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Amazon.co.jp®(アマゾン)のサービスを利用する人は多いが、日本のエンジニアがどんな仕事をしているかは意外と知られていない。日本でのAmazon Web サービス、ソリューション提供や、モバイル開発を行うスーパーエンジニアたちに会いに東京オフィスを訪ねた。
(取材・文/広重隆樹 編集/宮みゆき 撮影/関本陽介)作成日:11.03.31
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アマゾン データサービス ジャパン
ソリューションアーキテクト 荒木 靖宏氏 |
Amazon Webサービス(AWS)は、一般にはアマゾンが提供するクラウドサービスと理解されている。より正確に定義すれば、「ソフトウェアの開発者がアマゾンの技術プラットフォームと商品データにアクセスできるようにするために、アマゾンブランドの全サイトで提供している技術とサービスの総称」だ。 2006年からβ版がスタートしていて、クラウドサービスの先駆けともいわれる、Amazon EC2はその代表的なサービス。ほかにも、安価なインターネット・データストレージとして活用されているAmazon S3、MySQLと同等のリレーショナルデータベース環境を提供するAmazon RDS、小売業者がAmazonを利用して商品の保管やピックアップ、梱包・発送ができるようになるフルフィルメントサービスAmazon FWSなど、現在10個のサービスが提供されている。 AWSは当初はサービスが英語で提供され、データセンターも海外に置かれていたため、多少の不便さもあった。しかし、2010年からアマゾンはアジア太平洋地域のサービスに本腰を入れ始め、同年1月には日本法人のアマゾン・データ・サービス・ジャパン(ADSJ)が設立された。 そのADSJでソリューションアーキテクトとして活躍するのが、荒木靖宏、大谷晋平の両氏だ。両氏ともADSJへの入社はごく最近のことだが、前職時代からAWSの各種サービスを利用し、その機能に惚れ込んできた経緯がある。 |
「他のクラウドサービスに比べて、AWSのいいところはすべて自分たちで開発していること。仮想化ソフトウェアもロードバランサーもすべて自前。実際にパケットを動かす部分から作り込んでいる。内製することで結果的にユーザーの利用コストは抑えられ、かつ顧客のニーズに応じた迅速な開発が可能になります」
と、AWSがただのクラウドではないことを熱心に語るのは、荒木氏だ。これまで外側から見ていたAWSのサービスを、入社3日目に命じられたシアトル出張でつぶさに見ることで、あらためてそのすごさを実感したという。
AWSの各種サービス自体は米国で開発している。ADSJの任務は、それを利用する日本のユーザーのために強力なサポートを行うことだ。とりわけ、シアトルの開発チームと日本の顧客の間をつなぎ、顧客の求める機能をフィードバックしたり、逆にリリース間近の機能を顧客に紹介するといったブリッジの役目を果たすのが、ソリューションアーキテクトだ。AWSを使ったベストプラクティスを集め、顧客の事業に最適なサービスと技術をセレクトし、それを顧客に提案する役割も果たす。
「もともとアマゾンはインターネットで書籍を販売するという通販ビジネスからスタートした企業。一般のIT企業では、ハイバリューのものにさらに機能を付加して高く売るという戦略が当たり前だが、私たちはそれとは真逆で、お客様に定価各で商品を提供することが身上。だからこそユーザーを広げることができる」 ただ「安く提供する」というのはそう簡単なことではない。コアにある基盤技術が相当高いレベルでなければならないし、技術が広がっていく生態系(エコシステム)が伴っていなければならない。
「お客様がいま求めているサービスを最大公約数で把握し、アマゾンはそれぞれのサービスのコア技術を提供する。APIはすべて公開されているので、周辺の部分はユーザー自身が開発できるようになっている。足りない部分は、日本で約20社、世界で1000社以上のパートナー企業があって、それを私たちが紹介することで、お客様はそれぞれの事業にあったサービスを構築することもできる。また、ユーザーグループの活動も活発に行われている。それら全体がエコシステムとして機能することで、サービス全体が普及していくという仕組みがある」 |
アマゾン データサービス ジャパン
ソリューションアーキテクト 大谷 晋平氏 |
そのエコシステムの中心にいて、顧客である開発者をサポートする2人。国内のパートナー企業を増やし、コミュニティを拡大していくミッションも課せられているが、なにせ人手が足りない。
「新しいメンバーは喉から手がでるほど必要だが、少なくとも我々と同じ技術の言葉でコミュニケーションできることが絶対条件。このポイントは妥協できない。AWSのサービスはまずはβ版として公開し、顧客に使い込まれ、ブラッシュアップされていく。顧客がちょっと試してみて使えないとなれば、誰にも使ってもらえない。それだけの厳しさに耐えるだけの技術力も不可欠です」(荒木氏)
と、エンジニアに求める条件は高い。
クラウド技術のど真ん中で、ソリューションアーキテクトとして仕事をすることは、これからのインターネット技術の鍵を握ることでもある。いわばクラウドの雲の“中の人”になることだが、同じクラウドならAWSを選択する意味は大いにある。AWSが5年間にわたって提供してきたサービスの中で、一度出して途中で止めたというものは一つもない。それだけ顧客のニーズに合致したということでもあるが、同時に高い技術力・サポート力がそれらを支えてきたことの証明でもあるからだ。
奈良先端科学技術大学院大、東大などでセンサー・ネットワークを研究。IIJ、日本HPなどを経て、2011年1月アマゾンへ。研究者時代からAWSのヘビー・ユーザーだった。著書に『Postfix詳解』(オーム社)
