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ニコニコ動画「踊る初音ミク」で注目度急上昇の先端技術 AR(拡張現実)技術で近未来をつくるエンジニアたち
現実空間を拡張する技術、AR(Augmented Reality)。昨年ごろから世間で注目を集めるようになってきているAR。実際にAR技術を使った製品、サービスも続々登場している。AR技術とは何か、またそれに携わる面白さはどこにあるのか、取材をもとに明らかにしていこう。
(総研スタッフ/関洋子)作成日:09.07.29
「AR(Augmented Reality:拡張現実)」って何?
 ARは「拡張現実」と訳されるように、現実世界を、コンピュータを使って増強、拡張する技術である。AR技術分野における第一人者、東京大学大学院情報学環教授、暦本純一氏によると、「ARは新しい技術というわけではない。60年代から研究されてきた技術だ」と言う。既に実用化も進んでいる。暦本氏の研究がベースとなって開発されたプレイステーション3用ゲームソフト「THE EYE OF JUDGMENT」(2007年発売)はその一例だ。
 そんな古い技術であるARが今なぜ、注目を集めているのか。「昨年ごろより、マーカ型のARを使ってニコニコ動画に初音ミクが躍ったり歌を歌ったりする動画が投稿されたことで、一気に注目が高まったのです」と暦本氏。
 ARの核となる技術は位置認識、画像認識、方角認識の3つである。これらを処理するため、従来なら高性能のコンピュータが必要だった。ハードウェアの性能が上がった現在は、ノートPCはもちろん、携帯機器でも処理が可能になったのだ。また「ARToolkit」が提供されたこともARの普及に大きく貢献した。プログラミングに関する基本的な知識さえあれば、誰でも容易にARを再現することができるようになったからだ。
 「リアルなビジネスはこれから」(暦本氏)ではあるが、ゲーム以外にどんな分野に活用が考えられているのだろうか。AR技術に携わるエンジニアに、AR技術の可能性およびこの技術に携わる面白さを紹介していこう。
AR技術の基本的な仕組み
暦本純一氏
東京大学大学院情報学環 教授
理学博士
東京工業大学理学部情報学科修士課程修了。日本電気、アルバータ大学留学を経て、1994年ソニーコンピュータサイエンス研究所に転職。研究員として実世界指向インタフェース、ARなどの研究に携わる。99年に同研究所インタラクションラボラトリー室長に就任。2007年、東京大学大学院情報学環の教授に招聘、現在に至る。研究成果の一つ、無線LANによる位置認識技術「PlaceEngine」をビジネス化するベンチャー企業「クウジット」の共同設立者でもある。暦本氏についての詳細は「我ら“クレイジー☆エンジニア”主義!vol28」を参照。
ARが創造する未来
Ex1.その場、そのときでしか得られない情報を現実に拡張表示──「セカイカメラ」
セカイカメラとはソーシャルARサービス
 大手ポータルサイト運営会社のエンジニアだった宮下さんと「セカイカメラ」との出合いは、海外Webメディアで大々的に取り上げられている日本のAR技術ベンチャーのニュースを見て、「これは面白そうだ」と思ったことである。各種メディアに登場していたのは、同社社長の井口尊仁氏。驚きにも「新卒で入った会社の元上司だった」と宮下さんは言う。早速、井口氏に連絡を取った宮下さん。純粋に一エンジニアとして「面白そうなセカイカメラの開発にかかわりたい」という気持ちだった、と振り返る。
 セカイカメラとは、iPhoneなどの携帯端末のカメラを通して現実世界を見ると、ほかの人が書き込んだその場・そのときの「タグ」情報を、カメラが映し出している現実映像に重ね合わせて表示するサービス。例えばあるお店をセカイカメラで通して見ると、そのお店の位置を解析し、そのお店のメニューやクーポン情報、口コミ情報のタグを表示する、というサービスだ。もちろん表示されるだけではない。自分自身でもその場・そのときの情報を書き込み、発信できる。つまりセカイカメラとは「その場・そのときでつながるメディアであるソーシャルネットに、AR技術を応用したソーシャルARサービスです」(宮下さん)である。
 宮下さんはこのサービスの肝となる、サーバーサイドのアプリケーションの設計・開発、端末側のネットワーク系開発などを担当している。「タグの位置情報を蓄積したり、配信、表示したりするためのアプリケーション開発です」(宮下さん)
セカイカメラ
図1.セカイカメラの画面例(上)とサービスイン後のイメージ(下)。情報を伝えるタグが空間に蓄積。「タグで街がいっぱいになる」
 AR技術を応用したサービスであるセカイカメラ。このサービスを開発するにはどんなスキルが必要なのだろうか。
