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『新たな価値を生み出すモノづくり』をスタートアップ!

“一人家電メーカー”が
魅力的な製品を生み出せる理由

企業のさまざまなサービス・製品を紹介しながら、開発の意図や目的、背景について探っていくこの企画。今回ご紹介するのは、機能性や使いやすさにこだわることで、家電としての存在感を徹底的に排除した異色のモノづくりに挑むベンチャー企業だ。

(総研スタッフ/山田モーキン) 作成日:14.03.06

【今回取り上げるモノづくり】 世界最高品質の光を生み出すデスクライト&家電への使用難易度の高い木を使ったワイヤレス充電器を生み出した『Bsize』


左がLEDデスクライト『STROKE』 右がワイヤレス充電器『REST』
『Bsize』 http://www.bsize.com/

まずはこの2つの「家電」をご覧いただきたい。
一つはLED式デスクライト、もうひとつはワイヤレス充電器だ。
デスクライトに使用されているのは、「正しい色が見える光」として世界最高水準の品質の光を持つLED素子を使用。さらに全体の筐体は、極力無駄をそぎ落とすことで存在感を薄め、デスクライト本来の機能である「あかり」だけが目立つような設計がなされているのが最大の特徴だ。

一方、ワイヤレス充電器に使用されるのは、正真正銘の木材である国産の杉間伐材。従来、杉は柔らかく家具や家電に適さないとされてきたものだが、ここでも重視したのは「存在感をなくす」こと。
ベッドルームにおいても違和感なく自然に存在できるように、あえて難易度の高い木を使用することにこだわり、協力メーカーと共に独自の技術で木を使用する難題を克服した。
そしてこの2つの製品をプロデュースしたのは、創業わずか3年、しかもたった一人のエンジニアが立ち上げた家電ベンチャーだ。

【製品が生まれた背景】初代iMacに影響を受けてエンジニアの道へ。市場にない新しい価値を生み出すため「一人家電メーカー」を創業


ビーサイズ株式会社
代表/デザインエンジニア
八木 啓太氏

Bsize代表の八木氏は大学で電子工学を専攻しつつ、その一方、独学でデザインを学ぶなど領域をまたいで意欲的にとりくんでいた。さらに就職でも、機械分野で経験を積める企業を求めて富士フイルム株式会社に就職を決めたほど、早くから明確な目標を持っていた。
「初代iMacが登場した時のインパクトが自分にとって大きかったのが、エンジニアの道を目指した根底にあります。自分もあのようなプロダクトを自らの手で生み出したい。そのためには電子・機械・デザインの3つの分野に関する知識や技術を身につける必要がある。そこで大学〜就職にかけて順番にキャッチアップしていくキャリアを形成していったのです」(八木氏)

富士フイルムでは主にレントゲンやエコーなど画像診断装置関連の医療機器の筐体設計を担当。4年弱の在籍期間で非常に多くの知識・経験を得たそうだが、その中でも、今の開発にも大きな影響を与えているのが「評価検証」だった。
とかく医療機器は生体を対象とする性質上、非常に高品質なモノづくりが要求される。そのため、精密なロジックを立て、長い時間をかけてあらゆるテーマに対する評価検証を繰り返し行う。
「ここでの経験によって、世の中に広く普及する製品を出すためには、綿密な評価検証を行う必要があることを痛感しました。それは今の開発でも、ベンチャーながら自前の検証機器を取り揃えて、評価検証にじっくり時間をかけて取り組んでいることで、その時の経験が生かされています。

しかし経験を積むにつれ、大きな組織の中で新しいモノづくりに挑戦する限界を徐々に感じ始めていた八木氏は、たまたまある機会で知り合った、LED部品メーカーからの“画期的な提案”を機に独立を決意。それが2011年に立ち上げた「Bsize」だった。エンジニアは八木氏ただ一人、さらに社員も八木氏のみの「一人家電メーカー」が生まれたのだ。

【製品開発舞台ウラその1】デジタル・ネット・町工場のネットワーク。あらゆるものを活用することで、一人でも家電を生み出せる


同社におかれている評価検証機器。富士フイルム時代の経験がここにも生かされている

たった一人で立ち上げた八木氏に手元にあるのは、独立に向けて貯めた1000万円の資金のみ。しかし「1年あれば開発できる」という明確な計画を持っていたという。その理由は、前職時にたまたまある部品メーカーから提案されたLEDだった。色の再現性の指標である、平均演色評価数(Ra)において「Ra90以上」という世界最高水準の品質の光で、非常に優れた技術だった。

「残念ながらその時は製品に採用されなかったのですが、この光を使ったデスクライトがあれば、欲しい人はたくさんいるはずだと確信していました」と、その当時からデスクライトの開発を視野に入れていた八木氏。そのため開発目標は当初から明確に設定されていたのだ。

