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超こだわりの“一筋メーカー”探訪記 この分野なら任せなさい!

ライフルスコープ一筋53年!
        ライト光機製作所の光

ライフルスコープと聞いて「外国製」と思い浮かべるようではエンジニア失格かも。米国市場で2割、国内シェアでは7割という日本のメーカーが信州の諏訪にあるのです。しかもその「一筋」さは何と半世紀以上。ライト光機製作所さんのモノづくりをご紹介します。

(取材・文・撮影 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:12.04.02

転職したエンジニアが語る「ライフルスコープの魅力」

ライフルスコープは発射時の1000Gにも耐える精密機器

ライフルスコープ

ライフルスコープを覗いた様子

「このライフルスコープに何枚のレンズが入っていると思いますか? 両側の対物レンズと接眼レンズ、その間にある正立レンズを合わせて、合計11枚です。多いものでは15枚のレンズが使用されています。単に大きく見せるだけならもっと少ない枚数でもできますが、しかしそれでは『見え味』が違うんです」
対物レンズから入射した光は対物レンズの焦点面で虚像(逆さまの倒立像)となる。その虚像を内部の正立レンズ郡の焦点面で正立像として戻し、接眼レンズで像を拡大している。よりシンプルな構造、少ないレンズでも像を大きくはできるのだが、それでは「収差」が出て、像がぼやける、色が変化するなどの問題が起こる。
「収差を最小限にする、はっきりとコントラストを出す、解像力を高める。これらがライフルスコープで重要になります。そうしないとモノは認識できても、像の忠実な情報は伝わりません」

外から光を取り入れる対物レンズと、射手が覗く接眼レンズ。「4-12×44」という製品なら、この間の内部に9枚の正立レンズが並んでいる。しかも、「物理的」ではなく「光学的」に、全部のレンズの中心に「芯」を通すように配置しなければならない。
何枚も並べた小さな丸レンズの中心を、細い光がまっすぐに差し込むような精緻さであり、こうできなければ射手は失中してしまう。加えて、ほかの光学機器にはないライフルスコープの特殊性が、弾丸を発射した時の強烈な衝撃だ。
「発射時の瞬間的な加速度は重力の千倍、1000Gにもなります。この衝撃で正立レンズが0.01ミリずれれば射手は像が見えなくなります。何千回、何万回と撃っても照準がずれてはいけないのです」

電気系エンジニアからの転職、光学の知識は「ゼロ」だった

ライト光機製作所

株式会社ライト光機製作所
技術部 課長
濱 和浩氏

ライト光機製作所はライフルスコープをOEMで開発・生産している。国内で約7割、米国では約2割というシェアを誇り、輸出先は米国が約9割とそのほとんどを占め、残りは欧州が中心だ。同社のライフルスコープはハイレベルの高級品が多く、米国のライフル競技の上位入賞者の多くは、同社の製品の愛用者という。

そんな「一筋メーカー」に濱和浩氏が入社したのは2009年4月、37歳のときだった。畑違いの電子機器メーカーからの転職。前社では電子部品の生産管理を7〜8年、その後は香港や中国の海外工場の運営に6年ほど従事しており、会社の業績は上り調子だったという。
「前の会社に不満はありませんでしたが、新天地で腕を振るいたいと考えて決心しました。今では2倍の人生が送れていると思っています」

とはいえ、当時の光学の知識は「ゼロ」。入社後の設計実務に加えて、帰宅後も毎日本を読むなどして、光学の基礎や光学設計ソフトを習得していった。「最初の1年半は2倍の努力をした」と振り返る。
光学設計では、レンズ自体とレンズの配置の両方を設計する。その目的をひと口で言えば「よく見えるようにする」こと。設計後はシミュレーションソフトで確認・評価をして、職人が手作業で組み上げていく。この3つがリンクして初めて結果が出るのだが、設計者が一人前になるには15〜20年の経験が必要と言われるそうだ。
「今の私は設計の評価ができるレベルですので、評価や進捗管理が主な仕事です。電子機器と違ってレンズ設計にはアナログも幾何学も入ってくるので奥が深く、未知数の部分がとても多い。最適はあってもパーフェクトはないのです」

「無茶な製品」を生み出す、エンジニアの技術と職人の腕

ライフルスコープの仕組み、設計にはアイデアが生かせる

ライフルスコープは上記のように「4-12×44」などと表される。倍率が「4〜12」倍で、対物レンズの有効径(実質的なレンズの内径)が「44」ミリという意味だ。
「この製品なら、接眼レンズの単倍率が4倍で、それを複数枚の正立レンズで3倍の12倍まで上げています。これを(変倍率が)「3倍比」と呼ぶのですが、弊社では現在、8倍比や10倍比のライフルスコープを開発中です」

