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ギークたちが愛したミニブログ、炎上した「恋愛支援アプリ」
Wassr、カレログ、“サービス終了”の理由とは?
それは突然やってくる。Webサービスやアプリの「サービス終了」だ。知りたくなるのがその理由だが、オープンにされない場合も少なくない。ならばと、当事者に直接聞いてみた。「なぜサービスを終了したのですか?」と。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/平山諭) 作成日:12.12.26
エンジニアに人気のミニブログ「Wassr」2012年10月1日に惜しまれて終了
Wassr

「Wassr」というWebサービス

 Twitterの日本語版がまだない、2007年6月にリリースされたミニブログ。仲間うちで楽しくつながる場として、特にエンジニアに好まれた。画像ファイルの投稿機能、わかりやすいUI、豊富なAPIなどが特徴で、「イイネ!」ボタン、「お題ちゃん」、「今夜は飲み行けるよ!」ボタンなどの機能も人気だった。しかし、2012年10月1日にサービス終了。累計で総ポスト数は1400万件以上、ユーザー数は数万単位。

エンジニアたちが立ち上げたメディアサービス

 日本製Twitterとも呼べる「Wassr」。Twitterの日本語版がまだなかった2007年にリリースされ、充実した機能と楽しい仕掛けで人気が上昇。エンジニアやギークからも愛された。そのサービスが10月1日に終了。立ち上げから参加した木村岳文氏と、ユーザーから開発者へと転じた大濱健治氏が語る。
 木村氏の守備範囲は開発、サーバーやインフラ周り、社内システムなどと幅広い。今も、Wassrの開発当時も変わらない。当時はまだ機能が不十分だったTwitterの日本版を出すことも開発の理由だったが、自社にメディア的なサービスをつくりたいという気持ちも強かったという。

「当時のTwitterは英語版しかなく、しかも直前のツイートにしか返せなかったり、写真が載せられないなど、使い勝手がよくなかったんです。だったら、『もっといいものをつくろうよ』と、2〜3カ月で開発しました」。(木村氏)
 リリース後の1年くらいは「ほどほど」な状態だったが、著名なギークがブログで書いてからユーザーが急増。ただ、Twitterが不安定だったために、思わぬ影響も受けたという。
「Twitterが落ちるとWassrのユーザーが増えるという、『Twitterの避難地』のような存在でもありました(笑)。大勢が避難するのでサーバーの運用が大変でしたね」(木村氏)
 大濱氏はリリース初日にWassrに登録した、ユーザーの「likk」。Wassr開発者のブログを読み、APIの使い方を尋ねたいと思ったのがきっかけだったが、しだいにハマっていく。

木村岳文氏と大濱健治氏
株式会社モバイルファクトリー
モバイルコンテンツ事業部
エンジニア
木村岳文氏(左)
ソーシャルアプリ事業部
エンジニア
大濱健治氏
ユーザーから開発者へと転職……「バレすぎだろう」
お題ちゃんのヒトコト
お題ちゃんのヒトコト

 大濱氏はWassrの魅力をこう振り返る。
「Twitterに比べて写真とレスが見やすいですし、『好きな薬味ってありますか?』などのお題に答える『お題ちゃん』も楽しかったですね。APIが充実していたし、Botもたくさん置けた。こうした機能がコミュニティをつくり、盛り上げたと思います」
 このコミュニティが原動力となってWassrにユーザーが集まった。ただ、その場の空気を読めなかった人もいたようだ。大濱氏のように……。
「『モンハンをしに行くぞ!』みたいな集まりに参加してはしゃいだり、『今夜は飲み行けるよ!』ボタンを押しても誰からも誘われなかったり(笑)。でも、そんなことをしているうちに友達が増えていきました」

 そんな大濱氏は2010年7月、モバイルファクトリーに転職してしまう。勤めていたSIerの事業転換が理由で退職し、転職活動中に人材紹介会社に紹介されたのだ。しかし、当初は入社を希望せず、3回目のプッシュで決断した。
「そのころはコアユーザーで、Wassrで知られた存在だったんです。仕事の愚痴や振られた話なども随分書いていたので、個人情報がバレすぎだろうと(笑)。それが『逆にもう隠すことがないからやりやすい』という気持ちに変わって、履歴書を送りました」
 そのときの面接官が実は木村氏。小さなオフ会で2人は顔見知りになっていた。また、コミュニティでは転職したことを隠していたが、大濱氏は「知られていたと思いますよ」。