「研究室で行われるような、何か特殊なことをしている訳ではありません。ある程度の規模のコミュニティ系Web サービスの設計・開発・運用経験があれば、力になってもらえると思います」と宮下さん。欲をいえば同サービスはiPhoneなどの携帯端末で提供されるだけに、端末系のネットワークや3D表現を使ったアプリケーション開発に携わった経験があると、より力を発揮できるという。
空間上にタグがたまっていくところが面白い
「その場、そのときでなければ見られない情報を提供するのがセカイカメラ。そういう点では不便だけど、そこが面白さだと思うんです」と宮下さんは言う。しかもその情報は空間上にどんどん蓄積されていく。大勢の人に使ってもらうことによって、セカイカメラの面白さも加速されていくというわけだ。
 セカイカメラのサービスインはこの夏を予定している。iPhoneやアンドロイド携帯のユーザーであれば、もうすぐ同サービスを体感できる。
「セカイカメラは、そのフィルター機能を使うことで、現実を自分好みに変えることができるツール。例えばネットワークゲームをセカイカメラに入れて、現実の世界でゲームを再現するということも考えられる。同じ世界観を共有する人同士がタグでコミュニケーションしたり、現実の見せ方を自分の好みで選んだりすることができれば、もっともっと現実が楽しくなると思う。ぜひ、多くの人に使ってもらいたいですね」(宮下さん)
頓智・株式会社(とんちどっと)
宮下公武さん
専門学校卒業後、ゲームソフトの開発会社に入社し、ゲームソフトのプログラミングに携わる。数年後、同社がWeb系システム開発に方向転換し、企業Webサイトの構築などを担当するが、かかわるのは主に上流工程。モノづくりの楽しさが味わえなくなり、大手ポータルサイト運営会社に転職。そこで新規サービスの立ち上げに参画し、大規模サービスに成長するまで携わる。2008年秋に「セカイカメラ」をニュースで知り、面白いと思い転職。
Ex2.DMをカメラに映すとCGアニメによるボウリングが始まる──抽選システム
携わるまでは全く知らなかった
 立川さんがAR技術に出合ったのは2007年夏。そのとき携わっていたプロジェクトが収束しかけていた時期で、「こんな技術があるがやってみないか」と声をかけられたのが発端だ。同社では数年前からリサーチ部門がAR技術を追いかけていた。「声をかけられるまで、AR技術については知らなかった」と立川さんは言う。実際そのときに目にしたARは、あるマーカーをカメラで写すと人形が動くといった単純なものだったが、「これはすごい」と感じたという。
 これをきっかけにARを応用したアプリケーションの開発に携わることとなった。「AR技術はドイツのメタイオ社が提供しているライブラリを使用。私たちはその周りをつくり込んでいく作業です」
 最初につくったのは、「ルートガイドシステムでした」と立川さん。同社五反田ビルでは半年に1回、ルーブル美術館との共同プロジェクト「ルーブル-DNPミュージアムラボ」を開催している。ルートガイドシステムはその第4回展(2008年4月5日〜2008年9月27日)向け。UMPC(小型ノートPC)に接続されたカメラで施設内の看板を映すとCGが現れ観覧ルートを紹介するというものである。次の第5回展(昨年12月6日〜2009年5月16日)では、この仕組みをスマートフォンで動くようにした。
 その次に開発したのが、「抽選システム」である。これはダイレクトメールなどをコンピュータに接続された小型カメラに映すと、ディスプレイ上にCG合成されたボウリングが始まり、抽選結果が表示されるというシステムだ。
実際の街に昔の風景を合成したい
 抽選システムの開発でいちばん苦労した点は、CGをつくるところだったという。 「例えばどれくらいのポリゴン数でつくればよいのかなど、CGの基本概念を知るところから始めました。またアニメーションのつけ方によっても動きの重さが変わったりする。本当に苦労しました」(立川さん)
 そんな苦労を乗り越え、抽選システムは今年3月より販売開始となった。これに引き続き、さらにAR技術を活用したパッケージシステムの開発を行っていくという。
「よりよいシステムを提供していくためにも、マーカー認識やトラッキング技術などAR技術を構成する技術要素を理解していきたいと思います」と立川さん。
 ブラウザが登場したことで、Web空間が広がったのと同様、AR技術が登場したことでAR空間も広がっていく。
「例えば街を小型カメラが接続された携帯端末で眺めると、昔の風景がディスプレイに映し出される。そんなことが実現できればすごく楽しいと思いませんか」(立川さん)
抽選システム
図2.抽選システムとは?
