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東芝はなぜ、TSV技術による世界初の16段積層メモリを開発できたのか
「融合」で進化する、東芝の半導体パッケージング技術
東芝がこの8月に世界に先駆けて発表した、16段積層のNAND型フラッシュメモリ。そこにはTSVと呼ばれる配線技術をはじめとする、数々の高密度パッケージング技術が詰め込まれている。東芝半導体の後工程領域を担う、3人のトップエンジニアが、その技術の秘密とこれからの課題を語る。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/伊藤理子 撮影/刑部友康)作成日:15.9.16
出席者プロフィール
メモリ事業部
メモリパッケージ開発部
部長
井本 孝志氏
メモリ事業部
ファイルメモリ・
デバイス技術部 主幹
山本 和博氏
半導体研究開発センター
バックエンドデバイス
技術開発部 部長
田窪 知章氏
世界初、16段積層。TSV技術活用のNAND型フラッシュメモリ

 東芝はこの8月、TSV技術を用いて世界で初めて最大16段積層のNAND型フラッシュメモリの開発に成功したと発表。同月に米国サンタクララで開催された「Flash Memory Summit 2015」に、積層数8段・記憶容量128GBと同16段・256GBメモリの試作品を参考展示した。

 半導体チップを積層して高密度に実装することで大容量化、高速化、省電力化などを実現する3D化技術は年々進歩している。そこで注目されるのが、TSV(Through Silicon Via)技術だ。これまでのようにワイヤボンディングで電極間を接続するのではなく、シリコンチップの内部に貫通する穴を形成して貫通電極を作り、これを用いて複数のチップを1つのパッケージ内で積層する。

 ワイヤボンディングの際に不可欠な結線空間が不要になり、積層シリコン全体の厚みも縮小することができる。電極間の接続距離も短くなるため、データ入出力の高速化や消費電力の低減化につながる。従来の微細化技術を超える、半導体技術の新たな“進化軸”とも呼ばれる。

 TSV技術を用いた世界初の16段積層NANDフラッシュメモリは、東芝の半導体技術、なかでもウエハ加工後のパッケージング工程(後工程とも呼ばれる)の技術が、世界トップレベルにあることを物語っている。今回はこの後工程の技術開発に携わるトップエンジニアたちに、東芝の技術の優位性と求められる人財像について語ってもらった。

多段積層を実現するために、さまざまな新技術が投入された

──まず簡単な自己紹介からお願いします。

井本

メモリパッケージ開発部は、メモリデバイスのパッケージング工程開発を担当しており、製品パッケージや基板の設計と解析、また、できたシリコンチップを基板に接着、積層、接続し、さらに樹脂を封入する工程等の技術改善のためのパッケージプロセスの研究開発を担っています。

山本

ファイルメモリ・デバイス技術部はひと口にいえば、「製品技術」がテーマ。お客さまのニーズに合わせ、多段積層製品が必要ならいくつまで積層すればよいのか、それに伴う技術開発をどう進めればよいのか、前工程と後工程の両方を見ながら、製品づくりのマネジメントを担当します。井本と私は、普段はメモリ・ストレージ製品の開発拠点となる大船分室で執務しています。

田窪

半導体チップを製品化するためには、何らかのパッケージに封入する必要がありますが、基板との接続、耐熱、耐衝撃などの課題がつきもの。これらの課題を解決するのが、パッケージング技術です。磯子の横浜事業所内にある半導体研究開発センター(CSRD)の中で、私が率いるバックエンドデバイス技術開発部はメモリ以外の全製品──ディスクリート、ADコンバータやRFのようなミクスドシグナルIC、ロジック半導体などのパッケージング技術を研究開発しています。

井本 孝志氏
井本 孝志氏

──半導体の後工程というと、一般にはエッチング・薄膜形成した加工済みのウエハを前工程から受け取り、その裏面をブレードで削り、その後、ダイシング、ボンディング、モールディング、メッキなどを施す工程のことを言います。ただ、近年はウエハ裏面を削り薄くする前に、あらかじめウエハをハーフカットしておく「先ダイシング」技術が用いられています。これは東芝が初めて量産化した技術だそうですね。

井本

メモリ製品の大容量化、高速化のためには、1つのパッケージの中にどれだけ薄いチップを積み込めるかが重要になります。チップを薄くするために裏面研磨を行いますが、研磨の後にダイシングするとチップに反りが生じ、これが成型後にクラックを生む原因になります。最初にハーフカットしておき、その後、裏面を削ってダイシングすれば、反りの問題が解消されます。チップを薄くして、かつ歩留まりをよくするためにはどうしたらいいか、それを深く考え抜いた時に生まれたのが、先ダイシング技術でした。

