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サイバーエージェントがスマートフォン向けの新しいブログサービスを8月にリリースした。「Simplog」は“シンプルだけどリッチに残る”がコンセプト。究極のスマートフォン向けブログサービスを目指す開発プロジェクトメンバーの意気込みを聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:12.12.21
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プロデューサー
兼プロジェクト責任者 堀 浩輝氏 |
「Simplog(シンプログ)」は、スマートフォンでのブログ利用に特化したAndroidおよびiOS向けのブログサービスだ。写真と短い文章の投稿スタイルで、テキスト上限は300文字である。レイアウトテンプレートを用意することで、投稿した複数の写真画像を誰でも簡単に美しくレイアウトすることができる。
「ブログの使い方って状況によっていろいろあると思っています。当社のAmebaブログは機能も豊富ですから、スマホから利用するAmebaアプリは、PCの前で思考を整理して、比較的長目の文章を投稿するユーザーにも満足してもらえるように機能を盛り込む必要がありました。 スマホからのインターネット・アクセスが急拡大する現在においては、世の中のブログサービスもまた変化する必要がある。街を歩きながら、食事をしながら、通勤途中にふと目についた面白いシーンをスマホで撮影し、ひと言加えて投稿する。いわば片手で簡単に日常生活をスナップする感覚。スマホならではのブログサービスを始められないか。 操作は徹底して「シンプル・簡単・気軽」。さらに、ライフログをリッチに残し、瞬時にシェアしたい──堀氏にはそんなユーザーの要求が聞こえてくるようだった。むろん先行するミニブログサービスはいくつもある。Twitterは気軽さという点では優れているが、140文字は少し短いし、Twilogなど連動するライフログツールもあるとはいえ、ビジュアル表現は弱い。Facebookもデファクトになりつつあるが、日常のシーンにふっと生まれた個人の情感を伝えるメディアとしては、少し敷居が高い。Instagramも写真投稿サービスとしては人気が高いが、ブログツールとは少し異なる。 |
後から振り返ったとき、「ああ、こんな写真を撮ったんだ」「そのときはこんな感情だったな」ということが伝わる簡単ブログ。そのためには写真はできるだけ大きく、かつスタイリッシュにレイアウトされていたほうがいい。文字数も300字ぐらいがちょうどいい──そんな試行錯誤が2012年2月から続いた。インターフェイスと操作性にこだわり、簡単かつ手軽に更新ができ、それをシンプルに美しく記録するという、スマートフォンにおける新たなブログサービスの提案をコンセプトとしているのだ。
リリース以来、毎日3000〜4000人単位で会員が増えている。11月末時点では20万人を突破した。その多くがAmebaの利用者だ。Amebaのブログ機能(アメブロ)との連携もまた、「Simplog」の目玉機能なのだ。実際に1日2万件の投稿のうち、60%がアメブロに同時投稿されている。「シーンによってどちらも併用して使っていただければいいですね。外出中は『Simplog』経由で投稿し、帰宅後はアメブロのほうに文章を書き加える、なんていう使い方もされています。」(堀氏)
とはいえ、Amebaの膨大なユーザーからすれば、まだまだ伸びしろはある。Amebaの既存ユーザー以外の方にも利用してもらうためには、アプリを洗練させることが重要だ。幸いにも、App StoreやAndroidマーケットでのユーザーレビューを見ると、多くが好意的反応。「こういうのを待っていた」「こんなふうに気軽に投稿できるのだったら、ブログを毎日続けられるね」というレビューが続く。
「私たちのコンセプトはユーザーに伝わりつつあるという手応えを感じます。もっと大ブレークさせたい。そのためには毎日、たゆまぬ改善が必要。当社社長の藤田の言葉に、打開と改善をかけた『ダカイゼン』というのがあるのですが、それを肝に銘じながら、Amebaの『デカグラフ』構想を成功へ引っ張っていきたい」
と、堀氏は語る。
「Simplog」エンジニア
池田 恵仁氏 |
アプリの開発とチューンナップ作業を率いたのはエンジニアの池田恵仁氏だ。「Simplog」は、コア部分はスマートフォンOSと下層レベルで連動するネイティブコードで書かれているが、閲覧画面などはWeb技術を利用したハイブリッドアプリだ。 写真をきれいにレイアウトができるのが「Simplog」の売りだが、これも貧弱な通信環境では表示に時間がかかる。画像が全く現れなければユーザーはイライラする。そこで投稿画像を解像度の高いものと低いものの両方に分け、最初は粗い画像を見せながら、そのうちくっきり鮮明な画像に切り替えるというテクニックを使った。これは、Amebaの他のサービスでも共通に使われる技術だ。送信側の技術としても、もし外出中に通信が途切れた場合も、下書きを自動的に保存しているので、途中から再送できるようになっている。 |
