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水ビジネス、原子力、鉄道、リサイクル、宇宙、送配電…

インフラ

日本の製造業は
“インフラ輸出”でどこまで戦えるのか?

 経済産業省が6月に策定した「産業構造ビジョン2010」。この中で「戦略5分野」に位置づけられたひとつが「インフラ関連/システム輸出」だ。日本の競争力が弱い分野が目立つが、高い技術力が誇れることも確か。つまり、伸びしろが期待できるのだ。日本の製造業は「インフラ輸出」で戦えるのか。

(取材・文・撮影 総研スタッフ/高橋正志) 作成日:10.10.06

経済産業省/日本のインフラ輸出で諸外国の案件を取っていく

2020年までに19.7兆円の市場規模を目指す

経済産業省

経済産業省
貿易経済協力局 通商金融・経済協力課
課長補佐(企画担当)
山本聡一氏

原子力発電、新幹線、水処理装置…日本が強みを持つインフラの技術をパッケージ化して海外、特に新興国に売り込む。この官民一体となった超大型プロジェクトが本格化している。担当大臣がアジアや中東に出掛けるトップセールスも日常的なニュースになり、海外向けの受注窓口を一本化する試みも始まった。契機となったのは経済産業省が策定した「産業構造ビジョン2010」。この「戦略5分野」の中の「インフラ関連/システム輸出」が動き始めているのだ。
さまざまな産業政策がある中でなぜ「インフラ」なのか。経済産業省の貿易経済協力局通商金融・経済協力課の山本聡一課長補佐はこう語る。
「日本の経済成長にとって外需の取り込みは不可欠です。我が国の技術を各国のボリュームゾーンに輸出してお金を稼ぎ、そのリターンで技術を磨くというサイクルが成長戦略になると思います。その中でインフラやシステムの輸出は規模が大きく、技術の優位性も高いのに、『単品売り』しかしてきませんでした。それをパッケージ化して売るという考え方です」

例えば、これまで水道は水道局、電力は電力会社が担当する内需型産業だった。国内成長とともに伸びたが現在では頭打ちの状態で、海外需要が求められている。一方、民間メーカーは以前から海外志向だったが、オペレーションやマネジメントは現地の海外企業に任せていたため、機器の納入に終わって利幅は少なかった。こうしたシステム全体を、「ジャパンイニシアチブ」によって、「丸ごと」受注する計画だ。
国内のインフラ需要はリプレイスがメインだが、新興国が中心となる輸出国では水道、電気、スマートグリッドなどを一から設計する「都市計画」となる。相手国の政府や自治体も関わるので、日本も政府レベルで案件の策定段階から入り、官民連携のPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)で民間企業を応援していく。
ただ、こうした取り組みは先進国では珍しくなく、韓国の李明博大統領がトップセールスで、原発案件を落としているのはご存知のとおり。日本はインフラ輸出に本腰を入れる。その市場規模を経産省では、2020年までに19.7兆円と試算している。

11の重点分野を支援するための金融政策

産業構造ビジョン2010

産業構造ビジョン2010
「インフラ関連/システム輸出」の11分野

「インフラ関連/システム輸出」には11分野がある(表)。企業からのヒアリングなどにより選出されたが、その基準は「売れる技術はあるのに、システムとして外に出る力が弱い分野」。原子力発電、水ビジネス、鉄道などは主流だろうが、ほかの分野にも裏づけがある。例えば、原子力発電などで電力設備が完成すると、家庭や事業所に電気を送る「送電線」需要が起こるという読み。小型衛星に強い日本の「宇宙開発」では、衛星画像の解析やデータのネットワーク化がインフラになるなどである。
「また、国の制度によってリサイクルなどのビジネスは変わるものです。日本は家電リサイクル法や自動車リサイクル法で自治体の回収システムなどが確立され、民間に市場が生まれました。中国では2011年に家電、2012年に自動車のリサイクル法が施行されると見られています。企業と自治体の協力などでいち早く日本式システムが導入できれば、中国に大きなニーズが生まれます」

金融支援の強化も行う。円借款支援、JICA(国際協力機構)の海外投融資の早期再開、JBIC(国際協力銀行)による先進国向け投資金融の拡大、NEXI(日本貿易保険)による補てん範囲の拡大、インフラファンドの設立・投資支援などだ。また、FS(フィージビリティ・スタディ:事業の現実性や実行可能性を探る多角的な調査)の段階での予算も要求している。
「インフラの受注は案件が固まっていない段階から、相手国の計画策定に関与するのがほとんどです。ただ、調査には時間もお金も掛かり、案件がなくなる場合もありますから、リスクを恐れて消極的になる企業もあります。しかし、この段階から入らず、別の国のプランを前提とした仕様書になってしまうと、すでに手遅れなのです。そのためのFSの予算です」

「ジャパンイニシアチブ」で案件を着実に取っていく

忘れてはならないのが人材だ。ハードウェアとソリューションの「パッケージ売り」を始めるに当たっては、現地でオペレーションをする人材が不可欠となる。メーカーや参入企業をまとめて事業全体をマネージするのは商社、あるいはコンサルティングファームでもできるだろうが、例えば彼らに、下水処理装置のメンテナンスの知識はないだろう。
「海外事業に注力している電力会社などでは人員が育っていますがが、まだ十分とは言えないのが現状です。日本企業だけでなく現地の企業も併せてまとめ、現場でプロジェクト全体を仕切るオペレーターの育成が急務だと思います」
また、マネージャー、オペレーター、メーカーといった「縦連携」もこれからだが、メーカー同士などの「横連携」も今後の課題だ。ただ、戦略はできた。今後は案件をひとつずつ取っていく段階にあると山本氏は語る。
「日本のインフラ技術の世界的な評価は、『最高レベルだがコストは高い』でしょう。現地のニーズに合わせてコストダウンを図り、日本の技術の独自性を出せれば、インフラは確実に輸出できると思います。これからです」