Wassrはエンジニアのための「実験場」だった

 はっきり言えば、Wassrは積極的にマネタイズを仕掛けていたとは思えない。同社にとってはどんな存在だったのか。
「エンジニアの実験場でした。企画から運用までエンジニアが担当し、Wassrで新しい技術をトライして、成功すれば他の事業にフィードバックするなどです。そのため、広告は極力制限しました」
 広告出稿の依頼はIT系メディアや広告代理店から何度もあったそうだが、断り続けてきたという。会社としてもエンジニアの思いを優先したかったのだ。Wassrを担当する部署はあっても専任の担当者はおらず、エンジニアたちが必要に応じて対応していたという。
「業務時間外や、仕事の依頼が回ってこないような時間帯を選んでWassrにかかわっていました」(大濱氏)

Wassr内に出没していたワサオ君
Wassr内に出没していたワサオ君

 そんな中、今年7月に組織変更が行われ、Wassrのサービス終了が決まった。Wassrを担当していたシステム開発部がなくなり、ソーシャルアプリ事業部とモバイルコンテンツ事業部に分かれた。Wassrをどちらかに振るには収益性という意味で弱く、コスト面でも続けるのが難しかったという。3カ月間の猶予を持って、10月1日に終了すると決まった。
「立ち上げから関わってきましたから、やっぱり寂しかったですよ。仕方のない面もあるのかなと思いましたが、残念です」(木村氏)
「クローズの担当になりたいと訴えました。やりたいと思ったのは、『最後の1時間は閲覧だけ』にすることです」(大濱氏)

Wassrユーザーが最後に取った行動は、デバッグ?
おかわりいかが?ご主人様!!
おかわりいかが?ご主人様!!

 サービス終了の折には多くのユーザーから、「ありがとう」「お疲れ様」などのメッセージが届くと予想できた。すると、コメントを出すことに一生懸命になって、ほかの人の言葉を読まなくなってしまう。発言をあえて禁じることで、仲間の言葉を読ませたいと思ったのだ。
「それが、ちょっと不備がありまして。写真を投稿すると発言できるなど、イレギュラーなケースが出てしまいました。ユーザーは『どのルートならポストできるか』を探り始めて……最強のデバッガー軍団になりました(笑)」

 現在、木村氏は公式サイトの開発と運営、サーバーやインフラ周りなどの取りまとめなどを幅広く担当し、大濱氏は人気アプリの開発を手掛けている。以前から担当していた男性向け恋愛シミュレーションゲーム、「おかえりなさいご主人様!!」シリーズだ。最新版は「おかわりいかが?ご主人様!!」。
「Wassrが終了するときには、みなさんからたくさん『ありがとう』の言葉をいただきました。こちらこそ、ありがとうございます」(木村氏)
「Wassrのコミュニティで知り合った2人が結婚するなど、楽しい思い出がたくさんあります。続けてきてよかったと思います」(大濱氏)

恋人を追跡する炎上アプリ「カレログ」2011年10月10日に終了するも……
カレログ

「カレログ」というアプリ

 2011年8月にリリースされた「恋愛支援アプリ」。相手のスマートフォンにDLすると、その位置情報、アプリの一覧、バッテリーの残量などが閲覧でき、プラチナ会員になると携帯電話の通話記録も閲覧できた。「プライバシーの侵害」「ストーキングを助長」などと大きく物議を醸した。改良版の「カレログ2」を2011年10月にリリースするが、2012年10月10日にサービス終了。DL数は累計でカレログが約3万、カレログ2は約2万5000。

カレログの開発理由は、リア充たちの浮気行動の抑止力

 発表されるといきなりネットで炎上、新聞や雑誌へと広がっていった「批判の嵐」。近年、これほど叩かれたアプリは珍しい。2011年8月にリリースされた「カレログ」だ。何しろ、相手のスマホにDLしてしまえば、場所やアプリやバッテリー残量までを「丸裸」にできるのだから。その開発経緯について、企画者である有限会社マニュスクリプトの代表取締役、三浦義則社長が語る。

 販売元であるマニュスクリプトでは、カレログの前にもGPSを使った位置情報アプリを開発していた。例えば、現在地から最も近いチェーン店を知らせるなど、BtoB型の店舗向けアプリだ。こうしたアプリのよさはスマホでより生かせると考え、iPhoneが売り出されて早々に着手したという。この経験がカレログのベースとなった。
「カレログは『鬼畜アプリ』とまで言われましたが、悪いモノをつくっている気持ちはあまりありませんでした。むしろ、ライフログを使って人に貢献したいと考えたのです。『恋愛市場』の中では真面目さだけが取り柄で、結果として要領のよい異性に振り回されてしまう人もいます。そうした虐げられている男女のために、浮気の抑止力になると考えました」