山本

一般的に、多段積層するとチップの歩留まりが悪くなりますが、この技術があったおかげで、3Dメモリでも他社に先駆けて8段、16段の多段積層を実現することができました。

田窪

多段積層を実現するためには、配線技術の革新も不可欠でした。積層したチップはその分、分厚くなるわけで、一番高いところから基板まで従来のワイヤボンディング技術で配線するとなると、とたんに難しくなります。接続しようとすると、薄くしたチップ自体がたわんでしまうので、その接続配線自体が難しいうえ、ワイヤがほかのワイヤと接触してショートするということもあり得ます。

これらの問題を解決するためには、ワイヤや接着剤などの材料選定から、配線の設計に至るまで、前後すべての工程を熟知していることが不可欠になります。

山本

チップを平面に配置するのと、積層に積み上げるのとでは、技術の難易度が段違いですからね。多段積層するためには、チップを薄く研削する技術、高精度にワイヤボンディングする技術、積み上げた最上段のチップからパッケージ上面までのギャップを狭くする圧縮成型技術(狭ギャップ充填技術)など、いくつもの技術が欠かせません。多様な技術を投入しないと、とても多段積層は実現できないのです。

井本

もちろん、むやみやたらに新技術を開発するわけではありません。顧客や市場の要求を見ながら、どういう技術がどの製品にいつごろ必要になるかを、しっかり見極めながら技術投入を行う。普段から顧客や、材料・装置メーカーとコミュニケーションを取り、最新の技術情報を集めておくことが必要です。1つの技術が完成するまでに10年がかりということも希ではありません。TSVもまさにそういう技術でした。

田窪

東芝はパッケージを支える技術を基本的にはすべて自社で開発しています。技術検証のためのシミュレーションも自社内ですべてできるようになっています。これが最先端技術を可能にする東芝の強みの1つといっていいかもしれませんね。

「融合領域」で互いに技術を磨く前後工程

──ただ、昨今の世界の半導体企業は組み立てなどの後工程について、「OSAT」(Outsourced Assembly and Test)と呼ばれる専門のアウトソーシング企業に任せる例も増えています。自前技術にこだわるのはなぜですか。

山本 和博氏
山本 和博氏
山本

量産で安いものを作るのだったら、アウトソースでもよいでしょう。しかし多段積層のような先端品、なかでも大容量・高速の製品をできるだけ速く開発するためには、アウトソースに頼っていてはだめです。自社内でしっかりした技術開発を行うことが大前提になります。

井本

特にNAND型フラッシュメモリの場合は、NAND特有の技術を知らないと開発が進みません。社内で前工程と連携することで、初めて製品開発全体のスケジュールも達成できる。こうしてまずは社内で技術を確立し、その後は普及品についてはアウトソーシングするというのが、流れとしては一番効率的だと思います。

田窪

私たちがかかわる技術は一般的には「後工程」と呼ばれますが、実は前工程における新技術開発が終わるのを待って、その後に後工程のことを考える、というものではありません。

ウエハプロセス、デバイス設計、パッケージング、テストなどの各工程が融合した領域で、前後工程をクロスオーバーさせながらでないと高度な技術開発は不可能。そのため私たちはあえて自分たちの仕事を、「前工程・後工程の中間領域」とか、「フュージョン領域」などと呼んでいます。

──フュージョン、つまり「融合」ですね。

山本

フュージョン領域ということを強く意識するようになったのは、2004年ぐらいでしょうか。特にTSVは技術連携ができて初めて可能になった技術といえますね。シリコンに穴を開けるわけなので、後工程と前工程が連携しないと決してうまくいかない。工程間のすり合わせがイノベーションを生むのです。

気心知れた仲になるまで何でも話して課題をぶつけ合わないと、先端技術開発はできない。これを一部でもアウトソーシングしてしまうと、連携がうまくいかなくなるのです。私のいるファイルメモリ・デバイス技術部では、こうした工程間連携をコントロールすることも業務の1つになっています。

井本

TSVの技術開発では、個々の技術にそれぞれ難しさがありますが、やはり前工程から後工程にいたる仕事の流れを考えるのが一番難しかったと思います。積層をどうやって実現するのか、そのためには前工程のプロセスをどう改善するのか、バンプをつなぐためにはどういう設計にすればいいのか、こういったことを考えながら、最適のワークフローを考えるわけです。

その後には、各工程のコストダウンに取り組みました。ここでも工程間の議論は不可欠。どの部門、どの工程がコストダウンできれば、全体のコストダウンが実現するのか、徹底的に議論しました。

