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「航空機」の開発といえば、機械系エンジニアが主役というイメージもあるかもしれない。だが、実はコックピットを思い浮かべるだけでも、電気系の技術者の活躍フィールドが予想できるのだ。国産初のジェット旅客機「MRJ」の開発で話題を呼んでいる三菱重工では、どんな電気系エンジニアが活躍しているのか。一人の中堅エンジニアの仕事ぶりをレポートする。
(取材・文/上阪徹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:09.06.26
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修士論文のテーマはプラズマ関連でした。研究室の同級生たちは、電機メーカーや電力会社、通信関連企業などに就職していきました。でも、私自身は人とはちょっと違うことをやってみたいと思っていたんですね。そしてもうひとつ、大きな製品に携わってみたかった。そこで浮かんだのが、航空機や船舶であり、三菱重工だった。重工メーカーというと機械系のイメージがありますが、航空機しかり宇宙機器しかり、電子機器や電子装備品がたくさん搭載されています。電気系の仕事のニーズがないわけがない、と私は思いました。しかも、電気系の技術にしても、きっと最先端の技術が使われていると思ったんです。 実際、例えば私が携わっている航空機には、たくさんの電気電子搭載装備品が積まれています。わかりやすいところでコックピットまわりを見るだけでも、パイロットが情報をつかむための表示器、さらには無線機やレーダー。それらを動かすソフトウェア、もっといえば、電源、照明、配線……。こういったものを高い性能・機能を保持しながら、狭い機体の中でいかにうまく搭載していくか。しかもユーザーの要求はどんどん多様化し、機能、性能はどんどん高まっています。ご想像いただけると思いますが、昨今の技術の進展に伴ってハイテク技術も、積極的に航空機には取り入れられているんです。 もちろん航空や機械などを専攻してきたエンジニアもたくさんいますが、では電気系が脇役なのかといえば、全くそんなことはない、というのが私の印象です。最先端の高度な技術が使われていること、そして電気電子系のエンジニアに大いに活躍の場があることは、入社後に改めて再確認することになりました。 |
私は入社してすぐに研究部に配属になりました。それから7年間、航空機や宇宙機器の電気・電子系統試験を担当しているチームに所属して、技術試験や要素技術研究に携わりました。新しく設計したものが正しく性能、機能を満たしているか。その確認、評価をしていきます。大きく4つの仕事があり、さまざまなプロジェクトを通じて、私は4つの仕事すべてに携わりました。 そのひとつが、機体に搭載される電子機器単体の機能・性能、各種耐環境性評価を行う装備品試験。もうひとつが、簡易コックピットやシミュレータによるコントロール、ディスプレイの管理アルゴリズムの設計検証を行うシミュレーション試験。さらに、各アビオニクス間のインタフェース検証を行うシステム統合試験。そして、完成機体によるアビオニクス・システム機能の検証評価である全機地上試験です。 テストエンジニアとして全機地上試験に携わり、ヘリコプターの実機の試験で新たな搭載装備品の試験を担当していた時期があります。また、飛行制御システムの研究試作に関わる評価試験を行っていたこともあります。防衛機種の簡易コックピットシミュレータを用いて、シミュレーション関係の要素技術研究を担当したり、パイロットの視覚表示技術に関する研究に携わっていたこともあります。 また、ヘリコプターから戦闘機、さらに今はMRJと、幅広い機種に携われていることも、大きな醍醐味です。 |
思えば入社したばかりのころは、まるで子供のころに戻ったかのような、ワクワクした気持ちを感じたことを今も覚えています。工場の駐機場には、ヘリコプターや戦闘機がずらりと並んでいて。その開発に自分が携わると思っただけで、本当にワクワクしました。考えてみれば、航空機のコックピットに入ることも普通はできません。 コックピットに入り、その計器類を初めて見たときは、これまたワクワクでした。たくさんの表示を切り替えるマルチファンクションディスプレイ。高度計、速度計、各種無線機、航法装置など、さまざまに並ぶボタンやスイッチ……。もちろん最初は何がなんだかさっぱりわかりませんでした。しかも、ICS、CNI、MFDなど、やたらと略語が多くて(笑)。でも、頑張ってなんとか覚えましたが。 