大手SIerを経て、2011年2月アマゾンへ。これまでWebフレームワークT2の開発をしながらHadoop/NoSQLミドルウェアにも手がけ、オープンソースコミュニティでもその存在が知られる。
アマゾン ジャパン株式会社
アマゾンサービス事業部 インテグレーション部 インテグレーションマネージャー 松木 宏人氏 |
アマゾンサービス事業部でインテグレーションに関わる仕事をしている松木氏。インテグレーションとは、顧客のビジネスとアマゾンのプラットフォームを「統合」することを意味する。自社の商品を販売したい企業は、永年の実績をもち、高い集客力を誇るアマゾンのプラットフォームやツールを使って、自在にeコマースを行うことができる。消費者から見るとアマゾンのサイトで何か商品を検索したとき、右側に「こちらからも買えますよ」と紹介されるアレだ。決済はすべてアマゾンが代行するなど、マーチャントにとっても消費者にとっても便利なサービスだ。
こうしたシステムを構築する際に、顧客とアマゾンのシステム連携が不可欠になる。
前職は価格.com。主に検索機能のシステム開発にかかわっていた。 |
入社してみて驚いたのは、業務が高度に効率化されていること。
「例えば、国内だけでは解決できない技術的な問題をアメリカ本社にエスカレーションすることがありますが、それもシステム化されていて、入社してすぐの社員もすぐに使うことができるようになっている。こうした業務のプロセス化は驚くほどしっかりしている」
という。
アマゾンの設立は1994年のこと。すでに17年の歴史がある。草創期には他にも無数にあったショッピングモールが、2000年前後のネットバブルの崩壊で脱落する中、アマゾンが生き残ったのは、利益の多くをシステム基盤の整備に投資していたからだといわれる。いわば技術基盤をコツコツと積み上げたことが、現在の成功を導いた。表には見えにくいものだが、このシステム力の一端を、松木氏は目にすることができたのだ。
「私の仕事は、顧客のビジネスとアマゾンのIT力を文字通りインテグレーションすることインターネット技術の進化に関心があり、かつそれを利用した顧客のビジネスの発展にも興味がある人には、とても面白い現場だと思いますよ」
大手SIer、価格.comなどを経て、2010年5月アマゾンへ。「世界中の人が使うショッピングモールの中を覗いてみたかった」
モバイルインターネット技術は携帯電話だけでなく、スマートフォンというデバイスの世界的な隆盛を受けて、新たな局面を迎えようとしている。 モバイルブラウズディベロップメントは、文字通りモバイル端末からアマゾンにアクセスするためのブラウザ開発のチームで、東京と北京にだけ置かれている。英語、日本語、中国語だけでなく、欧州言語も含めて8カ国語版のサイト構築もこの部署の担当だ。日本におけるモバイルインターネットの経験を取り込み、それをアジアから世界へと拡大していくための開発部隊であり、最前線基地といえる。
アマゾンが携帯電話からのアクセスに対応したサイトを用意したのは、6年前から。現在、国内携帯電話向けに各キャリアに対応した「Amazonモバイル」と呼ばれるサービスを用意している。街を歩きながら買い物ができる。メールを送るだけで簡単にアマゾンの取扱商品を検索できるサービスもある。 アプリを用意しなくても、HTML5を駆使することでブラウザベースでも同じことが、スマートフォンでもできるようになる。さらに、商品バーコードを読み取って価格を比較することや、スマートフォンのGPS機能を使った新しいサービスも可能になるだろう。世界中の人々の消費行動が変える。そのティッピングポイントに、レイナー氏らはいま立ち会っているのだ。 |
アマゾン ジャパン株式会社
モバイルブラウズディベロップメント マネージャー メイジャー・レイナー氏 |
「モバイルを使ってやりたいことがいっぱいある。だから、エンジニアが欲しい」
エンジニアに求める条件は、まずモバイルWebサイトの開発経験者。しかしこれは「must」ではない。
「むしろ何となくWebサイトをつくってきたような人よりも、プログラミングのベーシックな技術、アルゴリズムについての理解がしっかりしている人がいい。各国語版のさまざまなビューを表示するためには、たんにHTML5が書けるというだけじゃなくて、コード全体がきれいなアーキテクチャになっていないといけません。さらにアマゾンのシステムがどのように動いているかの理解がないと、うまく開発が進まないのです」
アマゾンのスマートフォン対応は各国で急速に進むが、将来のことを考えれば、スマートフォンデバイスの主流が現在のiPhone、Androidだけに止まっている理由はない。新しいデバイスに柔軟に対応するためにも、基本が大切だというのだ。
そうした基本的な技術力の上でさらに求めるのは、クリエイティブな発想だ。新機能を開発したり、さらによいやり方を工夫するためには欠かせない資質といえる。
「エンジニアに求めたいことは実はもう一つある。それは、お客様のために何が最適かをつねに考えられる人ということ。アマゾンには“カスタマーフォーカス”という言葉が社訓のようにしてある。もともと、僕らは書籍を販売する商人、マーチャントでしたからね。だからいつだってお客様至上主義。その文化にフィットする人が欲しいですね」
モバイルブラウズディベロップメントのオフィスは、日本人、中国人、フランス人などが一緒に仕事をするマルチカルチャーな雰囲気。そういう雰囲気の中で、チームワークを楽しめる人には、向いている仕事場だ。
日本に住んで17年。日本マイクロソフトを経て、2009年アマゾンに転職。「外資系ITで日本に開発部門をもつ会社は少ない。アマゾンにはそれがあることが魅力的だった」というのが転職理由。
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