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エンジニアの創造性を刺激するテクノロジーイベント
全講演の映像初公開!石井教授と技術者の美的対話空間
激変するインターネットやデジタルメディアの世界。そこにおける新しい価値を生み出す革新の担い手であるエンジニアたちに、さらに刺激を与えるイベントが1月15日東京で開かれた。石井裕MIT教授が来日、未来を生み出す技術者の創造力について熱く語り合った。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:11.01.27
【Part1】エンジニアの創造性を刺激するテクノロジーイベント──石井MIT教授が基調講演

 Tech総研が主催し、メディアテクノロジーラボ(MTL)が後援、アマゾンジャパン、DeNA、グリー、ヤフーの4社の協賛による「Japan Innovation Leaders Summit 2011」には、350名のエンジニアが詰めかけた。多くはIT・Web分野で日々最先端の技術とサービスを開発するエンジニアたちだ。

高速循環する情報の水流を受け止めよ。石井教授の「速射砲」攻撃に会場も興奮

 エンジニアの創造性を刺激し、未来に向けたその活力を引き出したのは、マサチューセッツ工科大学メディアラボの石井裕教授。「タンジブル・ビット」の研究など、情報科学における世界最高峰の舞台での絶えざる挑戦は、Tech総研サイトでも度々紹介してきた。彼のTwitter(@ishi_mit)での発言をフォローしながら、日々の仕事のモチベーションにしているエンジニアも少なくないはずだ。

 石井教授の基調講演のテーマは「変化する情報生態系・加速する情報水流・永遠の未来」。来日する飛行機の中でまとめてきたという300枚にのぼるスライドを駆使しながら、たえずジョークを交えて会場とインタラクションし、速射砲のようにしゃべりまくる石井教授のプレゼンテーション。会場は冒頭から圧倒された。

 詳しくは講演映像を見ていただくとして、石井教授が強調するのは、いま世界の情報のエコシステムにおいては、デバイスそのものよりも、その背景にあるネットを還流する情報の重要性が相対的に増してきているという指摘だ。
「デバイスは蛇口にすぎない、単なる情報の出入り口だ。コンテンツはリアルワールドから、そしてネットからクラウドからやってくる。ローカル・キャッシュに溜め込んで死蔵させるのではなく、ネットから流れ出る情報の水流に注目せよ」

石井 裕氏
マサチューセッツ工科大学(MIT)
メディアラボ教授 石井 裕氏

「高速に循環する情報の水流」──その流れを止めないためには、たえずそれらを共有し、編集し、再発信するプロセスが不可欠だ。Twitterがその良い例で、有益な情報は、リツィートを重ねることで、これまでの情報伝達では考えられなかった規模とスピードで世界の人々の間に伝播され、共有されていく。

 会場にはSNSやソーシャルゲームなど新しいソーシャルサービスに取り組むエンジニアも多数いたが、情報の水流をいかに取り込むかという講演のポイントでは、頷く人が多かった。そのようにスピーディーに情報をオーガナイズする訓練の中からしか、技術の未来は見えてこない、と石井教授は続ける。だが、変化のスピードはあまりにも凄まじい。波間にもまれるだけでは、水流のうねりの先を予測することはできない。とりわけエンジニアには、衛星から見渡すような高い視点が必要だと、石井教授は強調する。

 視点の高さと同時に、氏がエンジニアに求めるのは、「本質的な問い」を続けること。氏の用語でいえば「なぜの速射砲」だ。知的領域において、あるいはビジネスのフィールドにおいて、常に飢餓感を持ち続けることが鍵なのだ。

 石井教授の講演は、ときに哲学や文学的な味わいを帯びる。技術開発において「なぜ?」を何百回と繰り返せば最後は哲学のレベルにまで行き着かざるをえないことを知っているからだ。氏からも会場へ本質的な問いかけがあった。
「2200年を生きる未来の人々のために、あなたは何を残したいですか」
 限られた人生の中で、本質的なことをやらなければならないと、石井教授はエンジニアに訴えるのだ。

