“35歳転職限界説”に大変革!?2014年トレンドは40代・50代の銀たま採用

世の中に「転職は35歳が限界」という一説があるなかで、今、40代、50代のベテラン層のニーズが拡大しつつあるという。果たしてどれぐらいニーズが増えているのか、そしてどんな経験、能力が評価されているのだろうか。実際の転職事例を交えながら解説したい。

2013年12月10日

【銀たま採用とは?】
専門スキルではなく、豊富な社会人経験を評価した採用のこと

銀たま採用とは?

リクルートキャリアは、「2014年のトレンド予測」として、「銀たま採用」がトレンドになると発表した。「銀たま採用」とは、20年〜30年超にもおよぶ長い社会人経験で培われた「いぶし銀スキル」を評価し、採用する動きのことを指す。1960年代の高度成長期に、中卒、高卒の若き労働力が「金のたまご」として脚光を浴びたが、50年の時を超え40代、50代が当時の金のたまごのように注目されていることから「銀たま採用」と名づけた。

企業人事1,000人に本音を直撃!7割超が40代・50代の採用に意欲

2013年10月、企業の人事担当者1,000人に「今後、どのような能力を持つ人材が必要になる?」と質問したところ、下記のような結果が出た。企業が今必要としている能力は、単に業界経験や職種経験などといったものではなく、利害交渉能力や変革推進能力、コーチング能力、問題解決能力など、高度化かつ多様化しており、長く社会人として活躍する過程でこそ培われる「いぶし銀スキル」が求められていることが読み取れる。

続いて、「これらの能力を持った40代、50代の採用を検討しますか?」と聞いたところ、「積極的に採用を検討したい」との回答が24%、「条件が合えば採用を検討したい」との回答が49%と、実に73%もの企業が40代、50代の採用に前向きであるとの結果が出た。

Q.貴社では今後どのような能力を持つ人材が必要になりますか?
順位 求める能力 回答割合
1 高いコミニュケーション能力があり、社外との交渉を有利に進めることができる 54.9
2 物事に対し常に問題意識をもって、目標や課題を自ら設定し、解決策を考えられる 54.1
3 顧客・社外関係者に難しい内容を的確に納得感高く伝えることができる 48.4
4 日々の判断を自分で行い、その結果、しっかり責任を負うことができる 46.0
5 予測しない状況の変化に直面しても、臨機応変に対応することができる 39.9
6 能力や専門の異なる部下・メンバーの動機づけ・育成・指導を行うことができる 38.7
7 価値観の異なる利害の対立する顧客・社外関係者と調整し、合意を獲得できる 37.2
8 課題の優先順位をつけ、具体的な実行計画を立てることができる 36.4
9 仕事関連動向を抑えるため、コンスタントにスピード感を持って情報を収集できる 35.4
10 価値観・役割が異なる関係者と利害を調整し支持を獲得しながら業務を遂行できる 35.2

Q.前問の能力を持つ40代・50代の採用を検討しますか?

Q.前問の能力を持つ40代・ 50代の採用を検討しますか?

なお、この動きの背景には、産業構造の大幅な変化がある。過去50年の間に、産業別就業人口は大きく変化、かつては断トツのトップを占めていた製造業の割合が減り、代わってサービス業の割合が急速に伸びている。そして、今後拡大が予想されるIT、サービス、介護などの成長分野は、現在慢性的な人材不足で、人材を育成する時間もコストもかけられないケースが多い。こういう分野でこそ「銀たま採用」が注目されており、市場動向を鑑みても、今後採用ニーズは拡大が続くと予想される。
では、実際に「銀たま採用」された2名の方の事例をご紹介しよう。

(アンケート概要)
【調査名】ミドル層(40代・50代)の採用実績と意向 【調査対象】人事担当者・採用決裁者
【回答者数】1,000名 【調査期間】2013年10月 【実査機関】楽天リサーチ
【調査主体】リクナビNEXT

