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スマートフォン、クラウド、LAMP、データマイニング、シゴトetc.
新年会CROSSでDeNAが語ったWebテクノロジーの展望とは
「エンジニアサポート新年会2012 CROSS」は、Webテクノロジーに関わるエンジニアが集まり、未来の展望を語り合う勉強会だ。「技術」「年代」「企業」などの壁を取り払って、オープンにクロスするコミュニケーションが展開された。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:12.02.29
スマートフォン、クラウド、LAMP、データマイニングなどの未来を語る

 オープンソースを中心としたIT・Web技術のプラットフォーム上で、異なる分野のエンジニアが交流する勉強会やセミナーの開催が活発化している。「交流する」という意味を持つ「CROSS」をタイトルに冠した勉強会が1月27日、東京・新宿のイベントホール「ベルサール新宿グランド」で開かれた。題して、「エンジニアサポート新年会 2012 CROSS(以下、新年会CROSS)」。

「単一の技術にとらわれない。複数の要素の織り交ざった話を聞く機会を多くの人と共有しよう」というのが狙い。もともとは、技術者向け勉強会の会場提供や動画配信協力などを行うニフティの「@niftyエンジニアサポート」から生まれたものだ。

 今回の新年会CROSSでは、スマートフォン、クラウド、次世代LAMP、データマイニング、フロントエンド、次世代言語などのテクニカルセミナーの他、人事担当者・エンジニアがそれぞれの立場で“理想のシゴト”を語る「人事CROSS」や、プレゼンテーションの技法を磨く「発表方法 CROSS」など多様なCROSSセッションが開かれた。来場者は夜からの懇親会やLT大会を含めて約850名に上った。

 同イベントのプラチナ・スポンサーの一つ、DeNAも各セッションにモデレータやスピーカーを送るなど積極的に参加。スマートフォン、フィーチャーフォン、PCの各領域で進める「Mobage」や広告事業などの経験をもとに最新テクノロジーへの取り組みを語った。

データマイニングを実サービスにどう活かすか

 中でも興味深かったのは、同社のアナリティクスアーキテクト・濱田晃一氏とデータマイニングエンジニア・里洋平氏がモデレータを務めた「データマイニングCROSS」だ。膨大な蓄積データから有効な法則性を見つけ出し、適切な意思決定やビジネス・サービスの充実に活かすデータマイニング技術がいま改めて注目されている。ただ、データマイニングを実ビジネスやサービスで活用してくためには高度なノウハウが必要だ。

 各ソーシャルネットワークーサービス企業はいまそのノウハウ蓄積に余念がないが、企業の枠を超えたエンジニア勉強会でも、積極的な議論が行われている。その一つが、濱田氏が主宰する「TokyoWebmining」であり、里氏が主宰するR言語のコミュニティ「Tokyo.R」だ。今回のセッションでは、この2つのエンジニア・コミュニティがCROSSした。SNSだけでなく、広告・マーケティング・検索・医療・金融など各領域のデータマイニング第一線で活躍しているメンバーが一堂に会し、各業界や業界横断の活用ノウハウが語られた。

 オープニングトークでは、濱田氏が「実ビジネス・サービス活用と展望」と題して次のように語った。
「いまデータマイニング技術は、単にWebの遷移をフォローするというレベルから、より詳細なユーザー行動情報を分析するようになった。そこではユーザーの目的・感情までを理解しようとする。つまりデータマイニングは、“楽しさ”の法則性を見つけるという新しいステージに突入していると言える。データ解析は実サービスの改善に役立つことが必要だが、そこで求められるのはスピードだ。例えばDeNAでは午後2時に解析スタート、午後5時には解析終了して、午後6時にはその結果をサービスに反映するなど、時間単位でサイクルが回っている」

