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発見!日本を刺激する成長業界5 LED、有機EL…未来の暮らしを彩る次世代照明
低炭素技術の一翼に位置づけられている次世代照明。蛍光管に続いてLEDが一般照明器具として既に普及段階。今後も有機ELや無機ELが空間照明に期待され、演出光の省電力技術でもレーザーや冷陰極管などが続々登場している。発熱量の少ない照明が今、いちばん熱い。
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:09.08.26
LEDは10年以降に拡大、有機ELは11年に市場形成
 次世代照明の柱となるLEDと有機ELの市場拡大は数年先だ。富士経済の調査によれば、世界経済低迷の影響で08年の世界全体光源市場(可視光ランプ、紫外光ランプ、LED、半導体レーザー)は前年比99.4%の3兆8152億円、09年見込みも同99.5%の3兆7976億円で、10年からの回復が予測されている。
 LED照明の構成比は全体の約14%で、市場拡大は10年からと予測。日本の大手メーカー各社が今夏から大幅値下げを開始したこともあり、成長の前倒しも見込まれる。一方、有機EL照明の市場は11年ごろからの立ち上がりを予測(ただ、数値は少ないため、右のグラフでは有機ELの部分をかなり強調している)。照明の明るさにさほどこだわらない海外、特に北米や環境意識の高い欧州での市場形成が期待される。各社にとってもエンジニアにとっても、今が参入のチャンスだ。
特殊光源及び一般照明の世界全体市場
NECライティング 光源は点から面へ、有機EL照明が住空間を変える
 電球型蛍光灯、LED照明に続く次世代照明、有機EL照明。発光体の基礎研究から最終製品までを手がけるNECライティング株式会社は、熱損失の少なさや面発光の美しさといった特質を生かす形で、有機EL照明の商品化に向けて本格始動している。
照明は特殊分野ではない、想像以上に広がる人材ニーズ
「ライティング・フェア2009」に出展された有機EL照明の部屋
「ライティング・フェア2009」に出展された有機EL照明の部屋
 携帯電話のディスプレイや高級車のメーターパネルなど、既に多くの表示装置に採用されつつある有機EL。それを照明として使ってしまおうというのが有機EL照明だ。強気の予想では、世界の照明市場の2割弱が、2020年には有機EL照明になるという見方もある。
 その根拠となっているのが、有機ELのエネルギー変換効率の高さ。経済産業省はCO2削減の一環として、白熱電球を廃止して電球型蛍光灯などに置き換えていく政策を推進したが、実はこの政策は「エネルギー使用量の削減に思いのほか高い効果を発揮した」(照明業界関係者)。さらにエネルギー効率の高い有機EL照明が、LED照明と並んで熱い視線を浴びるゆえんである。
 照明機器大手のNECライティングは、早くから有機EL照明を次世代の有望技術と位置づけ、研究開発に取り組んできたメーカーの1社である。人材開発を担当する総務部の桐山類氏は、有機EL業界で求められるエンジニア像についてこう語る。
「照明は専門性が高い分野であるのは確かですが、裏返せば最初から光のエキスパートという人材は多くはないということです。当社はNECグループ内からきたエンジニアが多いのですが、有機ELの開発チームには中途採用の方も在籍しています。選考に当たっては、照明の知識の有無よりも自分のスキルを掘り下げる能力があるか、新しい技術への吸収力があるかどうかを重視しました」

 市場拡大に伴い、有機EL開発に携わる人材ニーズ増も見込まれるが、照明分野のテクノロジーは発光体研究をはじめ独特なものが多く、他分野のエンジニアにとっては敷居が高いものに感じられがちだ。だが、有機ELの場合はそういった照明のイメージとは裏腹に、他業種のエンジニアのスキルが生かされる場面は少なくない。