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【事例①】
47歳で、レジャー業界の営業部長から、介護施設ホーム長に転職

渡邉昭彦さん 株式会社ベネッセスタイルケア
グランダ多摩川・大田 ホーム長
渡邉昭彦さん(48歳)

渡邉さんの前職は、大手レジャーチェーンの営業担当。営業部長として、最前線で活躍してきた。しかし、業界全体が縮小傾向にあり、会社の業績も低迷。先行きに不安を感じて、以前から興味を持っていた介護業界への転身を志し、2012年8月にベネッセスタイルケアに転職した。
「自ら志したとはいえ、全くの異業界に飛び込むことに正直不安はありました。でもキチンと実務経験を踏ませてもらい、一から仕事を覚えることができたので、自信が付きましたね」

■営業部長としての“場数”が異業界でも自信に

現在はホーム長として、施設全体を束ねる立場にあるが、「前職での経験がストレートに活かせている」と話す。
「営業部長の経験から、どんなトラブルにも堂々と対応できるし、部下であるスタッフの育成やマネジメントも、業界は違えどフルに活かせています。スタッフ育成でいえば、以前からスタッフに責任を持たせ仕事を任せつつも、最後に何かあれば自分が出て行き責任を取るというスタイルで、スタッフ一人ひとりにビジネスパーソンとしての自覚を持たせるよう心がけていました。現在の職場でもこのスタイルを踏襲することで、何か起きた時にどう対応すればいいのか、自分で考え行動できるスタッフが増えたと感じています」

例えば先日は、入居者とスタッフが参加する遠足の企画を、業務経験が浅く企画を立てたこともない若手スタッフにすべて任せた。入居者一人ひとり、体力も違えば介護レベルも違う。あらゆることに目を配り、「このスタッフにはこの役割を任せよう」「この方にはこのスタッフをつけよう」などと組み立てながら、企画をまとめ上げる必要がある。苦労したようだが、渡邉さんは陰で見守りつつも、最終承認するまで声をかけなかった。結果、遠足企画は大成功。担当したスタッフはイベントを一からやり遂げたことで自信がつき、普段の仕事においても責任感を発揮するようになったという。

■40余年の人生経験そのものが財産

このような前職の経験だけでなく、最近では「40年以上生きてきた人生経験そのものが、活かされている」と実感しているという。 「入居者の方に必要とされていると日々感じられるのが嬉しいですね。目の前の方に、どう満足していただけるか、今までの経験を総動員して真剣に考え、実行する。そしてそれに対して、笑顔とありがとうという言葉がいただける。何よりのやりがいを感じますね。勇気を出して転職してよかったと、心から思います」

ホスピタリティ志向に偏りがちな介護の現場を、ビジネスで鍛えられた
ロジカルな思考や問題解決能力で補完してほしいと考えた

保坂享子氏 人事担当者の声
常務執行役員 人財基盤本部 本部長
保坂享子氏

当社はホーム長候補の中途採用を積極化していますが、40代・50代が52%と非常に多いのが特徴。最も多いのは40代で、最高齢は65歳です。異業界出身者も約8割と多く、IT、金融、教育業界など実にさまざまな経歴の人が活躍しています。
異業界出身者を歓迎しているのは、業界に染まっていない分、フラットな気持ちでお客様目線に立ち、「本当にお客様のためになることは何か」を判断することができるから。実は、もともと介護業界にいる人は、ホスピタリティが高く、お客様に親身になれるという強みがありますが、逆にロジカルに方向性を考えたり、課題を整理して解決に動く力が弱い傾向がありました。異業界でビジネス経験を積んだ方には、その部分で強みを発揮してほしいと考えています。
とはいえ、合理的すぎても介護施設には向きません。渡邉さんのように長く現場経験を積んだ方であれば、ロジカルなものの考え方を持ちつつも、自ら現場に立ってスタッフとともに汗をかけるはず。その姿勢が、スタッフにもご入居者様にも受け入れられるのです。 今後も、業界や年齢に関係なく、戦略立案力や客観的視点を持ちつつも、人間力を発揮できるようなベテラン層の力を借りて、サービスの進化を図っていきたいと考えています。