<本邦初公開!石井教授の講演風景で見る>
講演映像(Youtube.1) 講演映像(Youtube.2) 講演映像(Youtube.3) 講演映像(Youtube.4)
【Part2】業界トップ企業が、アプリ開発・インフラ構築の先端技術を語る

 石井教授のスピーチの興奮が冷めやらない中、会場では次のセッションが始まった。参画企業4社によるテクノロジー・セッションだ。インターネット技術の最先端企業が、いまどんな課題に取り組み、どのような成果を挙げているのか。その一端を知る絶好の機会だ。ここでは概要だけを述べるに止めるが、興味のある読者はぜひ講演映像や講演資料を参考にしてほしい。

ソーシャルゲームのためのデータベース設計 DeNA 松信嘉範氏

 日本オラクルでMySQLのスペシャリストとして活躍していた松信氏。2010年夏に、DeNAに転職し、MySQLなどデータベース周りの技術スキルを中心に、システムの安定化やパフォーマンス改善に取り組んでいる。
 今回は、初動の数日で一気に100万人を越えることもあるというソーシャルゲームの特徴を踏まえながら、データベースの安定化・高速化のためのTIPSを披露した。企業の基幹系システムなどに比べると、一見貧弱と思われがちなソーシャルゲームのデータベース活用が、実はそうではないこと。ダウンタイムが長時間に及ぶと、課金収入に大きな影響を与えるだけに、インフラ系エンジニアには高度なスキルが求められることを指摘した。

講演映像を見る 講演資料をダウンロード 松信氏のプロフィールを見る
アマゾンクラウドの真価 アマゾンジャパン エバンジェリスト・技術推進部長 玉川憲氏

 アマゾンのビジネスのなかでも、クラウドサービスであるAmazon Web Services(AWS)を紹介。現在、数十万の顧客がAWSを使ってシステムを構築している現状を報告した。時間単位ですぐに必要なだけコンピュータリソースが調達できることで、サーバーリソースの余剰・不足といった悩みから解放されるだけでなく、クラウドの特徴を活かしたシステム運用が可能になる。
「新しいテクノロジーを使い、クリエイティビティを発揮し、世の中に貢献するのがエンジニアの仕事。そのエンジニアがわくわくするのが、アマゾンクラウド。これを使うことでエンジニアは世界をより良くする魔法使いになれる」と述べた。

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GREE Platform for smartphone」の構成技術 グリー メディア開発本部 ソーシャルメディア統括部長 プロデューサー 伊藤直也氏

 グリーは昨年末、外部のデベロッパーがアプリケーションサービスを提供できる仕組み「GREE Platform for smartphone」を公開したが、開発責任者である伊藤氏が、その概要を報告した。iOSおよびAndroid対応のネイティブアプリ開発向けにSDKを提供する一方、Webアプリ開発を容易にする仕組みも提供。Titanium Mobile、Adobe AIR、Unityなどミドルウェアのサポートで、アプリ品質が高まる可能性にも触れた。
 伊藤氏は「スマートフォン発展のスピード感はそれまでの技術と激しく違う」と発言。エンドユーザーの体験自体を再定義し、それをより深める新しい技術の導入が不可欠だと強調した。1月中にはサンフランシスコ・オフィスを開く同社の世界展開にも触れ、Webやアプリケーション開発者の総力の結集を訴えた。

講演映像を見る 講演資料をダウンロード 伊藤氏のプロフィールを見る
Hadoop 〜Yahoo! JAPANの活用について ヤフー R&D統括本部 角田直行氏・吉田一星氏

 大規模情報の分散処理を支援するソフトウェア・フレームワークとして注目を集めるHadoopについて、ヤフーの2人の技術者が、米国のYahoo! IncおよびYahoo! JAPANでの活用例を中心に語った。HadoopはWebのように即座に結果を返すリアルタイム処理には不向きだが、処理時間が数時間以上かかるようなバッチ処理に向いている。Yahoo! IncはHadoopのユーザーやテスターが世界で最も多い企業で、現在、25000台以上のクラスタがあることが紹介された。
 例えば入力した検索ワードに関連のありそうな単語を自動補完するサーチアシストのデータベース構築にもHadoopが用いられている。Hadoop導入前には26日かかった処理が、現在は20分で済んでいるという。その他、データ解析、データマイニング、検索などでの使用例や、Hadoopの関連プロダクト、国内外の活用企業の例なども挙げられた。