 有機EL照明の中核部品といえば有機EL発光素子だが、この発光素子さえあれば有機EL照明がつくれるわけではない。高品質で低コストな商品を開発するためには、回路設計やケースの設計など、実装を担当する人材も必要である。これらの設計は一朝一夕にできるわけではなく、光の量を安定させるにはどうしたらいいか、熱をどのように逃がしたらいいかといった、照明機器ならではのノウハウが求められる。
「有機EL設計チームは、先端分野の研究、発光素子開発、電子回路開発、アプリケーション(筐体設計)開発と、おおむね4グループに分かれます。照明分野以外の人材でも、先端分野の研究や発光素子開発では有機化学はもちろんのこと、高分子および低分子材料をはじめ材料系の人材は手腕を発揮できます。カメラのレンズやフィルターなど、光関係のスキルも生かせます。また、電子回路やアプリケーションでは、電源の安定化、熱シミュレーション、筐体の構造設計検証など、こちらも非常に裾野が広いんです」
 ハイブリッドカーブームや太陽電池ブームよろしく、脱石油につながるエコ技術は今日の注目の的。低い消費電力で美しい光を発する有機EL照明もまた、エコ技術の一角を占める大物技術。その研究開発に携わるチャンスは案外多そうだ。
桐山 類氏
総務部
桐山 類氏
光の質が点光源と全く異質、だから照明開発は楽しい
コースターの有機EL照明
同上、コースターの有機EL照明
ソファとテレビの部分
同上、ソファとテレビの部分
「LED照明や白熱灯など、これまでの光源は点や線が基本でした。それに対して有機EL照明の光は面全体から発されます。エジソンが電球を発明したのは1879年。それから130年がたった今日、照明が根本的に変わろうとしているんです」
 経営企画部でマネージャーとして開発企画を担当しているエンジニア、沖村克行氏は有機EL照明の出現の意義をこう語る。
「LED照明は点光源だったため、既存の照明の代替として比較的すんなり受け入れられました。それに対して有機ELは、これまで人間があまり経験したことがない光り方をするため、商品化には用途や使い方などをしっかり考えていく必要があると思います」
 あまりに身近な存在であるため意識する機会は少ないが、照明は人間の文明生活のベースともいえるもので、慣れ親しんだ照明からいきなり別の方式のものに変えた際の心理的な影響は大きい。点から面へという照明の革命は、ゆっくりと進めていくことが望ましいとされている。
 その一方で、これまでと全く異質な有機EL照明に未来感を覚えるユーザーも少なくない。実際、壁面や天井の広い面積が発光し、一見それほど明るくないのに実は十分な光が当たる様子は、まさに斬新の一言だ。同社は今春に東京ビッグサイトで行われた「ライティング・フェア2009」に出展した際、室内の照明すべてを有機EL照明でまかなう、5畳ほどのリビングを模した体験空間をつくった。
 そこには住建業界関係者だけでなく一般の来場者が多数訪れ、幅広い層の関心を集めたという。沖村氏によれば、「その部屋を言葉で表現すると、光で包まれるような感覚」だ。

 ただ、商品化に当たってはまだまだ課題がつきまとう。より低い電力で明るい光が得られ、耐久性に優れた商品にするためには、発光材料や樹脂設計など有機ELそのものの高性能化のための技術革新や、回路の安定性向上や放熱の工夫による長寿命化など、多くの部分で改善が必須だ。
「ユーザーに満足していただけるようなサンプル品を出荷することが当面の課題。LED照明が事業部としてビジネスに乗り始めているのに比べればまだまだです」
 クリアしなければならない難題が多いとはいえ、有機EL照明の開発はとてもやりがいを感じると、沖村氏は語る。
「既に照明業界は、新技術の照明の普及で相当量のCO2排出量削減を実現しています。昨年白熱電球が電球形蛍光灯にリプレイスされた分だけで、東京ドーム100個分の面積の太陽電池で得られる電力に相当するエネルギーが、節約できたのではと推定しています。私の尊敬する先生は、『世の中で起こっている戦争の多くはエネルギーの奪い合いが原因。その元凶であるエネルギー使用量を減らす次世代照明は、世界平和の実現に貢献する技術』と語っています。素晴らしい光を生み出すために、技術革新をもっと進めていきたいですね」
