グッドエージェント賞 2015年受賞者 2.株式会社セントメディア 西田理絵氏
質の高いマッチングを実現した転職エージェントに授けられる「グッドエージェント賞」の受賞者を紹介するシリーズ。
言葉尻や間に漂うわずかな可能性を信じる
スカウトメールをきっかけに自らエントリーしたはずなのに、F氏の受け答えは、ことごとく後ろ向きだった。
彼は、大学卒業後、30歳まで正社員として働いた経験がない。腰の病気で長期入院し、新卒で就職できなかったのが大きな要因だった。ただし、治癒後も就職しなかった理由を問うと、「人より出遅れてしまったし、生活習慣病などの治療もあったため。」だと説明する。その口ぶりは曖昧で、はっきりしなかった。もっとも重要な「就職する意志」を確認すると、「今は時期じゃない。」とか、「歯の治療をしていて、治ったら正社員になろうと思っている。」といった答えが返ってくる。そのセリフからは、働くことへの前向きさが伝わってこなかった。
これでは、西田としてもその時点での紹介を断念せざるを得ない。しかしその一方で、わずかな可能性も感じていた。
「卒業後就職したことがないFさんは、自分に自信を持てずにいました。そこに届いた一通のスカウトメールによって『自分にもニーズがあるかも』という期待を抱いたのだと思います。それでも、エントリーまでには、私たちが考える以上に高いハードルがあったはず。それを乗り越えて一歩踏み出した彼の気持ちを無駄にしたくはありませんでした。それに、質問に答えるまでにわずかな間が空くのも気になりました。そこに、自信のなさからくる迷いや躊躇いのようなものを感じたのです。」
彼女は、自分の直感を信じ、週1回ペースでF氏に電話し続けることを決めた。
西田の粘り強さが求職者の心を開いた
西田は電話するたび近況を聞き、愚痴のような話に耳を傾け、最後に気持ちの変化を確認した。しかし、返答はいつも「NO」。それなのに、電話に出られなかったときは、必ずF氏の方から折り返しかかってきた。
「そんなところに彼の真面目さや働くことへの想いの断片を感じていました。ただ、彼が意志を示すまでには、もうひと押しが足りない。そこで、誕生日の前日に電話することにしたのです。」
転職では、誕生日までに身の振り方を決めたいと考える求職者が多いからだ。
「『明日、誕生日ですね』と切り出したその日は、彼の態度に微妙な変化が感じられました。それまで〝NO〟の姿勢ばかり示してきたのに、私が話すことへの否定がなくなっていたのです。」
彼の心の扉は、確実に開かれてきた。しかし、2時間以上話しても、最後の一歩は踏み出せず、言い訳を繰り返していた。
「このままではダメだと思ったんでしょうね。気がついたら『そんな言い訳は聞きたくない!』と強く叱っていました。Fさんも最初は驚き、言い訳ではないなどと、もごもご話していましたが、徐々に、働きたくてもできなかった背景や踏み出せなかった理由について語り出したのです。そして最後に『もし、変われるなら変わりたい』と。このひと言を聞けたときは、心が震えました。」
この日を境に、F氏の態度は180度変わった。西田との面談では、彼女が語る内容をすべてメモした。その量、A4用紙に4枚ほど。彼曰く、「社会経験も自信もない自分には、何が良いのか悪いのか分からないため、すべてメモして、後で見返しながら考えるので。」だそうだ。そして、少しでも疑問に感じたことは、電話やメールで必ず聞いてきた。面接など一度も経験したことがないF氏のために、『元気な挨拶のロープレ』、『鏡を使った笑顔の練習』、『面接マナー指導』、『緊張に慣れるため複数社員による面接ロープレ』など、西田が考えた面接対策メニューにも一生懸命取り組んだ。その素直さ、真面目さは、西田も驚くほどだった。
A社であれば、F氏を採用する確信があった
彼女が、F氏にこだわったのには理由がある。一つは、働く意欲があるのに、自分に対する自信のなさなど、さまざまな事情でその気持ちを表に出せない人を何とかしたいという強い想いだ。もう一つが、やる気さえ出れば、A社はF氏を採用するという確信に近い予測だった。
「A社は、スキルや経験値よりもやる気や素直さといったポテンシャルを高く評価してくれます。その分、年齢は若い人を希望しますが、Fさんなら、年齢の壁も越えられるという手応えがありました。彼ほど素直で誠実な人は、そうそういませんからね。」
彼女の予測は、見事的中する。履歴書では渋っていたA社も、メモをとり、疑問をそのままにしない姿勢を伝えることで面接を了承。実際に会って、F氏の真面目さを目の当たりにして、採用を決定した。今では、『出遅れた分を取り戻そう』と年下の先輩社員に頭を下げて質問し、空いた時間をつくっては勉強を重ね、クレームにも積極的に対応する貪欲さに、『履歴書で判断しなくて本当に良かった』と非常に高く評価している。
受賞ポイント
働くことへ二の足を踏む求職者の気持ちを前向きにさせた伴走力
就職経験がないまま30歳を迎えていた求職者。その心持ちは複雑で、現状に迷いつつも、自信のなさから就職を諦めてもいた。その微妙な心の揺れを、発せられるセリフに惑わされることなく感じ取り、粘り強くコミュニケーションをとり続けた。また、心を動かせそうなタイミングを逃さず求職者の気持ちへ切り込むことで、働く意志を引き出した。
「30歳、就職経験なし」でも採用すると確信できた求人企業理解度
「30歳、就職経験なし」。転職が非常に難しい案件だったが、それまでの付き合いから求人企業の採用基準におけるポイントと許容範囲を正確に理解し、両者を引き合わせたマッチングの妙があった。求人企業に響く求職者のアピールポイントも外すことなく、推薦文や対話の中で表現していった『伝える力』によって表現した。
受賞者
株式会社セントメディア 西田理絵氏
大学卒業後、セントメディアに入社。未経験者や職歴に自信のない求職者の転職をサポートすることが多いことから、履歴書では判断できない強みを引き出すことに力を入れている。それは、求職者に満足のいく転職を手に入れてもらうため。その気持ちが強いゆえに、若くてチャレンジできるのに中途半端な気持ちで転職活動をしている人には叱ることも多い。
- タグ:
こちらの記事も読まれています
新着記事
- 2024年4月16日ゼロからキャリアを再構築するための5つのステップと注意点
- 2024年4月11日悪循環になりがちな4つの転職パターンと好循環を呼ぶ6つの方法
- 2024年4月5日3年ごとに転職を繰り返したくなるのは何故?市場価値はどうなる?【転職相談室】
- 2024年3月27日連休を上手く使って転職活動を一気に進める方法
- 2024年3月26日転職でミスマッチが起こる要因とは?未然に防ぐ方法
- 2024年3月14日転職先で経験や知識を活かして活躍するためには?
- 2024年3月13日自分のスキルは、どのように伝えれば良いのでしょうか?【転職相談室】
- 2024年3月8日クリエイターの転職で重要な役割を果たす「ポートフォリオ」の作り方