濱田 晃一氏
株式会社ディー・エヌ・エー
アナリティクス アーキテクト

濱田 晃一氏
里 洋平氏
株式会社ディー・エヌ・エー
データマイニングエンジニア

里 洋平氏
データマイニング3つの用途と欠かせない技術キーワード

 濱田氏はデータマイニングの主な用途として、

1)自社のビジネスに欠かせないKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を設定し、それを定常的に追いかけること

2)データ解析をビジネス上の意思決定につなげること

3)ユーザー行動を把握することで、一人ひとりのユーザーにより適切なサービスを提供していくこと

 という3つを挙げる。

 また大規模データ解析のための技術キーワードとしてHadoopの重要性を改めて指摘した。DeNAでは全行動ログをHadoopに投入して解析している。集計・解析ではpig、HiveなどのMapReduce言語が使われ、GUIでのアクセス管理にはHUEも用いられる。ときにはPerl、Javaで直接MapReduceを書くこともあるという。そして忘れていけないのは、RやApache Mahoutの活用だ。これらの技術を活用してDeNAのHadoop基盤が形成されている。

 大規模データ解析は一般的に、サービスごとにログの形式が異なることや、ログの置き場所がバラバラになってしまうなどの課題がある。しかし、すべてのデータを統一したスキーマで一元化し、これらをHadoopに集めることで、この問題は解決されるという。
「大規模データからは、より統計的に有意な解析結果が得られ、より詳細な行動履歴が得られる。それによるサービス改善がこれまで以上にスピーディーに行われるようになった。大規模データを扱うビジネス領域において、データマイニングの面白さを実感できるし、その技術の有効性が日々確認できる」 と、濱田氏は語った。

 オープニングトークに続いて開かれた2つのパネルディスカッションには、ソーシャルゲーム・プラットフォーム、マーケティング、医療、金融工学、自然言語処理、さらに広告配信などの各分野から専門家が集まり、統計解析、時系列解析、機械学習、大規模分散処理などそれぞれの技術的な課題を語り合った。

 医療データサービスでの解析結果が地方自治体などの行政への説明資料として使われる例や、年金運用サイトの分析にもデータマイニングが活用される例などが報告された。また、広告配信やCRMソリューションにおける活用の進展も目を見張るものがあった。

 パネラーの一人で、レコメンドエンジン開発で強みを発揮するALBERT社の上村崇氏は、メールマーケティングではいまデータ解析技術の成果を採り入れ、一人ひとりのユーザーに最適な情報を送り届けられるようになっていることを指摘。ただ、「可愛い」というキーワードでは、「可愛いワンピース」と「可愛い一口餃子」を区別できないという、現状のテキストマイニングによる限界も語った。

「単一のデータセットをいくら取り扱っても、データマイニングのスキルは身に付かない。多種多様なデータと取り組むことが、データサイエンティストとしてのスキルアップにつながる」という上村氏の言葉が印象に残った。

ネイティブアプリとWebアプリの両方を見据えたスマートフォン開発環境
水島 壮太氏
株式会社ディー・エヌ・エー
水島 壮太氏

 午後の「スポンサー企業CROSS」では、DeNAからディベロッパーの技術コンサルティングを担当する水島壮太氏がパネリストして参加。SocialWeb Japanを主宰し、現在グーグルに勤務する北村英士氏が全体のモデレートを行った。

 水島氏は、「ngmoco社の買収以降、ngCoreによるスマートフォンゲーム開発が促進される一方で、改めてグローバル市場が見えてきた。中韓は『Mobage』のブランドに加え現地のローカルSNSとの業務提携で展開し、それ以外では、英語圏を中心に50カ国以上のAndroidマーケットやApp Storeを活用し、事業を全世界に展開する」と同社の海外戦略を説明した。