講演映像を見る 講演資料をダウンロード 角田氏のプロフィール 吉田氏のプロフィール
【Part3】2011年、ネット業界はこう変わる。参加企業4社の技術戦略

「Japan Innovation Leaders Summit2011」というイベント名称の真骨頂を示すのが、次のメインセッションである。石井教授のファイシリテイトのもと、イベント参画企業のアマゾンとグリー、DeNAとヤフーのリーダーたちが、それぞれ2つのパートにわかれ、「2011年のビジネス戦略とエンジニアに期待する」ことについて語り合うという趣向だ。

革新的なサービスを生み出すエンジニアへ熱い期待 アマゾン ジャパン × グリー × 石井裕教授
渡辺 弘美氏
アマゾンジャパン渉外本部本部長
渡辺 弘美氏
田中 良和氏
グリー 代表取締役社長
田中 良和氏

 Discussion1ではアマゾン ジャパンの渡辺弘美・渉外本部本部長が、まずアマゾンのイノベーションを語った。アマゾンのロゴに描かれた「A to Z」の意味から入り、DRMフリーの音楽やオンデマンド動画配信、端末を取り替えても読みかけのページから続きが読める電子書籍のサービスなど、拡大を続けるショッピングサイトの機能を紹介。クリエイター向けのアーティストセントラルや、世界中から脚本や映画を投稿できるアマゾン・スタジオの話題にも触れた。

「アマゾンは米国で生まれて15年以上経つ、イノベーションという意味ではまだ最初の一日を歩んでいるにすぎない。今後さらに革新的なサービスを生み出すのはエンジニアの力だ」と期待を語る。

 グリーの田中良和社長が描くのは、グローバル市場を見すえたグリーのビジネス。「今はソーシャルゲームやモバイル中心の会社だが、本質的に私たちがやりたいのは、インターネットで世界中の人々が幸せになるサービスを生み続けること」というのがグリーの事業目的だ。

 サービスのグローバル化にあたっては、地域ごとの文化特性をどう超えるかという課題がある。そこに触れた石井教授の質問に、田中氏は「TwitterやFacebookも最初から世界中の文化を吟味して作られたわけではない。つまり、人間の本質に迫っていけば、カルチャーや人種を超えて、一国で生まれたサービスが世界を席巻するということは十分ありうる」と力強く答えた。

 一方、アマゾンの渡辺氏は、「代引きやコンビニ支払やモバイル端末からの購入などいまアマゾンに実装されているサービスは日本からの提案。地域ごとの文化や商習慣へのきめ細かい配慮も必要だ。と答えた。「日本語の本が読めるキンドルはいつごろ出ますか」という教授の“挑発”的な質問に笑顔で答える場面もあった。

「これからのエンジニアは、社会人類学的なセンスをもったデザイナーでもあるべき。技術だけ担当するというふうにとらえられがちな、狭い意味でのエンジニアという言葉に替わるものがそろそろ欲しい」という石井教授の呼びかけに、渡辺氏は「アマゾンでは全社員にリーダーシップを求めているので、エンジニアというよりは“リーダー”という言葉がふさわしいかも」と答え、田中氏は「石井教授のいう意味も含めて“エンジニア”の仕事の意義を高め、もっと世の中から尊敬される存在にしていきたい」と語った。

講演映像を見る 渡辺氏のプロフィールを見る 田中氏のプロフィールを見る
ソーシャルメディア化で技術はどうかわるのか DeNA × ヤフー × 石井裕教授

 次のパートには、DeNAの守安功COOとヤフーの明石信之CTOが参加した。
 守安氏はまずDeNAの創業以来の歴史に触れ、「モバオク、モバゲータウン、ポケット・アフリエイトなど主要なサービスはたった1人のエンジニアが作った。サービスとテクノロジーの両方にかかわる優秀なエンジニアがいると、会社は大きく変わる」と語る。