コンピュータに接続されたカメラにDMはがきを映すと(1)、CGアニメーションのボウリングが画面上に映し出される(2)、ボウリングが始まる(3)(4)。
大日本印刷株式会社
C&I事業部 IT開発本部 第4開発室 エキスパート
立川智哉さん
大学院工学研究科電子制御機械工学専攻修了後、2000年大日本印刷へ入社。C&I総合企画開発本部にて、DTP関連のWeb系システムの開発に携わる。2004年から2年間、Webシステムの運用を行うグループ会社に出向し、サーバーの保守を経験。携わっていたプロジェクトが収束しかけていた2007年夏、AR技術を応用したアプリケーション開発に参加を呼びかけられ、実際に見てみると「これはすごい技術だ」と感じ、参加を決意。
AR技術の可能生、AR技術が拓く未来
ARは人間の能力を拡張する技術だ!
 このように既にいろいろな分野で、AR技術は活用されつつある。前出の暦本氏によると、「アンドロイド携帯やiPhoneの登場により、カメラの解析プログラムがリアルタイムでできる可能性が出てきました。携帯電話の基本サービスになる可能性もある一方で、VRのように数年後には騒がれなくなっていく可能性もあるでしょう」と言う。
 しかし頓知・のセカイカメラがサービスとして提供され、より多くの人がAR技術を体感し口コミでその面白さが広がっていくと、さらなる発展も考えられる。ではどんな未来が拓かれるというのか。
 「ARは拡張現実と訳されますが、これは人側からの視点。しかしモノ側から見ると、人間の能力が拡張する技術とも言い換えることができます。実際、ARの3つのコア技術としている位置認識、画像認識、方角認識は人間がもともともっている技術です。それを自分に密着したインタフェースにより拡張する。私が目指すAR技術とは、サイボーグ009の世界。人間の進化を支援する技術というイメージです」
 人間の能力を拡張するにはまだ、ユーザーインタフェース的に満足するところまではいっていない、と暦本氏。「例えばヘッドマウントディスプレイのような仰々しい装置ではなく、普通の眼鏡のようなものをかけるだけで、違う景色が見えてくるというような形にする。それが理想でしょう」(暦本氏)
 暦本氏が理想とする世界を実現するには、さらなるハードウェアの性能アップが不可欠だ。またアルゴリズムの高性能化も必要だという。
「ビジネスとするにはまだまだ課題もありますが、ARは非常に面白い技術。プログラミングの知識があれば誰でも開発できる」と暦本氏。
 敷居の低いAR技術。ぜひ試してみて、その可能性をみなさん自身で、探ってみてはいかがだろう。
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関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ 関洋子(総研スタッフ)からのメッセージ
私がARを知ったのも昨年。セカイカメラの発表を動画サイトでみたのがきっかけです。まず「セカイカメラ」というネーミングに惹かれました。そしてニコニコ動画で踊って歌う初音ミクをみて、「これはすごい。取材しなくちゃ」と思ったのです。セカイカメラはそろそろサービスが開始されます。既にiPhoneも手に入れました。今からワクワクしています。いつか、その体験レポートもTech総研で紹介したいと思っています。

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