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【事例②】
48歳で、半導体業界生産管理職から、自動車部品メーカー品質保証職に転職

木下誠司さん ナゴヤパッキング製造株式会社
品質保証部 課長
木下誠司さん(49歳)

木下さんは、半導体などメーカー数社で生産管理職を経験した後、3年前に品質保証や生産管理のコンサルタントとして独立した。しかし、「自分の経験やDNAを次の世代に伝えられる環境で働きたい」という思いに気づいたという。
そんなときに出会ったのが、ナゴヤパッキング製造だった。
「転職回数が多いことをマイナスに見る企業もある中、この会社はポジティブな転職であれば、その人が培ってきた経験そのものを評価するという姿勢でした。ここならば思い切り、経験とスキルを発揮できそうだと確信しました」

異業界ではあるが、前職での成功体験は必ず活かせると考えていたという。
「ビジネスの原理原則を理解していれば、どの業界でもすべきことは同じだと考えています。例えば、何か問題が起こったとき、再発させないためにどうすればいいのか考え、その対策を検討し実行する。このプロセスはどこに行っても同じです。だから、異業界に飛び込むことにも不安は全くありませんでしたね」

■異業界で経験を積んだからこそすぐに課題が見えてきた

2012年6月、品質保証部の課長として入社。社内を見渡してみて、すぐにさまざまな課題に気づけたという。
「工場に行って驚いたのが、掲示物の少なさ。現場では情報共有の機会が少ないので、掲示物が少ないことは、情報共有がなされていないことを意味します。これはマズイと感じ、すぐに情報共有のための掲示物を増やしました。それをもとに、スタッフ同士が会話をするようになり、情報共有も円滑に進むようになりました」

異業界で長年経験を積んだからこそ、この会社にはなかった視点で物事を見ることができるのがメリットだと話す。
「これらの課題を一つひとつ解決に導き、不良をゼロにするのが私の目標でありミッションです。まずは、当社のメイン工場である岐阜・養老工場で最良の管理手法を探って実践し、それを九州や中国、タイの工場へと横展開させる計画。生産管理や在庫管理など、あらゆる業務の品質を上げて、会社全体の品質を上げていくことが、会社の効率化に結びつく。そのために自分の経験をフルに発揮していきたいですね」

グローバルカンパニーへの転換を目指す中、さまざまな経験
からなる「変革推進能力」で現場を変えられる人がほしかった

小寺一輝氏 人事担当者の声
経営企画室 アジア事業開発室 室長
小寺一輝氏

ものづくりのグローバル化は、急速に進んでいます。当社も例外ではなく、国内外の4つの生産拠点で技術に磨きをかけつつ、グローバルカンパニーへの転換を進めています。だからこそ、さまざまな経験を積み、業務変革にも取り組んできた、変革推進能力の高いベテラン層を求めていました。
実は、木下さんを採用する際、専門性という観点ではもっと優れた候補者がいたんです。この業界での経験も長く、ドンピシャのスキルでした。しかし、木下さんは「勝ち残っていくには変わらなければいけない、変えるんだ」という意識がとても強かった。この人ならば、周りに自分の思いを伝えつつ巻き込み、自ら先頭に立って変革を推進できると確信したのです。
変革を始めた当初は、現場のスタッフもとまどいがあったようですが、お客様から「ありがとう。この品質はすごい!」という声をいただくようになり、「変革は正解だった」と皆が認識するようになりました。たった1年で会社の空気を変えてくれたことに感謝しています。
今後も、中途採用に際して、業界経験や年齢、転職回数などは全く気にしません。「現状より、もっとよくできる」という変革意欲を持った人をどんどん採用し、それに合わせて当社の環境や経営も革新していきたいと考えています。

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伊藤理子
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