最も難しかったのは「日まとめ」と呼ばれる機能。一日複数枚の写真を投稿したとき、カレンダー画面からその日を指定すると、指でスワイプしただけで、次々とその日の画像が時系列に表示される。スマホならではのインターフェイスで、今日という日を走馬燈のように振り返ることができる。
「デザイナーが特に望んだ機能と操作性でしたね。ただ、そのユーザーがいつ何枚の写真を投稿したのか、アプリ側はあらかじめ知ることができないのです。それをカウントしないまま、スマートに画面遷移をさせる技術。Android版はJavaで実装しており、iPhone版も実装にむけて開発中です」
シンプルで美しく、快適な操作性──デザイナーがそれを追い求めれば求めるほど、エンジニアへの負荷はかかっていく。しかし、要求があるからこそ、技術の跳躍もある。その葛藤の中で、エンジニアは成長する。
「負荷がかかると重たくなるサービスはありえない。『Simplog』のシンプルさというコンセプトに反します。投稿が肥大化したときに、それを遅滞なく表示するため、データの持ち方などは最初から慎重に設計しています」
重たくならない、落ちないサービスを実現するため、サーバの冗長構成はもちろんのこと、MySQLでカラム追加をするときは既存のカラムにロックをかけずにテーブル追加できるような構成を導入した。人為的ミスを最小限にするため、継続的インテグレーションサーバ「Jenkins」を用いて、作業の自動化を進めた。
苦心したのはデータ分割の方法。AmebaのDBチームとも協議しながら、方針を決定した。 |
「Simplog」エンジニア
石口 紘子氏 |
「Simplog」はアメブロだけでなく、TwitterやFacebookにも同時投稿ができる。中でもFacebook投稿では、FacebookのOpen Graph APIを国内のコミュニティサービスではいち早く取り込んだ。「Simplog」の投稿にナイスやコメントをつけると、自分のFacebookのフィード上に「from Simplog」という表示付きでその記事が流れる。
「国内での実装例が少ないので、英語のドキュメントと格闘しながら、必死で勉強しました。『Simplog』からFacebookやTwitterにコミュニティを拡張させ、さらに他のSNSメンバーにも『Simplog』サービスの存在を知らせて誘客を図るという意味で、とても重要な機能。最近は、Facebookでも「from Simplog」表示をよく見かけるようになり、開発者としてはうれしいかぎりです」
あらゆるネットワーク・サービスに共通だが、ファーストリリースは事の始まりにすぎない。その後の短期間での度重なるアップデートリリースがあればこそ、サービスの真価が高まる。
アプリバージョンは11月末時点ですでにバージョン1.4.0。新機能の追加やUIの細かい変更が継続されている。最新のリリースでは、会員登録フローの改善が行われた。「Simplog」に初めてサービス登録した時点では、自分は誰ともつながっていない。友達を見つけることがソーシャルサービスでは必須だ。そのために、「ポピュラー」と呼ばれる「Simplog」内で「ナイス」フラグの多い人気者をログイン直後に表示させるようにした。こんなふうに写真をあしらったブログがつくれるというサンプルでもあり、自分の投稿を読んでくれる最初の友達の紹介でもある。
「『まずはつながりましょう、フォローしましょう』というためのガイダンスなのですが、このプロセスが冗長すぎると、ユーザーが飽きてしまうんですね。そのあたりのバランスを考えながら、よりよい見せ方をしたつもりです」
と、アプリ担当の池田氏。
彼には、サイバーエージェントへ転職直後に関わったサービスが、一定基準を満たすことができずに残念ながら終了してしまったという苦い経験がある。だからこそ、今回の「Simplog」には賭けている。
「チームはScrumを導入してアジャイル開発を心がけています。よりよいサービスをいかに迅速にリリースし、アップデートしていくか。そのスピード感と品質の両方を担保してこそはじめてユーザーに使ってもらえるものになる。中途半端に満足していたら、もうそこで終わりですからね」
その言葉は、チーム全員の意気込みを代弁している。「青は藍より出でて」という古いことわざがあるが、「Simplog」もまた、Amebaから出でて、いずれはAmebaを超えるサービスに育っていく可能性を秘めている。
2011年6月入社。高校卒業後、オーストラリアの競馬学校に入学し、ジョッキーを目指していた。帰国後はITエンジニアに転身。主にベンチャーでAndroidアプリの開発に従事。31歳。 |
SIerで5年サーバ技術を磨いた後、フリーランスや業務委託の形で経験を積む。主に、BtoBサービスの開発が多かったが、BtoCサービスに関わりたく、2011年に入社。 |
文系大学を卒業後、2011年度新卒入社。アメーバ事業本部に配属され「Amebaホームアプリ」のリニューアルを担当。2012年2月から「Simplog」プロデューサーに就任し、現在は責任者を務める。24歳。 |
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