Tech総研10周年企画『私の10年間の軌跡』 |
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伊藤直也が10年間、
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2003年、ブログを始めてから10年。伊藤氏が語るネットと歩んだ軌跡
プログラマ 伊藤直也氏 |
「ニフティ」時代には、ブログサービス「ココログ」を開発し、「はてな」ではCTOとして「はてなブックマーク」を開発。さらに「GREE」では、ソーシャルメディア統括部長としてソーシャルゲームの急成長を技術面から支えた。そして昨年、フリーのエンジニアとなる。 この10年間、IT・Webの世界は目まぐるしい変化を続けてきた中で、日本のネット技術を引っ張ってきたエンジニアを代表する一人として、伊藤氏もまたさまざまな環境に身を置きつつ、理想のネットサービスや技術を追求してきた。 そこには、“ブログに見合った役割がある”という。 |
「ブログ知ってるか?」のひと言から始まった、ブロガー・伊藤直也の歴史
ちょうど10年前、当時ニフティにいた直属の上司から「ブログ、知ってるか?」と声をかけられたのが、ブログを始めたきっかけでした。その時「ええ。知ってますよ」と言いながらも内心、「ブログ?」という感じであんまりよくわかってなかった(笑)。すぐにブログについて調べながらも、とりあえずやってみようか、という気軽な感覚で始めました。ちょっと流行りはじめていたMovableTypeをインストールして、いろいろ試してみた時の話を中心に、ポストしていました。でも当時は技術以外の、好きな音楽や飲み会の話などプライベートな話もポストしていて、今読み返すとかなり恥ずかしいです(笑)。
まだ日本でブログをやっている人はそんなに多くなくて、毎日何かを投稿するのはブログではなくてウェブ日記のようなものが主だった感じでした。コンテンツとしては日記とブログは一見似たようなサービスだったのですが、裏側の機能とか技術的な点では結構違っていた。
その要素にRSSフィードとかAPIとか幾つかあったんですが、うちひとつが自動的にパーマリンク (URL) が振られること。これは大きかった。ひとつのリソースに対してひとつのURLがきちんと振られていない場合、面白い記事を見つけても、URLだけを渡して他人に紹介することができないけれど、どのブログツールもその辺をしっかりやってたので、URLさえ添付すれば誰でも指定した記事が見られる。今では当たり前だけど、当時はまだまだ「一つのリソースに一つのURL」ってそんなに当たり前ではなかったんです。そんな風にコンテンツの入れ物であるウェブ上でのドキュメントを、理想的なあり方に、ブログがうまく誘導していた。
そういった流れがなければ、ひとつの話題をひとつのURLで参照できるという前提がなければ、その後自分が作ったソーシャルブックマークの「はてなブックマーク」も成立していなかったし。10年経った今も、ブログを続けている理由のひとつになっているかもしれませんね。
2008年、Twitterの登場で問われたブログの存在意義
伊藤氏がはてな在籍時に使用していたノートPCと、長年愛用しているバイブル的存在の書籍
その後、「ココログ」を立ち上げたり、はてなに移って「はてなブックマーク」等を開発してきたのも、ブログを続けてきたことで見えた課題や願望がベースになっていることが多かったです。ブログを書くのは面白いのだけど、面白い記事を読みたいと思ってもなかなかそれを探す手段がない。だからソーシャルブックマークを作ろう、とか。
そうこうしているうちに世の中でほかのソーシャルメディア、SNSとかTwitterなんかが話題になるようになってから、ブログとの役割分担が問われるようになってきました。
SNSといえば当時は「mixi」なんでしょうけど、mixi は実はブログが一般的になったのと同じころにローンチしていてブログと並行する形で大きくなっていっていたから、ブログサービスをやっている立場からは「ブログとは別世界」という認識でした。なので、mixiが爆発的に普及しても、ブログ利用者が減少するようなことはなかったように感じています。
それが2008年くらいでしょうか、Twitterの本格的な普及で“踊り場”を迎えることになったのかなあと思います。「不特定多数の人たちとコミュニケーションを図っていきたい。」人とのコミュニケケーションが主目的という、少なくともそういう意図でブログを書いていた人たちにとっては、Twitterは理想のツールだった。