山本

東芝の積層技術は、1999年ごろだと他社に比べて2〜3年遅れていたのは事実です。しかし、2003年ごろには先端に追いつき、今では他社に一歩先んじる技術ができていると自負しています。

それはやはり技術者の頑張りがあったからこそ。社内でコラボレーションできることも大きな強みになりました。後工程はこれからも、このスタイルで技術開発を進めようと考えています。

転職技術者への期待──自分の経験と知識を他分野に応用したいという熱意を歓迎

──そうした開発を進めるためには、他社で経験を積んだ技術者の積極採用が不可欠です。どういう人財に期待していますか。

井本

これまでも話題が出ていますが、東芝の後工程開発は、前工程との連携が不可欠。ですから、エッチング、成膜といった技術を持った人もうちの部門にぜひ欲しい。要素技術を知っていて、それをほかの工程にも応用・展開できる人、したい人に来てほしいですね。もちろん半導体業界にいた人ならばすぐに力を発揮できると思いますが、例えばフィルム製造を手掛けていたような人なら、その技術を成膜技術に応用することは十分可能です。

山本

私の部署では、工程全体、製品開発全体を見る視点が必要。テストのこと、組み立てのこと、前工程のことを知った上で、全体の技術開発をマネジメントしていく必要がありますから。半導体に限らず、各工程の技術をどんどん吸収してそれらをつなげてきたような経験のある人がベスト。実際、半導体業界以外でも、液晶ディスプレイパネル、電子部品などさまざまな業界の人が活躍しています。

パッケージングに特化した要素技術で言えば、微細組み立て技術はより強化したいですね。多段積層、TSVの技術開発を進めるためには、まだまだ組み立て工程の改善の余地がありますから。

井本

TSV技術以外でも、ワイヤボンディング、フリップチップ、バンプ接合などの領域で経験のある人がいればぜひ欲しい。C4のような厚いチップだけでなく、薄いチップをどうつなぐかがこれからの課題であり、そのためにはそれぞれの技術領域でトラブルに対応した経験が非常に役立ちます。

田窪

バックエンドデバイス技術開発部では、メモリ以外のパッケージング技術を開発していますが、例えばディスクリート半導体やパワー半導体は、車載や太陽光発電の給電装置など極めて高温の条件で使われることが多くなりました。使用条件が200℃を超える環境というものまで要求されています。当然、これまで使われてきた金属材料、接合技術、配線技術のままでは耐えられない。樹脂の封止材料についても同様です。

高温条件に耐えるパッケージ開発では例えば、樹脂の合成から理解して品質を確保していくことが求められます。リードフレームなどの設計技術、金型技術も欠かせない。さらに物性値を理解してシミュレーションをしていくことも必要です。社内にも専門家はいるので、キャリア採用のエンジニアにはそこと協力して技術力向上に寄与してほしい。それぞれの技術開発は決して簡単なものではありませんが、いろいろな要素技術を持った方が融合して開発を進めることができる面白さが、東芝にはあると思います。

田窪 知章氏
田窪 知章氏
異なる技術、異なる部署がコラボレーションする風土
山本

技術者の志向性で言えば、やはり、自分が何らかの形でかかわった製品が自社ブランドで量販店に並ぶのを見たいとか、例えばそのSDメモリを買って自分も日常的に使ってみたい、と思うような人がいいと思いますよ。東芝はそれができる職場ですしね。

田窪

転職者向けの技術教育が充実していることも自慢したいと思います。現場でのOJTはもちろん、頻繁にOFF-JTの勉強会があります。それぞれの要素技術については、研究所や他カンパニーまで含めて非常に広い人脈があるので、聞きに行くととても丁寧に教えてもらえます。「自分はこの領域以外は知らない」という状態で入社しても、その得意分野を軸に興味を広げていけば、1年半もすれば自分の知識が格段に広がったことを実感できるでしょう。

山本

異なる技術、異なる部署間の垣根が低く、風通しが良いことは、東芝の風土の1つだと思いますね。

田窪

各部門が今取り組んでいる技術や、必要とされる技術を情報交換する機会もしょっちゅうあります。例えば「ウェーハ裏面研削・ダイシング」や「絶縁膜」というテーマで岩手・大分・加賀・四日市の各事業所の技術者が集まる情報交換会。こうしたイベントは半年に1回以上の頻度で行っています。入社してもらったら、早い段階で他部署と交流する機会を作ってあげたいと思いますね。

井本

技術者にとっては、社内外の人脈を作ることが、最も良い勉強方法だし、自分のスキルを拡大するうえでも欠かせないことですからね。

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