 点から面へ――100年に一度という照明の技術革新。有機EL開発はまさしく社会を変えるための挑戦なのだ。
沖村克行氏
経営企画部 マネージャー
沖村克行氏
イネックス 100W超のLED投光器で日本をライトアップする
 次世代照明のニーズは、高速道路の夜間照明や景勝地のライトアップなど、大光量の照明器具にも広がっている。ベンチャー企業の株式会社イネックスは、技術者が最も頭を痛める問題のひとつである「放熱」を独自の技術でクリアし、100W超の大型LED投光器の開発を成功させている。
専門にこだわらないエンジニアが照明の進化に必要
ライトアップされた平戸大橋
ライトアップされた平戸大橋
 電球型蛍光灯に続く次世代エコ照明で普及に最も近い商品は、発光ダイオード(LED)を利用したLED照明である。LED照明といえば当初、街を彩る青や白の電飾や白色LEDの懐中電灯など低出力の製品が主だったが、最近は家庭やオフィスの電球、蛍光灯を代替する本格的な照明機器やクルマのヘッドランプなど、大光量の製品も売られるようになってきている。
 蛍光灯と比べても消費電力が圧倒的に小さいというエコ性能で注目を集めるLED照明だが、実はまだまだ進化が必要な分野でもある。LED照明は、単に光らせるだけなら、白色LEDと駆動回路があればあっという間にできてしまう。だが、照明は光りさえすればいいというものではない。さらなる大型化、長寿命化、いろいろな光を自在に出すといった高機能化などを実現させるために、さまざまな分野のエンジニアが必要とされているのである。
 大型の投光器やイルミネーションなどをオーダーメイドで製作することで業績を伸ばし、照明業界でも独自のポジションを築いている長崎県のベンチャー企業、イネックス代表取締役の小田陽一氏は語る。
「照明機器は、一般的なイメージよりはるかに多彩な技術の融合体です。半導体であるLEDは熱に弱く、冷却をする必要があるのですが、実に多様な方法がある。また、光をうまく拡散させるためにはレンズが必要ですが、低損失なレンズ、紫外線などによる経年劣化が少なくてすむ材料、ケーブルの被覆の劣化を防ぐ方法などの対処法があります。もちろん自分の専門分野へのこだわりは持っていていいのですが、専門外のことを少しでも多く知って、モノづくり全体、さらにはデザインや使われ方にまで、幅広いイメージをもてるエンジニアこそが、照明機器開発に向くと思います」

 照明機器はまず光源の研究開発ありきというイメージがあるが、どれだけ素晴らしい発光素子であっても、それを生かすハードウェアに実装されなければ、その実力を出すことはできない。また、そのハードウェアも室内灯、自動車や航空機などの照明灯、大型投光器など、品目によって求められるスペックや特性は異なる。使用環境の中でどのような問題が発生し、どういう工夫が有効なのかを考える力が要求されるのである。
 次世代照明を手がけている企業の多くは、家電、重電、電子などの大企業である。しかし、開発リソースの豊富さでは大手企業が圧倒的でも、それだけではクリアできない問題も山ほどある。
「大手のできていないことを実現できれば、ベンチャー企業が大いに存在感を示すことも可能なんです。専門分野を挙げれば光学、回路、熱シミュレーション、材料全般あたりになるでしょうが、例えば当社では近く物理の素養がある人材を求めるつもりですし、LED照明をよりよくする開発に必要なスキルはかなり幅広いと思います」
小田陽一氏
代表取締役
小田陽一氏
大手も驚く熱制御技術で、イルミネーションや投光器の大型化に成功
ライトアップされた千鳥ヶ淵の桜
ライトアップされた千鳥ヶ淵の桜
4月の「第1回次世代照明技術展」に出展されたLED照明による集魚灯
