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来春には大阪、福岡に開発拠点を設置
サイバーエージェント、スマホ技術者の育成と採用強化
サイバーエージェントのスマートフォン対応が急速に進んでいる。積極的な中途採用を展開してきたが、スマートフォン開発経験者はまだ市場に少ない。同社のスマートフォン技術者採用と、その戦略をたどってみる。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:11.11.25
技術転換、中途採用でスマートフォン開発の基盤づくり

 サイバーエージェントの藤田晋社長が、ブログサービスやアバターコミュニティサービスを展開する「Ameba」のスマートフォン向けサービス開発について「スマートフォン市場で頭一つ抜けるために、多くの人材を投入し、グループの総力を挙げてサービスを立ち上げる」と宣言し、開発者を大量に募集し始めたのは、昨年10月のこと。それから1年、サイバーエージェントのスマートフォンシフトにはますます拍車がかかっている。

矢内 幸広氏
株式会社サイバーエージェント
アメーバ事業本部 技術推進本部
スマートフォン技術部門 統括

矢内 幸広氏

 アメーバ事業本部で、スマートフォン開発者を統括する矢内幸広氏はこう語る。
「サイバーエージェントはプロジェクトを円滑に進め、チームによるコミュニケーションをとりやすいように、開発者をプロジェクト毎に配属をしています。ただ、プロジェクト毎に配属をすると同じエンジニア、クリエイター同士の繋がりが薄くなることがあるため、CyberAgent Developers Connect(CADC)と呼ばれるスキル軸で繋がる横断組織を設けています。

 今までCADCの中はエンジニアとクリエイターという枠で分けていたのですが、会社としてスマートフォンに最注力していくこと、また、スマートフォン向けアプリ開発において、HTML5やCSS3、JavaScriptによって開発をするクリエイターとJavaやObjective-Cによって開発をするエンジニアがいることから、スマートフォン開発者という枠を作ることで、より繋がりが深くなると考えました。

 スキル軸の組織があることで、ナレッジの共有や勉強会も頻繁に行われ、スマートフォン開発経験が少ない方も切磋琢磨しながらスキルアップをしています。育成する環境、勉強する環境があることから、経験がなくてもコンシューマ向けゲーム開発や組み込み系の開発を行ってきたエンジニアも採用しており、入社後はみなスマートフォン開発にて活躍しています。」

 CADC内にスマートフォン開発者の専門組織を作ることを提案し、その統括に抜擢されたのが矢内氏である。

元Flashエンジニアの華麗な転身。今やスマートフォン開発の先頭に

 矢内氏は、前職の受託開発会社ではエンジニアとして、Visual Basicによる開発を行い、サイバーエージェント入社時にFlashエンジニアに転身。無料育成ゲーム「meromero park」のFlash技術で頭角をあらわし、その後は女性向けSNS「プーペガール」などの新規サービスの立ち上げに関わってきた。

 いわばFlashメインのクリエイターが、今はスマートフォン開発者のリーダー的存在。自らを一つのジャンルに限定しないエンジニアの伸びやかなキャリア展開の仕方は、サイバーエージェントならではと言える。
「挑戦できる環境があることが、サイバーエージェントの特徴。自ら手を挙げることで、新たな道を拓くことができますので、いろいろと挑戦してほしいです。」
と矢内氏は語る。

エンジニアアカデミーでスマートフォン技術者を育成

 サイバーエージェントはスマートフォン事業を最注力事業として、既にあるPC向け・フィーチャーフォン向けサービスのスマートフォン対応や、スマートフォン分野における新サービスの展開を積極的に行っている。フィーチャーフォン向けのゲームをスマートフォン対応した「mogg」や、新サービスの「コインプラザ」「なでなでフワムー」「くるくるベジタブル」などAndroid、iPhone問わずオリジナルのサービスを続々リリースしている。これだけでなく、アメーバピグをモチーフにしたゲームなどのリリースも今後予定しているそうだ。

「当社には、幹部が新規事業案を競うあした会議や社内の新規事業プランコンテストであるジギョつく、ブレスト会議、開発者限定の新規開発会議など、新しい事業やサービスを考える、提案できる場が多いため、スマートフォン市場においても、挑戦したいサービス案がたくさんあります。新サービスの立ち上げに携わりたいと思っている方は、ぜひ当社でチャレンジしてほしいです。」
と、矢内氏は語る。ただ、最先端のスマートフォンアプリ開発を行いたいと思っているエンジニアはたくさんいるが、開発経験者はまだ市場に少ない。スマートフォンアプリ開発者を採用している企業も新しい市場への挑戦のため、即戦力者採用をしており、未経験者の採用は行っていないのが現状である。

「即戦力の人材を多く採用したいですが、新しい市場なので、経験者はあまりいません。そこでベースとなる技術を持っていて、サイバーエージェントに入ればぐんと伸びるような、“ポテンシャルを感じる人材層”にターゲットを絞った採用戦略とっています」

