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エンジニアも30代に達すると、さまざまなキャリアパスの岐路に立たされる。最も典型的なのが、管理職と専門職という2つの選択肢だ。それぞれのコースの給与・手当はどうなっているのか。管理職・専門職としての評価基準に不満はないのか。300人に聞いてみた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき イラスト/kucci(クッチー) 撮影/加納拓也) 作成日:08.03.07
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かつては「会社員になったからには、役員、部長、それが無理でもせめて課長にならなくちゃ」という志向があった。管理職になるのは、会社員の花道だったのだ。しかし、今はそういう時代ではない。 誰もが中間管理者や上級管理者になりたくて仕事をしているわけではない。また、最近の会社組織では、仕事はすべて部─課─係という縦のヒエラルキーで統率されるわけではなく、社内横断型のプロジェクト型組織も多い。プロジェクト型組織では、チームを実質的に管理・指導するリーダーやマネジャー役は必要だが、それが管理職である必然性はなくなった。 管理職といっても名目だけで、実は誰かにまた管理されている悲しい職務従事者のことだと嘆く人もいる。労働基準法でいえば「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の事業に従事する者」は労働時間、休憩、休日の規定から除外されている。つまり管理職には残業代がつかないのだ。 もちろん、管理職になれば基本給やボーナスも上がり、さらにたいていの企業が管理職手当などの名称で手当を支給するから、総額給与は上がるかもしれない。ところが、昇進以前に長時間の残業などでかなりの額の手当をもらっていると、これがなくなる分、実質給与が下がってしまうというケースもなくはない。管理職になるよりは、一生現場で技術のプロとして生きてみたいという気持ちをもつ人も多いはずだ。とりわけエンジニア職種にはそういう志向性をもつ人が多い。 そこで最近の企業の多くは、管理職になるか専門職になるか、将来のキャリアパスを選択できるような仕組みをとり入れている。専門職という職種を明示し、管理職にならなくても、その人が発揮する専門能力が高ければ、管理職と同等またはそれ以上に処遇することを可能にする「専門職制度」をとり入れている企業もある。 そこでは、研究開発に携わる研究者や技術者、SEやコンサルタントなど、収益を高めるために高い専門性が求められる職種が専門職制度の対象となっている。なかには大卒新卒採用の時点から、専門職としての採用を行う企業もある。 もともと日本企業における専門職制度は、管理職というポスト不足を解消するものとして発想されたものだ。しかし、もちろんそれだけではない。「生産、販売などの各分野の労働者をスペシャリスト化して、その能力の有効発揮を図るため」というのが、本来の目的ではある。また「管理職と専門職の機能分化により組織の効率化を図るため」という組織戦略上の理由を掲げる企業もある。また、大企業では「高度な企画力、研究開発力を有する専門家の確保を図るため」にわざわざ専門職制度を導入するところもある。 しかし、この専門職(制度)も名目だけで、専門性に見合っただけの報酬を得られないのでは、ありがたみが薄れる。企業によっては専門職手当によって、個々の専門技術を評価しようとするところもあるが、その金額はどのぐらいなのだろうか。 そこで今回は、管理職と専門職の二つのコースに分かれたエンジニア300人(うち管理職200人)、主に給与や手当、そして働きがいという観点から、いくつかの質問をぶつけてみた。 |
まず、今回の調査サンプルにおける管理職と専門職の給与比較を行ってみよう。月収額(支給総額)の比較で見ると、全業種・全年齢平均が、管理職で42.5万円、専門職で41万円という結果になった。わずかながら管理職が専門職を上回っている。 |
DATA 1 管理職と専門職の月収平均額を比較 | |
○管理職 現在の月収額(支給総額)はいくら? |
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○専門職 現在の月収額(支給総額)はいくら? |