4月の「第1回次世代照明技術展」に出展されたLED照明による集魚灯
 消費電力が蛍光灯の数分の1というエコ性能を誇るLED照明。ならば片っ端からLED照明にしてしまえばいいとも思えるが、実はそううまくいくものではない。熱問題である。半導体のご多分に漏れず、LEDは熱に弱い。例えば高級車には最近、30W台LEDヘッドランプが採用されるケースが増えているが、ユニットの裏側ではファンで必死に強制冷却しているのだ。より大型のユニットになると、さらに熱問題は深刻になる。
 イネックスはこの熱問題をユニークな手法で解決し、業界から注目を浴びている。今春、靖国神社近くの千鳥ヶ淵の桜が、初めてLED照明で色とりどりにライトアップされた。70m先を70ルクスで照らし出すという超大型LED投光器を、きわめてシンプルなシステムで実現させたのは、実はイネックスなのだ。また、7月には長崎県の平戸大橋もライトアップさせた。小田社長は続ける。
「われわれは単に熱が伝導していくのを待つばかりではなく、どうすればうまく熱を移動させられるか、どうすれば温度を均一に保つことができるかに焦点を当てた開発を続けてきました。LED照明の冷却は、熱をもちやすいLEDジャンクション部(半導体の接合部)の温度を下げることが目的。全体をむやみに冷やしても、肝心の部分が熱をもっては意味がありません。熱を特定の部分に滞留させないようきちんと意識すると、例えば接着剤を使ったら、その部分で1Wの損失が出て10度の温度上昇の要因になるので、それを省く設計は……というふうに、熱の伝わり方や偏りなどをトータルで考えられるようになるんです」
 イネックスがLED照明の設計に参入したのは7年前の2002年。大手照明機器メーカーが小型のものからアプローチする中、イネックスは大手がやらない大型機を中心に開発を行ってきた。無謀に見えるチャレンジだったが、過去に設置した投光器やライトアップの設備で、深刻なトラブルが起きた例はまだ1件もないという。

 この8月、イネックスは新たな冷却技術の特許を申請した。密閉されたケースの中に異なる融点の物体を積層させ、融点の低い方から高い方へと熱を強制的に移動させていき、最後に気化熱→ケース外への輻射というプロセスで放熱するという、まったく新しい考え方のヒートシンクだ。その原理を聞いても、筆者はすぐには納得できなかった。大手メーカーの熱関係のエンジニアですら、最初は同様の反応を見せるという。
「これまで私は、クレーンや石材自動研磨機の設計から材料工学まで、電子に限らずいろいろなことを経験してきました。専門知識や経験をしっかりもてているジャンルもありますが、それ以外の本で読んだり他分野の人から聞きかじったような知識が、思わぬアイデアが飛び出す原動力になっていると思います。あとは、くだらないことでもちょっと試してみるという冒険心ですかね」
 新しい特殊放熱ヒートシンクのテスト結果は非常に良好で、既に照明機器大手の引き合いが発生している。大手が積極的に手がけない分野や、避けた方が無難といわれる技術課題の解決は、地方ベンチャーが成功するシーズ(技術のタネ)の泉。それはLED照明をはじめ次世代照明も同様。大型LED投光器の実用化や高度な熱流制御をモノにしたイネックスの事例は、次世代照明にはイノベーションの余地がいくらでもあり、開発競争はこれからであるということを雄弁に物語っている。
小田陽一氏
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私の部屋の照明には蛍光灯が3本入っているのですが、1本が点かなくなってずいぶんたちます。新品に換えても点かなく、修理を頼むのが面倒臭く、ほったらかしになっているのです。こんな記事をつくっていながら、恥ずかしいです。そうそう、先日はエアコンのリモコンが壊れました。毎夜、暑いです。

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