関係者なら誰でも考え付くが、問題はやるかやらないか

 カレログはよく「炎上マーケティング狙い」と言われるが、三浦氏はそれを否定する。また、ある程度の反応は予測していたものの、それは女性誌に小さな扱いで「オモロいアプリ発見!」などと載る程度だったという。DL数も最初は1000か2000に届けばよいと見込んでいた。
「悪意を扱う炎上マーケティングは難しいと思いますし、ベンチャー企業でもさすがにリスクは考えます。それより、ブランド力のない弊社の情報がTwitterでここまで簡単に広がり、GoogleやYahoo!で検索ワード1位になり、一般紙やテレビが取り上げるなどは想像もできませんでした」

カレログ2
カレログ2

 カレログは使い方に関してユーザーの同意を取っていたし、機能を知っていれば相手は電源を切っておけばいい。三浦氏は当初はそう考えていた。しかし、不安もどこかにあったという。
「位置情報アプリに携わる開発者や企画者であれば、カレログのようなアプリを考えつかないはずはない。問題はそれをやるかやらないかです。大手企業であれば企画を見送っても、弊社はベンチャーであり、企画性を重視したオフェンス型の企業。だからチャレンジしたのですが、普通はその機能ができてもあまりアピールはしません。私たちは『わかりやすく』見せてしまった」

無料かつアイコンを表示させる「カレログ2」へ

 三浦氏は当時を振り返って、「担保が不十分だった」と語る。「お互いの同意を得ずに使用すると、不正指令電磁的記録供用罪などが適用される可能性あり」などの文章を載せて、ユーザーの「同意」を取っても、それだけでは十分ではない。その先を考えるべきだったと言うのだ。
 確かに、「あなたの居場所がいつでもわかるアプリを入れるね」と彼女に言われて、「別にいいよ」と答える彼氏は少ないだろう。そこが、「大事な個人情報だから大事な人と共有するためにつくった」という三浦氏の思いと乖離していたのだ。

 こうした思いから、不備な問題点を解決するためにリリースしたのが「カレログ2」だ。カレログと大きな違いは無料にしたこと(カレログではプラチナ会員は有料)と、DLしたことがわかるアイコンを画面に出したこと。バックグラウンドで情報を収集し、アプリのアイコンが「GPS Control Manager」となっていた「秘匿性」も、大きく問題視されていたからだ。
「ビジネスユースであれば個人情報に神経を使っても、プライベートではその意識のレベルが下がる。カレログはその注意喚起をさせたとは思います」

カレログ2の地図画面
カレログ2の地図画面
負けてしまった主人公を救うため、「カレピコ」が登場
カレログのサービス終了を知らせる動画の画面
カレログのサービス終了を知らせる
動画の画面
カレピコ
カレピコ

 そして、カレログ2も今年10月にサービスを終了した。その理由を三浦氏は、「カレピコ」につなげるためと語る。
「マジンガーZという昔のアニメを知っていますか? その最終回が普通のアニメと違って、主人公が負けてしまうんです。そこに、次に始まる番組の『グレートマジンガー』が登場してマジンガーZを助ける。このようにしてカレピコにバトンタッチしたいと思いました。一方では、広告収入がほとんどなく、ビジネス的に不採算だったという理由もあります」

 カレログが浮気の証拠をつかむという後ろ向きのアプリとすれば、カレピコは特定の人が近づくとアラートを出すという「未来志向」の予防アプリと三浦氏は語る。また、別れた異性の接近を知らせるというネガティブな使い方ではなく、徘徊老人や子供の迷子を探す場合にも使えるとのことだ。恋愛モノに対するこだわりはないという。
「カレログはあれだけ炎上したのですから、見切りをつけてすぐにやめることもできました。終わり方にこだわりたかったからこそ、ここまで続けたのです。失敗にめげず、これからもチャレンジしていきます」

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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
この記事の取材対象を探すため、いろいろな「サービス終了」を探しました。「そういえばこんなのあったな」と思うサービスもあれば、「え、なくなってたんだ!」と改めて気づいたものまで、思ったより多くて驚きました。みなさんも探してみたらいかが? 結構複雑な気持ちになりますよ。

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