 石井教授から「そうしたスターエンジニアを惹きつけて放さないために企業としてのご苦労は?」と問われて、守安氏は「エンジニアのキャリアパスを多様化することが大切。DeNAでは、いくつになってもサービスを考えコードを書き続けたいというエンジニアに対しては、サービス・リード・エンジニアというパスを用意している」と答えた。

 石井教授もまた「ゼネラル・マネジャーになることだけがエンジニアの道ではない。ノーベル賞の受賞者もまた常に第一線にいることを選んだ人たち。エンジニアのモチベーションを高めるために、キャリアパスから設計するということは本質的な対応だ」と評価した。

 ヤフーの明石氏は、ネット上で進むソーシャルメディア化の状況に触れ、マルチデバイスに対応しながら、メディアの付加価値を高めることがヤフーの任務とした。その上で、瞬時に膨大なリクエストをさばくプラットフォームの構築や1日20億以上のログ解析にかかわるヤフーの仕事は「エンジニア冥利に尽きるはず」と、聴衆にアピールした。

 メディアのソーシャル化は、DeNAにとっても重要な課題。というより、DeNAはソーシャルゲームでその流れを推進してきた代表的な企業だ。「ゲームは常にユーザーの“飽き”との闘い。コミュニケーション要素を上手にからめることで、ゲームの魅力はさらに高まる」と守安氏は語る。

 一方で、技術革新が進めば進むほど、古いアーキテクチャを捨てる決断をどこかでしなければならないのが、ITサービスの宿命でもある。「ドラマティックなイノベーションと、日々の改良はときには相対立することがある。その対立をどう乗り越えるのか」という石井教授からの突っ込んだ問いには、一瞬会場に緊張が走った。来場者の多くが、仕事でシステムの改良を重ねつつ、それを吹き飛ばすようなドラスティックなイノベーションの到来につねに戦々恐々としているのだろう。

守安 功氏
DeNA 取締役 兼 COO
守安 功氏
明石 信之氏
ヤフー株式会社 CTO
明石 信之氏

 明石氏は、「捨てるためのタイミングと決断は重要。最初から疎結合のアーキテクチャであれば、個々のコンポーネントは入れ替え可能。最初の設計の時に、部品をシンプルかしてコンポーネントをわけていくことを心かげてきた」という。

 守安氏は、「ワンソースでiOSとAndroidに両対応するSDK「ngCore」をつくり開発者をサポートしている。また、ソーシャルAPIに関しては、日本、米国、中国の3つの地域で共通化する。OSや地域の違いを意識することなく、開発者にとって開発しやすい環境をつくっていくことが、短期的には技術革新への答えになると思う」と応じた。

 未来技術を夢に描くエンジニアの意欲をスポイルすることなく、日々のサービスの開発・運用へのモチベーションをも維持する。ネット企業の苦しみの一端が語られたといえよう。

講演映像を見る 守安氏のプロフィールを見る 明石氏のプロフィールを見る
【Part4】教授にインスパイアされ、心の中に新しい火がついた。〜講演者の感想

 全てのセッションが終わったあと、懇親会が開かれた。石井教授も多くの参加者に取り囲まれ質問責めに。イベント全体について、講演者の感想をいくつか拾った。

DeNA 松信嘉範氏
松信嘉範氏

 企業で仕事をしているとどうしても目先のことに追われがち。石井先生からは、100年を超えるような長期的なビジョンをもつことの大切さを教えていただいた。私はテクノロジー・セッションで講演したが、聴衆のみなさんの反応はよかったと思う。今回は B to B のシステムを開発している人が多かったようだが、将来の彼らのキャリアパスのなかに、ソーシャルアプリ開発やそのインフラ構築という選択を一つ加えてもらうことができたら、講師としては本望です。