そこからブログが担う役割に、変化が出てきたように思います。つまりコミュニケーションツールではなく“読み物”を投稿するものとしての側面が強くなってきたこと。自分の中にあるコンテンツで、ある特定の狭いコミュニティの中で話題になるようなものを形にしていく作業。こうしてそのほかのソーシャルメディアとブログは役割分担されるようになってきたと思います。
例えば自分はいまフリーで毎日一人で開発を続けていると、誰かに伝えたいテーマやネタがどんどんた内側に溜まっていくから、それを吐き出したい欲求がブログを書き続けるモチベーションにもなっています。他人とコミュニケーションしたいという場合は、自然と Twitter とか Facebook とか LINE とかを使うことになる。
エンジニアだからこそ、ブログで記録を残すことがより豊かなネット社会を築く
そんな感じで、みんながブログを書いていた2000年前半に比べて、最近はブログの質も変わったし、さすがに周りの人も書く人は減っちゃったなという印象です。世界全体では、ブログを書く人はいまも増えているんだとは思うのですけど。もう少しみんなブログをまた書いたらいいのになと思ったりもしますね。
だからといって、何もほかのソーシャルメディアによってブログがなくなるとかそういうことを思っているわけではないです。それぞれの特性を見極めて使っていけばいいと思う。いろんなソーシャルメディアが登場したことであらゆるサービスが相対化していったのが、この10年間の大きな流れ。その中で、ブログはブログの役割があるんだろうなと僕は思います。
ただ1点だけ、気になる点はあります。
エンジニアの方で技術的なテーマの話を、結構な文量もあるのにTwitterやFacebookに書き込んで終わりにしてしまっている方が結構いるんですよね。それは明らかにもったいない。その方法だと、テキストは断片的になるし検索も難しいし、貴重な情報データとして長く残していくこともできない。
僕はウェブ技術者である以上は、常にウェブの世界をよりよくしていくことが使命だと思っています。オープンなネット技術に関する貴重な情報は、他の多くの人にとって非常にありがたい存在だし、そこから人と人との交流が生まれていく。だからこそ、自分の知見に基づいて書かれた技術に関する話は、なるべくブログのようなストックになりやすい場所に書き残した方がいい。そのテーマに関心を持っている人は検索することで見つけやすくなる。そういう場面でブログが果たす役割は大きいはずだと思います。
オープン&ルールが明確かつ透明性の高い“ネットらしい”サービスを作りたい
フリーになって1年。今後、2つのテーマに対して本格的に挑戦していきたいと考えています。
ひとつ目は「エンタープライズの領域に、ウェブ開発を持ち込みたい」。
10年前、自分がニフティにいた時はどちらかというとエンタープライズのやり方をウェブ開発側が真似ていた。OS もデータベースもフレームワークもまだまだ商用のものが品質も高くて、クールだった。それがこの10年くらいでいつからか新しい技術はウェブから生まれることがほとんどになって、「アジャイルだ」「リッチインタフェースだ」「クラウドだ」「ビッグデータだ」なんだと言っているうちに両者の関係が逆転していったように思います。
その間、自分なりに新しいウェブ開発に挑戦してきたことで、ウェブ開発ならではのメリットを理解できるようになったなと思います。
一方、最近エンタープライズをやっている方々とお会いする機会が多いのですが、話を聞くとまだ非効率で高コストな開発体制が変わっていないところが多い。そんな環境に、自分のこれまでの知識や経験がエンタープライズの開発スタイルを変える一助になればと考えています。
そしてもう一つは、“ネットらしい”サービスを作ること。
この10年を経て改めて、僕なりに考えるネットらしさを追求してみたくなったんです。そのネットらしさとは、誰に対しても同じ情報が当たり前のように見られるオープン性と、ルールが明確かつ透明性が高いこと。
最近のネットサービスを見ると、例えば同じ情報を検索しても利用者によって異なる結果が表示されたりしますが、そこに違和感を覚えるんです。同じ URL ならどこでどんな人が見ても、同じ情報が届けられる。それが昔も今もネットならではの特性だと僕は思っています。
ただ僕の場合、「ユーザー数、数千万人」といったサービスを作ろうとは思いませんし、たぶん作れません(笑)。その点ブログもそうですが、ある特定の層に対してコアな情報を発信することで、ユーザーとディスカッションを繰り返し、ブラッシュアップしていく。そんな開発スタイルが僕にはマッチしていますし、その中でネットらしいサービスが生まれれば理想です。
“いつも楽しく開発したい”どんなにネットの世界が変化しようと、その思いだけはこれまでも、そしてこれからもずっと変わることはないでしょうね。
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