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ほぼ月イチ連載 第7回 止まらない 技術者人性の法則 『技術者は楽観的である』法則
「君は楽観的だね」と言われると、「先のことをまったく考えていないアホ」と
見なされたようで、いい気持ちはしない。
しかし、先のことを考えるからこそ、技術者は楽観的なのだ。

(文/出川通 総研スタッフ/根村かやの) 作成日:03.11.05



(イラスト/工藤六助)
技術者の本能は「できる自信」だ

 世のエンジニアの多くは、あれが難しい、ここがたいへんだ、と理屈をさんざんいうもの。しかし最終的に「それは結局、できるのか? できないのか?」と聞けば、「もちろんできます」と答えるもの。そして、その顔には「できるぞ」という自信が見えてきます。私はこの「できる自信」こそ、技術者のもつ本能=楽観ではないかと思っています。

「できる自信=楽観」は、エンジニアが「技術はおもしろいぞ」と感じることとつながっていると思います。逆にいうと、「こんなものは絶対にできないぞ」という「できない自信=悲観」は、“エンジニアらしくない”感覚ともいえるでしょう。

 エンジニアの仕事は、新しい「もの」を作り出していくことです。文字どおりの「もの」もあれば、目に見えにくい「サービス」や「システム」もありますが、さまざまな技術的成果を集め、集めたもののそれぞれを信用し、自分が作りたいものの「部品」として扱って組み立てる過程は同じです。楽観的だからこそ、この過程に積極果敢に取り組み、目指す「もの」を完成させることができるのではないでしょうか。いいかげんに集めたり、それぞれの成果を信用しなかったりすると、最終的な「もの」はできません。

 だから、もし常に「できない自信=悲観」をもつ技術者がいたら、その人が無理してなにか作っても、ろくなものにならないのではないかと私は思います。それはもう「技術者」とはいわないのでは、という思いさえ頭をかすめます。
先が見えれば楽観的になれる

「アバウト」「いいかげん」「ラクをする」といった響きもある「楽観」という言葉ですが、ここでは字面に素直に「楽しく観る」ということにしておきましょう。技術を楽しく観ていくためにはどうすればよいか、考えてみましょう。

 私の考えでは、やっていることの先が理屈ではなく感覚的にクリアに見えてきて、前向きに挑戦的に考えることができれば、人は楽観的になってくるようです。先がぼんやりとしか見えなければ、現状維持的になって悲観的になってくるようです。

 このイメージを示したのが図1です。だんだん集約しながら明瞭になってくる感じなら楽観的、拡散してぼやけてくれば悲観的。このぼんやりしたものは、言葉を変えるとリスクという人もいます。得られるものより守るべきことが多い場合はなおさら、きちんと先が見えないと楽観的にはなりにくいと思います。



図1.
技術者における楽観と悲観のイメージ展開

図1.技術者における楽観と悲観のイメージ展開
図1.技術者における楽観と悲観のイメージ展開
楽観論者は大組織の中で損をする?

 技術者のもつ「できるぞ」という楽観性を十分に発揮し、その成果を世に出すためにあるのが、会社などの組織ですが、必ずしも思いどおりにいかないのも世の常。
 不思議なことに、技術者の集う開発現場でも悲観論者が幅を利かすことがあります。大きな組織の場合です。

 新たな事業や研究開発を始めるかどうか、中小企業やベンチャーなら、親父のセンスとカンでポンと決められますが、ある程度の規模の会社や伝統のある企業ではそうもいきません。リスク評価なるものが行われるのです。
 実行担当者は、ある程度の成功の可能性が見えているからこそ提案をするわけですが、管理・決裁するほうは見えていません。管理に慣れた頭のよい人たちにとって、うまくいかない理由(リスク)を悲観論的に挙げるのはそう難しいことではありません。何事にもリスクはあるものだからです。

 こうして、(形式的な)評価のために多大なエネルギーが消費されます。「うまくいく」ことは話題にのぼらず、「まったくうまくいかない」場合と「多少うまくいかない」場合との違いばかりがまじめに議論され続けると、エンジニアの「できる自信」も萎縮しがちです。新規テーマがスタートしたときには担当エンジニアは既にへとへと、という例も見られます。

 一方、小さなベンチャー企業では、提案にしても実行にしても、すべて楽観的に行わなければ前に進みません。ベンチャー企業で仮に悲観論者的なエンジニアしかいなかったら……。もちろん、あっという間に会社はつぶれてしまいます。
「できる理由」もたくさんある

 ベンチャー企業と大企業とで、ビジネスプラン、考え方の力点の置き方はまったく違います(表1)。ベンチャーでは、技術がいかに差別化されているかという点を前向きに強調しながら、もちろんリスクについても触れるというスタイルをとりますが、大企業の中では、いかにリスクが少ないかを説明することが主力となります。