アマゾンジャパン エバンジェリスト・技術推進部長 玉川憲氏

 スピーカーの一人として参加したけれども、聴衆としても十分楽しめた。石井先生は私の前職のIBM基礎研究所時代から存じ上げているが、ますますパワーに磨きがかかっているという感じ。個性を全面に出すことが、日本の技術者にとっても大切ということがあらためてわかった。先生の話にインスパイアされ、実は用意していたスピーチ内容を直前になって変えたりしました。

玉川憲氏
グリー ソーシャルメディア統括部長 プロデューサー 伊藤直也氏
伊藤直也氏

 エンジニアこそが世界を変えられる存在だということを、石井先生の話を聞いてあらためて再認識できた。ただ、エンジニアリングだけではこれからは難しい。技術とビジネスの両方がわかるハイブリッド型のリーダーこそが、これからの中心になる。今日参加してみて、私自信の心の中に何かまた一つ火がついたっていう感じです。

ヤフー R&D統括本部 角田直行氏・吉田一星氏

 石井先生は、ユーザー・インターフェイスを研究している方だけあって、聴衆を惹きつける能力は半端ではない。宇宙レベルにまで展開される視野の広さに、我々とは違うベクトルの深さに、あらためてうならざるをえなかった。自分たちも一歩でも近づけたらと思います。

角田直行氏・吉田一星氏
グリー株式会社 代表取締役社長 田中良和氏
田中良和氏

 これまでもエンジニアの勉強会に顔を出すことは多かったが、今回はまた別の雰囲気。細かい技術に特化した話も意味はあるが、石井先生のような、哲学的な地平に立った視野の広い話が聞けて、あらためて刺激を受けたエンジニアも多かったのではないか。

アマゾン ジャパン 渉外本部本部長 渡辺弘美氏

 石井教授と聴衆の質疑応答の中にあった「赤信号でも車がいなければ横断歩道を渡る」話が面白かった。あらかじめ全ての関係者の了解を取り付る日本の文化と、リスクを承知で挑戦し必要があれば修正していくオプトアウトのアメリカの文化の違いでもある。今日のイベント全体を通して、イノベーションを生み出す信念ということを考えていたが、日本のエンジニアはもっと自分の信念を貫き通してもよいのではないか。信念はときには「狂気」になることもあるけれど、心の内に狂気と呼べるほどの信念をもつエンジニアこそが、イノベーションを生み出すのではないだろうか。

渡辺弘美氏
ヤフー CTO 明石信之氏
明石信之氏

 私自身、多数のエンジニアを前にパブリックな場で話すのは初めてのことで、緊張した。エンジニアは、一つのことに閉じこもらず、つねに発想を転換するトレーニングが必要だということは常日頃感じているが、石井教授はそれを日々実践している人。私たちは教授のように言葉ではうまく語れないが、そのぶん技術を使って、現状を変えていくことはできる。一見離れているかのように見える点と点をいかにつないでいくか、それができるのもエンジニアだと思う。

DeNA 取締役 兼 COO 守安 功氏

 石井氏を心の師と仰ぐ社内のエンジニアらとともに参加させていただいたが、私も刺激を受けることができたよい機会でした。会場に集まったエンジニアのみなさんの活き活きとした表情が印象的でこの中からも世界に飛び出して活躍するエンジニアが出て来るのではという期待を持ちました。我々も世界を切り拓くための挑戦を続けますので、今後も注目してもらえたら幸いです。

守安功氏
リクルート Tech総研 エグゼクティブプロデューサー 加藤茂博氏
加藤茂博氏

 今回は「Tech総研アカデミー」としての初めてのイベント。いま時代の転換点のなかで、あらゆるものが変化するとき、エンジニアの働き方もまた変わる必要がある。変わるためには何が必要か。これからの時代を牽引する企業やそこで活躍するエンジニアと接して、刺激を受けることも大切だろう。今日の各セッションでも、今いかにエンジニアの価値を期待されているのかがよくわかった。そうした企業とエンジニアの接点を増やすことで、日本をもっと元気にしていきたい。Tech総研アカデミーは今後もその触媒になりたいと思っています。

【コラム】「赤信号だから渡らないでは、自分の狭い枠を突破できない」〜石井教授と聴衆のQ&A集

 聴衆とのダイレクトな会話を楽しみ、自らの刺激とするのも、石井流。常に「もっともっと本質的なことを聞いてくれ」と聴衆を挑発する。かみ合っているようで、かみ合っていないかもしれない、石井教授とのQ&A集。

日本のエンジニアたちは、企業の中のルールに縛られている。本質的な経験ができない。その文化を打破するためには?