しかし最大のハードルは、たった一人でどうやって製品化までこぎつけるか、という点。
そこで八木氏は、あらゆるものを活用することで乗り越えようとした。
まず近年のデジタル・ネットインフラの普及により登場した、デジタルCADやLinux等のOSS利用。また公開されている設計図面のライブラリや、製品試作機の3Dプリンタへの出力を1週間で行うサービス等を効率的に活用することで、低コストでなおかつスピーディな企画・開発を一人で行うことを可能にした。

次に、部品の製造では「町工場のネットワーク」を最大限に生かした。
「富士フイルム時代の人脈をベースに、あらたに全国の町工場に声をかけて協力を募った結果、今では30社を超えるメーカーに協力を得られるまでになりました」

また、前職時に経験した検証評価に関しては当初、専用の検証機器を購入する余裕がなかったため、代用品として「肉まんの保温器」を購入。その中に開発したデスクライトを10本入れ、温度85度、湿度85%の環境で1000時間連続点灯できるかどうかなど、複数の検証試験を行った。
結果的にはすべての試験において、無事パスすることができたそうだ。

【製品開発舞台ウラその2】“光や充電器と自然に寄り添う”家電を創り上げるための、理想のチームを製品ごとに結成


協力メーカーによって生み出された1本の細く白い管を曲げる技術や、木材の硬度を3倍に高めるための圧縮技術が同社製品に生かされている

Bsize最初の製品となったLEDデスクライトがこだわったのは、高品質な光だけではない。
八木氏が目指したのは「照明器具が主張しないデザイン」。
「本来、多くの方がデスクライトに求めるのは“あかり”だけで、それ以外の部分に関しては、できればないほうが邪魔にならない。そのため筐体部分に関してはなるべく人目に触れても目障りにならないよう、徹底的にシンプルな構造になるよう設計しました」(八木氏)

実際に筐体をチェックすると、白く細い1本の管をそのまま成形して構成されているので、継ぎ目やネジ穴などが一切見当たらない。従来のデスクライトと比較すると、そのシンプルで落ち着いた佇まいがより強調されている。
しかし、これだけ細い管を複雑かつ連続に曲げる加工は、非常に難易度の高い技術を要する。

そこで八木氏が目を付けたのが、先ほどの高品質なLEDを開発したメーカーのような、高い技術力を持つ町工場だった。
「さまざまな町工場を探した結果、自動車の配管を加工・製造するあるメーカーさんが『うちならできる』とおっしゃっていただいたのです。ただ自動車の車体の裏に取り付けるのと違い、見た目が重視されるデスクライトでは、そのメーカーさんにとっても、これまでにない高いハードルに挑戦することになりました」

しかしここであきらめずにチャレンジしたことで、目標の1年以内の製品化に成功したのだ。
「日本には、世界に誇れる技術がまだまだたくさんあります。その一方、その技術をどう活用したらいいのかがわからない、という課題に直面している町工場も少なくありません。そこで私のような立場の人間が、今までにないユーザー視点に立ったアイデアを提案することで、“眠った技術”を生かせるチャンスはまだまだたくさんあると思っています」

その思いは同社第2弾製品である、ワイヤレス充電器にも生かされている。木材を家電に使用する際にこれまで立ちふさがっていた「素材の強度」を高めるため、硬度を3倍に高める加熱圧縮技術を持つ、ある木材加工メーカーの協力を得て製品化に成功した。

このように、製品ごとに最適な技術を持つ町工場やメーカーを探し出し、理想のチームを結成することで一人家電メーカーとしてのハンデキャップを乗り越えることができたのだ。

【今後の展望】生活インフラそのものを築いていきたい


現在、同社の仲間になる新たなエンジニアを募集している。詳しくは同社HPまで

LEDデスクライトの発売後、想像以上の反響があったそうだ。
「特に驚いたのは、ご高齢の方にもご購入いただいたこと。目にやさしい光に対して高く評価していただいたことで、機能性や使いやすさにこだわった私の思いが受け入れられたと確信できました」

現在もわずか4名のスタッフで開発に挑んでいるBsizeが今後目指すのは、生活インフラそのものをプロデュースしていくこと。これまで同様、製品ごとに最適なチームを編成することで、より多くの人が当たり前のように使える製品を生み出し続け、やがて生活空間そのものもより自然で心地よい環境を作り上げたいと八木氏は語る。

「私たちのようなベンチャーが新しい価値を生み出す製品を開発し、それをきっかけに大手メーカーも同様の製品の普及に努める。そうした役割分担によってモノづくりができると、世界中の人にとって本当に必要な製品を求めやすい価格で手にすることができると思います。(前職の)富士フイルムと“同じチーム”として協力するとしたら?そんな機会があったらうれしいですね(笑)」
八木氏率いるBsizeのあくなきモノづくりへの挑戦は、今後も続く。

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