表1.ベンチャーと大企業での起業ポイントと楽観、悲観
表1.ベンチャーと大企業での起業ポイントと楽観、悲観表1.ベンチャーと大企業での起業ポイントと楽観、悲観

 もちろん大きな会社も構造改革、新規事業創出をうたい文句にしています。このため、社内ベンチャー、開発プロジェクトなどのメカニズムを社内に設けて、楽観論者を元気づける工夫をしています。
 しかし、企業が守りに入ったら、楽観論者である技術者にはどうも分が悪いようです。現状維持を図るための本能的な動きとして、企業は “守りに入る”のですが、この動きは同時に企業の成長を止める役割をします。ですから、“守りに入っている度合い”は、組織の将来性を判断するためのわかりやすいインジケーターのひとつともいえるでしょう。

 あなたの社内の体制は悲観論的発言者が優遇されているでしょうか。楽観論者が優遇されているでしょうか。
 エンジニアはどちらを向いて仕事をすることもできます。悲観論者の強調するリスクを重視すれば、本来の楽観も悲観になっていくでしょう。「できない理由を探す」のではなく、「できる理由を探す」ことで解決できれば、楽観エンジニアの本領発揮というわけです。
科学者は悲観的?

「科学技術」とまとめていう言葉があるように、科学と技術とはよく混用されます。ここで、「楽観」「悲観」という面から見ても違いがあるのでは、と考えて「科学」「技術」を見直してみます。

 表2では、科学者と技術者のミッションや思考方式の違いを大胆に比較してみました。こうしてみると、科学というものは、楽観的にはなれないという気もします。技術と比べて奥は深く、先も見えない中から新しいことを発見するのがミッションなのですから。

表2.科学と技術のミッションと相対的な違いのイメージ


ミッション

具体的な方法論

展望や特性
科学 ・真理の追求、発見
 (すぐには役立たない
  ものが多い)
・厳密さ、深掘りが大切
・論理性が必要
・先は見えにくい
 (どちらかというと、
  悲観的立場が主流)
技術 ・モノづくりのための
  創意工夫
 (当面役立つものが
  多い)
・広がりと組み合わせ
・論理よりも現実性
・先は見えやすい
 (どちらかというと、
  楽観的立場が主流)

 科学者には物事の真理を発見するという根源的なミッションがあり、あまりニコニコして物事を楽観的には見ていないようなところがあります。技術者には世の中に役立つ新しいものを創り出すというミッションがあります。形がちゃんとできるということはうれしいことで、ニコニコしながらの楽観につながるところがありそうです。

 私は常々、技術・技術者にとって少しアンフェアな世の中だと感じていました。それは何か新しいものができたり、発明されたときには「科学の勝利」ですが、事故でも起こったときには「技術が未熟」といわれてきたからです。しかし、「科学」「技術」は、「研究」「開発」のように補完関係にあるものと考えたほうがいいようです。
作れる楽観・直せる楽観

 技術者が作ろうとする「もの」は、形があるものです。どんなに最初は形がなく難しいことでも、やっているうちに形ができてくるということでもあります。
 もちろん、形あるものはいつかは(必ず)壊れます。でも、技術・技術者が作ったものであれば、技術・技術者によって必ず直せるものです。そう考えても、技術者は本質的に楽観的なのかもしれません。

 私は、技術者は本質的に楽観的であるし、楽観的であることが必要であると強く思います。「ものはつくることができる。壊れても必ず直せる」という基本原則によって、ひょっとしたら技術者は「楽観」に一番近いところにいる、得なグループなのかもしれません。
 これまで「俺は悲観的」と思っていた人は、ぜひ楽観的に、もともと楽観的な人はさらに楽観的になって、大いに技術者人性を楽しもうではありませんか。
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根村かやの(総研スタッフ)からのお願い
根村かやの(総研スタッフ)からのお願い
 戦争が終わらない理由、景気が回復しない理由から、早起きできない理由、お酒がやめられない理由まで、できない理由を挙げるのは実に簡単。逆に、たくさんあるはずの「できる理由」を探すのは、誰にでもできることではありません。エンジニアとしては「できる理由? 私がやるからです」と言えたら気持ちいいですよね。
 みなさんの採点、そしてご意見・ご感想をお待ちしています。

このレポートの連載バックナンバー

技術者人性の法則

技術者なら誰もが認める性(さが)をさまざまな角度から考察する全10回。技術者に共通する法則とは何か。技術者人性は意外な“法則”に満ちています。

技術者人性の法則

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