地球にいる限り、誰だって重力には縛られる。ただ、横断歩道を渡るときとき、たとえ赤信号でも注意すれば渡れます。何故ならば物理学の時空間連続の原理があるからです。遠くから来る車が突然目の前にワープしてくることは、地球上ではありません。すなわち、安全に渡ることが物理的に可能なら、渡ってしまおうということです。人に迷惑かけず、結果に対してきちんと責任を持てるのであれば、渡ってもいいのではないか。もし文句を言われたら、後で謝ればいいじゃないか。赤信号、みんなで渡れば怖くない──そういう気持ちも大切です。もちろんこれはあくまでも比喩です。どうか誤解のないよう。日本の交通規則の遵守は国民として当然であり、交通安全協会の立場からも、ちゃんと赤信号の時は止って下さい。子供達の教育のためにも。

石井さんがいまやっていることって何ですか。

僕がもっとやりたいのは、スピーディーな応答。卓球の前陣速攻のような、ツバメ返しのような。今500ミリ/secぐらいで返せるけれど、それを300に縮めたい。沸騰するヤカンに触って「あちっ」というあの反射的なスピード。ネットワークのレスポンスを速め、常時接続を実現したい。前回来日したとき、URoad-7000を買いました。移動中でもいつでもネットしていられる悦びは格別です。ただスマフォン2台、タブレット1台、MacBook2台の合計5台も使っているんで、すべてをネット接続するとポケットの中のURoad-7000が懐炉のように熱くなる。冬場はありがたいですね。

先生の研究に対するモチベーション、原動力はどこから来るんでしょうか。

あと20年で死んでしまうから。あなたよりずっと先に。だから、リュックサックをしょって走っています。

いま宇宙分野の開発をしています。宇宙からの視点で、これからのテクノロジーを見るというご指摘に感動しています。

「はやぶさ」は勇気を与えてくれましたね。宇宙船が持ってきてくれた映像が人々をインスパイアしてくれている。ロマンがある。エンジニアにも人々にロマンを与え続ける任務があると思います。

プログラム言語を愛しています。これからのプログラム言語にはどんなイノベーションがありそうですか。

Smalltalkに触れたとき、ショックだった。日本語を使って会話するのに近い。美学を感じた。コンピュータ・エンジニアにとって、最初に学んだ言語は決定的だ。だからこそ最初に美しい言語に出合いたい。これからのイノベーションも、美学のある言語から生まれるだろう。

テクノロジーを突き詰めると効率化に行きつくが、大切なのは人間の心をどう豊かにするかではないか。

あったりまえじゃないか。それ以上、何を付け加えることがあろうか。

エンジニアとして飛躍するためには、どんなことが必要ですか。

「エンジニア」とラベルをつけることで狭くなる。自分にレッテルを貼った段階で、もう死んでいる。エンジニアもまた、サイコロジカル、エコロジカル、エモーショナルな視点を深く理解し、モノ作りに反映させなければならない。他のジャンルで最高のものを勉強しないといけない。サイエンス、アート、デザイン、テクノロジー、なんでもいいから一等賞を取ろう。

先生ご自身の娘さんのために、どんな世界をつくっていきたいと思われますか。

う〜ん。少なくとも「ラブプラス」にハマるような少年には絶対に嫁にやらん、ということだけは言える。もっと新しい大きな変動を起こす人を励ましたい。私がMITで日夜必死に研究と教育に没頭しているのは自分の天職だからだし、新しい世界を創造できる若い人を育てたいからだ。

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