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急激な景気後退の中で、企業の設備投資や生産調整、人員調整が続いている。日本経済には、急に暗雲が立ちこめ、雷鳴轟き、嵐が吹きすさぶという感じだ。2009年はもっと経済が悪化するという予測もある。急激な不況下の2008年冬のボーナス、どんな状況だろう。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/絵理すけ) 作成日:08.12.26
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2007年冬のボーナス実態調査を分析したとき、経済環境についてこのような寸評を述べた。 「サブプライムローン問題は、米国景気の今後に黄信号をともす要因となっているが、その余波が2007年秋以降、日本にもじわじわと及んでいる。米国経済が減速すれば、日本からの輸出は伸びず、輸出依存型の製造業にはインパクトは大きい。さらに、原油高、材料高も、その恩恵をこうむる企業を生み出す一方で、商品の値上がりが消費マインドの冷え込みにつながり、それが景気全体の足を引っ張る要因ともなりかねない」 原油価格の急降下をのぞいて、ほぼ予想通りの展開となった。ただ、景気後退のグローバル規模でのスピードとその影響範囲は予想以上で、とりわけ製造業の生産・設備調整、人員調整は深刻度を増している。こうした不況の陰が、冬のボーナスにどのように反映しているかが最も関心のあるところだ。 エンジニアの実感値をベースに聞く、Tech総研恒例のボーナス調査。今回は25〜39歳のエンジニア1000名が対象だ。2008年冬のボーナスの金額は、全体平均は69万円(税込み)という数字になった。昨年(2007年)冬のボーナスと比べると、26%が「減った」と回答、「変わらない」が74%である。 |
DATA1 2007年冬のボーナス額と比べて「減った?増えた?」 |
日本経団連の調査によれば、大手企業の今冬ボーナス交渉の妥結額は88万9064円で、前年冬と比べ0.36%減となり、6年ぶりの前年割れということだが、Tech総研の「ボーナスをもらう側」に焦点を当てた調査では全体額こそ低いものの、前年比マイナスまでには至っていない。とはいえ、Tech総研調査でも2006年冬に行った同様の調査では、全体平均が80万円だったから、それに比べると大幅なダウン傾向は明らかだ。 |
DATA2 職種・年代別/2008年冬のエンジニアボーナス額 |
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不況の影響はボーナスに反映されていないのか。このあたりについて今回は特に「現在の不況でご自身の給与・賞与に影響があったことがあれば、ぜひ聞かせて下さい」という設問を設けて聞いている。そこで聞かれたのは、不況の陰がひしひしと押し寄せる厳しい現実だった。 |
DATA3 給与や賞与に不況の影響を感じる? |
たしかに「特に影響ない」という声も3割程度あるが、多くは、「会社の業績が急速に悪化」「ふだんの残業時間が減った」「給与とボーナスが減額された」という声。たとえ今期のボーナスに影響なくても、来期の予想は厳しく、みんな不安を募らせている。 給与やボーナスが減っているという声からいくつか拾ってみよう。 |
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ボーナスは会社の業績を反映する部分が大きいため、会社の業績が上がらないからという理由で減額されれば、なかなか文句のつけようはない。しかし、中には企業経営者の後ろ向きなマインドで減額されたケースや、労働組合の不満を上げる声もあるようだ。なにより、不況とボーナス減が消費意欲を冷え込ませていることは問題だ。消費減退→企業の売上悪化→さらなる業績低迷という悪循環に繋がるからだ。 |
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ちなみにTech総研は同時期に、エンジニア1万人を対象にした意識調査で不況の影響について聞いている(詳しい調査レポートは次回)。それによれば「かなり不況の影響を感じている」が36%、「やや不況の影響を感じる」が39%で、全体の3分の2の人が、なんらかの形で不況の影響を感じている。 |
ボーナス調査の内容をさらに見ていこう。 職種分野を大きく「IT系」と「モノづくり系」にわけると、それぞれの平均は「IT系」が67万円、「モノづくり系」が71万円になる。ハード系職種がソフト系職種を上回る傾向は依然続いている。 同じモノづくり系でも職種別のばらつきがある。最も高いのは「研究、特許、テクニカルマーケティング」のグループで81万円。逆に「機械・機構設計、金型設計」「光学技術」「サービスエンジニア」「品質管理、製品評価、品質保証、生産管理」は60万円台以下となっている。IT系でも「研究、特許、テクニカルマーケティング、品質管理」の職種が79万円と最も高く、最低の57万円である「システム開発(汎用機系)」とは22万円の差がついた。 ボーナスの高いベスト3の職種は、モノづくり系で「研究、特許、テクニカルマーケティングほか」「回路・システム設計」「半導体設計」「制御設計」(最後の2つは同額)、IT系では「研究、特許、テクニカルマーケティング、品質管理」「システム開発(マイコン・ファームウエア・制御系)「通信インフラ設計・構築(キャリア・ISP系)」となっている。 ボーナス金額への満足度は、「自分の仕事内容と見合っている」が65.5%、「自分の仕事内容と比べて50万円程度安い」が28%で、この2つだけで9割以上を占めている。「仕事内容と見合っている」の回答が多数を占めるが、必ずしもそれは“心地よい満足感”の表れとはいえないだろう。「たしかに安いとは思うけれど、会社の業績もよくないし、自分も残業代などが減っているので、まあ、仕方ないかな」という苦渋の表現と理解すべきだろう。 「ボーナス金額の評価基準で最も影響があったと思われる項目」では、「会社の業績」を挙げる人が44.1%と最も多く、次いで「研究、特許、テクニカルマーケティング、品質管理」の職種が79万円と最も高く、最低の57万円である「個人の業績・成果」(25.9%)、「年齢・学歴・勤続年数」(12.8%)などとなっている。 |
DATA4 2008年冬のボーナスの決め手は何? |
DATA5 2008年冬ボーナスは、自分の仕事内容と比べて安い?高い? |
ボーナスには「出たらこれを買おう」「海外旅行に行こう」というワクワク感がふだんはあるものだが、今冬は世の中全体にそれが感じられない。今回の調査でも、ボーナスの使い道で圧倒的に多いのが「貯金する」(79.2%)だ。「ローン返済にあてる」も26%あった。「買い物をする」(45.9%)、「旅行する」(18.6%)もあるにはあるが、高額消費を忌避する傾向が見られる。(※複数回答) |
DATA6 2008年冬のボーナスは何にいくら使う?(※複数回答) |
なにせ「現在の不景気に、自分なりの対策は?」という設問で最も多いのが「無駄遣いを減らす」「食費を節約する」「なるべく外食を控える」などのつましい声だからだ。無駄遣い排除・生活防衛に転じた消費者心理は、そう簡単に好転しそうもない。 一方で、投資や給与以外からの収入源を模索する動きが強いのも、今回の特徴。株式、FXなどへの投資、サイドビジネス、資格取得などが「不況対策」のもう一つのキーワードになろうとしている。 |
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