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仕事が減った。残業代もカット。ボーナスも不安。エンジニアの働き方や、生活にどんな変化が起こっているのか。そこで、エンジニア500人に半年前と今の給与・残業・仕事事情を聞いた。アンケートから浮かび上がる、その実態は──。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/絵理すけ) 作成日:09.05.27
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昨年秋、リーマンショックでより鮮明になった米国金融経済のバブル崩壊は、日本にもすぐに波及してきた。米国経済の減速は急速な円高ともあいまって、海外輸出に頼る日本の製造業に深刻なダメージを与え、それが消費マーケットにも影響を与えている。 企業全体の決算状況をみても、2008年3月期まで6期連続で経常増益、5期連続で最高益を更新していた日本の上場企業だが、09年3月期は世界的な景気後退の影響で、7期ぶりの経常減益が確実視されている。輸出製品を手がける製造業を中心に業績が悪化。内需企業の多くも業績は落ち込んでいる。 こうした景況の変化は、エンジニアの収入や働き方にどんな影響を与えているのだろうか。まず基本給の変化を尋ねた。(調査時期2009年4月、調査対象24〜39歳のエンジニア500人対象)「景気悪化の影響で、基本給に変化はありますか」という設問に、「基本給が一律ダウンした」と答えたのは16%。「基本給は上がっていない」が26%あった。「今は変わらないが、今後はダウンしそう」という回答も22%を占めた。 |
DATA1 景気悪化で、給与に影響あった? |
これらを景気悪化のマイナスの影響ありとひとくくりにすると、その割合は実に64%に達する。以下のコメントを見てもわかるように、その影響はIT・ソフトウェア職種にもおよんでいることがわかる。もちろん逆に「不況にもかかわらず基本給がアップした」という回答もないことはなく(10%)、「特に影響なし」とする回答も約25%あった。 |
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基本給への影響は軽微としても、2009年夏・冬のボーナスの減少を危ぶむ声は多い。ボーナスで収入のバランスを図っていた人も多く、具体的な数字を挙げて苦況を伝える声も見られた。 |
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09年夏のボーナスについての予想を集計すると、「支給なしの見込み」が7%、「支給額が減額の見込み」が58%、「特に影響なし」が24%となっている。残りは「まだわからない」10%というものだ。「まだわからない」と回答している人たちも、支給額や、支給の有無について、ネガティブな予測をしている人が多かった。 |
DATA2 景気悪化で、今年のボーナスへの影響は? |
こうした企業業績の悪化は、エンジニアの仕事の現場、取引先との関係にも如実にその影響が表れている。IT・ソフトウェア業種でも新規案件が激減しているという声が多い。案件数は変わらないにしても、単価の引き下げや、外注への契約打ち切りなどの余波を嘆く声も多く見られる。職場には、現実的に仕事がないため、稼働日が減らされたという声もあった。 取引停止、受注・発注減、単価の減少、コスト削減要求、社内予算・経費削減、残業抑制……など、職場の状況を尋ねると暗い話がほとんどだ。 |
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「残業がなくなったため、給料は月に10万円ほど減った」と、愛知県の機械・機構設計エンジニア(28歳)は書いている。基本給は変わらずとも、残業代が減れば、手取り収入の減少につながるのは当然の話。 今回の調査によれば、2008年12月には平均26時間、最大で120時間こなしていた月の残業時間が、09年3月には平均20時間と大きく減っている。また、12月には残業時間「0」という回答が「107人」であったのに対し、3月では「166人」と5割以上増えている。残業時間の削減に伴って、残業代も減る一方だ。12月の平均残業代が「3万3673円」に対して、3月は「2万1919円」。35%のマイナスということになる。 |
DATA3 景気悪化の影響で、人員削減に変化は? |
ワークライフバランスの観点からいえば、残業は少ないに越したことはないが、基本給を含む賃金ベースが上がらない中、エンジニアにとっての残業代は生活を維持するための収入源のひとつであったことは間違いない。その意味では、残業代の約4割削減は、エンジニアの生活を直撃することになる。寄せられた声も切実だ。 |
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経営者側からみれば、コスト削減の究極の策は人減らしだ。昨年までは派遣労働者のリストラや新卒者の内定取り消しが話題の中心だったが、今年に入ってからはリストラの対象は正社員にもおよんできた。大手電機メーカーによる人員削減の発表も相次いでいる。急激な収益の低下の前には、なりふりかまっていられないというところだろう。 こうした人員削減は今回のアンケート対象のエンジニアの身近でも起こっている。500人の回答のうち、「景気悪化の影響で職場の人員が削減された」と回答したのは48%に上る。 |
DATA4 景気悪化の影響で、人員削減に変化は? |
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また、正社員への希望退職勧奨など、人員削減対象の広がりは、製造業では深刻だが、それに比べると、IT・ソフトウェア業界はまだゆるいという印象もある。ギリギリの人数の正社員をコアに、景気変動を派遣社員の増減で調整するという、日本企業の雇用スタイルが定着していることがうかがえる。これがどこまでもちこたえられるかは、ひとえに今後の景気動向にかかっている。 景気悪化の影響で「失業」という文字が、身近なものになりつつある。経済諮問会議では、経済社会総合研究所所長・岩田一政氏は、「来年後半か来年末には、失業率が7%(今年2月は4.4%)まで上がる可能性」を指摘した。失業率7%といえば、失業者500万人。まさに悪夢としか言いようがない。こうした悪夢のシナリオを実現させないために、政府、地方自治体、政党、企業経営者はもとより、働く人すべての知恵と創意工夫が問われている。 |
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