 これが、昨年秋から始まった「エンジニアアカデミー」だ。インターネット業界の内外で働く若手エンジニアを対象に、無料で開く技術向上支援プログラムだ。今年7〜9月にかけては、スマートフォンアプリ開発に絞ったエンジニアアカデミーも開講された。単に講義を聞くだけではなく、その場で加速度センサーやGPS、カメラなどのスマートフォンの機能に対応したアプリを制作する実践的なセミナー。このエンジニアアカデミー受講者の中にはサイバーエージェントに転職を希望する人も少なくない。

「エンジニアアカデミーは、エンジニアの方が新たなスキルを身に着ける機会を提供することで、市場の活性化を図ると同時に採用につなげるという2つの目的があります。潜在的な技術力は重要視しますが、2カ月間の講義を通して新たな技術を身に着けていただくため、スマートフォン開発者に転身するという意気込みと高い成長意欲が必要となります。また、当社へ入社いただく可能性もあるため、技術者が当事者意識をもってサービス開発をリードしていくスタイルや21世紀を代表する会社を創るという会社のビジョンに共感してくれる方が嬉しいです。」と、矢内氏は採用のポイントにも触れる。

「東京以外」にも目を向ける。来春には大阪、福岡に開発拠点

 社内人材の技術転換、エンジニアアカデミーでの人材育成、中途採用の強化などの施策にもかかわらず、まだまだスマートフォン向けの開発ができるエンジニアの数は足りていない。これは、サイバーエージェントに限ったことではなく、首都圏のインターネット・サービス企業全般に言えることである。ときならぬスマートフォン人材難が起きているのだ。

「スマートフォン開発の需要に応えるためには、もう首都圏のエンジニアだけでは間に合いません。ただ、首都圏以外にも優れた技術を持ち、ふるさとで就業したいという方が多いことから、開発拠点を地方に作ることになりました」(矢内氏)と、サイバーエージェントでは開発拠点の分散を検討するようになった。

「JavaによるAndroidアプリ開発の実務経験またはObjective-CによるiPhoneアプリ開発の実務経験1年以上」あるいは「個人でのスマートフォンアプリ開発を行い、リリースをしたことがある人」などの条件で、現在、大阪、福岡でエンジニア採用セミナーを展開中だ。来春には「『Ameba』スマートフォン開発局」と称した、大阪拠点、福岡拠点が誕生する予定。これらの地方拠点は、将来のUターン、Iターン拠点としても機能する。

 これとは別に、7月には仙台市で開かれた、首都圏のWeb業界における採用動向を紹介するプロモーションセミナーに、矢内氏が参加。震災の影響で仕事が減った東北のエンジニア向けに、首都圏のWeb業界でスマートフォン技術を磨いてみないかという誘いを行った。このようにスマートフォン技術者の採用の動きは全国化している。サイバーエージェントはその流れの先頭を走っているのだ。

コミュニティ・サービスの世界化を視野に。グローバル・マインドを持つ人材に期待

 スマートフォンで楽しむ「Ameba」や「アメーバピグ」。こうしたスタイルが普及していく先には何があるのか。フィーチャーフォン中心に発達を遂げた日本のモバイル・インターネットサービスだが、これからはアクセス手段がスマートフォンに移行する。スマートフォンで遊ぶとなれば、これはもはや日本独自のガラパゴス現象ではない。日本で開発したサービスが世界中で受け入れられる可能性が出てきたのだ。「アメーバピグ」もその一つだろう。

「もちろん、現在のキャラクター・デザインが世界のどの国でもすぐに受け入れられるとは思っていないですけれど、日本のモバイル市場で鍛えられたきめ細かいノウハウは、コミュニティ・サービスの世界化を考えたとき大きなアドバンテージになるはずです」
 と、矢内氏は語る。

 すでにサイバーエージェントは、昨年からアメーバピグの英語版「AmebaPico」を米国でサービスインし好評を得ている。利用者はすでに400万人以上。米国子会社のCyberAgent Americaにおける開発機能の強化も徐々に進んでいる。日本発のサービスをグローバルに展開するための布石はすでに打たれている。

 つまり、これからのスマートフォン技術開発者には、これまで国内に閉じていた視野を、ぐっと世界に広げるチャンスが訪れようとしているのだ。日本のサービスをスマートフォンと共に世界に持ち出し、自分の技術で世界のユーザーをあっと言わせる可能性。優れたエンジニアなら、そのチャンスにワクワクしないはずはない。

「日本だけじゃなくて、世界の人々にとって、「Ameba」や「アメーバピグ」のようなサービスが、生活の一部になる時がきっとやってきます。それを実現する企画力や開発力をこれからのスマートフォン技術者には求めたいですね」
 と矢内氏は言うのである。

株式会社サイバーエージェント アメーバ事業本部 技術推進本部 スマートフォン技術部門 統括 矢内 幸広氏
1977年、群馬県生まれ。金沢工業大学機械学科卒業後、300名規模の受託系ソフトウェア会社に入社。2004年10月、サイバーエージェント入社。「meromero park」の立ち上げに携わり、その後、「Ameba」内サービス「みんなの絵文字」「プーペガール」の立ち上げも担当。現在は、100名を超えるスマートフォン技術部門を統括している。
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