メタウォーター/販売、プラント、そして水メジャーに参入する

海外事業比を20%にして「和製水メジャー」を目指す

メタウォーター

メタウォーター株式会社
国際事業推進センター
センター長
初又 繁氏

オゾナイザ(オゾン発生装置)

オゾナイザ(オゾン発生装置)

2006年の約36兆円から、2025年には80兆円以上にも成長すると予測される世界の「水市場」。ろ過、消毒、汚泥処理、海水淡水化など多様な水処理装置、特に膜やポンプで高いシェアを誇る日本の技術力は世界NO.1レベルだ。ただ、民営化市場でのシェアはなく、「水メジャー」と呼ばれる、仏のスエズ社やヴェォリア社が圧倒的な地位を築いている。
こうした状況の中、「和製水メジャー」を目指して世界に臨むのがメタウォーター株式会社だ。2017年までに海外事業を大きく拡大し、現在数%の海外事業比を20%にまで高める計画である。
同社は、日本ガイシの子会社であるNGK水環境システムズと、富士電機グループの富士電機水環境システムズの合併で2008年に誕生した。日本ガイシからは機械設備、富士電機からは電気設備のノウハウを受け継いだ水処理業界大手は、海外事業の推進部隊である国際事業推進センターを今年4月に立ち上げた。同センター長の初又繁氏は語る。

「海外事業は大きく3つに分かれます。ひとつはセラミック膜ろ過システムやオゾナイザ(オゾン発生装置)といった上下水道向け高付加価値製品の販売で、北米、欧州、中国、韓国など主に先進国向けです。次がプラント設備を含めた事業展開で、北米、中東、中国向けの再生水プラント、中国や中東向けの汚泥の乾燥・焼却プラント、中東向けの海水淡水化プラントなどが対象です」
そして3つ目が「和製水メジャー」への転身だ。上下水道の民営化が早かったフランスやイギリスの水メジャーは、機器の設置やプラント建設だけでなく、運転管理から料金回収までを一貫して行う。この領域に食い込むという計画だ。対象はベトナム、インド、インドネシアの3カ国が主体で、現在はPPPスキームを想定したFSの段階にあるという。
事業規模が大きく公共性も高いため、資金調達、採算性、アセスメントのほか、現地の行政機関や自治体との調整などFSの内容は多岐にわたる。海外水メジャーがまだ手をつけていない国々を当面のターゲットに、同社は勝機を探っているのだ。

自社にないノウハウは自治体や他社との連携で補完

セラミック膜ろ過システム

セラミック膜ろ過システム

 上記の3つの海外事業規の割合は、高付加価値製品の機器(コンポーネント)販売が4分の1、残りの4分の3の半分弱がプラント事業で、半分強が水メジャー事業という。この順番での事業拡大を目指している。
ただ、上下水道施設の運営や料金の回収といった部分は日本では行政機関が担ってきたため、民間企業にノウハウはない。そのため、水処理関連企業と自治体との連携機運が高まっており、同社も北九州市と基本協定を締結した。また、メーカーかつプラントエンジニアリング企業であるのは同社の強みだが、必要があれば他社との提携も進める予定だ。
「ノウハウの吸収とともにコスト競争力強化も大きな課題。日本には『ガラパゴス』と呼ばれる製品分野がいくつかありますが、水処理装置も日本市場向けの高スペック製品を開発してきたために、類似しているところがあります。柔軟性を持ってどれだけ機能を最適化できるかが、事業成功のポイントと考えています」
水環境の業界は単純な上水施設と下水施設という括りではなく、上記のように多種多様な装置や部品、水処理と汚泥処理、機械と電気というように、処理の過程などで専業メーカーが細かく分かれているという。世界標準で比べると同業界に企業が多いと言われる日本だが、初又氏も「今後、水処理関連企業の合従連衡が進むのでは」と見る。国内市場だけでなく、海外への「本気度」が企業に問われているようだ。

職種は多様、同業他社も異業種からのエンジニアも大歓迎

セラミック膜エレメント

セラミック膜エレメント

水ビジネスに携わる開発エンジニアの職種は、主に機械系と電気系に分かれる。
「機械系は主にプラント設計や機構設計で、図面を見て判断や評価ができることが条件。電気系はさまざまな装置が対象なので情報通信、弱電、強電など、それぞれのソリューションに適した人材を求めます。」
また、監理技術者(工事現場の総合責任者)や大規模な建設工事では工事全体を管理するPMが必要になり、試験や保守など後工程のエンジニアも求められる。もちろん、同業他社からのエンジニアは即戦力だが、異業界の経験者でも十分に転職可能だと初又氏は語る。同社に転職したエンジニアのうち同業他社からは3〜4割で、残りは別業界からだという。
「プラントメーカー、設備メーカー、製造装置メーカーなどが多いですが、出身業界は本当にさまざまです。監理技術者はゼネコン出身者も対象になります。これが海外事業になるといっそう多様な技術職が必要となるでしょう。弊社では海外事業の伸張を見込んで、海外要員を中心に今後の2年間で約200人の経験者採用を進める予定です。ほとんどが技術職です」
同社の海外進出は始まったばかり。収益の回収は必要でも性急になってはいないという。必要なのは日本の強みを出すこと、そして、柔軟に対応を変化させること。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず。スキルを高めて世界に飛び込むだけです」

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