この「4-12×44」では接眼レンズの前に「倍率調整つまみ」があり、これで倍率を変える。対物レンズの後ろには「フォーカスつまみ」があり、これで焦点距離を合わせる。虚像をベストな位置で見るための「視差」を合わせるのだ。
ライフルスコープをライフルに取り付けるには「マウント」を使う。一般的にはマウントの土台(マウントベース)をライフルの上部に固定して、2カ所のリング(マウントリング)でスコープに取り付ける。マウントの高さはある程度決まっているので、ライフルスコープのサイズや形状にも制約が出てくる。

こうしたことを前提に設計するわけだが、同社の製品開発は大きく2つに分かれる。ひとつはメーカーからの仕様に合わせて作る。もうひとつは新製品の開発依頼で、ここには同社からの提案も含まれる。ただ、前者でも詳細な図面があるケースはまれで、ざっくりとしたデザインや求める性能だけの場合がほとんどだ。
「レンズの光学設計から始まり、次に機能、機構、デザインといったメカ設計が入ります。後にこの2つを融合させて、図面などが完成し、お客さまにお渡しします。そこに意見や要望がフィードバックされて、最終設計に入るのです。依頼が来てから最終設計が終わるまで、早くて1カ月半ほどですね」

ライフルスコープ

ライフルスコープ「4-12×44」
左端が対物レンズ、右端が接眼レンズ

ライフルスコープ

「4-12×44」を対物レンズから見た様子

精緻かつ堅牢なライフルスコープを組み上げる職人たち

ライフルスコープ

少し大型の「4.5-22.5×50」

ライフルスコープ

少し小型の「1-6×24」、左側が接眼レンズ





ライフルスコープは主にハンティングとシューティング競技で使われるが、高倍率のものは競技での使用が多い。1000ヤード(約900メートル)の距離から直径15センチ内の標的を狙う競技もあり、極めて高い精度が求められる。冒頭で述べたように、1000Gという衝撃に何万回も耐えなくてはいけない。

「エンジニアの私が言うのも何ですが、光学機器にこれほどの衝撃を与えるのが、そもそも無茶な話です(笑)。しかも、ライフルスコープは筺体とレンズだけで構成されるわけではなく、部品数は80個以上、多いもので140個以上を使用しています」
まさに精密機器であり、耐衝撃性を高めるためにはライフルの自重、銃弾の火薬量、スコープの重量などを考慮し、レンズやメカ部分の設計はもちろん、レンズの硬度や部品の素材なども変えていくという。

「大切なのは『レンズが動かない』ことです。そのための方法は各社のトップシークレットで、弊社でも同様です。あえて言えば『場所により工夫の仕方が違う』ことですが、完成までには職人さんたちが欠かせません」
精緻さと堅牢さの相反する特性を併せ持つライフルスコープは、その生産過程も一般的な製造業とは異なる。同社では熟練の職人が一つひとつの部品を加工し、最終的な組み上げ作業も行う。どれだけ注意しても部品にはわずかな物性の差が出てしまうが、職人たちはその差を加味してライフルスコープを完成させているという。

「設計エンジニアへの条件も厳しいですが、職人さんはそれ以上でしょう。弊社では設計と生産が密に連携しており、最終的な判断は現場に任せていますが、これが最大の武器。例えば、職人さんに『あそこがこうだったな』と言われ、特製の計測器で調べて初めてそれが確認できるという具合です。入社したころは信じられませんでした」

改善点を求めて、今日もライフルスコープの照準を合わせる

3年がたち、エンジニアとしての知識や経験を還元

職人から設計者に「作り直し」の要望が来ることもあるが、調べてみるとそれが「理にかなっている」のだそうだ。そんな環境だから濱氏も真剣にならざるを得ない。例えば、ライフルスコープで社内から看板や山などを眺め、レビューを続けている。「眼を肥やす」ためだ。
今後は本格的な光学設計者へと進むことも目標だが、作業工程の標準化や効率化などを進める予定もあるという。
また、3年の設計経験を積み、徐々に電気系エンジニアとしての助言も行うようになってきた。ライト光機に入社して感じた光学の「新鮮さ」を、逆の立場で伝えているのだ。

「最初は『新米が何言ってんだ』もあったと思いますよ(笑)。ただ、例えばLEDなど電子制御の話を繰り返すと、違う角度で興味を示してもらえます。光学ソフトの計算で議論した後に、『確かにこうしたほうが早かったよ』と言ってもらったこともあります」
今後の展開にも積極的だ。例えば、米国でハンティングを趣味にする人は富裕層に多く、長年使うライフルスコープを「工芸品」として扱う人も少なくないそうだ。ならば新機能を付けて興味を持ってもらったり、そこに電気・電子の機能を付加させてもよい。ただ、一番にこだわるのは「見え味」だ。

「光学には原理自体に限界があり、温度や湿度、大気の影響も大きい。だからライフルスコープには完成形がないのですが、それでも私は100点満点が欲しい」
今日も濱氏は過去に生産したライフルスコープを覗き、照準を合わせる。そこに必ず改善点が見えてくると思うからだ。

ライフルスコープ

3つのライフルスコープ

生産現場

ライフルスコープの生産現場

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