとして生ぬるい雰囲気に我慢することはなくなった。
 転職によって働く環境の何もかもが前職以上になることは少ないのだろう。どこかを優先すれば、どこかに目をつぶらなければならない。優先順位をキチンとつけて企業選びをすることが重要だと、今、痛感している。
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