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管理職の場合、役職の地位による給与の差は当然存在する。IT系職種では部長クラスが58.1万円、課長クラスが46.4万円、主任・係長は32.4万円だ。IT系の部長が突出して高い結果になっているが、全体平均をみると、IT系でも電気・電子・機械系でもそんなには差がない。 これらの給与に含まれる管理職手当について聞いてみた。月額管理職手当の総額は、部長クラスで9.4万円、課長クラスで6.6万円、主任・係長クラスで3万円。 平均すると5.4万円となる。手当の額は企業規模が大きいほど増える傾向にある。ただし最近は、給与形態が年俸制であったり、管理職手当という制度がそもそもなく、手当はすべて本給に含まれているケースも多いので、その点は留意する必要がある。 |
DATA 2 月々の管理職手当はいくら? |
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管理職手当についての満足度となると、「かなり満足+まあまま満足」が18%、「どちらともいえない」が25%、「やや不満+かなり不満」が59%となっている。6割近い層がなんらかの程度、不満を感じているようだ。その一方で「満足」という回答は部長クラスになると増える傾向がある。例えば、「管理職手当としては少ないと思うが、基本給に管理職としての給与もふくまれていると考えているので満足である」(37歳/システム開発/部長)のような声だ。 |
DATA 3 管理職の給与や手当についての満足度は不満は半数以上 |
不満派はやはり、「管理職前と比較して残業がない分、収入が激減した」(43歳/回路・システム設計/課長)などと、残業代のカットを管理職手当がカバーしきれない現実を憂う声が多い。「実質労働時間、休日出勤、責任範囲と比較した場合、安いと感じる」(44歳/社内情報システム/課長)人もかなりいる。課長、係長クラスでは「部下よりも手取りが少なくなった」という声も多かった。 |
一方、専門職のパスを選んだ人たちの専門職手当はどうなっているのだろうか。 月額専門職手当の額は、IT系職種で7.4万円、電気・電子・機械系職種で8.3万円、平均すると7.7万円で、これは先ほどの管理職手当の平均(5.4万円)を40%ほど上回っている。 |
DATA 4 専門職手当は平均7.7万円。若手ほど満足度高い |
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会社特性では国内大手企業が9.6万円であるのに対して、中堅・中小企業は6.7万円とかなり差がついている。外資系企業は5.5万円と少ないが、これは外資系にはそもそも手当という概念がみられないという事情があるからだと思われる。 面白いのは、管理職手当と違って専門職手当では、年齢上昇に伴う右肩上がりのカーブが描かれていないということ。調査サンプルのばらつきにも一因があるとは思われるが、IT系では20代後半が8.4万円であるのに、40代前半は4.8万円と逆転現象さえ生まれている。 もともと専門職手当の額は、社内の専門職試験の合格状況や社外の国家資格の取得、また日々の専門スキルの発揮度などによって評価されているものと考えられる。必ずしも加齢とともに専門度が高まるとはいえず、むしろ日々の専門スキルのメンテナンスを怠れば、いっきょに専門性が減じるという可能性もないではない。年齢と専門性はリンクするものではないということを考えれば、これもまた当然の結果といえそうだ。 専門職手当への満足度は「かなり満足+まあまあ満足」が35%、「どちらともいえない」が31%、「やや不満+かなり不満」が33%で、管理職手当と比べると、高い満足度が出ている。また、20代後半では「まあまあ満足している」が56%に達するなど、若年層ほど手当に対する満足度が高いという傾向も興味深い。20代では給与水準が全体的に低いこともあり、専門職手当をありがたいと感じる度合いがそれだけ高いということなのかもしれない。 |
DATA5 専門職は、管理職に比べ給与や手当に対する不満は低い |
管理職・専門職になっても当然、昇給や昇格はあるし、それを担保する何らかの基準はあるはずだ。「顧客満足度、リピート率、プロジェクトの利益率、総額などを総合的に評価している」「一年に一回の職務能力認定で評価される」「4半期ごとに目標設定とレビュー、上司との面接等最後に役員会議で以後3カ月の役職が決定」など、それなりに明確な基準を挙げる人が多い。ただ、一部には「社長の一存」「人事の好みによる」など、明確な基準がないことへの不満の声も聞こえる。これは規模の小さな企業ほど多い。 これらの制度が十分に機能し、組織の活性化や、社内プロフェッショナル人材の育成に寄与するためには、管理職・専門職への登用基準はもちろんのこと、その後の昇進についても誰もが納得のいく評価基準が必要だ。手当の増額がそれに伴えばもちろんそれに越したことはない。たえずこうした視点から、従業員の不満をすくい取り、制度の改善を進めることがこれからは重要になるだろう。 |
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