 エンジニアにとって関心が高いのは、やはりゲームなどソーシャルアプリの開発技術がどう変わっていくかということ。
「スマートフォン向け開発エンジンとして今どれを選択するのが有利か」という質問がモデレータから出される。各社それぞれの戦略が語られる中、水島氏は、
「ngCoreはJavaScriptで書いたゲームをスマートフォン用に書き出すことができるのが特徴だが、JavaScriptをインタプリタ実行するため、ネイティブアプリに比べるとパフォーマンスが落ちることは否めない。しかし、一度、JavaScriptで書いておけば、同じゲームがブラウザ上でも動かせるようになる。そのためのngCoreによる実行環境が今年中には揃う予定だ。WebもHTML5の普及でよりリッチなゲームが遊べる環境として進化しつつあるので、ネイティブ一辺倒に走るのではなく、常にWeb対応も考えておかなければならない」と、注目すべき発言を行った。

 デバイス側、Web側、プラットフォーム側それぞれの技術が競うようにして進化する中で、ネイティブゲームかWebゲームかという二者択一は現実的な解ではない。また、同じスマートフォン・アプリのマーケットとして、App StoreとAndroidマーケットの競争も今後どのような展開を見せるか予想がつかない。一つのマーケットに依存しすぎることは、技術的にもビジネス的にも賢い選択とはいえないだろう。

 それらの複数の環境を同時に見据えた技術開発が重要なのだ。ただ、さまざまなマーケットへのアプリリリースにあたっては工数削減の工夫は不可避で、そのためのエンジン選択はこれからも重要なテーマになっていく。

「ソーシャル業界はバブルなのか?」

 モデレータの北村英士氏は、前から聞いてみたかったこととして「ソーシャルゲーム業界はいまバブルではないのか」という率直な質問をパネラーたちにぶつけた。これは、ソーシャルゲーム業界に関心を持つ、SIerやコンソールゲーム業界のエンジニアにとってもぜひ聞きたかった質問だろう。

 水島氏は「ソーシャルゲーム業界全体が好景気に入っていることは事実。ただ国内マーケットはいずれ飽和するかもしれないし、ゲームのタイプも現状のままで固定するとは思えない。これからはコンソールゲーム業界の人たちの優れた技術力も借りながら、世界で勝負したい。そうしたグローバル展開を進めれば、成長は続いていく」と、バブルの懸念を払拭した。

 会場からも「中国などの社会主義国への進出にあたっては、なんらかの規制があるのか」など具体的な質問も飛び出し、グローバル展開への関心が高いことをうかがわせた。

JavaScript関連技術の最新動向をエキスパートが語り合う

 新年会CROSSでは、広い会場を複数のブースに仕切り、同時進行的に複数のCROSSセッションが進行する。ブースのパーティション越しに隣のセッションの様子も伝わってくる。そうなると、あれも聞きたい、これにも参加したいと迷い、さながらそこはWeb技術の動く見本市だ。

 その中から、「JavaScript八面六臂2回戦」と題したCROSSを覗いてみた。JavaScriptはWeb2.0の盛り上がりを経ていまやWebコンテンツに不可欠な要素となっているが、それにとどまらず、HTML5の普及によってさらなる盛り上がりを見せている。加えて、最近ではNode.jsというサーバサイドでの実行環境がリアルタイムWebを実現する重要な要素技術として再認識されつつある。

 またクロスプラットフォームなアプリケーションの開発環境「Titanium」の登場により、JavaScriptはスマートフォンゲームの開発において重要な位置を占めている。このセッションは、Lightweight Languageのイベントである、2012年の「LL Planets」にて開催された「JavaScript八面六臂」の2回戦目という位置付け。html5j.orgの白石俊平氏、Node.js日本ユーザグループの篠崎祐輔氏(DeNA CTO室所属)、Titanium勉強会の増井雄一郎氏、タワーズ・クエストの和田卓人氏、日本Rubyの会の高橋征義氏など、いわばJavaScriptの達人たちが一堂に会した。