試験という仕事に関して上司や先輩に言われたのは、常に厳しい目で見ることです。設計者の意図通りに出来上がっているか、細かな不適合も逃すな、と。同時に使い勝手のよさ、誤操作防止など図られているか、ユーザーの視点に立った確認も必要です。改善点が見つかれば設計へのフィードバックも行います。航空機は多数の装備品が連接した大規模なシステムであり、細部に渡る評価は非常に大変ですが気を抜くことは許されません。それは飛行安全に影響を及ぼすものだから。また航空機は限られたスペースに多くの装備品を近接して設置する上、レーダーなど強力な電波を放射する機器もあり、装備品相互間の電磁気的な干渉により誤作動、ノイズなどがしばしば問題となります。これらの対処も航空機試験では大きな部分を占めています。 |
現在は、雷や静電気、電磁干渉など電磁気環境への対策研究・試験、また電磁波関連研究・試験を行っているチームに所属しています。チーム内で行っているものは、例えば、アンテナ特性試験。これは、航空機に搭載するアンテナの電力放射パターンを計測する試験等です。さらに、相手レーダーに探知されにくくするための技術研究開発であるステルス技術の研究開発や、航空機に搭載する電子機器の電磁的な不干渉性、耐性確認をする電磁干渉試験も行われています。 私自身が現在行っているのは、雷や静電気等の電磁気環境による燃料タンク内対策などの評価・研究です。電磁気環境への対策に関してもレギュレーションが厳しくなっているため、MRJの限られた開発スケジュールの中で、設計部門、製造部門、品質保証部門などの関係部門をはじめ、国内外の専門機関などとも技術調整しながら、評価試験の計画から試験設備の導入、供試体調達、計測・試験まで、精力的に推し進めています。 |
私自身、入社前に航空機関連の知識はほとんどありませんでした。しかし入社後、OJTなどを通じて、基本的な知識は身につけることができました。また業務を通じて、学ばなければいけないことが少なくなく、自分でもかなり勉強することになりました。いずれにしても、航空機関連の知識は入社後に学べるチャンスがあるということです。電気電子系の基本的な知識があれば、航空機の電気系エンジニアとして十分に活躍できる可能性があると思います。 実際、全く異業種の他社からキャリア採用で入社された方もいます。同種のキャリアを積んだ人はまずいないと思いますから、やはり生きてくるのは電気系のベースの知識ですが、それ以上に見ていて感じるのは、仕事に対する意識の高さや物怖じしない積極的な姿勢です。むしろそうした志があれば、いくらでも仕事の幅を広げられると思います。 私個人が思うのは、やはりモノ作りが楽しめる人が合っているだろうな、ということです。電気系エンジニアとして、自分が関わった箇所が最終製品として完成していくわけですが、そのスケールが大きいだけに、やはり大きな成果が実感できるという思いがあります。だからでしょうか。入社して携わったどの業務も、思い出深く、やりがいを強く感じました。コックピットに入ったり、数多くの機体に実際に触れたりすることができるのも、モノ作りのすぐそばで仕事ができるという意味で大きな魅力です。 |
研究部での業務は多岐にわたっていて、個人レベルでも試験業務から解析、研究まで担当することもあります。また、特定の製品だけではなく、いくつもの製品に携わるため、幅広い分野の知識を身につける必要があります。一方、それぞれの試験業務や研究業務では、その道のスペシャリストになる必要もあります。幅広い知識と専門的な知識、その両立が仕事をする上では難しいところといえるかもしれません。 研究業務では、世界的に見ても評価技術や対策方法が確立されていないテーマもあります。それを解決すべく、いろいろな知恵を絞らねばなりません。文献調査や大学、専門機関の先生の協力も得ながら、どのような解決方法、評価方法がよいかを検討したり、試行錯誤したりして、成果を出していく必要があります。目標が達成できなかったときには、非常にくやしい思いをしたこともありますが、それをバネに、困難な問題に直面しても根気よく取り組んで苦労しただけ、目標を達成できたときには、大きな醍醐味を感じました。 そして、研究成果を社外で発表する機会もあるわけですが、やはり最終的に機体に適用される可能性があることを思うと大きなやりがいを感じます。電磁気環境に関しては、まだキャリアは2年ほど。今後も知識をもっともっと身につけていかなければいけないと感じています。その結果として、飛行安全に貢献していければ、と考えています。 |
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