篠崎 祐輔氏
Node.js日本ユーザグループ
篠崎 祐輔氏

 登壇した達人たちに「最近のJavaScriptでは何に一番興味がある?」と投げかけると、全員がやはりNode.jsを真っ先に挙げる。生産性と開発環境の進化のスピードは群を抜くというのだ。例えばDeNAはスマートフォン向けクロスプラットフォームゲームエンジン ngCore Clientの開発にあたり、周辺ソフトウェアの開発も進めている。その一つがNode.jsをベースとしJavaScriptでのゲームサーバ開発をサポートするngCore Serverだ。この開発にあたるのが篠崎氏。
「エンタープライズ用途でのNode.jsの可能性を日々実感している。何よりも、クライアントからサーバーまで同じコードが書けるというのがよい。デバイス、サーバー、ブラウザもJavaScriptで書ける、そのメリットは計り知れない」と語った。

 もちろんセッションでは、Node.js以外にも、IDE、Titanium、CoffeeScript、jQuery、DOMスクリプティングなどのJavaScript関連技術について、それぞれの経験を踏まえて活発なトークが行われた。

チャレンジし、自らリスクを取るエンジニアを応援
阿部 貴嗣氏
株式会社ディー・エヌ・エー
人材開発部

阿部 貴嗣氏
武部 雄一氏
株式会社ディー・エヌ・エー
技術企画室 室長

武部 雄一氏

 新年会CROSSではリクルートエージェントがモデレータ役となり、「Webエンジニアの処世術〜シゴトとどう付き合う?」というセッションも行われた。その第1部のコーナー「NETベンチャー人事担当者が語る、エンジニアの理想のシゴトバ」には、位置情報サービスのベンチャー企業コロプラ、サイバーエージェント、DeNAから人事担当者が出席。エンジニアにとって働きやすい環境をそれぞれ紹介した。

 開発環境という意味では、エンジニアが使うデスクや椅子から社外勉強会への参加まで、会社が支援できる対象は幅広い。
 DeNA人材開発部の阿部貴嗣氏は、
「スマートフォンの最新端末を通信費会社負担でエンジニアに支給している。ユーザー目線を入れての開発に役立ててほしいというのが狙い。また、国際学会派遣制度がある。海外での技術カンファレンスへの参加を公募し、該当者を社費で送っている。例えばMySQLなど自社のサービスに直結するものだけでなく、コンピュータ・グラフィックス学会など周辺領域への関心もサポートしている。福利厚生面での支援というだけでなく、エンジニアの興味やモチベーションを絶えずかき立てることも、エンジニアにとってよい環境づくりになる。今後も、エンジニアの要望を積極的にすくい上げ、できるかぎり働きやすい、働きがいのある環境を追求していきたい」
と、述べた。

 さらに第2部「企業エンジニアとフリーエンジニア、どっちがシアワセ?」というコーナーでは、それぞれの立場からエンジニアが働く環境について議論した。このコーナーにパネラーとして参加したDeNA・技術企画室の武部雄一室長は、DeNAという企業で働く魅力を次のように語った。
「DeNAの場合、エンジニアは単にモノを作るだけでなく、他の部署の仕事にもどんどん口を出している。時にはマーケティング部門が担当したテレビCMについて、“こういうCMのほうが訴求力が高い”“今度はこの女優さんを使おう”などとアイデアを出すこともある。エンジニアが新しいサービスの企画立案に一枚かむことも少なくない。モノをつくるだけでなく、より広い範囲、高い目線で仕事ができるところが楽しい」

 この1月にDeNAはゲームタイトルで使用されているHTML5開発支援フレームワーク「Arctic.js」をオープンソースとして公開したが、武部氏はその舞台裏も披露。
「エンジニアには、自身が育ててきたプログラムを世の中に人に広く使ってほしいという思いが強い。ただ、オープンソースとして公開することにはリスクも伴う。それでもそこにチャレンジしようというエンジニアには、私のようなマネジメントにいる側もつい応援したくなってしまう。チャレンジ精神、リスク・テイクの精神は重要。その精神が尊重される会社であり続けたいと思っている」
 と語っていた。

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